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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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504 「願い事(1)」

《願いは決まりましたか?》


「一部決まったので来ました」


「それと幾つか質問がある」


《合わせて、お聞きしましょう》


「まずは質問だ」


 シズさんが続いて聞いていく。

 そしてそれを聞いてから願うので、全員がシズさんの質問の答えを待った。


「知識、魔法、魔力、これらは1つの願いに対して1人を対象とするのか? それとも、この場に居る7人だけか? 外にいる「客人」全員も含むのか? 更に言えば、この場に居るこの世界の住人達も含むのか?」


《我々の能力にも限界はあります。それに認めていれば際限がないのは他と同様ですので、魔導器の数までです。また、知識、魔法、魔力はどれも希少なので、別の願いになります》


「ふむ。なら魔法は、9属性全ての魔法、第五列まで全てか? それとも何らかの選択になるのか?」


《9属性全てを第五列まで与える事は出来ますが、人の身では情報量が膨大過ぎます。ほぼ確実に受け取り側の魂、記憶が受け止めきれません。受け取り側に個人差が出るでしょうが、人一人が普通の生涯を終えるまでに習得できる魔法の量とほぼ同じになります》


「後半が抽象的だな。こちらの要望には答えられるか?」


《もちろん可能です》


「あの、私って今は全部の魔法を第二列まで使えるけど、これは魔導器が知識とか記憶を肩代わりしてくれてるから?」


 トモエさんが小さく挙手して問いかける。

 確かに、トモエさんと相棒のキイロはそんな事を言っていた。


《その通りです。ですが、一定時間状態を維持していると、ある程度はあなた自身の記憶自体に刻み込まれます》


「どのくらい?」


《少々お待ちください。……これは凄い。全体の半数程度が、残る可能性が非常に高いでしょう。優秀な人の約3倍の数字を示しています。残したい魔法は、一度は使用するか、意識しておく事を強くお勧めします》


「ふーん、そうなんだ。ありがと」


 やっぱりトモエさんは規格外の人だった。

 そしてそれを飄々(ひょうひょう)と受入れているのが、またトモエさんらしい。

 そしてトモエさんのやり取りが終わると、シズさんがオレの方へ目線を向けて来た。


「トモエの事はともかく、魔法については聞いての通りだ。そっちはショウに任せる」


「はい。えっと、それじゃあ願いですが」


「待って、私から先に言わせて」


 オレの言葉をハルカさんが遮る。

 そして『世界』の声が聞こえてくる球体に真剣な表情を向ける。


「私の願いは、この体を完全にする事と、向こうの私の体を癒してくれる事。もしくは、それをするための最大限の助力と補助よ」


《承りました》


「一つの願いで通ったね」


 ポツリとトモエさんが口にしたが、それで済むならオレの頼むべき事はもう完全に決まった。


「じゃあ、オレは魔法だ。シズさんには、「異界」のハルカさんを癒せるだけの治癒魔法を優先してくれ。他は、外にいる人も含めて、魔法に適性の高い人優先で、与えられるだけくれたら良い」


《承りました》


「あのさ、向こうに魔法を使うための魔力を一杯送り込む、とか無理なのか?」


《時間をかければ可能ですが、今回の要件を満たすだけを送り込むには時間がありません》


「そっか」


 聞いた悠里が少し残念そうにする。

 確かにナイスアイデアだけど、ダメなら仕方ない。

 けれど、魔力を送り込めるという情報は貴重かもしれない。


「あの、次ボク良いかな? あのね、今繋がっている人と完全に分かれた上で、向こうの体にボクの魂が入れ替わりで入ったり出来る? て言葉で分かるかな?」


《意味は理解できますが、不可能です。ですが、現状での入れ替わりの維持は可能です。また昨日お聞きした、意識内での両者の交流も同様です》


「意識内の交流っていつでも出来るの?」


《両者が眠っている間のみです。体感的には、眠って次目覚める間に話が出来るといった感覚になるでしょう。どちらか片方が意識して呼びかければ、言葉のように思念が届いて交流できます》


「了解。ありがと。じゃあボクは、今魂が繋がっている人と任意で入れ替わりが出来る事と、意識内での交流ね。それと次に来る時に、向こうの私をこっちに別の体で出現させてあげて」


《承りました》


「今日はこんなところか?」


 3人が言い終わったとこで、全員を見渡す。

 シズさん、レイ博士、ハルカさんが険しい表情を浮かべ、少しすると横になって眠るような状態になる。

 魔法の知識を、何らかの方法で直接頭に送り込まれているんだろう。

 となると、終わるまで待つしかない。


 するとトモエさんが、オレと同じように全員を見てから中央の球体に問いかける。


「あのさ、ハルカを助ける為に協力させられる1000人って、どう選ばれるの? 受け入れた者を優先して選べるの?」


《受け入れたかどうかを判断する事は出来ません。こちらでの睡眠時間が短い方は、自動的に除外されます。また、各個人のおおよその状態の把握は出来ますので、周囲に危険がないと判断できる方が優先されます》


「じゃあ、ある程度は考慮されるわけだね。了解。あと、こっちのリクエストで呼べるってのだけど、向こうにしかいない人とかどうやって判断するの?」


《望まれる方が、その人を強く意識してください。この場なら、皆様の記憶の表層を見る事が出来ます》


「そうなんだ。じゃあ、今私が何考えたか分かる?」


《望まれない限り、こちらから見る事はありません》


「あっそ。良心的なんだ。他、聞きたいことある?」


 そう言ってトモエさんが、オレ、悠里、ボクっ娘を見る。

 そうするとボクっ娘が小さく挙手する。


「話が美味すぎるから、デメリットがないかちゃんと聞いときたいよね」


「だってさ、今までの願い、これから叶える予定の願いで、何か私たちに不利益はある?」


《少々お待ちください。検証してみます。……確認しました。ハルカ様の「異界」の体を治癒する際、我々から『異界』の窓口となる者にはかなりの負荷が掛かり、魂の繋がりが途切れてしまう可能性が非常に高くなります》


 『世界』の言葉に、聞いたボクっ娘が「やっぱり」という表情を浮かべる。悠里も同じだし、オレも似たような表情だろう。

 ケロッとしているのはトモエさんだ。

 そして何でもない事のように口にする。


「じゃあ、窓口は私でいいよね」


「えっ、どうしてですか?!」


 思わず3人が突っ込む。

 それはオレの役割だろう。そして間髪入れず、多分似たような事を叫んでいたが、トモエさんは平然としている。


「だって、私が一番この世界でしがらみ薄いよ」


「いやいや、彼氏なんだしオレの役目でしょ」


「けどそれじゃあ、お兄ちゃんはこっちでハルカさんに会えなくなるし、ハルカさんと玲奈さんの約束も果たせなくなるだろうが!」


「そうだけど、それにドロップアウトの可能性が高くなるってだけで、全然ダメになるってわけじゃないし」


「それでも私がするよ。私、別にこの世界でしたい事あるわけじゃないから」


 やっぱりケロッと答える。

 これはもう決めてる感じの態度だ。

 さて、どう説得するとかトモエさんを見つつ考えていると、ボクっ娘が「あのー」と遠慮がちに会話に入ってきた。


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