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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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217「悪魔の群れ(2)」

■ チート願望者は異世界召還の夢を見るか?


■  217「悪魔の群れ(2)」


「上から目線が気に入らないんだよ!」


 すでに体内魔力の『圧』を高めていたのを、一気に解放する。

 脳筋による魔力の使い方の一つで、瞬間的に大きく身体能力を向上させることができる。

 マンガやアニメでよく見かける戦い方が、この世界でもある程度可能だ。

 オタクのオレには、なかなかにイメージしやすい。


 そしてボスのゼノに突っかかってもせいぜい拮抗するだけだろうと踏んだので、初手でおバカな部下の一体を、いつもと違い剣を片手で操って一刀で斬り伏せる。


 魔物のランク的には、Bランクの上位くらいだろうか。見た感じと相手の反応を見る限りAではない筈だ。

 オレの反対側では、ハルカさんが別の部下を同じように一撃で倒す。同じことを考えていた上に、この辺りの呼吸はピッタリだ。


 ハルカさんは、すでに魔法を練りこんでいたのか、剣戟を繰り出すのと魔法の矢の同時攻撃という高等技で、敵は避けようがなく蜂の巣にされた上に、一刀で急所を切られていた。

 どうやって魔法陣を隠していたのか、後で聞いてみようと思う。


 また同時に、クロがハルカさん側のもう一体の部下に挑み、一撃で仕留めるには至らないも、深手を負わせることに成功していた。

 クロと五分という事は、Aランクの魔物なのかもしれない。


 そしてそこに、後方から高い威力の魔法が飛んでいく。

 『炎の大槍』と言われる魔法で、命中すると風穴を開けられる上にそこから全身の内と外に魔法の炎が一気に広がるという、かなりえげつない魔法だ。


 そしてこれは、ウルズの王宮で魔女が『帝国』兵に使っていた魔法だ。

 内から燃やされてしまうと自身の魔力で防ぐ以外に防御のしようがないので、一撃で致命傷を与えやすい。


 この魔法は、おそらく牽制を兼ねてゼノと後ろにいた1体に突き刺さっていく。

 今のシズさんの能力でも、一度に2本が精一杯らしい。


 この魔法の欠点は避けられることだけど、普通は速くて避けられない。

 事実、部下の方は魔法使いっぽいヤツは避けるのに失敗し、炎の槍に貫かれ、さらに即席の松明と化す。


 自らも何かの魔法を放つ寸前にモロに受けてしまったようだ。

 こちらが先手を打ったのとシズさんの魔法の構築が早かったおかげで、敵の魔法が飛んでくることはない。


 ゼノの方は、自らの剣を使って逸らすも、それでも足りないので体を目一杯使って避ける。

 それでも避けきれず、肩のあたりを少し焼かれていた。

 つまり、オレでは避けられないほどの速度と追尾性はあるということだ。

 さすがシズさん、半端ない。


 で、これで早くも、残すはボスのゼノとクロが相手している奴だけ。しかもクロが優勢だし、すぐにもシズさんが魔法の矢の準備に入っている。

 けど、簡単にはいかなかった。


 ゼノはシズさんの炎の槍をかする程度で凌ぎつつ、その動きの流れでハルカさんへと一撃を見舞う。

 炎の槍がかすったくらいでは殆ど意味がなかったようだけど、油断はしてないハルカさんは、万全の防御姿勢でゼノの攻撃を受け止めようとする。


 しかしゼノのパワーが一枚以上上手だった。

 ドラゴンが踏んでも大丈夫と自虐的に豪語していただけあって、ハルカさんは無事のようだけど、ハリウッド映画かマンガのようにかなりの距離を吹き飛ばされ、落下地点で土煙を上げる。

 珍しく「キャッ!」と短い悲鳴をあげているから、相当強い一撃を受けたようだ。


「んのぉ!」


 それを見て軽くキレたオレは、態勢も構わずにゼノに切り掛かる。

 ゼノは、こっちにまで自らの剣を返す余裕まではないが、寸前のところで回避して、一歩下がって今度はこちらに鋭い一撃を見舞ってくる。

 ヘビのようにしなる嫌な剣筋で、なんとか掠めるだけで済んだ鎧がガリガリと嫌な音を立てる。


 その後、ハルカさんが素早く戦列復帰する数秒間、ゼノと激しい剣戟を繰り返すが、技量で圧倒されているので防戦一方だ。

 しかもこっちは片腕がないので、より分が悪い。


 それでも戦えているのは、身体能力的にはオレが優っているからだ。

 しかしそれも、魔力をモリモリ消費して戦っているおかげで長時間は持たない。

 しかもゼノは、完全には本気になっていない。


 横ではクロがシズさんと共同で部下の最後の1体を倒したが、止めまではさせていない。

 その後クロは、目の前の敵への止めを後回しにして、こちらに助太刀に入ろうとしたが、迂闊に戦闘に加われないでいる。

 今のクロはAランクくらいの強さの筈だから、ゼノの強さは余程なのだろう。

 シズさんは、接近戦すぎて魔法を放てないでいる。


 しかも倒した部下達も、魔力の拡散など起きていない。

 急所を攻撃したくらいでは、トドメになっていないという事だ。

 元気そうなやつは、早くも復活の気配を見せている。自己再生や自己修復とかの能力を持っている証拠だ。

 相手が高位の魔物である以上、他も早々に復活してくる可能性が高そうだ。


 はっきり言って、オレもできれば逃げ出したいが、これからは相手を拘束し続ければいいという算段があった。


 シズさんとハルカさんの二人がかりで魔法の矢の束を叩きつければ、倒せないまでも状況を有利に出来るだろうと思ったからだ。

 けど、そうするためには、オレは二人が魔法を唱えらえるように踏ん張らないといけない。



 戦いの変化は、ハルカさんが戦列復帰するより早く来た。

 頭上が突然暗くなったかと思うと、すごく強い突風が突如巻き起こったからだ。


 これで両者吹き飛ばされてしまい、一時的に戦いどころではなくなる。

 突風には魔力も感じたので、魔法による風だ。


 そしてそこに「早く乗って!」というボクっ娘の鋭い声。


 戦闘に加わらず魔法陣を形成していたのは、上空を飛んでいたヴァイスを戦闘態勢で呼び寄せていたからだった。

 そして、突風か何かの攻撃で吹き飛ばした隙に、空から逃げ出そうという算段らしかった。


(楽に勝てないのなら、逃げるに限るよな)


 そう思って素早く行動しようとしたところに、シズさんとハルカさんが逃げる間際に放った魔法の矢が、それぞれの方向からゼノに襲いかかる。

 全力の集中砲火状態だし、二人の魔力と技量なら中型のドラゴンすら仕留められる程の一撃だ。


 それで倒せたらとは思ったが、念のため逃げる行動は続ける。

 油断大敵。ボクっ娘が最初から予防線を張っていたように、常に最善の行動を取らないとロクなことはないのだ。


 そしてオレは、ゼノを警戒して最後まで踏みとどまるも、再び飛び立ち始めているヴァイスに向かって飛び上がり、ヴァイスのぶっとい足に掴まる。

 別の足には、ハルカさんが同じように飛び上がって掴まっている。他は、すでにヴァイスの背の上だ。


 そしてゼノが倒れていたりボロボロなら空中から追い打ちなり止めを考えていたが、ゼノの力は予想以上だった。

 魔法の矢が殺到する寸前に、ハーケンでの化物のように魔力の衝撃波を放つ。

 防御魔法の代わりらしい。


 すると魔法の矢は勢いを大きく削がれ、うち何本かは逸れる筈のない軌道を逸らされてしまう。

 それでも半数以上が命中したが、魔法の防御力は高いらしく致命傷には程遠いようだ。


 けど、こっちが逃げ出すには十分な時間は稼げたようで、ゼノは自らの体の一部を押さえつつこちらを睨み付けてくるだけだった。

 ヴァイスの首元からは「あーばよー!」という、場違いなボクっ娘のからかう声が響いていた。




「なんとか逃げられたわね」


 ハルカさんが、ホッと一息といった一言をもらす。

 ハルカさんにとっても、凄い強敵だったと言う事だ。


「あれは上級悪魔か?」


「あんなに強いのは私初めて。噂に聞くSランク以上の悪魔じゃないかしら?」


「ゲームなら、デーモンロードとか言われそうだな」


「ロード? 悪魔の主ねえ。確かにそうかも。それより、腕、というより出血は大丈夫?」


 そう言って、心配げにオレの左腕を覗き込む。


「あー、せっかく忘れてたのに……。最初は大丈夫かと思ったけど、激しく動いたからだいぶ出血したみたいだ。気が抜けたら、急に頭がフラフラしてきた」


「ち、ちょっと、こんなところで気を失わないでよ」


「切り飛ばされた腕なら、ボクが回収してるよー」


「さんきゅー。……えーっと、あ、アレ……」


 上からボクっ娘の元気な声が聞こえてきた。

 そしてそれに答えたとは思うのだけど、その辺りで記憶が朧げになっている。

 最後に聞いたのは、ハルカさんの叫び声だったんじゃないだろうか。


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