第13話
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
朝連行された竹本さんは、ホームルームが始まる時間ギリギリまで解放されなかったようだ。
当然連行していた赤井さん達もギリギリの戻ってきたのだけど、果たしでどんな話し合いがあったのか。
その時の皆の表情からじゃ判断が付かなかった。唯一分かったのは、皆やけに真剣な表情をしていたところだ。
そして、金田さんは俺の席まで手を繋いだまま付いてきたのだけど、彼女の席は1番まえでだ。とは言え、黙って付いてくるのをいいことに、手を放したくない俺が連れて来たのが正解なんだけど。
とは言え、そのままでは授業を受けられないので、俺の席に到着した旨を伝え金田さんの手を離した。すると、妙に赤い顔のままきょとんとした表情を浮かべ、慌てて自分の席に戻っていったのが印象的だったのだ。
うーん、金田さんの印象がいまいちまだ掴めないなぁ。小悪魔的なボディータッチとかしてくる割にあの反応は、なんというか……いや、可愛いのだけどどっちが本当なのだろう?
そういう意味では、竹本さんの方がまだ掴めている。まだ希望的観測も入っているけど、普段表情が厳しいのは彼女の緊張からっぽい。そして、普通に好意を抱いているのか余裕が出ると笑顔が出ている気がする。
たぶん、このまま仲良くなったらもっとあの可愛らしい表情が見れるかもと思うと、がぜん仲良くなる気が大きくなるってものだ。
まあ、俺が出した結論は。あの2人とはもっと仲良くなりたいっていうものだ。
とは言え、俺と話してくれている女子は他にもいる。
先ずその中では1番俺と話している高宮さんだが。彼女は冷静になって考えてみると、俺をからかっているような言動が多い気がする。
そして、金田さんと決定的に違う所は。俺がどんな返しをしてもからかってくるところだろうか?
ただ、なんか美少女がそこまで顔を崩しちゃだめじゃないかな? ってくらいなんというか。いやらしいというのか? 語彙力のない俺にはちょっと言葉が出てこないけど……。
そう、なんかにちゃぁっとしたっていうのだろうか。ニヤニヤって感じを通り過ぎた笑顔を浮かべる事が多い。
そして、そういう時な、なんと言うのだろう。今思い返すとちょっと怖い気がする。
うーん、なんにしろ話した量が少なすぎるので、もっと話してみたいかな。今のところ不快に感じたりってのはないし。殺処分なんて未来を回避するには、彼女も含め女子達と仲良くなり。最終的には誰かと結ばれるってのが現実的だろうから。
次に思い浮かぶのは、赤井さんだ。
彼女はリーダーシップを発揮することが多いから、面倒見が良いタイプなのかもしれない。
単に仕切り屋って可能性もあるが、なんにしろ彼女とももっと話さないとまだ何もつかめていないもんな。
幸い彼女から話題を切り出してくれることも多いから、そこまで心配せずとも沢山話せるような気がする。
で、最後に問題の林さんだ。
いつもニコニコしていてとても可愛らしく、それだけでも凄く好印象だ。なんだかんだ分かってきた竹本さんや金田さんを含めても、最初の印象は一番良かったし。
ただ、彼女はあまり会話に参加することが少なくて、どう話したものかと少し悩んでしまう。
勿論話したいって気持ちは凄く大きいのだけど……他の女子達から話しかけられたらそちらを優先してしまうだろう。となると、話したいって気持ちとは裏腹にあまり話せないかもしれない。
それは非常にもったいないからなんとか――
「おーい。上田。体調悪いのか?」
声を掛けられはっとそちらを見れば、数学担当の美人教師が心配そうに俺を見ていた。
やばい、昨日以上にボーっとしてしまったようだ。
1時間目からこれでは先が思いやられると自分を叱咤し、神妙な顔を作って俺は口を開いた。
「すみません。少しボーっとしてしまったようです」
「そうか。もし悩みとかあるならいつでも私が相談に乗るから、遠慮なく相談するんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
凄く優しい先生なのだろう、前世では普通に怒られた記憶しかないのに物凄く気を遣ってくれているのが伝わる。
もしかすると教師の立場が弱かったり、はたまた俺が想定する以上に男女間で何かあるのかもしれない。
が、それを差し引いても柔らかい口調で話してくれた女教師――えっと、宮部先生か。なんとか思い出せたな。――には好印象を抱いた。
因みに、目がつりあがっていて結構きつい印象があったのだけど、中身はそんな事はなさそうだ。
ともかく、怒られることはなさそうなので、俺はホッと安堵の息を零すのだった。
「えっと、これはどういう状況?」
1時間目が終わると共に俺の席の方へ近づいて、そのまま取り囲んできた少女たちへと問いかける。
勿論赤井さん達だ。妙に真剣な表情のまま4人で俺を取り囲んでいて、その雰囲気に気圧されてしまう。
と、背中に誰かが抱き着いてきたようで、柔らかい感触が感じられた。
「なんか感じ悪いよー。どうしたのみんな?」
背中に抱き着いてきたのは金田さんだったようで、不思議そうな表情で俺の気持ちを代弁してくれる。
俺は振り返って金田さんをみたのだけど、別に顔も赤くならず普通でちょっと意外に思う。
うーん、なんか恥ずかしがり屋かと思ったけど違うみたいだし、やっぱりまだよく分からない人だなぁ。
そんな事を思いながら視線を赤井さん達に戻すと、物凄い表情で睨んでいた。
え、超怖い……けど、若干視線がずれているような? あ、金田さんを見ているのかな。
俺のそんな予想は当たったようで、赤井さんが厳しい口調で金田さんに話しかける。
「いや、貴子も含めて抜け駆け禁止にしようと思ってね。それとも、上田君ハーレム作りたいの?」
うわぁ、なんかこっちにもお鉢が回ってきた!
物凄く責められる感じで慌てるものの、なんとか自分を落ち着ける努力をしつつ口を開く。
「えっと、ちょっと考えたことなかったけど……誰かとお付き合いしたいって気持ちはあるな。それが複数ってなるとどうだろう? 可能性として同じくらい好きな人が複数できて、かつ相手からも好かれていたら全員と付き合っちゃうかも」
思うがまま正直に答えた。と言うのも、単純な話この世界がハーレム推奨なのは知っているからだ。
ってか、男女比1対3なのに半数の男は殺処分とか言うイカれた世界んだ。もう前世とはまるっきり常識が違う。
法律的に推奨されているのは一夫多妻制度だし、しかも凄い事に女性は気に入った男複数と結婚するのもありっている感じだ。うん、自分で考えていても何が何だかわからない。が、そういう世界らしい。
まあ単純計算1人4人は産まないと男が居なくなって結局人口減るって感じなのかもしれない。けど、凡人の俺だとその計算が合っているのかまでは分からない。
なにはともあれ、男女共に複数人と結婚してオッケーって事なんだろう。うん、一夫多妻じゃなくて多夫多妻なんじゃないか? いや、でも教科書には一夫多妻ってあったし。よく分からんから後で調べよう。
じゃなくて、今は目の前の問題に集中しなければ。
幸い俺がだらだら考える時間を与えてくれるくらい、彼女たちも何か考え込んでいた。
と、丁度タイミングが良い事に赤井さんが小難しい顔をしたまま俺に話しかけてくる。
「えっと。つまり上田君はハーレム容認派って事でオッケー? それともハーレム歓迎派?」
責める感じが完全に消えうせ、その変わり探るような口調で聞かれてくる。
と言うか、完全に探られているな。これはどう答えた方が正解なのだろう?
少し悩んだものの、固唾をのむように見る皆の視線から責めるような印象は一切受けず。寧ろどこか期待しているような気がしたので、勇気をもって本音を伝える事にする。
「容認派か歓迎派かは分からないけど、愛し合う人皆と結婚できるのは良い事だと思うよ。ただ、それで女性同士でいがみ合ったり喧嘩が起こるなら別だけど。個人的に奥さんが複数いて、しかも全員が仲が良いなら最高かな。そういうハーレムなら俺だって持ってみたいし。ただ、実際は嫉妬したりいがみ合ったりとか色々あるだろ? 仲良くできないならいがみ合わず距離を置いたりしてくれならって思うかな。後は平等に愛せるかは男の方次第だと思うし」
かなり長くなってしまったけど、全員最後まで俺の言葉を真剣に聞いてくれた。
その後再び皆考え込んでしまい、そのまま授業開始のチャイムが鳴ってタイムアウトとなる。
ちゃんと調べられてないから俺の発言がこの世界の常識とどれだけあっているのか、もしくはかけ離れているのか全然わからない。
ただ、真剣に考えてくれる彼女たちの様子を見るに、たぶん常識通りって事はないだろう。なぜなら、予想が付くようなものなら時間切れするほど考え込んだりしないだろうから。
まあ、きちんと話すには時間も足りなかっただろうし、だから誰も話さなかったって可能性もあるけど。
ともかく、1時間目と同じ轍を踏むわけにはいかないので。俺は気持ちを切り替えて授業に集中することにした。
一つだけ最後に付け加えるとしたら、チャイムが鳴るまで俺を抱きしめていた金田さんは。チャイムの音と共にビクッと震えて、登校時のように顔を真っ赤にしてうつむいて席に戻った事だけど。うん、恥ずかしがり屋なのかそうじゃないのか、ほんとよく分からない人だ。
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