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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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503 「再び塔へ」

 オレ達が『ダブル』を集めた場所から離れると、その後に続いてその場を離れる人がでた。

 オレが飛行船に乗り込んで視界から見えなくなるまでに、3分の1くらいが立ち去っていた。


 口々に「悪いなヒイロ。俺、そういうの興味ないんだ」「悪いんだけど、まとめサイトでにでも書き込んでてくれる? 後で見るよ」「世界の危機とか世界が滅びるとかじゃないんだよな」「神々っていなかったんだろ。じゃあ、いいよ」などと言っている。

 

 ちょっと悪い気がしたけど、やはり興味のない人は多かった。

 それにオレ達としては、目の前の一人の少女を救う事の方が、この世界がどうなっているのかよりも重要だ。

 現状では、世界の理とか聞いたところで、「フーン」とトリビアに感心する程度にしか思わないだろう。



「なんか悪いことしたかもねー」


「でも、世界の謎とか興味ないんでしょ?」


「ない。魔物が何故発生するかより、どうやったら簡単に倒せるか、なら聞くけどね」


「けどみんな、ハルカさんの為だろ?」


 食堂に引き上げたところで皆んながざわつき出したのだけど、オレが一言言うと注目された。


「なんでそれ言うかなあ」


「空気読めよ」


 年少組は手厳しい。

 トモエさんはケタケタと笑いつつ、オレの肩をポンポンと何度か叩いて通過していった。


「みんな、ありがとう。ヒイロさんの話も気にはなるけど、正直今は聞いても頭を素通りしてたと思うわ」


 椅子に腰掛けたハルカさんが、少し力なく笑みを浮かべる。

 そうしてそれぞれ適当に椅子に座っていくけど、『ダブル』はヒイロさん達以外はほぼ全員戻ってた。

 レイ博士も、「団体行動を乱すわけにはいかんな」とか少し未練がましさを見せながらも一緒だ。


 少し遅れて、ジョージさん達も戻っている。

 マリアさん以外、3人は朝から何か言いたげだったけど、ここで言うべきだという雰囲気になっている。何か話したんだろう。

 そして代表して、ジョージさんが立ったまま口を開く。


「あのさあ、昨日の夜にネットで、神々の塔の噂がどのくらい出てるか見て回ってたんだ。それで、少し気になる話を見かけたんだけど」


 その言葉を聞いて、ハルカさんが立ち上がる。

 自然隣のオレも立ち上がった。


「ジョージさん、それにレンさん、サキ、もう察していると思うけど、今まで黙ってた事を話します」


「あ、あの、ジョージさん達を信頼してないとか、そう言うのじゃ……」


「分かってるって、兄弟。てか、マリアさんも、ハルカさんの事を知ってたんだな」


「むしろルリ、ハナと同じで、一番古い頃から知ってるわ。でないと、ここまでハルカを過保護にしないわよ」


「どうかしら」


「せやんなあ。マリやったら、そんなん関係なしにストーカーしとるで」


「ストーカーはないでしょ」


 ハルカさんの友達3人が和んだ雰囲気になっている。

 この3人は、3年以上前にパーティー組んでたけど、ドロップアウトが出たから解散したと聞いた事がある。

 けど、今も友達関係が続いているのだから、別れて正解だったんだろう。


「むしろ、パーティー解散に合意して、その後また組んでないのが不思議なくらいよ」


「それはみんなとの約束だし、ハルカがそういうの嫌うでしょ」


「私、そこまで杓子定規じゃないわよ。まあ、あの頃の事は全部忘れたかったってのはあるけどね」


「まあ昔話は置いといて、本題入ろか」


 ルリさんの言葉で、ハルカさんが自分の身に起きたことについて話始める。

 1年半前に交通事故に遭って、死んだと思った事。けど最近になって、実は意識不明で眠り続けていると分かった事。それがこちらの技術、要するに魔法を使って何とかできそうな事。

 オレ達との旅は、最初は蘇生や復活の手がかりを探す為だった事。神々の塔に来る時点で、意識不明から目を覚ます為の手がかりを探す方向に変化している事。

 その最後の詰めをする為、『世界』に協力を願うべく今から向かう事。



「現実世界とこの世界って、僅かであれ物理的に繋がっていたんですね」


「それより、現実世界で魔法が使える方が驚きだ」


「どっちも同じくらい驚いてる。ちょいドキドキしてる」


「相棒らしくないぞ」


 全部話すと緊張がほぐれたのか、ジョージさん達の雰囲気も軽くなる。


「そうか? ところでショウ、その復活の手がかり探しってのは、俺達と出会った時にはもうしてたのか?」


「流石にまだです。切っ掛けは、ウルズの地下遺跡で見つけたクロが、何日かして目覚めた時からですね。

 それでレイ博士に協力してもらうようになって、少し前進した感じかな。大巡礼も、聖地を巡れば何か分かるかもってのが一番の動機です。

 けど、殆ど行き当たりばったりというか、運良く当たりを引いてきたって感じですね」


「ホント、運よね。けど、豪運だと思うわ。

 私、ずっと死んでるって思ってたから、もし奇跡のような事が起きるとしても、何年、何十年も先だと思ってたもの」


 ハルカさんが感慨深く話す。

 その様子が、オレと出会う1年前から色々あったのを感じさせた。


「ショウって、面倒ごとを自分から抱えにいって、厄介事を引き寄せてるって思ってたけど、結果的には殆ど当たりを引いてきたもんねー」


 しかしそんな雰囲気をボクっ娘が混ぜっ返す。


「Aランクが当たり前、Sランクでようやくボスキャラな戦いばっかを、厄介事で済ませる皆んなが凄すぎだぜ。ていうか、兄弟が短期間で強くなるわけだな」


「ウルズで魔力を大量に取り込んだみたいだから、あそこで凄く弾みがついたと思いますけど、後はどうだろ?」


「旧ノール王国の後も、ハーケンで化け物相手。エルブルスで数百の魔物の殲滅。ノヴァでは千、万の単位の魔物との戦争の真っ只中で3連戦。ランバルトでは亡者の群れ。『帝国』に来たら、魔物の精鋭の迎撃。邪神大陸でも魔物の大群と連戦。ここでも、魔物の精鋭と決戦。……我ながらよく生きてたと思うわね」


 ハルカさんが意を強く持つ為にか、指折りながら今までの戦いをちょー簡単に振り返る。


「マジそうだな。もう、これで終わりにして欲しいよ」


「それフラグじゃないか? まあ、今の兄弟達に勝てる奴なんざ、この世界で数える程だろうけどな」


「そんな事ないですよ。強い人や魔物は、まだまだ沢山いるでしょ」


 本当にそう思う。

 だいたい油断とか慢心してたら、ろくな事がない。

 けどジョージさん達は、怪訝な表情を崩さない。


「でもよ、実質、神々の塔を守護する大型龍すら倒したわけだろ。世界竜は例外としても、エルフも噂ほどじゃあなかったわけだし。それに『帝国』の三剣士の一人にも勝ったんだろ?」


「あの人には、まあ。けど、ゴード将軍とか激強ですよ。マーレス殿下とも精々五分だし、オクシデント以外にも『ダブル』は沢山いるんだし、強い人はいくらでもいますよ」


 「まあ、そうかもだが」と少し納得してないけど、目的の為の強さだし、強さ自体にそこまで執着はない。

 それよりも、目の前の目的が今は最重要だ。


「そんな事より、今日神々の塔で『世界』に願う事について詰めときませんか?」


「そうだな。私はタクミ君を呼ぶことにするが、不測の事態に備えて最終日に頼むつもりだ」


「不測の事態?」


「さらに戦闘があって、今いる『ダブル』の誰かがドロップアウトした時、その人なら簡単に呼び戻せるだろう」


「なるほど、流石シズ」


 トモエさんの言葉通り、流石シズさんだ。

 難しい顔をしているのはレイ博士だ。


「我輩、魔導の真髄とか錬金術の全てとか言ったが、シズ君がハルカ君を治すための魔法がいるのなら、全員の記憶なり魂なりに全員の魔法を刻み込めないか聞いてみるつもりだ」


「でも、本当は錬金術の全ての方が興味あるんだ」


 ボクっ娘が突っ込むと、情けない表情を浮かべる。

 それなら、ここはオレの出番だ。


「それなら魔法の方は、オレが頼みます。オレの目的は最初からハルカさんの復活だから、魔法を覚えられるのがシズさん一人でも、オレ的には十分だし」


「良いのか? しかしそれだと、我輩だけ我儘すぎんか?」


「我儘で全然構いませんよ。オレ達が色々巻き込んでるんですし。あ、でも、ハルカさんの復活自体のお願いはどうしよう」


「それは私自身で頼むわよ。当然でしょ。けどこの場合、私自身の治癒の手続きでいいのかしら?」


「多分そうじゃないか? 他のみんなはどうする?」


 そう言ってボクっ娘、悠里、トモエさんを順番に見る。


「ボクは自分の願いを通させてもらうけど、その辺は今日もう一回聞いてから決めるね。一応、もう一人の天沢さんのオーダーもあるから」


 そう、今日島に戻る途中にボクっ娘には玲奈からの伝言である、こっちだけ二人に別れてもレナが現実の方の玲奈の体にも入れるなら別れて構わないという事は伝えてある。


「全然問題なしよ。ユーリちゃんもトモエも自分の願いを優先してね」


「そう言われても、別にないんですよね」


「私も。でもさ、ハルカが目覚めた後も、まだ期日まで日が残ってるでしょ。だから、ギリ何をお願いするかは待つつもり」


「あ、私も。流石トモエさん!」


「たまには冴えてるでしょ」


「トモエさんは、いつも冴えてます!」


 そう言い合いながら二人で戯れている。陽キャ同士だけに呼吸もバッチリだ。

 そしてこれで、今日の方針は決まった。

 後は、神々の塔で『世界』に必要な事を聞いて、具体的な願いの一部を伝えるだけだ。



 そうして昼頃には『帝国』の出発準備も終わり、ヒイロさん達の当座の話は終わったので神々の塔へと引き返す。

 『帝国』は飛行船を1隻失ったけど、瓦礫の下の浮遊石は無事で、船を引いいていた雲龍も傷ついた程度で無事だったので、片方が浮遊石を曳いて、雲龍は龍巣母艦の調教師が連れて行く事になった。


 オレ達とヒイロさんの方は、ヒイロさんは少し残念そうな表情を一度見せただけで、こちらももう一度軽く謝っただけで事を済ませた。

 世界の謎とかその辺りの事を知りたいかどうかは、人それぞれだとヒイロさんも思っていたからだろう。



 そして何事もなく神々の塔の裾野にある大きなテラスへと舞い戻る。

 番人の白い大型龍達も、普通に出迎えてくれる。

 そして念のためキューブ達を7体連れて中へと入る。

 今日は昨日後で入った4人が先に入るよう勧めると、4人とも否定的だった。


「ワシは『帝国』の、いや浮遊大陸の危機を何とか出来ないかと問うてみたが、人が増えすぎた事と長年の乱開発の影響だそうだ。開発を抑えるか、大規模な移民を勧められたわ。存外役に立たん」


 マーレス殿下は昨日軽く聞いた時に、憤懣ふんまんやるかたなしな感じで言っていたので、最終日までに決めて知識か何かをもらうつもりだと言っていた。


 ヒイロさんは、島で話した通り知りたかった事は願いに含まれないので、こちらも最終日まで考えるそうだ。

 空軍元帥は、昨日も言ってた「この場にいる『ダブル』のうち名乗り出たものをドロップアウトしないようにする事」だ。意外に欲のない人だった。

 そしてネットで情報を拡散しているので、もしかしたら比較的近くに居る飛行職の連中が駆けつけて来るかもしれないので、こちらも最終日待ちだ。

 少し憮然とした表情なのは、火竜公女さんだ。


「わたくし、物見遊山に来ただけで願い事なんてないのよ。けど、流石に勿体ないものね。皆さんは、どうされるの?」


「オレ達の中にも、決めかねてる者はいますよ。知識か魔力はもらえそうですから、その辺願って見たらどうですか?」


「そうね。当たりくじを無駄にするよりは良さそうね。ありがとう、少年」


 そういう待ちな状態なので、結局オレ達7人が入る事になる。

 そして昨日と同じように横になって目を閉じてから、体感的にというやつで目を開くと、再び同じ状態になった。


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