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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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209「妖人(2)」

 そうして作戦会議の前の、スミレと名乗った見た目は属性盛り過ぎの猫耳ロリッ娘メイドのゴーレムもしくは魔導生物とでも呼ぶべき存在の説明が行われた。

 そしてまずは経緯を一通り聞いた。


「要するに、攻めていたつもりが、逆に先手を取られたと言うことか」


「左様です。元々この辺りには、長年頑強に抵抗する魔物の集団がいたので、元主人が陣取ってゴーレム達で排除を試みていました」


「それは以前聞いたことあるわ。その点は評価できるわよね」


「魔の大樹海の掃討と健全化は、一応ノヴァ全体の総意ではあるがな」


 意外に好評価だ。ハルカさんが評価するという事は、それなりに真面目な人なのだろう。

 性的趣向には、問題ありだけど。


「で、魔物の拠点を偵察しようと冒険者を呼び寄せ、そして向かていたら奇襲を受けた、と」


「雑魚を追いかける形で誘われ、逆に窮地に追い込まれるとはな。敵が作戦をうまく立てたのは分かるが、こちらにまともに指揮が取れる者はいなかったのか?」


「楽勝ムードでしたので、力押しで押し潰せると判断されていました」


 スミレさんが、失策のお詫びのつもりか一礼する。


「で、魔物の方は、罠を張った上に、地龍や他からの増援を集めていたわけか。私でももう少し慎重に行動するぞ」


「敵はかなりの集団なのか?」


 主にシズさんとスミレさんのやり取りが続くが、オレの気になるところは、つまるところこれだ。相手が多すぎたら、助けるどころじゃない。


「魔物の拠点には、各種魔物が合計300体程度がいると予測されていました」


「ゴブリンが主力としても、面倒な数だね」


 そこでハルカさんが少し思案顔の末に、シズさんに少し重めの口調で問いかけた。


「少し言いにくいんだけど、シズは沢山の人を率いた戦いの経験あるわよね」


「ああ、私は戦争を経験しているから、多少なら、な。ハルカは?」


「私は、大規模な魔物の鎮定や盗賊集団の討伐に参加したくらい。指揮は他の人に任せてたわ」


「ボクは空中戦以外期待しないでね。ショウは? 戦争とかサバゲーの知識ある?」


 あるわけないだろ、と言いたいところだけど、一応言葉を選ぶ。


「アクティブな事は剣道しかしてないな。オレ、ご都合主義なチート主人公じゃないし」


「じゃあシズさんが一番慣れてそうだね」


 敵は大集団と想定しての事だろうけど、確かにシズさんに指示なりをしてらうしかなさそうだ。

 少なくともオレには無理だ。

 シズさんも全員の意見を聞いた上で、仕方ないと言いたげに首を首肯する。


「そうみたいだな。まあ、とりあえず続きだ。こっちは増援はないのだな」


「ノヴァの街か魔の大樹海のゴーレムが近くですが、どちらも徒歩で四半日ほど離れています」


「その博士の家の警備やゴーレムは?」


「館の警備に多数のゴーレムが展開しておりますが、博士の命令にしか従いません」


 つまりゴーレムは、あっても使えないと言う事だ。


「ボク達みたいに空飛べる人は?」


「討伐には参加していません。こちらもノヴァから連れて来る必要があります」


「やっぱり短時間で増援は望めそうにないわね」


「そのようだな。では次に、敵戦力と現地の地形は?」


 ハルカさんとシズさんが、ともに腕組みして眉間にしわを寄せている。美人なので何をしても似合うし、考え込む姿も魅力的だ。

 と、オレのオツムでは追いつかないので、ついつい現実逃避したくなる。


「事前の算定では、矮鬼とその系列が200体程度。食人鬼が40体程度。その他DまたはCランク程度の雑多な魔獣が40から50体。さらに、雑多な魔物から進化した下級悪魔と思われる個体が数体でした。しかし実際は違いました」


「奇襲してきただけで、上級悪魔に地龍が3体がプラスか」


「それぞれ、どれくらいの強さなんですか?」


「相変わらず急所に一撃だと、敵の強さも測れないわよね。地龍はAランク。あの上級悪魔はSランクじゃないかしら?」


「腕力はオレの方が上だと思ったけど」


 ハルカさんがオレを見て少し考え込む。どうも彼女の感覚ではSランクの腕力だったようだ。


「じゃあAランクでしょうね。剣の腕が良かったのね」


「けど、悪魔なのに接近戦オンリーで、魔法とか特殊な攻撃は使ってこないんだな」


「人と似て色々だ。むしろ魔法使い型の方が多いぞ」


「けど、魔法は第二列くらいが精一杯でしょうね。高位の魔法は、どこかで学ばないと使えないもの」


「第二列までなら自然に覚えられるんだ」


 オレは勉強が必要なのに何だか納得いかないが、どこか『ダブル』の出現時と似ている様に思える。


「知性を得る時に刻み込まれると言われているわね。どうやってかは不明だけど」


「Cランクの上級矮鬼とかですら、初歩的な魔法を使ってくるからな。夕方のアレは、格闘戦特化のタイプだったんだろう」


「レナはどう思う?」


 さっきから珍しくだんまりなので、ちょっと振ってみた。

 そうすると、小首を傾げる程度で反応が薄い。


「ボク、基本空で戦うから、悪魔見たの初めて。だからノーコメントだよ」


 と、肩を竦める。ボクっ娘が肩を竦めるのも珍しい。


「じゃあ、オレと同じか」


「うん。噂くらい知ってたけど、もっと悪魔っぽい外見かと思ってた」


「日本の鬼とかダークエルフみたいなイメージだったな」


「ああ、それだ、それ! さっきからずっと何かに似てると思ってたんだ。ダークエルフだ!」


 ボクっ娘が途端に少し元気になった。というか、そのことで今まで考え込んでたんだろうか。

 もうちょっと真面目に考えて欲しいと思ったが、案外そうでもないのかもしれない。


「確かに肌も浅黒かったよな」


「人に一番近いタイプの悪魔って、大体あんな感じよ。向こうのオカルトに出てくるような、ヤギ頭やヤギの角が生えたようなヤツはいないわね。他にも、進化前の魔物の姿のままのヤツも結構いたと思うけど」


「なるほどね。エルフも似てるのか?」


「さっきの悪魔みたいってこと? 全然違うわよ」


「ショウ、知らないの? 種族としてのエルフってのはいないんだよ」


「そう言えば、ちゃんと教えてなかったわね」


 ハルカさんが「ああそう言えば」という表情を浮かべる。

 確かに、今までにネタとして軽く話しを聞いた事はあるが、この世界のエルフについては必要がないせいか詳しく聞いた事は無かった。

 と思ったところに、シズさんの言葉がオレの頭に突き刺さる。


「基本、長い年月かけて魔力を吸収して長寿になった人が『妖人』、我々の言うところのエルフだ」


「森の妖精とかじゃないんですね」


 ああ、オレの求めるファンタジー世界がまた崩れていく。

 そんなオレの表情を、三人三様に楽しんでいる。


「そうよ。そもそも幻想世界と言っても、妖精のいない世界だもの。魔力を長い時間をかけて吸収してAランクくらいまでに総量を高めると、一定割合で耳が伸びてくる人がいるのよ。おとぎ話の妖精みたいにね」


「だから我々もエルフと呼ぶわけだ」


「個々の能力は高いけど、森に住んでたりビーガンだったりエコロジーでもないよね」


「それじゃあ、オレ達もエルフになるのか? 魔力はAランク以上だし」


「それは違うわ。私たちは、短期間で魔力総量を増やしてるでしょう。あくまで長い時間。

 そして長い年月かけてエルフになる人は、魔力の影響で耳が伸びるだけじゃなくて、かなりの確率で金髪や銀髪で薄い瞳の色の白人系に変化していくのよ。体つきも魔力の影響とか新陳代謝のせいで細くなるって言う噂だし」


「へーっ、後天的にエルフになっていくのか」


 一つ賢くなった。知識を活用する場はなさそうだけど。


「妖人は、人の姿の理想型という説もあるし、神々に最も近い姿と言われる事もあるな。上級の悪魔がエルフに似るのも、神々の姿を本能的に目指すからという説もある」


「あと、エルフ同士、エルフと人が交わっても、生まれるのは人になるわね」


「だから、ロリッ子エルフはいないんだよ。残念だねショウ」


「いやだから、オレはロリ属性ないから」


 とボクっ娘に混ぜっ返されているが、ハルカさんはオレにツッコムでもなく少し浮かない顔だ。


「まだ何か?」


「うん。魔力がSランクまでいくと、短期間でもけっこうヤバいらしいのよね」


「何がヤバイんだ?」


 こないだのスライム化した魔人みたいになるとか、何か副作用でもあるんだろうか。

 チートと思ったら落とされるという、いつものパターンなのかと嫌な汗が自然と出てくる。


「魔力総量が増えると、体内の魔力で単に体が強くなるだけじゃなくて、体が活性化するの。食事量が増えやすいのも、太りにくいのも、そのせいだって言われてる。

 けど、それ以上に、医学的、生物学的に言うと細胞の老化が起きない、もしくはすごく起こりにくくなるって、そういうのを研究してる『ダブル』が言ってたわ」


「実際、我々『ダブル』の一部は、こっちで10年、20年と過ごしている奴は、体がいっこうに老いないんだ。5年目くらいから実感できるようになると言うが、私もその兆候はあった」


 シズさんの言葉に、ハルカさんがシズさんの方を向く。かなりの真剣度合いだ。


「それ、どんな感じ? 私、そろそろなのよね」


「あっちでは年をとるだろ。それで体にギャップを感じるようになるんだ」


「それは嫌な実感の仕方ね。とはいえ、私には関係ないか」


「ボクも無縁だねー」


 シズさん以外が、「なーんだ」的な表情だ。意外に知られていないことなのだろう。


「若いままで居られるんなら、それはそれで良いことじゃないのか?」


「まだ分からない? 老化しないってことは、寿命も老化しない期間の分だけどんどん伸びてるのよ。姿が若いままじゃなくて、体自体が若いの。分かる?」


「つまり永遠の命?」


 自分で言っててピンとこない。


「永遠じゃない、と言われてる。けど、寿命は10倍くらい伸びるんじゃないかってのが定説。だから東洋だと、妖人じゃなくて仙人や妖怪扱いね」


「どれだけ生きるかは、当人達もあまり分かってないと言われているな」


「それにこっちの人も、長く生き過ぎたり妖人化したら、今までの生活から離れて妖人のテリトリーに向かうって言うわね」


「自分だけ置いてけぼりで、みんな居なくなってくもんね」


「そういう人たちが集まって、エルフの集落とか国を作るのか。まあ、その話は分かった。けど、エルフと悪魔との関連とかあるのか?」


 話を戻さないと、延々と話してそうだ。

 エルフの幻想が壊れた以上、オレにとっては後で聞けばいい問題に過ぎない。


「鬼に分類される魔物は、エルフのように耳が尖っているから年齢による変化はないと言われるな」


「あいつらは、出世魚みたいに見た目で名前が丸ごと変わるだけだよね」


「ちなみに悪魔も、こっちの人は『悪鬼』って呼ぶから、同じ分類よ」


「と言うより、人型の魔物は『悪鬼』が進化の終着点だから、同じ分類なんだよね」


「それと悪魔と言っても、私たちの世界での空想上の存在と違って、現世での授肉の為に生贄が必要だったり、別に人の感情を糧にしたりはしないわよ」


「魔力で熱量というか活動エネルギーを得てるのは、他の魔物と同じだ。けど、食事もできるらしい」


「だいたい分かった。で、夕方戦った悪魔は、中ボス、ラスボス?」


「それは、スミレに聞いてくれ」


 全員関心があることなので、自然と視線が集中する。しかし視線を受けても、スミレさんのポーカーフェイスは崩れない。

 こう言うところは、人と違うのだと思わせる。


「不明です。あのように強い魔物は予想外でした」


「普通に考えれば、あれ以上が最低1体はいるよね」


「うーん、あれより強いのかあ。勝てるかなあ」


「何言ってるの」


 と、ハルカさんに指で額を弾かれる。


「イテッ。相変わらず絶妙なデコピンだな」


「妙なことで感心しないの。だいたい、今日は空を速く飛ぶからヴァイスに魔力沢山あげたけど、戦いの時はまだ戻ってなかったでしょう」


「おおっ!」


 手をポンッと叩くも、さらに指で額を弾かれる。

 それを見て、3人が小さく笑う。

 ようやく、明日に向けての作戦会議だ。


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