215「ダンジョン攻略?(2)」
「地下2階というか、実質本来の地下1階への階段だけど、このまま進むか?」
さらに地下に続く階段の前で、オレが振り返って問う。
階段は幅が広いながらも長めで、ここからは地下を掘った構造をしている。
そして地下に対して、シズさんが何かの魔法を使っていた。
「行くしかないでしょう。シズ、魔物の反応は?」
「降りた先にかなり居るな。ハルカは『光槍陣』の準備をしながらゆっくり進んでくれ。私も準備する」
「スミレさん、下の構造は分かる?」
「存じ上げません。ですが、元主人はこの方角、距離約40メートルです」
「魔物の集団のさらに先だな」
シズさんは進もうとしたが、オレにはもう一人聞くべきヤツがいる。計測とか測定が得意な、オレのおバカさをカバーしてくれる頼れるヤツだ。
「クロ。下の構造は分かるか?」
「降りた先が縦長のホール状になっており、そこから廊下と扉によって、さらに小さな区画が多数存在しています。詳細な図面は必要ですか?」
「いいや、それだけ分かれば十分だ」
「じゃ、先制攻撃受けないように、慎重に進みましょう」
そうして地下への階段を半分ほど降りたところで、シズさんが目で合図する。
すでにハルカさんの体の周囲には、なんだか見慣れてきた魔法陣が3つ、ゆっくりと回っている。
またシズさんも、魔法陣が3つ浮かび上がっている。
そしてシズさんが手をかざし、それを小さく振り下ろす。
「行け、『光槍陣』!」「『炎弾乱撃』」という二人の声が重なると、地下の奥へと二つの魔法で生み出された破壊の塊が、突入していく。
そして片方は、いかにも痛そうな突き刺さる音が連続して発生し、もう片方は階段からも見える炎の小さな爆発がそこかしこで発生した。
どちらも同じ数かそれ以上の悲鳴や何かの叫び声を伴っていて、その効果を伝えている。
そして一連の破壊が収まる次の瞬間、シズさんが矢継ぎ早に次の魔法を投射する。
『闇避け』という広い場所を短時間強く照らす呪文だ。
暗闇に慣れた者に対しては、ある程度目くらましに使えるほどの明るさがある。
ゲームなどと違い、暗い場所で行動する際は自前で明かりを用意しないといけないので、特に魔法使いはこの手の魔法を豊富に持っている。
「行くぞ、二人とも!」と声をかけて、キューブな2体を従えて地下二階へと突入する。
すぐ後ろからは、弓で援護するボクっ娘が続く足音も聞こえる。少し遅れて、シズさんを護衛しながらハルカさんも続く。
魔法の強い明かりで照らされた地下空間は、約20メートル×7、8メートル、高さ3メートルくらいの広いホール。
天井は半円状態に丸くなっていて地面まで続き、天井の形で支える構造になっている。丁度板付きのかまぼこみたいな感じだ。
そしてその部屋を中心に、通路が伸びたり部屋への入り口が見られる。
地下にあるが、やたらと広い廊下といったイメージの場所で、用途は今ひとつ分からない。
ホールの壁には沢山の扉があるが、多くが随分前に朽ち果てた感じで吹き抜けてしまっている。
それでも、その場所は片付けられたりしているなど、一定程度の人もしくは人型の知的生命体が使用した痕跡が見られる。
そしてその空間のそこかしこには、今の魔法を受けた魔物たちが倒れている。数十体いたであろう魔物の群れは、動いているのはもはや10体程度。
地下に爆風は届いていなかったみたいだけど、こっちの先制の魔法ですでに多くが倒れている。
生き残りには食人鬼サイズの魔物もいるが、魔力の反応の高い魔物は見られない。
すでに倒れたか、この場にはいないのだろう。
前哨戦で戦った砦には下級悪魔がいたと言うが、この場にはいない。
もしかしたら上の建物ごと吹き飛ばされたのだろうか。
ゲームだったら、強敵やラスボス不在のゲームバランスを嘆くところだけど、危険が少ないに越したことはない。
などと頭の片隅で思いつつ、とりあえず残っている魔物を斬り倒していく。集団で襲ってくるが、敵より早い動きで1体また1体と斬り倒す。
クロとスミレさんも同様で、オレほどのパワーはないが無駄なのない正確無比な動きで、敵を次々に斬り伏せていく。
そこに一歩遅れてボクっ娘が援護の弓を、主にオレたちから距離の遠い敵に投射していく。
第一列とはいえ魔法を使ってくる魔物がいたので、こういう攻撃はありがたい。
また、大量の魔石があるとはいえ、シズさんやハルカさんの魔力を温存できるに越したことはない。
何しろ、すでに何度も派手な魔法を使っているので、昨日新たに手に入れた龍石と外での戦闘で手に入れた大量の魔石があるからと言って、残りの敵の数が分からない以上、魔法のバーゲンセールをするわけにはいかない。
加えて言えば、ハルカさんが接近戦に参加するまでもなく、残りの魔物も一掃できた。
「これで終わりか?」
「うん、それフラグ」
「だが、強い反応は見当たらないな」
「そんな事より、スミレさん、あのオタク博士はどっち?」
「あちらです。水平方向」
ロリッ娘猫耳メイドが指差す先は、ホールのような廊下から伸びる廊下の突き当たりにある扉だ。
「2人並ぶのが精一杯ね。クロ、スミレさん前衛頼める? 次はショウと私、レナはシズを守って」
「ラジャ」
「あと、防御魔法をかけ直すわ」
「私も耐火魔法を使っておこう」
「それと全員に明かりね」
「あとは、これだ」
シズさんがそう言うと、進行方向の廊下に明かりの塊を投射する。
そうすると、光の塊が通過した場所が次々に照らされ、一番奥と思われる場所で浮かんだ状態で止まる。
とりあえず、進路上に敵も障害物も無い。
この光の塊を進行方向に投げかけるのが、この世界での暗いダンジョン探索の基本行動の一つだそうだ。
そして何もなくても慎重に進む。
なお、一部のゲームや物語のように、建物に罠を探したりはしない。
ハリウッド映画やピラミッドの盗賊避けじゃあるまいし、かつて自分達の住んでいた場所に罠を仕掛けるなど普通はありえない。
仮に当時罠が仕掛けられたとしても、それが長い年月維持されている事は凄く稀だ。
魔物が新たに設置する可能性を指摘する者もいるそうだけど、単純な罠以外に実例もない。
この世界には様々な時代の古代遺跡も沢山あるが、手作業で解除できる罠を仕掛ける遺跡はほとんどなかったそうだ。
だからこの世界では、探検や冒険で罠を探索、解除する盗賊っぽい職業はあまり流行らない。
少なくとも『ダブル』には、ほとんどいない。そういう技能も使える者が多少居る程度だ。
そして罠も何もなく、目的地前へと到着した。
「ボス部屋だよね」
「扉はどうする? 蹴破るか?」
「我らが開きましょうか?」
「その前に魔法で調べよう。あと、スミレさんは奴の正確な位置を示してくれ」
言うなりシズさんが魔法の構築を始める。
「はい、この方向。距離11メートル40センチ。生存しています」
「部屋は10メートル程度の奥行きがあるのか」
「私は魔法準備するわ。それで開いて、敵を認めたら速攻で片付けましょ」
「じゃ、ボクも前だね」
「私も魔法を放つ時には加わろう」
「オレは強そうなのがいたら、そいつに牽制しに飛び込む。クロとスミレさんは、博士の保護を優先してくれ」
「「畏まりました」」
と、そこで、シズさんが探知魔法を使い終える。
「妨害魔法はないし、魔力を抑えている奴もいない。下級悪魔程度の反応が一つ、それ以下が10ほどある。部屋の奥に固まっている。だが、慎重を期してもう少し調べるから少し待ってくれ」
「博士を人質にして、こっちを動けないようにする積りでしょうね」
「なんだかもう、オレ達が悪役状態ですね」
思わず本音が出たが、みんなも同意のようだ。
「これだけ一方的に蹂躙すればねー」
「そもそも、攫われたレイ博士が攻めてた側だし、向こうから見れば魔物の方が被害者でしょうね」
「けど、容赦しないんだ」
「魔物だもの。神殿としては当然だし、生き物ですらないんだから、人とはどうやっても相容れないわ」
シズさんの魔法の探知を待っている間に少し雑談となったが、ハルカさんの言葉は魔物とは一体何なのかと少し考えさせられなくもない。
しかし考えている暇は与えられなかった。
「敵は大した事ない。魔法はそこまで強くなくていいぞ。それにあと、部屋の中に大きな構造物もないな。多分だが、机か家具を倒して盾かバリケードにしている」
「じゃあ二人で魔法の矢で十分かしら」
「ボクは一応ピンポイント狙いで、後追いで撃つね」
シズさんがその言葉に頷く。
「それでいいと思う。誤射も避けられるしな。私の閃光の魔法の後、すぐに攻撃してくれ」
「それじゃあ躊躇せず行きますか。開けてくれ」
「「はっ」」
その言葉で石の扉が2体の人型魔導器によって押し開けられ、最初に「閃光」の魔法の強い明かりが投射されて部屋を強く照らし出す。
そして閃光の明かりを避けつつ中を確認した次の瞬間、すぐさま無数の魔法の矢と魔法を乗せた弓矢が放たれる。
魔物が喋れたとしても、何も言わせる暇も与えない速攻だ。
しかも魔物の半数以上は、突然の強い明かりに視界をやられて、ほとんど身動きが取れない。
二人合わせて14本の魔法の矢は、魔物だけを追尾して次々に居抜いた。
ていうか、ほぼ同時に二つの魔法を使えるシズさんの凄さを、こんなところでも認識させられる一瞬だ。
ボクっ娘の矢は言葉通り後追いとなったが、狙い違わず一番魔力の高そうな、まともな装備を持った魔物の心臓辺りを盾にしていた机ごと射抜いて、大きな風穴を空ける。
オレとキューブな二人が、その後に部屋に飛び込むも、もはやすべての魔物が倒されていた。
下級悪魔らしい装備の整った人型の魔物も、ボクっ娘の一撃の他に余った形の魔法の矢が殺到して、息絶えていた。
ただし、そうでなければ人質を取られた形で、攻めあぐねていたかもしれない。
その倒れた魔物のすぐ側に、痩せた男性が一人残されたからだ。
何かの植物のツタで、グルグル巻きにされた姿で。





