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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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492 「勝利(2)」

(さて、どうしたもんか。身動きはし辛いけど、体が溶けたりはしなさそうだな)


 そう思いつつも、もう一度剣に魔力を注ぎ込む。

 そこに、剣を掴むオレの手の上に、別の手が重なる感触があった。

 今のオレ達の視界はゼロだけど、オレはハルカさんと主従契約を結んでるので互いの位置を方向を知ることができる。

 だから混沌龍の残骸に飲み込まれた中でも、互いの位置を知ることができるのだ。


 飲み込まれてから、オレが彼女の身を案じなかったのもそのおかげだ。

 万が一の事があったら契約も解除で、位置を知る事が出来なくなってるだろうからだ。


 そして重ねられた手からは、彼女の魔力がオレに注ぎ込まれてくる。

 すごく気持ちい流れだけど、今はそれに浸る事なく、その魔力も魔力相殺の力に転換していく。

 一方彼女は、オレに魔力を注ぎ込み終わると、オレが剣を振るいやすいように移動する。


 そして限界まで力を高めた時点で、もう一度大きく横に薙いだ。

 彼女はオレの真後ろにぴったり寄り添いながら手を添えていてくれたので、彼女を切るようなヘマもありえない。

 そしてオレがそのまま体を回転させていくのに合わせて、彼女も体を移動させていく。


 そして周囲の澱んだ魔力が一斉に崩れ、多くが不活性となった先に、煌めくものを見つけた。

 その煌めくものを中心にして、すぐにも澱んだ魔力の塊が集まりはじめる。

 けど、それを彼女の鋭い付きが砕く。

 普通の色と違いどす黒い龍石は、魔力を込めた彼女の剣の強い一撃でキラキラと予想外の美しさを見せて砕け散っていった。


 それで混沌龍を形作っていた全ての魔力が不活性となり、視界が徐々に晴れていく。

 なまじ巨体だったため晴れていくのに多少の時間はかかるけど、もう固まろうとする動きは見られない。

 魔力の反応は、さすがに濃厚といえば濃厚だけど、もう澱んだ印象はない。

 もはや無害な不活性化した魔力だ。


 そうして視界が完全に晴れると、周りでは色々な動きを取っている、もしくは取っていた人々が囲んでいた。


 魔法の構築をしている者、ドラゴンブレスの準備をしている者、今しがたまで何かを切っていた者、叩いていた者、弓を射かけていた者、様々だ。

 落ち着いて見守っていた者は居なさそうだ。

 オレ達の仲間も、何かをしていた者の中に含まれていた。


 そして半ば呆然としてこちらを見つめている人達に、親指を立てサムズアップして見せる。

 すると次の瞬間、誰かが突進してきて抱きついてきた。


「我が友よ〜っ! 無事と信じていたが、流石だっ!!」


 マーレス殿下だったけど、まるで大型犬にダッシュで抱きつかれた気分になりそうだった。

 しかも、ほぼ密接状態のハルカさんから強制的に引き離されるばかりか、そのままの勢いで倒れて頬までスリスリされてしまう。


(オレ、殿下とここまで親しかったかな?)


 前と似たような事は思えど、ここまで感情を正面からぶつけられると、もう恥ずかしさも吹き飛んで嬉しさしかない。


「事前説明せずにすいませんでした。確証がなかったけど、多分いけるだろうと踏んでたので」


「良い良い。無事ならばな。だが、なんだ、龍の炎といい、混沌化した体を浄化した事といい、あれはなんだ?」


 一点真顔で問いかけてくる。

 顔が間近な上に、殿下の顔はくっきりした陽キャ顔なので、オレにとってはかなり圧が強い。


「まあ、オレの切り札です。魔法じゃないですけどね」


「だろうな。魔法の構築は感じなかった。が、あれだけの技だ、安易に話せるものでもないな。つまらぬ事を聞いた」


 そういってまずは自分が立ち上がると、まだ倒れているオレに手を差し出してくれた。

 当然その手を握り、勢いよく立ち上がらせられる。


 そうして隣を見ると、殿下に続いて駆け寄ってきた人達にハルカさんが揉みくちゃだ。

 まあ、抱きついたり手を握ってるのは女子ばかりなので、オレ的にはノーダメージだ。


 ただ、オレの周りが男ばかりなのは、単にハルカさんの周りに行けなかっただけなのか、オレに多少でも人徳があるのか悩みそうになる。

 あとハルカさんの周りが騒がしいので、オレと殿下の会話は殆ど誰も聞いてないみたいだった。


「それで、どうなりました?」


「こいつが、お二人の戦果だ。いや、皆さん5人の、かな?」


 ジョージさんがそう言うと、オレに青いキューブを手渡す。

 アイの時と似て、完全に不活性で魔力の流れすら感じられない。


「もう一つはあそこだ」


「魔物はほぼ全滅させたわ」


「今、最後の掃討中で、一箇所に追い込んでいます」


 近くまで来ていたジョージさん達が、的確に答えてくれた。

 もっとも、マリアさんはハルカさんに後ろから抱きついている。そんなキャラじゃないけど、それだけ心配したんだろう。

 ちょっと笑いが漏れてしまう。


 上空では、怪我をした程度で欠ける事のなかった疾風の騎士達と竜騎兵達が、警戒の為だろうゆっくり旋回したりしている。

 まるで凱旋飛行しているみたいだ。


 そしてレンさんの言葉の先だけど、少し離れた場所でトモエさん達が談笑中だ。

 オレ達の周りに来るのが遅れたのと、こっちが人だかりが出来すぎているせいだ。

 そしてオレが流した視線に、トモエさんが気づくとタッタッターと軽快に歩み寄ってくる。


「ハイ、赤いキューブ」


 そう言ってオレの手をとって、赤いキューブを手に載せる。


「良いんですか? この赤いやつは、トモエさんが二回ともトドメ刺したのに」


「どっちもみんなで、でしょ。それに私キイロがいるし」


「それならオレもクロが」


「私はミカンがいるわね。けど、そんな事言ってたら、どうするか決められないんじゃない?」


 ハルカさんの言葉に、オレは自然とマーレス殿下に視線を向ける。

 するとラスボス戦で接近戦を挑んだ他の3人も殿下を見る。

 すると殿下は、右手を広げて胸の前あたりにかざす。

 拒絶のポーズだ。


「聖地でとは違い、ワシはこの度の指揮官でも首魁でもないぞ。ショウかルカ殿が決められよ」


「だってさ」


「僕達は今回ただの見物人だ。権利はないと思うよ。必要なら、仲間や他の『ダブル』も説得する」


 他二人も殿下に同意だ。

 だからハルカさんと顔を合わせて無言の相談となった。


「ショウが決めて」


「けど、神々の塔へ行くって言い出したのは、ハルカさんだろ?」


「それを言えば、大巡礼自体ショウがいなければ始めてなかったわ」


「痴話喧嘩をこんな時にするでない。ショウが決めよ」


「あ、はい」


 マーレス殿下の言葉が正しい。

 だから左右に持っていたキューブの片方を、殿下に差し出す。


「マーレス殿下、いえ『帝国」第二皇子マーレス殿下、一つは殿下もしくは『帝国』がお持ちください」


「良いのか?」


「今回の旅でオレ達は随分助けして頂きました。それに、沢山犠牲者も出ています。『帝国』が手にするのが、相応しいと思います」


 オレの言葉にマーレス殿下が少し考える。

 そして破顔した。


「では謹んで、ワシが『帝国』を代表してこれを手にしよう。それでもう一つも、ワシにくれるのか?」


「そこまで友達を甘やかしませんよ」


「これは手厳しい。で?」


「とりあえずオレが預かります。それで、多分ですけど、神々の塔で活性化か覚醒してもらえると思うんですよ。青だけじゃなくて、赤い方も。

 それで自我を持った時点で、こいつ自身に決めさせます。選ばれたやつは辞退は自由ですけど、これだけ魔力総量の多い人が沢山いるんですから、誰か一人くらい主人になるでしょう」


「なるほど、恨みっこなしね」


「うん、良いんじゃない」


「あのもしかして、全員にチャンスがあるって事かい?」


「そうです。ただオレ達の経験上、魔力総量がSランクないと対象外です。それとより魔力総量が多い方が、キューブに選ばれやすいみたいです。だから、候補は10人もいないと思いますよ」


「公平で良い判断だ。ワシも全面的に支持しよう。それで、塔へはいつ向かうか?」


 マーレス殿下が少し挑戦的にオレを見てくる。

 他の3人も似た感じだ。


「まだ日もありますし、今から行きましょう」


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