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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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187「祝勝パーティー」

 冒険者ギルド会館のホールに戻ると、『ダブル』の冒険者の数が一段と増えていた。

 見知った人も少なくいので、歩きながら気軽に挨拶など交わしていく。

 何となく、ゲームというより体育会系の部活っぽい。


 ちなみに、朝から昨日のゴタゴタの後始末やら関係各位への事情説明はあった。

 けど、ハーケンの街をピンチにした謎の化け物とオレたちの関わりは、あくまでとばっちりを受けた被害者か、有志として化け物を倒した功労者と認識させることができた。


 その辺りは、自警団のウェーイな二人組がうまく説明してくれたおかげでもある。

 もっとも二人組の片方のトールさんは、女性陣に戦闘で格好いいところを見せられなかったから頑張った的な雰囲気があったので、オレたち男勢はそのおこぼれをもらったようなものではあったが。



「それではハーケンの無事を祝って、カンパーイ!」


「「カンパーイ!」」


 かくしてその日の夕方から、予定通り宴会が行われた。

 音頭取りはウェーイな格好と雰囲気の二人組だ。


「食事と酒は街からギルドへの報奨金の一部から出ているので、気にせずどんどんいっちゃってねー!」


「「ウェーイ!!」」


「あとあと、ラスボス討伐の一番の功労者はあっちの人達でーす。これはもう拍手するしかないっしょー!」


「「ウェーイ!!」」


 ハーケンの街の冒険者ギルド特有の陽キャなノリにはまだ慣れないが、雰囲気が明るく穏やかなので居心地はいい。

 そして今夜の宴会には、オレたち化け物討伐の本隊だけでなく、島の制御室から魔力が溢れたせいで活性化した魔物の討伐をした人達なども参加してるので、100人近く参加していた。


 場所は冒険者ギルドの1階ホールなので、2日前の討伐途中と同じだ。しかし、大量の食事と酒を方々の店から出前しているので、食事の質が全然違っていた。

 ただ人数が多かったので、ホール全部を使っても立食バイキング形式となっている。そのおかげで、色んな人と色んな話をすることになった。


 また、途中で今回の犠牲者を弔う黙祷も行われ、事件を起こした3人組も読み上げられた犠牲者の中に含まれていた。

 確かに馬鹿なことをしたけど、魔導器の魔力に当てられた犠牲者と言えなくもないだろう。

 シズさんのように真っ当な理由なら、もう少し悼む気持ちも込められたかもしれない。


 と思ったが、『ダブル』はこっちで死んでも、あっち、現実世界ではピンピンしているので、あまり深刻に考えたり暗くなる人は少ない。

 こっちでの死も、ドロップアウト(脱落)と言うくらいだ。

 こう言う感覚もあるから、体の痛みを感じない事と合わせて「ゲームのようだ」とも言われるのだろう。


 黙祷こそしたが話題にする者も少なく、宴会は別の話題で盛り上がっていた。


「今回のドロップアウトって結局何人だ?」


「えーっと、1、2、3……7人? いや10人だな」


「ノール王国では何人でしたっけ?」


「全部合わせて6人ね。双頭のドラゴンゾンビ戦での犠牲が痛いわ」


 マリアさん達が、その流れで今回の犠牲者数をカウントしていた。こうして数えてみると、かなりの数だ。


「えっ、あのドラゴンゾンビにそんなにヤられてたんですか?」


「そうよ。だから、あれをアッという間に倒したショウ君達が注目されて当然なのよ」


 マリアさんはまだ呆れ気味だ。

 マリアさん自身も相当の手練なので、自分の戦闘能力については多少は自覚しないといけないところだ。


「それにしても、一度に10人以上は最近だと珍しいわね」


「そうよね。近く大量召喚があるんじゃないかしら?」


「大量召喚?」


 また、馴染みのないキーワード登場だ。


「一気にドロップアウトした穴を埋めるように、その分だけドロップアウトした辺りに新しく『ダブル』がやって来るのよ。しかも緊急補充だから、短期間の準備期間で来ることも多いみたいね」


「今回は合わせて16人だから、早期リタイア込みで20人以上ですね。過去の例から考えると、30人超えるかもしれません」


「探すのが大変だな」


 サキさんとレンさんが、少しうんざりしている。

 『ダブル』を探すのも、冒険で各地を移動する目的の一つだ。

 ハルカさんの巡察にも、ゼロじゃない程度にそういう目的もあったと、以前聞いたことがある。

 だからオレも拾われたのだ。


「そういや兄弟って、いきなり出現パターンだったっけ?」


 そう言えば的にジョージさんが問いかけてくる。

 似たような事を思っていたせいだろう。


「そうです。珍しいんですよね」


「多分、この世界なり神々にとって重要な人が倒れてその代役か、誰か力の強い人の出現の余波に巻き込まれたかのどっちかでしょうね」


「マリ、詳しいわね」


「噂に聞いたくらいよ」


「じゃあ、代役かオマケですか。オレ様が主人公なパターンじゃなかったんだ」


「当たり前でしょ。けど、そんな重要人物の退場や出現の話は、あの辺りで聞かなかったわ」


 言葉とともにハルカさんに軽く小突かれる。周囲はオレのジョークに笑ってくれたのに。


「俺からすれば、ショウが重要人物にも見えるけどな」


 レンさんが、ジョッキをチビチビしつつ、少し覗くようにこっちを見てくる。


「単にブートキャンプの成果ですよ」


「そ、それはあんまり言わないで。けどショウは、強くなる素質持ちだとは思うわ」


「と、師匠が仰っておりますぞ勇者殿」


「ジョージさん、茶化さない。ショウの場合は、キャラメイクガチャってやつが良かったのもあると思うわ。最初から魔力も多かったし」


 ジョージさんのジョークに、ハルカさんも苦笑ぎみだ。


「それはあるかもしれないけど、ハルカさんに助けられてなきゃ一発アウトだったから、選ばれたとかそういう感覚は持ちようがないんですよね」


 口にしてみて、思ったより真面目な気持ちで言葉が出た。

 と、そこに、「謙虚だねー」と料理を満載した皿を抱えたボクっ娘が、料理のテーブルから戻って来るところだった。


 シズさんはと言えば、お酒の並んだエリアで別の酒豪と飲み比べをしている。今回の件で、少なくともハーケンでは周囲からも受け入れられたようだ。


「ボクらは、キャラメイクガチャじゃなくて、パートナーに選ばれるって言われるけどね」


「ヴァイスに?」


「ボクの場合はそうだね。他のシュツルム・リッターやドラグーンも、それぞれのパートナーに選ばれるから、目覚めた時から隣に居てくれるんだろうって」


 そう言いつつ、少し嬉しそうに目を細める。

 パートナーに選ばれた事が嬉しいのだろう。


「確か当人にも、なぜ側にいるかは分からないんだよな」


「もう本能的な感じでパートナーだって分かりはするけど、それだけだね」


「こっちの出現パターンも色々だな。あ、でも」


「まだ何かあるんですかレンさん?」


「ああ。大量召喚でこっちに呼ばれる人は、周辺にいる『ダブル』の近くにいる人が多いって説があるよな」


 (それ聞いたら、タクミが大はしゃぎだろうなー)と思いつつ、思わず口にもしてしまっていた。


「それ、オレの周りにとって、めっちゃフラグですよ」


「心当たりが?」


「一人はこっちにメッチャ来たいって奴で、もう一人は高校受験控えた情緒不安定な中3です」


 その言葉にハルカさんとボクっ娘が「ああっ」て顔をしている。


「それはどっちも来そうだな」


「まあ、そんなに都合よく来ないとも言われているけど、注意してあげてね。あと、万が一呼ばれててたら、手紙とかで私達にも連絡してね。前兆夢の間に、旧ノール王国の方に移動するから」


「了解です。その時は、オレもこっちに戻ってきます」


「それまでにウィンダムとノヴァには行っておきたいわね」


「ボクとヴァイスなら、1週間もあれば楽勝だよ」


「ちょっと無理すれば、聖地イスカンダルと聖地バビロンもいけそうだな」


「とにかく私達は、まずは巡礼を優先しましょう」


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