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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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176「島の下層にて(2)」

 そうして、かなり奥まで進んで来た時だった。


「た、助けてくれっ!」


 悲鳴と共に、1人の男がよろけながら逃げて来た。

 見ればオレに因縁をつけてきた3人組の一人で、実質オレが何もしないまま降伏した槍使いだ。

 そして、見た感じ服や装備がボロボロなのだけど、まとっている魔力がおかしかった。

 

「止まれ。何があった!」


「奥に化け物に取り込まれたリーダーがいる。助けてくれ!」


「お前ら奥の装置に何をした?」


「装置から、手っ取り早く魔力を得ようとしただけだ。そしたら魔力が溢れ出して、それで魔物が突然現れたんだ!」


 前でウェーイ二人組が相手をしている間に、魔法使い組が次々に魔法を放っていく。攻撃する訳ではなく、様々な探知や検査の魔法を唱えているのだ。

 魔法にはハルカさんも加わる。神官にしか使えないものもあるからだ。

 そしてオレも、こっそりと腰にしまってあるクロに問いかける。


「クロ。小声で答えろ。あいつの中に魂はあるか?」


「いえ、ございません。抜け殻です」


「亡者でもないわよ」


 声はハルカさんにも聞こえたようだ。

 けどハルカさんは、自身の声は他の人に聞こえる様に発したので、ハルカさんの声に反応して魔法使い二人組も加わる。


「体内に大量の魔力を隠しているわね」


「そうですね。危険だと思います」


「あと奥の扉も、できれば開けない方がいいだろう」


 と、そこで、前の方が騒がしくなる。だから慌てて声をかけた。

 見れば槍使いの様子がおかしい。


「みんな気をつけろ。そいつはオレが飛行場で出くわしたヤツと似てる。戦闘態勢を!」


 オレが言い終わる前に、状況は激変した。

 ヤツがオレを視認するなり、そいつの胸元辺りから魔力が一気に吹き出し、一気に廊下が魔力で満ちて、さらに魔力の奔流が発生する。


 魔法職がここに至までに色々な魔法の防御を施していたので何とか持ちこたえたが、何もしていなければ飛行場でのように、翻弄されるだけに終わっただろう。


 けどそれでも万全とは言えず、前衛3人が吹き飛ばされたり、ドリルや槍のように尖った触手もしくは魔力の奔流に突き刺されてしまう。

 しかし前衛の負傷は、後ろを守っての負傷だ。


「負傷2。前衛交替!」


「敵を認定。魔力を吹き飛ばして、胸のアイテムを壊せ!」


 その言葉と共に、残るトールさんの横にオレとマリアさんが向かう。

 ハルカさんは、負傷者の治癒のためあえて一歩遅れて前進。陣形を大きく組み替える。


「私が魔剣で魔力を散らしてみるから、行けそうなら突っ込んで!」


「了解!」


「オレじゃ、ヤツごとつぶしちまうけどいいんだな」


「飛行場と同じなら、もうこっちに意識ない筈です」


「そりゃ気が楽でいい!」


「オレ達は弓でいく。レナさん二の矢の本命よろしく!」


「分かりましたっ!」


 もうウェーイな言葉を使っている余裕も無い。

 こっちも見ずに、敵の繰り出す攻撃をさばいている。オレも同様だ。

 そして二人が盾になる形で、マリアさんが魔剣を使うチャンスを作る。


「魔剣『蛇炎』!」


 鋭い声とともに剣が振り下ろされ、大きな蛇のような形の炎が敵に伸びて行く。

 そしてその周りの魔力の奔流が吹き払われていくが、一線状では突っ込むのは難しい。

 しかし攻撃は前衛だけではない。


 中衛からは弓が連射され、魔力の帯が伸びる大きな輝きを持つ矢が、狙い違わず魔力を吹き出すマジックアイテムに吸い込まれて行く。

 しかも微妙に時間差が開けられていて、最初の矢が進路を開いて、その後ろを本命の矢が追いかける。

 確かにマジックアイテムだけを狙うなら良い手だ。


 2本の魔法の矢が立て続けに命中した敵は、明らかに力が衰えた。そして飛行場の化け物のように、人の形が崩れて行く。

 けど今度は、その変形する時間が敵の命取りだ。


「次が来る前に畳み掛けて下さい!」


「「おうっ!」」


 マジックミサイルが乱れ飛んで敵に次々に突き刺さり、弓矢も次々に射かけられていく。その結果、さらに魔力の奔流が衰えたところを見定めて、オレを含めた前衛が切り込む。


 まずはトールさんが、敵本体に大きな鎚を電撃ショック付きで叩き付けて行動力を奪う。

 電撃と物理的衝撃を利用した麻痺パラライズは、普通なら凄く効果的だ。


 そこにマリアさんの魔法の剣が敵の魔力も巻き込んで炎で包み、そしてオレの剣が大上段から敵を一閃していく。

 そして最後のオレの一撃で、敵の本体と思われる魔導器が、パリンっといった効果音が相応しい状態で砕け散った。


 それで化け物化しかけていた姿が、グズグズと崩れて行く。魔力もとたんに拡散していく。


「なんでこいつだけ居たんだ?」


「さあ? 扉の外だから仲違いしたとか?」


 とりあえず倒してホッとしたところで、当然の疑問をみんなが思った。

 しかし当人は、この場にいた当初から魂は現実世界へと戻っているので、真意は知りようがない。


「騙せると思ったんですかね?」


 サキさんのなんとなくな言葉が、一番説得力がありそうだった。


「ま、そんなとこっしょー。それより、案外呆気なかったな。飛行場でも同じか?」


「ですね。けど、これは本体じゃないですよ。魔導器の本体はこの奥にあると思います」


「分身とかかしら?」


「分身と言うより、端末みたいなものかもしれません」


「その通りだ。こいつから奥に向けて、魔力の帯のようなものが伸びていた」


「壊れた途端途切れましたけどね」


 魔法使い二人の証言で、オレが前に体験した事も立証されたようなものだろう。

 そして全員の視線が扉に注がれる。

 そこには、誰もが分かるほど正常ではない流れの魔力を感じる事ができるし、扉の隙間から少し溢れていた。


「で、でも、本体はどれだけ強いのかな」


「分からないな。ショウ、どう思う?」


 弓を一旦しまう中衛組に聞かれても、オレにも見当はつかない。と言いたいところだけど、デジャブが少しあった。

 オレの少し考える様子に、みんなの注目が集まる。

 何かに気づいたのは、取りあえず二人の治療を終えて立ち上がったハルカさんだ。


「……ねえ、ショウ」


「うん。あの『魔女の亡霊』の本体に少し似てるよな」


「『魔女の亡霊』ね。あんなんだったんだな」


「噂は少し聞いてるけど、どんなヤツなんだい?」


 ハルカさんの側にいる、傷を塞いだばかりのジョージさんとハルトさんが、座りながらオレとハルカさんに顔を向ける。

 他のメンバーも、魔女という言葉に反応して視線を向ける。何も理解出来ていないのは、部外者の技術者の人だけだ。


「『魔女の亡霊』はあの国の魔法使いの亡霊を乗っ取った魔導器で、その人の魔法をとんでもない魔力で使ってました。

 あと、さっきのやつみたいに、魔力を束ねた攻撃もしてきました。それ以外だと、でかいゴーレムを起動させて、自分はその中に入って操ってました」


「それに、さっきのヤツよりずっと強かったよ」


「あと、『魔女の亡霊』の本体はこれくらいの水晶玉。今となっては元の用途は分からないけど、魔法使いが力を暴走させて使っていたんじゃないかというのが、私達の話を聞いたシズの分析ね」


 そしてオレたちの言葉を補強するように、シズさんが強くうなずく。

 誰かが「ゴクリ」とつばを飲み込む音が、やけに大きく響く。


「そしてそいつがこの奥の島の中枢部にいるって可能性が高い訳だ」


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