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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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498 「報告(2)」

 外に出ると、ほぼ見送った状態でみんながいた。

 それぞれ輪になってちょっと雑談と言った感じだ。


「ん? 我が友よ、それにルカ殿達も。どうされた? 問題でもあったか?」


 オレ達が出て来たのを最初に見つけたのは、ずっとこちら、出入り口を見ていたマーレス殿下だ。


「いいえ、取り敢えず、今日の訪問は終わりました。念のためクロ達を連れて、次の人達は入って下さい。多分ですけど、すぐ済みます」


「そうなのか? ……うむっ、分かった。では、者共参ろうではないか」


「辺境伯、中の様子は?」


「なんもないだだっ広いホールがあるだけです。危険もない代わり、って、先に言ったらつまらないですよね」


「なるほど、百聞は一見に如かずだな」


 空軍元帥が、マーレス殿下の斜め後ろに、躊躇なくついて行く。

 その反対側を火竜公女さんが、いつもの優雅な物腰で通過する。


「ハルカちゃんは、目的達成できたの?」


「目処はついたわ。気遣いありがとう、男爵夫人バロネス


「それは何より。事をなしたら、お祝いさせて頂くわね」


「それじゃあ、みんな行って来る。ところでショウ君、本当に僕が入っても良いのか?」


 最後にヒイロさんが、仲間に挨拶した後、遠慮がちの声と表情。

 それには笑顔とリップサービスが一番だろう。


「ヒイロさん達も戦ったんだから、十分に資格ありますよ。それでも気になるなら、『ダブル』代表くらいの気持ちで入れば良いんじゃないですか? 物語のクライマックスぽいですし」


「アハハ、確かにそうだな。じゃあ、行って来る」


「はい。けど、気負いすぎないで下さい」


「アドバイスありがとう」



 そうして4人が光の中に消えていくと、オレ達の周りに人だかりが出来る。

 多くは『ダブル』だ。


「中に何があった?」「マジで神々が居たのか?」「天使とか精霊とか居たのか?」「何か願ったのか?」「オレ達も入れないのか?」などなど、口々に聞いてくる。

 それをジョージさんが制した。


「まあまあ、皆んな。そんなにいっぺんに聞いても答えられないだろ。ちょっと場所を用意して話してもらわないか?」


 そしてそれから、オレ達の飛行船の前に移動して、オレ達を中心に半円状に皆んなが囲んでいる途中で、入ったばかりの4人が出て来た。

 出入り口で待っていた『帝国』の人達が、口々に殿下と呼ぶ声でそれが分かった。

 その間僅か3分と言ったところだ。


(なるほど、オレ達もこんな感じだったんだな)


 出て来た4人は、どこか狐につままれたような表情を浮かべている。

 まあ、ここはオレ達が声をかけるべきだろう。


「早かったでしょう。まだ数分しか経ってませんよ」


「そのようだな。で、何をしておる?」


 マーレス殿下が最初に気を取り直し、大股でズカズカと歩いて来る。


「何があったか皆んなが聞きたいと言うので、その準備中です」


「ならば、我らも話さねばならんな」


 殿下の言葉で他の3人も、オレ達の方へやって来る。そして合わせて11人で、経過を話すことになる。

 先に入ったオレ達が先行で、当たり障りない辺りを主にシズさんが話した。

 勿論だけど、ハルカさんやボクっ娘、いや二人のレナの事は伏せてある。ついでにレイ博士の事も。

 そしてマーレス殿下達だけど、少し戸惑いが見えた。


「話せない事があるなら無理に話さなくても良いと思いますよ」


 それに4人が視線を交わす。

 そして火竜公女さんが代表するようだった。


「御免なさいね。御察しの通り、四人の約束で、この場では話せない事が御座いますの。一部はそれぞれ墓まで持っていくほどのものよ。だから聞きたいと言うなら、話さない契約魔法を施した上で、同じように墓まで持って頂く事になりますが、お聞きになりたい方はいらっしゃるかしら?」


 全員が顔を見合わせたり困惑げな顔をするけど、首を縦に振る者はいなかった。

 火竜公女さんが続けた。


「では、お話出来る事だけお話ししますね」


「それとだ、『帝国』の者にはワシからあとで話がある。ただし、話すのは島で待っておる者共と合流してからだ」


 マーレス殿下が付け加えて、そこでようやく話しだした。

 そして何を願ったのか、何を聞いたのかについては、殆ど触れる事が無かった。

 そして空軍元帥の番の時だった。


「私の願いは、我が相棒の天鷲とずっと居る事だった。だが私は、既に妖人になり始めていて、願いを叶える必要が無かった。

 だが、他にも私と同じような想いの者がいるだろう。そして回答期限が7日後なので、まずはこの場で同じ想いの者は、考えた末で申し出てくれ」


「ただ残念ながら、この場にいる「客人」、『ダブル』だけが対象になります。もし他の場所にいるものに声をかけても、把握出来ないから無理だそうです。

 だから他に話しても構いませんが、神々の塔に居ない者は対象外だと正しく伝えて下さい」


「まったく、こんな美味い話があるなら、『ノヴァ』から根こそぎ連れて来るんだった」


「お気持ちはわかりますけど、愚痴を言っても仕方ないですわ。けど、キューブを探せばまた次の機会が巡って来ますわ。

 きっと世界中でキューブ探しが盛んになりますわよ、フフフっ」


「それなら一層、今回のものが100年間はここの訪問の鍵として使えない事も、しっかり伝えないといけませんね」


「我が国も、『きゅーぶ』の件は全面的に協力しよう」


 なんだか4人の間に、結束感が見られる。

 中でよっぽどの体験をしたか、とんでもない話でも聞かされたんだろう。


(真面目な勇者様だから、世界の謎とか、魔物の謎とか聞いてそうだなぁ)


 横目で4人を見ながらぼんやりしてると、マーレス殿下が視線を向けて来た。


「それで我が友よ、今後はどうする? 取り敢えず今宵はここで過ごすしかないだろうが、ワシとしては明日一旦島に戻り、皆を連れてここにもう一度来ようと考えておるのだが」


「そうですね。この島が一番安全ですからね。それじゃあ、万が一の為、明日オレ達も一緒に島に向かいます」


「なら、わたくし達もご一緒させて頂きますわ」


「うむ。ご配慮痛み入る」


 それで話も決まり、今晩は神々の塔の裾野の巨大なテラスのような場所で一夜を明かすこととなった。

 そして今夜は魔物との戦いの勝利の祝勝会も兼ねた大宴会といきたいところだけど、そうもいかなかった。


 『帝国』は島とバラバラ。ノヴァ組と『ダブル』達は見物に来ただけなのに、何やら棚ぼたがあると分かって喜ぶどころか半ば恐縮していた。

 そしてオレ達は、喜ぶのはもう少し先だ。

 けれども、人は食わねば生きていけない。


「まあ、そない深刻な顔せんと、うちのご飯食べてーな。昔の人は『ひもじい、寒い、もう死にたい』て言うたもんや。お腹減ってたら、人間ロクな事考えへんねんで」


「そうよ。ほらヒイロさん達も、いつまでも恐縮してないでね」


 ルリさんとハナさんは、夕食の準備をしつつずっと飛行船で待っていてくれた。

 こうして心身ともに温かくなる食事が食べられるのは、二人のお陰だ。

 そして船が無事なのは、うちの家臣の人達のおかげだ。


 塔に来た事、塔に入る為に魔物を倒した事、塔の中で光明が見えた事、それはそれで重要だと思うが、自分一人では何も出来なかった。

 そしてハルカさんを助けられそうだと、ちょっと浮かれ気分だった事を、目の前の料理と二人の変わらない態度で気づく事が出来たと思う。

 だから食事の前に不意に立ち上がり、素直に気持ちを伝えた。


「まだ結果には至ってないけど、今日はオレ達のして来た旅の目的が達成できそうな大きな節目に到達できました。

 それも、みんなのお陰です。オレだけじゃここまで来る事は出来なかったし、魔物も倒せてなかった。この飛行船も守れなかった。それに毎日、美味しいご飯も食べられなかった。

 全部できたのは、してこれたのは、みんなのお陰です。本当に有難うございます」


 そうして頭を下げたが、沈黙で迎えられた。


「……なあ、気持ちは嬉しいねんけど、そう言うのは全部終わった時にしようや。ぬか喜びなったら、ウチよう慰めへんで」


「そうよね。気持ちだけ頂いておくわね」


「だな。とは言え、もう俺の活躍できる余地がほとんどねえがな。今日の戦いも、側で見ててビビりっぱなしだったぜ」


「飛行船いじりは、俺の趣味みたいなもんだ。気にするな」


 縁の下の力持ちな人達が、それぞれ言葉をかけてくれたので、もう一度頭を下げた後、いつものように賑やかな夕食となった。

 そしてその日は、昼間の魔物との激しい戦いと、色々な事が起きたので、早々に寝る事にした。


 けど、同じベッドで寝たハルカさんの表情は、少し緊張と不安が混ざったものだったので、お互いベッドの端っこで寝ずに、寄り添って寝る事にした。


 もちろんだけど「疲れてるし、エロい事したら殺す」と脅された上で、だ。


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