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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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178「地下から空中へ(2)」

「グゾッ!グゾッ!グゾーッ! 相変わらず卑怯な奴らだ! もういい! お前らと話し合おうとした俺がバカだったっ!!」


「あいつの声だ!」


「来るぞ! 避けろ!」


 声が続く中、魔力の奔流の塊が扉に向けて突進してくる。

 それぞれ事前に防御魔法は可能な限り付与しているが、部屋から溢れてきた魔力の奔流に耐えるのが精一杯だ。

 防御魔法の外殻が、魔力の奔流とぶつかり合って、激しく削られている。


 それでも扉よりも扉の前の空間の方が多少幅が取ってあったし、装飾用の石柱や灯籠か何かを置く台座のようなものもあったので、それぞれその影に入り込む。


 そして狭い場所で仕切り直しかと思ったが、目的地の部屋の中央にいたヤツは消え失せ、その場には何もなかった。

 一気に外へと向かって行ったらしかった。


「みんな無事ーっ!」


「役人が一人持ってかれた!」


「やつは?!」


「たぶん出口に抜けてった。追いかけよう!」


 ジョージさんが何かを掴んだままだけど、持っていかれたという役人の服の切れ端だ。

 そして役人を掻っ攫ったヤツは、本当にこの場から逃げ出したらしい。犠牲者がなければ、情けない奴だと笑っているところだろう。


 そして奴がいなくなったということは、本来の目的を達成しやすくなったという事だ。

 化け物は二の次で、多くの人もそれに気づいていた。


「逃げた奴は出口の人たちに任せて、魔導器なりを元に戻さないといけないんじゃないの?」


「けど、あれだけの攻撃を耐えたんだ。出口の連中だけだと危ないぞ」


「なら二手に分かれよう。もう中に澱んだ魔力は感じないから、技師の護衛を最低限にして奴を追おう」


「それが一番無難だろうな。どう別れる?」


 そこで一瞬、ほぼ全員が沈黙する。

 どう別れるべきか。

 しかし一人は決まっている。


「レナは、ヴァイスを出すかもしれないから追撃な」


「う、うん。ヴァイスにも呼びかけてみるね」


「他は?」


「負傷組は残って護衛。あと念のため何人か残すか?」


「最悪空中戦だから、魔法、弓は追ってくれ。もし空に出られたら、トンカチじゃ役立たずだろう」


 そうなると獲物のでかいオレも居残りかと思ったが、視線がそうじゃないと言っていた。

 そしていつも通りというべきか、ハルカさんがビシッと外に向けて指差す。


「この中で一番レナと空中戦しているんだから、さっさと追いかける!」


「い、イエス、マム! じゃ、あとお願いします!」


「おうっ。そっちこそ頼むぜ兄弟!」


 オレは慌てて駆け出し、他の人たちも一斉に戻り始める。

 結局、残るのはウェーイ勢2人とジョージさんになり、7人中オレ以外は何かしらの遠距離攻撃能力を持っている。

 そして走り出したのだけど、出口に至る途中で小さめながらガクッときた。

 地面の傾きが一気に大きくなったのだ。


「今、少しかなり傾いたよな」


「う、うん、やっぱりアレが制御室から逃げ出したせいかな?」


「そうでしょうね。急ぎましょう。島がひっくり返ったりしたら大事よ」


「まあ、残った技師に期待したいところだな」


 そうしてもう少しで出口というところで、玲奈が「えっ!」と小さく叫ぶ。


「どうした? 何があった?」


「化け物が、外の船を乗っ取ったみたい。前と似たものが空に出てきたって」


「他の連中は?」


「ちょっと待って。……よく分からないみたい」


「とにかく急ぎましょう」


 そしてさらに急ぎ戻ったテラス状の船着場は、悲惨な状態だった。

 5人残って警戒していたうち、1人が体の欠損具合からどう見ても死んでいて、もう1人はこっちを見ているが、戦闘能力は無くして倒れ込んでいた。

 そして3人見当たらなかった。

 さらに停泊している筈の飛行船の姿もない。


 ハルカさんが、急いで負傷している人に魔法陣が3つも出る高度な治癒の魔法をかけると、その人は何とか話せる程度にまで回復した。


「何があったか分かる?」


「ああ、突然瘴気のような魔力の塊が噴き出してきて、その後でかいスライムみたいな化物に仲間と船が飲み込まれていった。あれは何だ? 魔法か魔法の武器じゃないと効いてなかったぞ」


「あれが本体よ。ごめんなさい、私達が逃がしたせいで」


「あんな化け物だ、仕方ないと思う。それより船の連中を」


「分かった、任せて。……という事よ、どう追撃する?」


 自然と視線はレナに集まる。

 そして中の人が玲奈なレナは、その視線を受けても物怖じすることなく、少し考えた末で口を開いた。


「ヴァイスで激しい空中戦をするなら、乗せられるのは2人までです。魔法戦するなら4人くらいまでいけると思います」


「やはりそうなるだろうな。レナ、ここにおびき寄せられないか? それなら全員で集中砲火を浴びせられる」


 シズさんの言葉は、やはり攻撃的だ。

 そして合理的でもある。


「あとは……警備隊の翼龍を呼び寄せられない? あれはもう一人乗れるわ」


「でも翼龍に乗っても、私じゃマジックミサイルくらいしか使えません」


「じゃあ、誘導しかないか。方法は?」


 その言葉を待っていたというほどではないが、外に出た時から考えていたことを口にする。


「あれがあいつらの残留思念とかで動いているなら、多分オレ逆恨みされてるから、こっちの数が少ないなら勝てると思って追いかけてくるかも」


「確かに。じゃあ倒す手段は? ハルカ、『魔女の亡霊』の時はどうだったの?」


「体を構成していた魔力の塊は、魔力相殺の武器を使って吹き飛ばして、水晶球ごと壊したわ」


「魔力相殺。珍しい武器持ってたんだな」


「わ、私の持っている矢に1本だけ」


「1本だと厳しそうだな」


 一瞬感心したレンさんが、沈黙してしまった。数があれば、借りるつもりだったんだろう。


「今回のは実体ありだから、物理攻撃も有効でしょうね」


「外なら遠慮なく吹き飛ばせるから何とかなるだろう」


 相変わらずシズさんは、見かけの冷静なスタイルと口にしていることが一致していないが、何も打つ手がないという現状では全員の総意だったようだ。

 とはいえ、オレたちが言った魔女の倒し方も、この化け物に通用するか分からない。


 だいいち『魔女の亡霊』の時は、魔導器のクロとシズさんの潜在意識というか魂が何らかの形で繋がっていたが、あれが前座の連中と同じだとすれば状況が違っている。

 しかしそう言っている間に、玲奈がヴァイスを呼び寄せていた。


「だ、誰が乗るの?」


「オレだけでいいだろ。じゃ、ちょっと馬鹿野郎を連れてきます」


「頼むぞ。俺の弓の届くところまで連れてきてくれ」


「できれば、マジックミサイルの届くところの方がありがたいわ」


「私はとっておきを準備しておこう」


「が、頑張りますっ!」


 もうオレも、中の人が玲奈のレナも慣れたもので、到着したばかりのヴァイスの背に乗り、すぐにも船着場を飛び出して空中へと躍り出る。

 そして二人して目標を探すが、島の影から外れて初めて視認できた。

 上昇し始めていたから、視界に入らなくなっていたのだ。


 そして視認した化け物は、飛行船を取り込んで巨大化していた。

 取り込んだ飛行船は飛行場の時の船より小型だけど、今度はたくさんの人と飛行船を動かす飛行生物(天馬4匹)も飲み込んでいるので、化け物はより異形な感じが遠くからも分かった。


「さて、どうしたもんかな? レナ、取り敢えずあいつの鼻面の前飛んでみてくれ」


「分かった!」


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