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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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189「二人っきり(2)」

「こうして二人だけでお茶するのって久しぶりね」


「レナが合流する前だから、一ヶ月ちょいくらいか」


「今夜は二人が気を利かせてくれたみたいだけどね」


「うん。オレとしては、その心遣いに応えたいところなんだけど」


「夜風に当たって、色々と鎮めてきたんじゃないの?」


 半目で軽くからかいつつオレを牽制してくるが、瞳は否定的じゃない。

 これは一歩も二歩も関係を進められそうな雰囲気だ。


「そのつもりだったけど、無意識にこんなもん買ってた」


「その割には美味しいし綺麗ね」


「合格点?」


「そうね、あとブランドもののバッグかアクセサリーでもあれば合格だったかしら」


 表情、口調とも軽くからかっているけど、嬉しそうなのが端々に感じられる。

 とはいえ、こっちの返答はだいたい決まっている。


「ウワッ、それオレには無理ゲーだって」


「冗談よ。本当はちょっと嬉しい」


 そう言って、はにかむ様に笑みを浮かべる。


「オレの方こそ、めっちゃ嬉しい。鎮めた気持ちが、マックスになってる」


「その言葉で不合格。キスとハグくらいしてあげようと思ったのに」


「えーっ、せめて片方だけでも」


「ダーメ」


 前より近づいた心の距離で会話を楽しむ。もう完全にお付き合いしている心の間合いだ。

 それに、これからも四六時中一緒なのだから、オレの体の高ぶりはともかく焦る必要はどこにもない。


「そっか。じゃあ寝るか?」


「何その切り返し? 一緒には寝るけどエロいことはしないわよ」


「分かってるよ。まだ、本当に付き合い始めたばかりだし、ものには順序があるよな。けどさあ」


「うん。で、どっちがいい?」


 言葉を全部言う前に質問された。

 彼女と同じ気持ちなのが凄く嬉しい。


「両方」


「それはダメ。そのまま押し倒すでしょ」


 冗談めかしているけど、本当にダメって表情だ。

 拒絶ではなく、まだ早いと目で告げている。


「バレたか。じゃ、告白の続きってことで、キスで」


「いいわよ。私もハグよりキスがいい。……じゃ、目を閉じて」


 頬を少し赤らめつつ言うと、彼女が椅子から立ち上がる。オレも合わせて立ち上がる。

 彼女はそのまま体を倒して小さなテーブルに手をつき、小さな顔が迫ってくる。


 少し赤らんでいて、恥ずかしそうな表情がたまらない。

 しかも体を少し倒してきたので、肩口が大きく開いた服の隙間から魅惑の谷間が覗いている。

 思わず彼女を見続けてしまう。


「だから目を閉じて。私も初めてだから恥ずかしい」


 オレの眼前で、ムーっと口を尖らせて拗ね顔になる。そこでオレの本能が我慢できなくなった。


「!?」


 半ば無意識に、オレから少し顔を傾けて彼女の唇に唇を重ねていた。

 両者とも口は閉じていたし、勢いがつきすぎて額がゴツンとかち合ったり歯がぶつかることを警戒していたので、少し触れただけだった。


 どうやらオレは、まだまだ理性的なようだ。

 オレの不意打ちで触れた彼女の唇は、オレより柔らかいということも分かった。

 けど冷静に分析できるのは、そこまでだった。

 半ば自爆で、オレの方が少し惚けてしまう。


 一方、彼女の方は、一瞬の不意打ちからすぐに立ち直っていた。

 唇を離したすぐ先、ほんの5センチ先に彼女の顔がある。眉は少し吊りあがり、目も睨みつけている。

 ここまでどアップは初めてで、キャンドルライトに照らされた彼女の碧い瞳には、オレの赤い瞳が映っていた。


「こういうの、私が嫌いなの分かってるわよね」


「うん。けど、我慢できなかった」


「もう、仕方ないわね」


 彼女にとって言うべきことだけ言うと、今度こそ彼女がオレの唇に自分の唇を重ねてきた。

 どうにも彼女は、オレに対しては常に主導権を持っていたいらしい。


 しかもキスはさっきよりずっと長く、数秒後に「んっ」という、オスの本能を刺激するような彼女の吐息が続く。

 自分からしておいて、それが恥ずかしいのだ。


 テーブルとその上のお茶とか諸々がなければ、間違いなく抱きしめていただろう。

 しかしそれは彼女も同じだったのか、オレもテーブルについていた手に、自分の手の指を絡ませ動けなくしてくる。それを両手でしながら、三回目のキスをする。


 互いに少し顔を傾け合い、さらに唇を合わせつつ、顔を動かして、お互いに何度か逆方向に動かす。

 これをスライドキスというらしい。もちろん、後から調べて知ったことだ。


 そのキスを終えて、もう一度見つめ合う。

 ハルカさんの顔が明らかに紅潮していて、目もトロンとしている。オレの全然いけてない顔も、状況的には変わらない筈だ。

 そして数秒後、自然と次のキス。


 その後も、何度も何度もキスをしたけど、体はその場を動くことはなかった。

 動いたら次のステップ、いわゆる一線を超えてしまいそうなのが互いに分かっていたからだ。

 そして同時に、まだ超えたくないと思っていたからでもあった。


 状況が許せば超えるのは簡単だけど、簡単に一線を超えてしまっては勿体ない事この上ない。

 この感情と感覚は、今しか味わえない甘酸っぱいものだからだ。

 しばらくは清い交際、プラトニックな交際の宣言が、今の長い長いキスなのだ、と思う。


 次はハグしまくりたいなあと思い、つつしばらくは二人で幸せな時間を楽しんだ。



 ただ、その後が大変だった。

 キスを終えて数分間見つめ合うも、ハッと現実に戻ったオレは「夜風にあたってくる」と慌てて外へと飛び出すも、なかなか俺の体内で猛り狂った本能を鎮めるのに時間がかかったからだ。

 まるでヘタレだけど、お互いの意思でこれ以上はしないと決めているのだから、ヘタレではない筈だ。


 そう思いつつ、30分以上も街中を無心に走ることで心と体を鎮め、ヘトヘトになって部屋に戻る。

 これならすぐにも眠れそうだ。


 しかし部屋に入ると、それが間違いだということを思い出す。

 そう、ダブルベッドなのだ。しかも既に、ハルカさんがベッドの奥の方で横になっていた。

 一瞬どうしようと悩むが、彼女の規則正しい呼吸音がオレを現実に引き戻す。


「先に寝るのはどうかと思うなー」


 それだけ愚痴ると、彼女の頬に軽くキスをしてオレも寝床につくことにした。

 もちろんだけど、ベッドのギリギリ反対側に寄って寝ることにする。


 それでも彼女が同じ布団で寝ているし、彼女の寝息はすぐ横でしてくるし、常時彼女からいい匂いがしてくるし、と言う状態なので、オレの本能との戦いが深夜遅くまで続いたのは言うまでもないだろう。


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