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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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512 「電話(1)」

 11月半ばの某日、その日の目覚めはいつも通り。

 しかし朝にするべき事がないのが、いつもとの違いだ。

 するべき事とは『夢』の記録。

 何しろ昨日は『夢』の向こう、『アナザー・スカイ』には行かなかったからだ。


 けど6月末に一度ドロップアウトしかけた時と違って、うつでもなければ焦りもない。

 『夢』に戻るため、いや帰る為の手段と方法は確保されているし、仲間達を信頼しているからだ。


 けど、流石に不安がゼロかといえばそうでもないので、取り敢えずスマホを見る。

 もっとも朝の6時では、流石に誰もメッセージなど入れてない。

 妹様に聞こうかとも一瞬考えたけど、こっちでは受験勉強とか真面目にしているので、それもはばかられた。


(もやもやしてても仕方ない)


 そう思って動きやすい服に着替えて外にでる。

 まずは簡単な体操で体をほぐし、ランニングへ。そして30分ほど走り、戻る途中の近所の公園で軽く筋トレを行う。

 家に帰ると軽くシャワーを浴びて登校と思ったけど、今日は日曜日だったことを思い出す。

 一日バイトのシフトを入れてあるとはいえ、流石に起きるのが早すぎた。


 朝食をとるにも早すぎるので、部屋でパソコンとスマホの両方を使って、ここ最近の『夢』の情報を見ていく。

 確かに神々の塔に関する話と、それ以上に一人の人、ではなく少女をリアルで救えという話題で持ちきりだ。


 なぜこれほど話題になっているかと言えば、それまで現実世界と『夢』の物理的な繋がりはないというのが定説だったけど、それが覆されるからだ。

 勿論と言うべきかかなりの人が、今回の騒動が嘘やデマ、フェイクと考えている。


 勿論だけど、オレ達を含めてハルカさんの身に起きた事を詳しく話す者、情報を暴露するような者はいないので、今回の話も精々噂話の一つで終わるだろう。


 だから、基本的にはある種のお祭りのようなものだ。

 しかも近年『夢』に関する話は、『夢』の向こうに行った当事者以外にとっては、どうでもいい話題でしかない。

 それどころか、話題以前でしかなかった。

 それが自分達の中だけでも盛り上がりを見せたと言うことも重要らしい。


 そんな事を見ていると、スマホにコール。

 電話だ。

 画面を覗くと見た事のない番号。しかも固定回線だ。


「はい?」


「山科遥と申します。月待翔太さんのお電話でしょうか?」


 訝しみつつも出てみると、予想外の声。

 けど間違うはずのない声。


「えっ? えっ? ハルカさん?」


「そうよ。おはよう、ショウ」


 向こうで毎日聞いている、いつも通りの声に安堵する。


「お、おはよう、ハルカさん。けど、電話番号、教えてなかったよな」


「向こうでシズに聞いたの。トモエも覚えてた」


 つまり、シズさんもオレの番号を暗記してたという事だけど、二人なら当然だろう。


「そ、それで、体の方は?」


「どっちの?」


「そりゃあ、こっちのハルカさんに決まってるだろ」


 オレの懸命な声に、スマホの向こうの彼女が小さく笑う。

 まだ違和感を感じるけど、これからはこれも普通になっていくのだろうか。

 一瞬そう思うも、オレの思考の上に彼女の声がかぶさっていく。


「昨日あれから、検査、検査、検査責め。今日もこれから検査。今朝ごはんが終わって、病院の公衆電話からよ。だからこの番号登録しても意味ないから。私のスマホは、今日お母さんが届けてくれる予定だから、それまで待ちなさいね」


「了解。それで、いつ会えそう?」


「検査で面会どころじゃないから、当分先じゃない? それより、そっちが早く帰って来なさいよ。分かってても、結構凹むものよ」


 少し冗談めかしているけど、この辺りの彼女の心の機微は少しは分かるつもりだ。

 しかしここは軽く振舞うべきだとも分かっている。


「向こうのオレの体、もぬけの殻だもんな」


「それどころか、今度はショウが居眠り王子状態よ」


「アレ、寝たままなんだ。体だけ起きないのか?」


「みたいね。普通のドロップアウトと違うからじゃないかって、シズやレイ博士が言ってたわ」


「そっか。じゃあ、そのまましばらく、そっち体は休ませてやっててくれ。火曜には戻るよ」


「そうね。シズも最終日に呼ぶって言ってたわ。あ、そろそろ時間。私のスマホが届いたら、夜にまた電話するわね」


「了解。あ、けど、今日9時までバイト。病院って、9時以降に電話とか出来る?」


「消灯は9時半。15分頃に電話するわ」


「分かった。それじゃあお大事に」


「うん。それじゃ」


 呆気なく切れた。

 電話だから当たり前だけど、やっぱり新鮮な気分だ。

 それに、昨日彼女にとっての大事件があった後で、いつも通りの会話が出来た事がすごく嬉しいし、大切な事に思えた。

 そしてこの事は、最低でも玲奈に伝えないといけないとも感じて、すぐにメッセージを入れる。

 するとすぐに電話のコール。


「おはよう玲奈」


「おはようショウ君。ハルカさん、なんだって?」


「病院の固定電話からの一報。話しぶりは普通に元気そうだけど、検査漬けで死にそうだってさ」


「フフフッ。1年半も眠りっぱなしだもんね。他には?」


「検査が続くから、面会はしばらく無理だけど、今日にもお母さんがハルカさんのスマホを持ってくるから、多分玲奈にも電話があるんじゃないかな?」


「電話番号は?」


「シズさんかトモエさんが、ハルカさんに伝えてると思う。今のオレがそうだったし」


「そっか。二人なら当たり前だよね。それじゃあ、電話があるとしたら夕方以降かな?」


「今から検査って言ってたし、多分そう思う。今日オレは一日バイトだから、スマホからは玲奈に先に電話あると思う」


「うん、分かった」


 その後は他愛のない話をしばらくして、朝ごはんを詰め込みに降りる。

 すると先に妹様がもう朝食だ。



「日曜なのに早いんだな」


「そっちこそ」


 そっけない態度だ。

 けど妹様は、これくらいが丁度いい。

 それなのに、悠里が部屋に引き上げぎわ「終わったらすぐ部屋に上がれ」とのご命令。

 だから早めに朝食を詰め込むと部屋へと戻る。

 すると中に妹様が待機していた。


「遅い」


「これ以上早くは無理だって。で、何? いや、こっちが話しあるわ」


「えっ? 何?」


「警戒すんなよ。オレが降りる少し前に、ハルカさんから電話があった」


「マジッ?! 何だって?」


「しばらく検査漬けで、面会とか無理そうだってさ。けど、声は元気そうだし、もう普通だった」


「そっか。こっちでも早く会いたいなあ」


「向こうで普通に会ってるだろ。で、何?」


「いや、別に特別用はないけど、意外に凹んでないんだな?」


「まあな。けど、ハルカさんには、早く帰って来いって言われた」


「あ、そうか、ハルカさんから状態聞いてんのか」


「なんだよ、柄にもなくオレの心配か?」


「お前の為じゃないけどな」


「あっそ。それと、玲奈にもさっき電話した。あと、もしかしたら、夕方以降ハルカさんのスマホから電話あるかもしれないから」


「マジで? 分かった、待ってる」


 そのあとも二言三言言葉を交わすけど、それで解放されたので簡単な準備を済ませてバイトに向かう。

 今日はタクミと同じシフトなので、少し早めに控え室に入った。




「おはよう。昨日はシフト代わってもらって、サンキュ」


「いいよ。お互い様だ。それで、うまくいったってメッセージだったけど?」


 ちょうどタクミも着替え中だったので、ごくごく簡単に経緯を話す。

 そしてさらに続けた。


「それでなんだけど、火曜日の夜に最低でも前兆夢があると思う。もしかしたら、いきなり召喚だ。多分召喚の可能性が高いと思うから、覚悟しとくように」


「了解。そっか、もう決まってるんだな」


「断るんなら、火曜の夜までにシズさんに連絡しとけ」


「2度目のチャンスを棒に振らないよ。いや、振れないよ。流石にな。それでショウは?」


「オレも火曜日復帰予定」


「……一時的とはいえドロップアウト中なのに、余裕だな」


「そりゃあ、心配する必要がないからな。気楽なもんだよ」


 そういうと、タクミが心底と言った感心した表情を浮かべる。


「なんだよ。神経が図太くて悪かったな」


「そうじゃないよ。それだけ信頼できるのが、羨ましいだけだって。まあ、多少呆れはするかもだけど」


「今度はタクミも、信頼しあえるように頑張れよ」


「そうする」


 そう言って、軽くグータッチを交わす。


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