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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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166「魔人(2)」

「オーイ、緊急事態だ! 巨鷲をすぐ出せるようにしてくれーっ!」


 少し遠くから叫ぶと、既に混乱しつつあった世話係は役目を与えられた事で気を取り直し、急いでケージを開くなどの措置をとり始める。

 けどそこに、また何かが飛んできたので、オレは剣で対処する。これで止まって振り向くことになるが仕方ない。


「レナっ! お前だけ先にヴァイスと逃げて、そのまま飛んでシズさん達に知らせてくれ!」


「で、でも!」


「でもじゃない、やるんだ。お願いだ!」


「わ、分かった、やってみる」


 そう言うとやや頼りなげだけど、まだ数十メートルある距離を再び走り始める。それを横目で確認しつつ、オレは油断無く追いついて来たヤツと相対する。

 正気と思えない表情に全身返り血を浴びた姿で、オレがドロップアウトしかけた時の姿に少し似ていたんじゃないかとちょっと思えた。


「いいのか? そんな事してると、強制退場させらるぞ!」


「その前に、お前とお前の女どもを八つ裂きにしてやるさ! 本当はお前を後回しにして、女どもの惨めな様を見せつけてやろうと思っていたが、お前バラバラにして女どもに見せる事にしたから、ありがたく思え」


「ああ、そうかい。オレを最初にしてくれてありがとよ(オレがケリを付ければいいだけだからな)」


「今みたいに最初から礼儀正しければ、オレもこんな事しなくて済んだんだがなっ!」


 下衆な言葉で心を乱されたりしなくなっていたが、シズさんの『魔女の亡霊』とは似ているが違う正気の欠如が、オレの嫌悪感を募らせる。


 そして言葉が終わると共に、オレの知っている同一人物とは思えない速度で飛ぶように切り掛かってきた。

 パワーだけなら、いつぞやの龍に乗っていた『帝国』兵やアクセルさん以上の剣戟だ。


(オレ、ここまでこいつらに恨まれるような事したか?! むしろ自業自得の逆恨みだろ!)


 辛うじて反応して「ガキっ!」と剣と剣がぶつかり合うが、腕力でもヤツの方が上回っていた。


 このままではヤバいと本能なりオレの体が教えてくれていたが、最初の一合で希望も見えた。

 ヤツの剣はオレのものより質が悪く、しかもヤツのバカ力に耐えられないらしく、一回で大きく痛んでいるのが分かったからだ。


 そこであえて剣に向けて、こっちの攻撃を集中させる。

 一回で格好よく武器破壊が出来れば一番だけど、そんな技術はまだ持ってないので流石に無理だった。


 それにヤツは、パワーこそ何かしらの魔力で異常なほど大きくなっていたが、技術が伴っていなかった。

 自分でも未熟と思っているオレよりかなり低いまま、というより何も変わってなかった。

 だからこそ、パワー負けしていても何とか戦いになっていた。

 それでも長期戦だと押し切られそうだったが、一番最初にヤツの剣が耐えきれなくなった。


 「ベキっ」や「バキっ」て感じのあまり金属音らしくない音をたてて、ヤツの剣が3分の1ほど残して折れてしまい、その隙をついて一気に斬り込んだ。


 もともとヤツは技量に劣るので、こうなってしまえば懐に入るのに問題なかった。

 しかも常軌を逸した行動をしていただけに、冷静な判断もできないようだった。


 途中で折れた剣をオレに向かって突き出すが、当然届くわけがない。

 だからそのまま一気に切り込んだ。そしてヤツが魔法などで防御している可能性も高いと思ったので、魔力相殺も気持ち強めに乗せておく。


 予測的中で、魔力の膜や壁のようなものが、シャボンがはじけるように切れていくのが見えた。

 そしてあまりにも無防備な体に、そのまま剣が吸い込まれていく。

 この一撃は致命傷だ。


 罪悪感はゼロじゃないが、すでに多くの人を殺めているし、あの狂いっぷりでは捕まえるのは無理だっただろう。

 倒れた死体を前に、少しばかり自己弁護の言葉を心の中で重ねていると、足元の死体がピクリと動く。

 そして胸元の何かの魔導器らしきものから大量の魔力が吹き出し、その奔流に吹き飛ばされてしまう。

 これも魔女の亡霊の時に似ていた。


「チッ、どうなってんだ! いきなりアンデッド化とでも言うのかよ!」


 吹き飛ばされ地面に叩きつけられても痛みは感じないが、心の動揺を隠すための悪態の一つもつきたくなる状況だ。

 しかし魔力の感じはアンデッドでない。魔導器のそれっぽいし、暴走魔女の方のシズさんっぽい感じがする。


 そこでふと思いつき胸元に手を当て、そこに忍ばせている黒いキューブに問いかける。


「クロ、奴の状態が何かわからないか?」


「はい我が主よ、私と似た魔力の流れを感じます」


「じゃあ、あそこにキューブがあるのか?」


「いいえ。私と同じもしくは類似する魔導器より、魔力の供給を受けていると推測されます」


 クロとの会話中も、死体だったものが起き上がりつつある。しかし魔力の奔流が強すぎて近寄れない。

 奔流に対して魔力相殺を試してみたが、その場は霧散できるが暴風状態なのですぐに元に戻ってしまう。


「じゃあ、あの『ダブル』の状態は?」


「あの体の客人の魂は既に途切れ、抜け殻にございます」


「オレが斬った時点でそうなったのか?」


「いいえ、主と相対した時点で既に途切れておりました」


「そりゃ朗報だ。ありがとよ」


「なぜ朗報なのでしょうか?」


 心底不思議そうだ。やはりクロがアイテムだからだろう。


「ご同輩を殺したら、流石に目覚めが悪いだろ」


「左様でございますか。それで今後の方針は」


「できれば逃げたいね!」


 そう言ってはみたが、かつての魔女の亡霊の最終状態のように、魔力の奔流の一部が鋭いドリルか槍のようになって、オレに襲いかかってきていた。

 軽く地面をえぐってくれているので、当たると大変なことになるのは間違いない。

 しかも攻撃は激化の一途で、徐々にクロとの会話も難しくなりつつある。


「クロ、何か手はないか?」


「敵が今の状態になってから受動的に魔力の吸収を行っておりますが、能動的に行う許可をいただければ……」


「許可する。なんでもやってくれ!」


 必要なことしか言わないクロが、状況が悪化することを言うはずがない。

 許可の言葉とともに、キューブが掃除機のように周辺にある魔力の奔流を吸い込み始める。吸収する勢いは全部とはいかないが、勢いが落ちて攻撃回数も目に見て衰えた。

 それでもまだ奔流は続き、簡単に脱出できそうにはない。その本体も、いびつな動きながら徐々に近づいて来ている。



「ショウくーん!」


 焦りを強める中、少し遠くからオクターブ的に玲奈な感じのレナの声がする。

 何事かと声のする右斜め後ろ上方といった感じの方に視線を向けると、ヴァイスが飛び立ちその首元に必死にしがみつく玲奈の姿があった。


 しかし魔力の奔流のせいで近づくことが難しい上に、玲奈はボクっ娘のようにヴァイスをうまく操れないみたいだ。

 これはオレ自身が血路を切り開くしかなさそうだ。


「レナーッ! 頭の上をなるべく低く、そして速く通過してくれー。タイミングはそっちに合わせるーっ!」


「わ、分かったー! ヴァイスお願い」


 オレの言葉ヴァイスが一旦側から離れて旋回を始め、速度を出す動きを開始する。オレはそれを見つつ頃合いを見図る。

 そして剣を下から上に一気に振り上げ、オレの眼の前から上にかけての魔力の奔流を一時的に吹き払い、そしてその隙間に出来る限りの力を込めて飛び上がった。


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