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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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168「怪物飛行船との戦い(2)」

「ドンっ!」


 本物のソニックブーム。ヴァイスが音を伝達する速度を超えた。

 しかもその衝撃波は、レナの身体からも供給されたヴァイスの大量の魔力によって大きく増幅されている。


 その証拠に、ギリギリですれ違った飛行船を覆っていた魔力の奔流が一瞬霧散した。

 さらにそれだけでなく、飛行船に強い衝撃波が襲いかかってバラバラになっていく。

 しかし完全には破壊しておらず、絶妙な破壊具合だ。


 今までは魔力で強引に進んで来ていたが、前後に2つあった平べったい楕円形に形成されていた浮遊石の片方が、拘束していた部分ごと破壊され完全に切り離されてしまった。

 だから、落ちたくなければ浮く事に力を注がないといけない状態だ。

 おかげでノタノタと浮く以外できなくなっている。


「うまいぞヴァイス! レナ、あとはあの上を通過してくれ」


「分かった。頑張ってね!」


「おうっ、任せろ。一発で決めてやる!」


「それ、確かフラグだよ」


 ボクっ娘みたいに突っ込まれた。

 そういえば玲奈も時折突っ込んでいたなあと思っている間に、ヴァイスが鋭く旋回して飛行船へと急接近する。


 そして1、2、3と数えタイミングを計り、オレは空へと身を躍らせる。そしてそのまま、ヴァイスのおかげで付いている速度を利用して、一気に化け物本体へと斬り掛かる。

 もちろん、オレの特殊技である魔力相殺の力も目一杯込める。


 そうすると面白いように魔力の奔流が斬り裂かれていき、そしてもはや人の形を止めていない化け物に一刀を叩き込む。

 もちろん化け物の本体といえる元胸もとにある魔導器を狙うが、腕のようなもの複数がガードに入って邪魔をされ、思い通りにはいかない。


「クロっ!」


「お任せを!」


 オレの命令とともに、キューブがオレの胸元から飛び出してクロが実体化しいていく。

 戦闘だというのに、最初に見たのと同じ執事スタイルだ。とは言え、全部魔力で作られた体なら、服や装備は関係ないのだろう。


 しかし動きは洗練されていた。

 魔力をタップリ吸い込んだお陰か、Bランクの冒険者以上の素早い身のこなしで、化け物の攻撃を素手で裁いている。いや、素手ではない。

 黒い長めの短剣のようなものを両手に握って、化け物の触手のようなものを切り裂いていた。察するに、魔力で刃物を形成し、その刃物の部分だけ固くしているのだろう。


「もう何でもありなんじゃね」


 思わず気の抜けた言葉が漏れてしまうが、オレも攻撃の手を激しくする。

 そして1人と思っていたところに2人分の攻撃をされたことが一種の不意打ちとなり、化け物は十分に対応出来なくなっていた。


「クロっ、牽制だ!」


「お任せを」


 そう鋭く叫ぶと、クロは我が身をいとわず捨て身ともいえる攻撃を仕掛ける。

 そしてクロが影となったことで、オレの太刀筋がうまく隠された。

 しかしクロの行動は流石に無謀で、何本もの触手のようなもに体を貫かれる。しかしその触手をクロは平然と掴む。


「今です!」


「おおっ!!」


 クロの影から飛び出し、クロの献身で動きが止まった化け物の急所、魔導器の所在を示す魔力の煌めきの芯に向けて力一杯剣を振り下ろす。

 魔法防御などをしていることを想定して、魔力相殺を込める事も忘れない。


 実際ほぼ無音だったが、「パリンっ!」という感じで魔導器の中心の魔石が砕けた。

 それと同時に、一瞬魔力の奔流が停滞したかと思うと、意思を失ったかのように霧散し始める。


 化け物も形を維持できなくなったらしく、すぐにも崩れ始める。

 崩れる過程で一瞬化け物から人間の形をとったが、それすら維持出来ずにすぐ崩れていく。


 そして化け物が崩れたことで、クロに突き刺さっていた触手も同じように力を無くしたのだけど、クロの行動はオレの予想の斜め上をいっていた。

 拡散し始めた化け物の魔力を吸収しているのだ。そして吸収とともに体に空いた風穴も塞がっていく。

 正直「えぇ」って感じだ。


「大丈夫か? というか、便利だなその体」


「我が主よ、ご心配には及びません。ご覧のようにこの体は魔力の固まりに過ぎませんので、補充さえすればすぐにも修復できます。それよりも一つ情報がございます」


「化け物についてか?」


「この魔導器に魔力を供給していた魔導器のおおよその場所です」


「そりゃ朗報だ。けど、取りあえず、この飛行船からの脱出を考えないとな」


 オレが情けなく言ったように、化け物の魔力で辛うじて浮かんでいた飛行船の残骸は、まだ接続されている浮遊石だけでは浮力が維持出来ないらしく、かなりの速度で落ちていた。


 浮遊石から船の構造物を削ぎ落とせば浮力は維持されそうだけど、破壊したり切り離している時間もなさそうだ。

 だから一縷の望みを託して、周囲に視線を巡らせる。

 そうすると、ヴァイスが周囲を旋回しはじめている。そして心配げな顔の玲奈に、大きく手を振ると笑顔がはじけた。


「今から飛び降りるから、拾ってくれー!」


「わ、分かったー! ヴァイス、頼むね!」


 玲奈の言葉にヴァイスがすぐにも反応し、短く翼を左右に振ると旋回して落ちる飛行船の下の方へと移動する。

 行きと比べると、実に簡単にヴァイスへと飛び降りる。

 オレが降りた一拍子あとで、身軽なのか実際軽いのかクロもふわりと静かに降りてくる。


「く、クロさん?」


「敬称は不要ですレナ様」


「だな。それよりキューブに戻してから飛び降りても良かったな。ヴァイスの上だと、戻ってもらった方が狭くないし」


「畏まりました。それでは失礼致します」


 短く答えると、クロはキューブへと戻ってオレの手の中に収まる。

 つくづく便利だと思える。他にも機能がないか、時間がある時に話を聞いたり試してみようと思う。

 玲奈も興味深げな横顔を向けている。


「ありがとう。レナ、ヴァイス。取りあえず一件落着だな」


「うん。でも飛行場に戻って大丈夫かな?」


「オレ達も被害者だから大丈夫だろ。それに出国手続きしてないから、このまま飛んで立ち去るわけにもいかないからな」


「そ、そうか。じゃあ戻るね。ヴァイスお願い」


「ああ。それより、レナは大丈夫か?」


 オレの玲奈自身の二重人格の事の心配に対して、玲奈はオレの言葉を聞いていなかった。

 そしてその視線は、島に注がれていた。

 だから質問を重ねようとしたが、目の前の情景のせいで別の事を口にすることになった。


「……ま、街が。いや、島が傾いてる?」


 ハーケンを構成する浮遊島の様子にわずかに違和感を覚えた。

 一瞬ほんの少しだけ歪んで見えたが、ごく僅かに傾いているからそう感じたのだ。


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