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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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203「ノヴァトキオへ(2)」

 そして朝から、リアルだとバルカン半島に当たる地域の雲の上をかなりの速度で飛んでいる。

 ハルカさんとシズさんは、酔うほどじゃないけど顔色が今ひとつ。戦闘速度程じゃないけど、高速飛行のせいで微妙に揺れているからだ。

 オレは、あっちでもそうだけど、乗り物酔いには強いので全然気にならない。


「飛行機の旅行で見るような景色だな」


「そこまで高度はないけどね。成層圏は特別なアイテムがないとマジで死ぬよ。それより、下の雲は普通なら存在しない雲だから、魔の大樹海のど真ん中で間違いないね」


「そうなのか?」


「魔の大樹海の中心近くの上空は、無数の魔木が出す瘴気というか、澱んだ魔力が生み出した雲に覆われているって言われてるのよ」


「実際、あの雲の中を長時間飛んだら、魔力は簡単に補充できるけど、すぐに魔力酔いするよ」


「あの中には、飛ぶ魔物が犇めいているとも言われるな」


「なんだか、魔王の領地みたいですね」


 オレの言葉に、横にいるハルカさんも前でまたがる二人も、その通りという視線を向けてくる。


「少し前は、オクシデント世界ではそう言われてたそうよ。その雲と樹海を抜けた先にノヴァトキオがあるから、魔王の領地みたいに見られる事もあったのよね」


「その前に戦争もあったから、誤解を解くまで随分かかったと言われるな」


「『ダブル』としては、お宝目当てにノヴァに押し掛けて、海沿いで便利だからそのまま拠点にして、さらに住めるようにしていった結果らしいけどね」


 『ダブル』の出現初期の頃はどんなのだろうと、少し想いを馳せる。オレが生まれる前なので、年齢的に体験する事は無理だけど、その頃の方が異世界での冒険という気分は強かっただろう。

 何しろ今は、地味にオレ達の世界の知識や技術は広まりつつあるので、アクアレジーナでの食事のようになってしまっている。


「今は違うんだろ」


「10年くらい前には、今に近い状態にまで落ち着いたらしいわ」


「『ダブル』達が、能天気に魔物を求めて世界中をうろつき回ったおかげらしいな。神殿の支持もあったし、魔物と敵対しているし、敵視や警戒するのが馬鹿馬鹿しくなったんだろう」


「あと、『ダブル』が持ってくる変な知識や技術、文化への憧れなんかが、警戒を薄れさせたって言われてるわね」


「色々あったんだな」


「そんな一言で済まさないでくれ、って言いたくなるらしいわよ。当時を知る『賢者』様辺りに言わせると」


 そう言って軽く肩を竦める。


「それでハーケンでも、こっちの人に結構気を使ってたのか」


「お話中申し訳ないけど、ちょいと飛ばすよお客さん方」


 二人も高速移動に多少は慣れてきたというのに、さらに飛ばすという。

 けどそれの意味するところは明らかだ。


「モンスターか?」


「野生の翼竜ワイバーンの群れが、斜め前方ちょい下の雲海ギリギリを群れで飛んでるんだー」


「ああ、あれか。かなりの数だな。それにこっちに近づいてないか?」


 夕方のムクドリの群れみたいに群れて飛んでいる。ちょっと不気味な感じだ。


「だから飛ばすんだよ」


「1匹、2匹なら魔法で吹き飛ばすが、あの数は面倒だな」


「シズさん、あれは戦う数じゃないよ」


「レナなら逃げるか?」


「必殺技でふっ飛ばすって手もあるけど、逃げられるなら逃げるよ。余計な殺生だし」


 空だと好戦的だと思っていたが、意外に優しいと言える発言だ。

 と思ったことを見抜かれていたようだ。


「あのね、ボクは余計な戦いはしないよ。ヴァイスが嫌がるからね」


「なるほど。動物は余計な殺生しないというのなら納得だ」


「分かってくれた? まあ、あれに人か魔物が乗ってたら別かもしれないけどね」


 前言撤回。やっぱり好戦的だ。

 しかし、面倒は避けられるなら避けるに限る。

 けど、ハルカさん、シズさんは、あんまり歓迎してない。


「これ以上長時間揺れるなら、魔法で打ち落とせるなら落としたい心境なんだけど」


「後ろに同じ。この速度なら、ショウが支えてくれればデカイ魔法もいけるぞ」


「向こうがこっちを獲物と思っていても、それじゃ虐殺になるでしょ、二人とも。飛ばすのは精々10分くらいだから我慢して」


 その宣告に二人の顔が若干強ばった。

 耐える以外、選択の余地を奪われたからだ。


「わ、分かった」


「お手柔らかにお願いね」


「それじゃ、しっかり掴まってて!」



 そして30分後、魔力を注ぎ込んだ本当の戦闘速度の高速飛行は確かに10分ほどだったし、さらにちょっと速い速度で10分も飛ぶと魔の大樹海も抜けた。

 けど、オレとボクっ娘以外は限界に達していた。

 徐々に顔色が青くなっていくのが、もう気の毒なほどに。


 戦闘速度自体はドラゴンゾンビ戦でも体験しているが、その時は短時間だった。しかし今回は少し長い。どうにも高速飛行が5分を超えた辺りから二人の様子が不味くなっていた。

 それまでも長時間高速飛行をしたのも影響していたのだろう。


 魔の大樹海を抜けてギリギリ魔物の出ない地表に急ぎ降り立つと、2人は慌てて飛び降りてオレの目の前から姿を消す。

 顔は真っ青を通り越し、赤もしくは赤紫になっていた。そしてオレは、彼女たちの名誉の為、しばし耳を塞ぐ。


 そうして耳を塞いだまま、降り立った原っぱに寝っ転がって流れる雲を眺める。

 日が傾き始めているものの心地よい風が吹いていて、このまま昼寝したい気分だ。


 そうして少しすると、ボクっ娘が近づいてきてオレの頬を突っつく。

 顔を少し向けると、オレから見るとやや危ないアングルでしゃがみこんだボクっ娘の人差し指がオレの頬に伸びていて、ちょうど頰をムニッと窪ませる。

 ホットパンツなので、隙間から下着が少し顔を覗かせている。


「もうすぐ戻ってくるよ。で、どこ見てるの?」


「エロい内腿とその奥の魅惑の場所。ていうか、慎み持てよ」


「……ショウ、なんか変わった?」


 そのままの姿勢で、さらに顔を近づけてくる。


「ぶっちゃけ言うと、レナのそういうあざといイノセンスなところに、ちょっと背徳感を感じてる」


「じゃあ、ちゃんともう一人の天沢さんの事を考えてくれてるんだね」


 口調も言葉もどこか優しげだ。彼女なりに、もう一人の天沢さんの事を気に掛けているんだろう。


「できれば、こっちのレナのお行儀についても考えたいくらいだ」


「ありがとう。けど、変える気はないよ。ショウはからかうと面白いからね」


「せめて可愛いとか言ってくれ。ま、それはそれで困るけど」


「じゃあ、これからも困らせるねー」


 話の流れで、なんとなくボクっ娘とイチャイチャした会話を楽しんでしまっていると、まだ少し青い顔をした二人が戻ってきた。

 ボクっ娘は立ち上がって、「ごめんねー。大丈夫ー?」と二人を迎えている。

 オレはちゃんと配慮したことを見て欲しいから、そのままの姿勢を維持した。


「何してるの?」


 見下げられているが、これはこれで趣がある。


「一応、二人に配慮したつもり」


「そりゃどうも。……あの揺れで、なんで平気なのよ」


「そう言えば、ショウは兄の車でも平然としてたな」


「お兄さんの車?」


「普通より揺れが大きいから慣れないと少し酔いやすいんだけど、ショウも玲奈も、タクミ君も平然としていたな」


「フーン。それより、せっかくノヴァの手前で降りたから、このまま街には入らずに、行って欲しいところがあるんだけど」


 引きずりたくない話題から、強引に変更してくる。

 まあオレもその流れに乗るのが、武士の情けというものだろう。ボクっ娘も同じようだ。


「どこ?」


「寄りたいところでも?」


「ショウ以外は、あんまりノヴァで目立ちたくないでしょう」


 質問と関係があるとするなら、街以外の場所で、この近くに何かあると言う事だろう。


「ボクは、久しぶりに空中戦の訓練しときたいけど、目立ちたくないってのは同意」


「私は親しかった者はこっちにもう殆どいないから、大丈夫だとは思うが」


「まあ目立ちたくないって事でいいんじゃないんですか。それで、ヴァイスの預け先が近くにあるのか?」


 オレの言葉に、ハルカさんが首ごと視線を別の方向に向ける。その先に目的地があるのだ。


「そんなところ。それにそこだと、私たちの調べ物にも協力してもらえると思うの」


「ん? あぁ、そうか。確か樹海の近くに『賢者』の一人が住んでいたな」


「シズも気づいた? 私も向こうの樹海を見て気づいたの」


「二人の知り合い?」


「知り合いというより、『ダブル』の有名人の一人ね」


「付け加えれば、魔法の先生の一人だな。拡張とかの補助魔法が上手かった」


 二人の魔法の共通点と言えば、やはりあの人なのだろうか。


「『大賢者』デイブ?」


「あのデブが、ノヴァの魔法大学から出てくるとは思えないな」


「運動嫌いって公言してたものね」


 二人とも呆れ口調だ。どんだけデブなんだろう。逆に気になる。


「じゃあ誰?」


「アイテム調べには丁度いい人」


「てことは錬金術師とか?」


「大当たりだ。自称ゴーレムマスター・レイ」


「それ本当に自称でしょ。確かもっと平凡な名前だったと思ううけど」


「タカシとかヒロシとかじゃなかったか?」


「あー、そんな感じ。けど思い出せない」


 先生の名前忘れるとか、ちょっと可哀想。

 けどまあ、オレも中学の時の先生で名前をもう覚えてない人もいるから、案外そんなもんだろう。


「すいません、なんにせよ知りません」


「レイの方の名前は有名だよ」


「そうなのか?」


「ゴーレムいっぱい作って、ノヴァと樹海の開発をすごく進めた人だよ」


「オクシデント全体でも有名人ね」


 そう言えば向こうの情報でも見た気がする。

 ゴーレム兵団を作った第一人者みたいな人の筈だ。


「魔の大樹海の前線に行くと、あいつの作ったゴレームの群れが、土木工事のように森を開発して雑多な魔物を駆逐しているぞ」


「あれはもう、ファンタジーだけどファンタジーの光景じゃないわよね」


「だからこの近くに住んでるのか」


「そういうこと」


「それじゃ、場所教えて。今度は、低空でゆっくり移動するから」


「お願いね」


 ハルカさんの言葉でオレも立ち上がり、早速目指すことにした。

 近くだしヴァイスで飛べばいいにしても、そこまで近くはないそうだからだ。


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