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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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194「聖地ウィンダム(1)」

 ウィンダムに旅立つハーケンの飛行場では、思いの外見送りの人が来てくれた。


 ノヴァトキオに届ける手紙や小荷物を預かった影響もあるが、多くの『ダブル』つまり同郷の人達がいた。

 マリアさん達はもちろん、ウェーイな二人組を含めた自警団の人達、旧ノール王国で一緒に魔物鎮定に当たった人達、数日前の事件で魔物鎮定をしていた人達、さらにはハーケンの街で普通に暮らしている『ダブル』もかなりいた。

 こんなに沢山の人に見送られるなど、ハルカさんと出会う前なら考えられない情景だ。


 そうした中で異色だったのは、『帝国』商館のナギル商館長とそのお供の人達だ。

 龍騎士のゴード将軍はいなかったが、もう本国に帰ったからだと商館長から言葉とともに教えてもらった。


 そして少しだけ話す時間を作り、近いうちに『帝国』にある空の神様の聖地に詣でることを伝えておいた。

 出来る限りの歓迎してくれるとのことだけど、『帝国』とは戦ったりアイテムを実質奪ったりという引け目の方があるので、できれば地味にしてほしいものだ。


「じゃあまたね〜!!」


 大きく元気に手を振るボクっ娘の挨拶で、ハーケンの飛行場を飛び立つ。

 そして少し上昇したところで、飛行場上空を水平に大きく3回転して見送ってくれた人に応えてから、一路進路をオレたちの世界ではウィーンがある、水の女神の聖地でもあるウィンダムを目指す。


 巨鷲のヴァイスにとってのちょうどいい高度を風にも乗って少し早めに飛行すると、1度の休憩を挟んで約8時間の空の旅でウィンダムへと至る。


 途中の休憩地は、合理的に選んだ結果ほとんど何もない田園風景の広がる場所だ。

 その辺りにある河原に降り立ち、簡単な食事と女の子たちの言うところのお花摘みを済ませる。


 とはいえ、高速道路でサービスエリアに入るのとは違い、何もない場所だ。だから交代で周囲の警戒をしつつ、幻影の魔法などで作り上げた空間で諸々を済ませる。

 しかしそれも、シズさんがハルカさんより優れた魔法を使えたので、それなりに安心できるとのことだった。


 もっともオレは、木立の影で済ませて終わりだ。

 こっちに来る様になって随分野生化した気がする。


 ちなみにオレ達の世界だと、途中で降り立った場所の南南東数十キロの辺りにドイツの首都ベルリンの街があるのだけど、この世界にはベルリンに当たる街は存在しない。

 ベルングという村があるだけで、人の手があまり入っていない辺鄙な場所に当たる。



 それとオクシデントの大陸中原にやって来たのだけど、あんまりそんな感じがしない。

 広い平原が続いているのに、一面田園地帯というわけでもない。ちょっとした盛り上がりでしかない山間部を中心にして、黒々とした原生林がまだまだ多い。その一部、森のさらに深いところは淀んだ魔力が漂っていたりもする。

 人工物も少なく、上空から見える町や村は小さなものばかりだ。

 人口5万人の自由都市ハーケンが、都会だということを実感させられる。


 なんでもオクシデントは、俺たちの世界での中世もしくは近世ヨーロッパと同じように、オレ達の感覚での大都市というものはほとんど存在しない。

 『帝国』の首都と主要都市の一部は例外だけど、『帝国』は大陸になく大西洋上の海の上に浮かんだ浮遊大陸に広がっている。


 とにかくオクシデントには大都市が乏しく、今いる中原の大国ミッドラントの王都ラーグですら、人口は10万人程度だそうだ。

 そのラーグも、今回の飛行では万が一の面倒を避ける為やや迂回して飛ぶので、ずっと遠くに望む程度でしか見ることはなかった。


 そんなトリビアを聞かされつつ、空からの眺めを楽しんでいるうちに目的地のウィンダムが見えてきた。



 ウィンダムは、水の女神、水皇の総本山がある世界に9つある神々の聖地の一つだ。加えて、ミッドラント連合王国南部最大の都市でもある。

 さらに南は、小さな国が幾つかあるだけで、それも比較的最近出来たばかりのものだ。


 というのも、15年ほど前に『ダブル』達が、ノヴァトキオを魔の樹海を切り開く形で作った直後、『ダブル』達を殺害したり陥れた事件が多発した。

 樹海の反対側にある幾つかの国が、個々に強い力を持つ『ダブル』が国や集団として台頭する事を恐れ、それを近くの大国が裏から援助したものだった。


 それが『ダブル』に露見し、怒り狂った『ダブル』達とウィンダムの南部あたりに存在していた国々との間に大きな戦争が起きた。

 大国の首都と数万の大軍勢は、『禁忌』と呼ばれる大規模破壊によって、それぞれたった一撃で壊滅したそうだ。


 これらの話は、ネット上のまとめサイトなどに正確な情報が載っておらず、日本人『ダブル』の間でもあまり話したがらない事らしい。

 何しろ、オレ達の世界でバルカン半島に当たる地域にあった大国と、その国に連なる中小の国々をまとめて、『ダブル』達が軍勢となって滅ぼしてしまったからだ。


 文字通りの「黒歴史」というやつだ。


 しかも多くが未だ荒廃したままで、魔物が溢れる二次被害が広がったため、国の復興なども進んでいないらしい。

 おかげでウィンダムより南の地域では、今でも『ダブル』は魔王に率いられた魔人の大集団、悪魔の軍勢と見られていたりするそうだ。


 だから、ウィンダムからノヴァの空路も、普通は迂回経路を取る。

 空路を使わない場合でも、オレ達の世界でヴェネツィアに当たるアクアレジーナなどから海路を使うのが普通だ。

 機会があれば、戦争の詳しい話を聞いてみたいところだ。



「見えてきたよー」


 空の上で暇つぶしのトリビアで聞いた話を思い出していると、ボクっ娘の元気な声で現実に引き戻された。

 そうしてヴァイスの背から前方へと視線を向けると、大きな川に沿った小さな支流のような川に隣接して、人工構造物の集合体が遠望できた。


 ほぼ円形で大きな輪郭が描かれているようだけど、それはウィンダム市街を囲む市壁。

 聖地ウィンダムの街を守護する分厚く高い防壁だ。

 見た目だけじゃなくて、実際すごく頑丈なのだそうだ。


 また、遠目ではまだよく判らないが、市壁の内側の白い線、おそらく太い道に沿って大きな人工物が幾つか判別できる。

 そのうちの一つが目的地の水の女神の神殿なのだろう。


「まだ遠いなあ。なあ、そういえば神様って、水の女神とか以外の名前はないのか?」


「ないわよ。世界共通の神様達だから、それぞれの地域の言葉で「◯◯の神様」が現されるだけね」


「あ、なるほどね。水皇や水の女神以外の名前つけると、かえってややこしいのか」


「地域によっては固有名付けてるところもあるけど、余所者からすれば混乱するだけでしょう。水の神様は世界で一柱だけ。これが大原則よ」


「なるほどね」


 街がまだ遠いから、なんとなくトリビアなことを聞いてしまっていた。


 その間もヴァイスは時速100キロ以上で飛んでいるので、街はみるみる近付いてくる。

 そして街の様子がよく判るようになると、街が大きく二つに区分さているのが見て取れた。大きく広大な敷地に大きな建物が点在する区画と、それ以外の普通の街並みだ。

 水の女神の神殿が、どれだけ特別なのかをそれだけで雄弁に伝えていた。


「水の女神の総本山ってだけあって大したもんだな。やっぱ大神殿なのか?」


「格で言えばそれ以上。オクシデント内でも総大神殿に次ぐ格だし、オクシデントの外から見れば総大神殿以上ね」


「じゃあ、聖杯あるよな。ハルカさんの魔力、移しとかないといけないんじゃないか?」


「そうね。面倒だけどお願い出来る?」


 申し訳なさそうなハルカさんだけど、みんなそんな事は微塵も思っていない。それに一蓮托生だというのは、みんなの共通認識だ。


「背負うくらいわけないよ」


「けど、できれば滞在中ずっとお願いしたいのよ」


「やっぱり聖地だけに注意しないといけないからか」


「ええ。聖地や総大神殿の聖杯は、他の魔導器より能力が高いって話だから」


 そう言うハルカさんの表情も、慎重さが出ている。


「リョーカイ。まあ、荒事があるわけじゃないし、背負うくらいわけないって」


「結構な負担なのよ」


 さっきからそうだけど、ハルカさんの顔が本気で済まなそうにしている。

 ここはなるべく気軽に応じる方がいいだろう。


「主人の重荷を背負うのも、従者の務めさ」


「まあ、僕らも背負うしねー。それより、手前で休憩がてらに一回降りて、先に魔力移しとく?」


「そうね。お願いできるシズ?」


「勿論。魔法の使い方も慣れてきたから、短時間で済むだろうし、負担も少しは減らせると思うぞ」



 そのあとオレたちの世界でのドナウ川のほとり、街の少し上流で一旦降りる。

 そこで誰もいないのを確認して魔力移譲の魔法を施し、ちょっと休憩しました的な時間つぶししてから、ウィンダム市街の外にある飛行場へと向かう。


 ウィンダムは世界の聖地の一つだけに、世界中から巡礼者など色々な人がやって来る。魔法を学びに来る人も多い。

 だから、ハーケンの街より大きな飛行場が整備されている。

 遠くからの巡礼者のうち金持ちや特権階級は、空からやって来る事が少なく無いからだ。

 飛行場には、異国情緒溢れた飛行船も停泊していた。


 そしてかく言うオレ達も、空から降り立った。


 しかしハーケンと違って、空中で警備隊が飛んできたりはしない。

 何しろこの街には、神殿騎士団の精鋭と何より巨鷲や巨鷹を駆る空中騎士団が駐留している。

 さらに市壁の各所の塔、飛行場の各所などに空にも対応した防御施設があるからだ。

 それに何より、聖地を攻撃しようという不埒者は、少なくとも表立っては魔物くらいしかない。


 飛行場の神殿騎士団の区画には、巨鷲や巨鷹が普通に羽を休めている。

 ヴァイス以外の巨鷲を見たのは初めてなので、それが複数いる情景には軽い違和感を覚えそうになるほどだ。


 飛行場に降り立って巨鷲のヴァイスを預けると、市壁の西門から市街へと入る。

 街は北の一帯に水の女神、水皇の巨大で壮麗な神殿が広がり、基本的には神殿の門前町を形成している。

 神殿自体の造りは、何百、何千年と存在しているのも影響しているのか、どこか古代遺跡っぽさが感じられる。


 そして水の女神が芸術や音楽を司るので、市街には立派な美術館、劇場など芸術の施設を多数見かけることができる。

 まさに芸術の都だ。


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