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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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183「浮遊島での結末」

 みんなが島の制御室からオレたちのところまで戻ってきたのは、それから30分くらい経ってからだろうか。


 しかしそこからが実は問題だった。

 レナは気を失ったまま、飛行船も失われたので、帰る手段が無くなっていたからだ。

 ヴァイスに頼めば数人ずつ戻れそうだけど、レナ抜きで乗せてくれるかも分からないので、危険は避けることにした。

 それにヴァイスも、戦い疲れてその場で丸まって眠ったまま。魔力を相当消耗しているみたいだった。


 そして全員がその場での野宿を決意しかけていた夕方近く、帰りが遅いと朝来るときに護衛してくれた警備隊の翼龍がやって来てくれた。

 ヴァイスもその時起こして、オレがレナを抱きかかえてヴァイスに飛んでもらった。

 そこからさらに少しして別の飛行船が迎えに来て、冒険者ギルドに戻れた時にはもう夜になっていた。



 その間、他にする事もないという状況もあり、主に魔法などで3人組がどうやって警報を鳴らないようにしたのか、魔法で封印されていた扉を開いたのかなどを、主にハーケンが派遣していた魔法使いの技師と、魔法使いの娘さんたちが調べた。

 けど、現場に物証は少なく、この時点では多分そうだろうという曖昧な憶測や推測以上の答えは得られなかった。


 それでも制御室には、3人組の荷物の一部があり、多少の推測の補足となった。

 特にその中に、打ち捨てられた魔法の巻物の成れの果てが数枚あった。つまり、街を出た後に魔法の巻物を手に入れて、それで警報に引っかからないようにしたり、扉を開いたりしたのだろうというのが、取りあえずの推論だ。


 また、施設の魔導器を見てみると、警報をカットするのは意外に簡単だし、何にでも対応できるような施錠、解鍵の魔法の巻物は値段さえ考えなければ入手可能だった。

 だから逆に、ここの警備体制を強化するべきだというのが別の意味での結論だった。


 そして3人組の行動の経緯なり真相なりを調べるのは、冒険者ギルドの自警団がしてくれる事になった。

 勿論だけど、『ダブル』がやらかしたと言う事は、極力表に出さないで調べる。

 とはいえ、徹底的に調べたりもしないそうだ。


 真相などを突き止めるのはこの世界の人たちがやるべき事だし、『ダブル』は自分達に関わりがないのなら、この世界の危機などに大して興味はないからだ。

 また犯人が突き止められても、連中が勝手にやらかした事というスタンスだそうだ。

 当然だけど、3人組については遡って追放した上で登録も抹消する事となった。


 一方、制御室での話は、小さな波止場で途方に暮れている時に聞くことができた。

 3人組が、中枢部に据えられた魔導器と、複数ある補助用の魔導器のうち二つを抜いていた。そしてそのまま奪った魔導器の方に大量の魔力が流れ込んだ事で、島のバランスを取っていた装置が支障をきたしていたそうだ。


 けど、壊れた補助用のやつは予備が街の保管庫にあるし、相応の大きさの龍玉があれば当面は代用可能という事で、シズさんとサキさんが持っていた龍玉で代用したとの事だった。

 本体については、特に問題もなかったそうだ。

 だからだろう、島の傾き自体は夜までに完全に復旧した。

 あとは、代用品を本来の魔導器に変更すれば万事解決だ。


 けど、本当の真相を聞いたのは、冒険者ギルドが手配しておいてくれた宿に戻ってからだった。



 オレたちに当てがわれた広めの部屋には、マリアさんたちも詰めている。

 そしてシズさんが何か魔法の施された袋から取り出したのは、戻した筈のこの島の制御に必要な深い空色のキューブだ。

 部屋にはシズさんが施した魔法の結界があり、外部に魔力も音も漏れないようにした上での事なので、察して余りある状況だ。


「えっ!? どうして?」


「答えは簡単だ。必要ないと分かったので、別のものを魔導器だと言って渡した」


「シズ、説明してもらえるわよね」


 半目状態のハルカさんに「オフコース」と澄まし顔で答えるシズさんの隣では、マリアさんが「そういう反応になるわよね」と苦笑いしている。

 根が真面目なハルカさんは、こういう事があまり好きじゃない。


「港から制御室に戻る途中に、とりあえず欠損や故障がないか魔法で色々と調べ回したんだが、来るまでに聞いていた話と総合すると、むしろ無用だと判断できたんだ」


「技師の人から話を聞いてたんですか?」


「うん。その時はただの興味本位だったんだがな。それでこの島の制御室にある装置自体は、島の下部の多くを占める浮遊石を含んだ岩石層に安定して薄く広く魔力を供給して、島を安定化する古代の装置だそうだ」


「じゃあやっぱり、それが必要なんじゃないの?」


「うん。だがこれは能力が過剰だろうというのが、マリアさん、サキさんと話し合った上での結論だ。この島の制御に必要なのは制御室とそこの魔方陣などであって、そこに設置するのは多少大きな充填型の魔石程度でも構わないんだ」


「言ってみれば、儀式魔法の時に使う呪具の固定型のようなものね」


 シズさんの長い解説をマリアさんが補足する。

 専門家がそう言うなら間違いないのだろう。ただ一応の疑問はある。


「けど化け物は、魔導器からすごい魔力の供給受けてましたよ」


「それが過剰な何よりの証拠だ。それとあれは、電気で例えると配線を無理やり変えて放電させているようなものなんだ。

 そして配線が途切れた装置本体の一部が魔力不足に陥って、その結果島全体への供給がアンバランスになり傾いた、という事になるだろう」


「それで大量の魔力を一気に浴びて強くなろうとしたお馬鹿さん達は、体が一気に魔人化して意識も飛んだんだと思うのよ」


「やっぱり魔人化よね」


 マリアさんの補足説明に、ハルカさんも頷く。とはいえオレの理解の外のことだ。


「そういう事があるんですね」


「たまにね。それに、巨大な原始林や人のいない魔力の多いところの深部に行けば、強い魔物かそうした魔人がいるわよ。そういうのを悪魔と呼ぶ場合もあるわね」


「あそこまで極端で、短時間で強くなるやつは珍しいがな」


 ジョージさんが、「そこまでするか」と言いたげに補足する。


「それだけ一気に浴びたんでしょうね。魔人化しただけじゃなくて、魔力が暴走して何でも取り込む『混沌』状態にまで変化しているから、何が起きたか気づかないまま意識が飛んだんじゃないかしら?」


「バカな上に迷惑な話ですよね」


 そこから、シズさんの言葉に頷いていたサキさんも会話に加わり始めた。それほど専門知識が必要な事でもないのかもしれない。


「それで、装置を見てすぐに分かったけど、連中が設置されていた魔導器を全部取ったわけじゃないから、かえって傾いたんじゃないかと思うのよね」


「そうですよね。全部外していたら、逆に島は傾かなかったかもしれないですよね」


「じゃあこの島は、装置なしでも大丈夫ってこと?」


 ハルカさんが予想外だったという表情で問いかける。

 それにシズさんが深く頷いた。


「装置自体は、島が不測の事態、大きな嵐や風とかで動かないよう、固定化するためのものだと考えられる。そもそもこの島は、浮遊石の塊だからな」


「現に、常時稼働している装置じゃないの。だから長持ちしているんでしょうね」


 正直、魔法使いたちの話は、オレには今ひとつ理解できない。さっきからジョージさんとかも、外野でウンウンと真面目顏でうなずいてはいる様に見えるが多分同じだ。

 現場にいた魔法使い以外で理解の色を瞳に見せているのはハルカさんくらいだ。


「なるほどね。まあその辺は、実際見た人の意見を信じるわ。それでそのキューブの代わりに何を渡したの?」


「こないだ手に入れた一番大きな龍玉を、多少見た目を錬金術で即席に細工したうえで、水晶の中枢にあったものだと言って渡した。それと壊した二つ分は、手持ちの龍核を一時的な代用品用として渡してある。こっちは数日で戻ってくる予定だ」


「それでバレないんですね」


「ああ。技師は疑いもせず鵜呑みにしていた。あの場所は殆ど誰も近寄らないもので、普段は魔法で封印されている場所でもあるからな」


「で、ちょろまかしたそのキューブについては?」


「これか?」


 シズさんが自慢の玩具を見せるような表情を浮かべつつ、みんなの目線の上まで掲げたキューブは、魔力のきらめきも少し見て取れるが、それ以上の反応は示していない。


「思わせぶりしないで、分かった事があれば教えてもらませんか? それとも聞かない方がいいんでしょうか?」


「いいや。ショウとハルカはどう思う?」


 シズさんの言葉で、マリアさんたちの視線がオレたちに向けられる。

 つまりウルズで戦った魔女の本体との類似性などを聞きたいということだろう。それに加えて、真実は隠すようにとも言っているに等しい。


「ウルズで戦った『魔女の亡霊』本体の魔導器と少し似ていると思います」


「大きさはだいたい同じよね。けど、色が違うわ。構成する金属とかの違いかしら?」


「他には?」


「表面の文様や魔法文字も違うかも。けど、『魔女の亡霊』本体はちゃんと見たわけじゃないから」


「それ自体からは、何か反応とかなかったの?」


「見ての通り、わずかに魔力が通っている以外、何の反応もなしだ」


「で、それどうするんですか?」


「調べるに決まっているだろ。これからノヴァにも向かうし、丁度いいだろ」


 その言葉に全員微苦笑状態だ。

 調べるという目的で古代の魔導器をくすねてくるという、シズさんのマッド・マジシャンぶりに対する認識を、オレ以外のみんなも同じ思いだと伝えていた。

 さすがの『ダブル』の冒険者でも、ここまではしないのだろう。


「それについてはシズさんに預けるわ。私達はしばらくここに留まる予定だから、そのうち結果だけ教えてちょうだい」


「ああ、約束しよう」


「そっか。私達はこれから大巡礼って名目で色々行くから、これでしばらくお別れね」


「そうね。けど、ここでしばらく欠けた自警団の臨時雇いになるから、最低三月は滞在していると思うわ」


「そんな約束もしてたんだ」


 マリアさんの言葉に、ハルカさんが軽く驚く。


「この騒動で、自警団から4人も犠牲が出てるもの」


「それにウルズで稼いだ俺達は、懐に余裕あるからな」


「そう。それで、この事件自体はどういう扱いになるの?」


 そこでジョージさんがニヤリと笑う。レンさんやサキさんも同様に「いい笑顔」だ。


「俺達は事件解決の功労者に決まってるだろ」


「けど『ダブル』が起こし……」


「みんな化け物しか見てないし、あそこに誰が侵入したのかも分かってない」


 そう言ってジョージさんが口の前で人差し指を立てる。

 そこにマリアさん達が続いて「結果」を話す。


「冒険者ギルドの自警団が、街の有志として事件を解決したっていう結果しかないんですよ」


「だから俺たちはちょっとした英雄だ」


「だから街からは、見舞金だけじゃなくて報奨金も出るらしい」


 そして最後に、ジョージさんがニヤリといい笑顔で笑いかけてくる。

 ウェーイ二人組も、その言葉にいい笑顔だ。

 次に何を言うかもう理解出来ていたが、まあ話には乗るべきだろう。


「というわけで、兄弟」


「何ですか?」


「あと1日や2日はここにいるんだろ」


 質問に対して少し考え、さらに他のメンバーにも軽く目配せする。


「そうですね、レナとヴァイスが動けないと移動も無理ですし」


「なら、とりあえず明日の夜は空けといてくれ」


「何かあるんですか?」


「何であれ冒険が終わったんだ。やることは一つだろ」


 そう、死者も出ているから、その弔いも兼ねて宴会を行わなくてはならない。

 そもそも『ダブル』が何かの節目で宴会をよくするのは、そういう理由もあるのだ。

 それもこっちに来てジョージさんたちに教えられたことだった。


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