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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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511 「目覚め(2)」

「呆気なかったね」


「うまくいった、だろ」


 シズさんが、トモエさんのやや不謹慎な言葉を確かめる。

 場所は病院内に入っている大手チェーンのカフェ。そこで4人してお茶をしている。昼にはまだ早いので、時間的にも手持ち無沙汰だ。


「少し拍子抜けなのは確かですね」


「でも、本当に良かった」


「そうだな。マジ良かった」


「まだ完結させるなよ」


 そう言ってシズさんに小突かれる。

 いつもはハルカさんに小突かれているけど、真似をしたんだろう。

 しかし表情は少し深刻だ。


「それでショウ、向こうとの繋がりが断たれたような感覚はあるか?」


「いえ、魔法を使う時に何かが流れてくる感覚はありましたけど、別に何も。それに前にドロップアウトしかけた時も、特に何もなかったですし。寝てみるまで分からないんじゃないですか?」


「そうか。もし向こうで目覚めない時は、火曜の夜に向こうで呼ぶから、それまで待っててくれ」


「そうじゃない方が有難いですけど、その時はお願いします」


 そう言って軽く頭を下げる。

 それに対して、返答はかなり強い語調だ。


「勿論だ。これでショウが向こうで脱落だと、片手落ちだからな」


「そうでもないですよ。こっちでハルカさんが目覚めたのなら、オレ的には旅の目的は達成です」


「それは今までだろ。今日は浮かれても良いだろうから強くは言わないが、これからは?」


 シズさんは強くは言わないと言いつつも、厳しい目を向けている。

 玲奈にもトモエさんにも。

 だから素直に頭を下げる。


「はい、これからは次の話です。勿論、ハルカさんと玲奈との約束は果たす積りです。だから目覚めない時は、もう一度必ず呼んで下さい。お願いします」


「そこまで畏まらなくても良いよ。私が虐めているみたいじゃないか。それで、今後どうするんだ?」


「それはこっちですか、向こうですか?」


「両方。とはいえ、こっちはハルカからも話を聞かないとな。向こうでは?」


「巡礼を続けますよ。この際だから熱砂大陸にも行って、聖地の全コンプリート目指します。ハルカさんもう聖女様認定から逃げられないだろうし、逆に箔付けしといた方が後がやりやすそうだし」


「面白そう! 私も付いてくね」


 トモエさんは、目をキラキラさせている。


「それだけだと神殿が囲い込みに来そうだが」


「それも考えました。オレ的には、エルブルスに協力してもらって、竜の聖女とかその辺の立場をでっち上げてもらって、エルブルスのシーナを拠点にしてもらいます。聖地の一つを解放した上に、聖地全コンプの聖女に世界竜がバックにいたら、他の国や神殿が簡単に引っ張って行けないでしょ」


「なるほど、個人もバックも箔がついているとなれば、確かに神殿も他国も引き入れにくいな」


 シズさんが腕を組んで納得の表情だ。

 玲奈はニコニコしている。


「どうした?」


「ううん。楽しそうだなって。それにレナも旅は喜ぶと思うよ」


「アレ? 玲奈はレナって呼ぶんだ。混乱しない?」


「あ、それ、私も気になってた」


 トモエさんもぐっと首を動かして会話に入ってきた。

 シズさんも興味深げに見ている。


「うん。あ、でも、お互い名前呼ぶ事はないよ」


「まあ、二人きりの空間というか時間だもんな」


「うん、そんな感じ」


「それでお互い、どういう認識。姉妹? 双子? 親子は流石にないよね」


 オレよりトモエさんが、知的好奇心といった感じで食いついていく。


「双子の姉妹かな? 私の方がお姉ちゃん扱いされてる感じで。兄弟とか姉妹が欲しいなって思う事がよくあったから、ああして会えるだけでも凄く嬉しい」


 そう言って笑みを浮かべる表情は本当に嬉しそうだ。

 もしかしたら、怖いけど『夢』の向こうに行きたいからもう一人のレナが生まれたんじゃなくて、姉妹が欲しかったからなのかもしれない。

 すぐ側に常磐姉妹がいたら、そういう想いはなお強いだろう。



 その後、昼になるくらいにハルカさんのお母さんからメールで連絡があり、ハルカさんはしばらく検査が続くので、落ち着いたらまた連絡しますとあった。

 そして常磐姉妹はこの後仕事があったので、昼食とそれ以後は玲奈とのプチデートを楽しんだ。


 けどそこでは、ハルカさんの話題は殆どしなかった。

 彼女が今後、こちら、現実世界でどうするのか、それを聞くか話し合うかしないと話す意味がないからだ。


 そして夕方には玲奈とも別れて家に戻り、オレの部屋で先に悠里に口をふさがせた上で結果を告げた。

 もっとも、叫ぶより良かったと安堵していたので、喜びより心配が大きかったようだ。


 そしてその夜、オレは6月末以来久しぶりに『夢』の向こうに行けなかった。


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