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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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489 「魔龍退治(1)」

「ガキッ!」


 二つの大剣が真っ向からぶつかり合う。

 速度を乗せた凄い膂力りょりょくで前に出て迎え撃ったのに、数メートル後ずさりされられた。

 て言うか、アニメでもないのに、こんな後ずさりが出来るという事に我ながら感心しそうになる。

 あとで靴底も確認しないと、ひどく磨り減ってそうだ。


 そしてそんな事を一瞬でも思える状態だった。

 青鬼は流石に無傷といかなかったからだ。

 単体魔法の『神槍撃』こそどす黒い大型龍に集中したけど、『核爆陣』の爆発はかなり食らったらしい。着用している鎧は半分壊れているし、体のそこかしこも絶賛再生中だ。

 よくこんな状態で挑んできたものだ。


(せめて体が再生するまで一旦後ろに下がって、部下に戦わせればいいだろうに)


 そんな事を考えつつも、こちらから休む暇を与えないように攻撃を仕掛ける。

 魔法をモロに食らってはないようだけど、少なくとも現状ではオレの方が動きが良い。

 だから攻撃しつつ周囲に最低限の注意を向ける。


 トモエさんは「しばらくそっち任せるね! 私はデカブツにトドメさすから!」と、そのまま爆煙の中へと突入していった。

 ハルカさんとシズさんも、先に大型龍を仕留めるのだろう、大規模な魔法を構築中。

 それ以外の場所では、オレ達の方が優勢に思える。

 青鬼以外に魔将クラスもしくはそれ以上の人型の魔物はいないようでホッとする。


 そんな事を頭のごく一部で観察している間にも、目の前の剣戟は続いていた。

 正直千日手だ。

 クロも視線で向こうの援護に回したので一騎打ちなのだけど、回して正解だった。クロの格闘戦能力では、体の再生を終えた青鬼にはついていけない。

 とはいえオレも手詰まりだ。

 激しく移動しながらの戦いになっているけど、こちらが繰り出す攻撃は防がれ、青鬼の攻撃は避けるか剣で受けれていた。


 その間一瞬だけ、このまま味方が他を倒して合流するのを待つかと思ったけれど、戦いに慢心や手抜きがダメな事は今まで散々実地で知ってきたし、教わってきた事だ。

 だから気持ちを切り替え、単に抑えるだけじゃなくて、こいつを倒す気で力を込め前のめりに挑む。

 そして今回の戦いは、一人でもそうできた。

 初手に大魔法を叩きつけて大正解だ。



「グッ!」


 何合かして青鬼が呻く。

 こちらの攻撃が有効打となった証だ。

 けど攻撃を強めたせいで、こちらも浅い傷が幾つかできている。けど体が動く以上気にはせず、無心に青鬼を倒す事に集中する。

 右、左、上、下、足蹴り、ジャンプ、ステップ、バックステップ、サイドステップ、そして突進。

 型通りになりすぎないように、次々と動きを繰り出す。

 青鬼も同様だけど、青鬼の体が徐々に自己再生されていくに従ってこちらが不利に追いやられていく。

 戦闘と再生で魔力を消耗させるよりも、こちらの消耗の方が早い。


 けど青鬼は、そんな戦いを突然中断した。


「ルブル! おのれっ!!」


 駆け出そうとしたのを、とっさにインターセプトする。そしてしばし鍔迫り合いとなる。

 魔力を燃やせば、まだパワーでは十分張り合える。


「どこ行くんだよ。つれないな」


「邪魔だ、どけっ! 貴様と戯れている暇ない!!」


「それはあんたの都合だろっ!」


 焦って動きが鈍っている青鬼を強引に押して、隙を見て足蹴を腹に打ち込む。

 流石の青鬼も後ろへと吹き飛ばされた。

 けどこれは悪手となった。


 体制を立て直すと、こっちに向かわず横へと飛んだからだからだ。

 オレも再びインターセプトしようとしたけど、向こうの足の方が優っていてすり抜けられてしまう。


「青鬼がそっちに!」


 180度反転しつつ叫び、そのまま青鬼を追いかける。

 そして振り向いた先では、どす黒い大型龍が断末魔で苦しんでいた。

 意識を青鬼に集中しすぎていて、何が起きたのかの理解がまだ追いつかない。

 けど、みんなが大型龍を倒す寸前まで追い詰めたので、青鬼が焦って合流を図ったと言うところだろうと想像できる状況だ。


 さらに周りを見れば、魔物達の多くも掃討されつつある。

 空でも、空軍元帥の天鷲が竜騎兵を1騎、豪快に仕留めるところだった。他の空の魔物も、もうその姿は殆ど見られない。

 だから一部の竜騎兵は、地上の掃討戦に参加しようとしていた。


「済まない。抑えきれなかった!」


「ううん。よく保たせてくれたわ。まあ、ヤラレ具合はどっこいどっこいみたいね。治癒は必要?」


 輝く鎧を展開して完全武装状態のハルカさんの側に走り寄ると、横目でチラリと見て論評してくれた。

 確かにオレも青鬼も、似たくらいボロボロだ。

 けどまだまだ元気なので、首を横に振る。


 目の前の状況は、半分崩れてゾンビみたいになっている大型龍の前に、青鬼が立ちふさがっていた。

 青鬼と赤鬼はよほど仲良しだったんだろう。

 これが日本の昔話なら、美談の一つでも書けそうだ。

 けどここは『アナザー・スカイ』。

 あいつらはオレが勝手に青鬼、赤鬼と呼んでいるだけで、あまねく人に仇なす魔物、悪鬼でしかない。


「状況は?」


「見ての通りよ。まだとどめを刺せるほどじゃないわね」


「ボロボロに見えるけど?」


「魔将より早い再生で、攻撃が追いつかないのよ」


「バルドルで会った死霊術師みたいにか?」


「ああ、確かにそんな感じね」


「他の掃討が終わる。仕切り直そう。手数を増やすぞ」


 アイにお姫様抱っこされたシズさんが近づいてきた。

 確かに、周りから友軍がこちらに向かいつつある。

 けど、青鬼もバカではなかった。


「ルブルよ、一旦退くぞ」


 しかし赤鬼が核になっているであろう大型龍は、半分崩れた頭の口から意味のない呻き声しか漏らしていない。

 けど青鬼は、気にせずその背に乗りかかる。

 その際に、こちらをけん制するための攻撃魔法をばら撒くことも忘れていない。

 青鬼が魔法を使えるとは意外だった。

 いや、予測しておくべきだった。

 おかげでこちらの追撃が一瞬止まる。



「飛び上がるぞ!」


「魔法の矢程度じゃ焼け石に水よ!」


「空軍の総力で、一度叩き落とすしかないだろう」


「けど、海に落とすわけには!」


「分かっている。追い込むしかないだろう」


 話している間にも、半壊状態といった状態のどす黒い大型龍が、苦しそうに翼を動かし浮き上がる程度に飛び上がる。

 翼が大きく傷ついているので、飛ぶために大量の魔力を使用しなければならず、魔力で強引に飛んでいる感じだ。

 けど魔力を使いすぎた結果、中途半端に浮かび上がった状態で大きくふらつく。


 そして精々百メートル進み、高度50メートルくらいのところで墜落していった。

 けどその先には、陣地がわりに使っていた『帝国』の飛行船の1隻があった。

 そちらの方では「落ちるぞ!」「退避!」などの絶叫が響いている。

 戦いがほぼ終わっていたのが幸いだ。


 半ば崩れている大型龍は、飛行船に派手に激突。

 飛行船は大型龍よりも大きいけど、船体下部の浮遊石以外は丈夫とはいえ船体は木造だ。

 グシャバキッと豪快に飛行船が破壊され、大型龍がその瓦礫の中に完全に墜落して半ば埋もれてしまう。

 そして何度か痙攣のような動きを見せた後、沈黙してしまった。


 オレ達がその場に駆けつけると、瓦礫の頂上で青鬼が「ルブル! どうした立ち上がれ!」と叱咤しているけど、大型龍に目立った反応はない。

 どうするか考えていると、マーレス殿下が近づいてきた。


「あの化け物をよく抑えてくれていた。それで、どうする?」


「燃やそう」


 斜めうしろからシズさんの淡々とした声。

 まるでレストランでメニューを告げる時のような平静さだ。


「燃やすって、『煉獄』ですか?」


「ああそうだ。この飛行船もこれではもう飛べまい。なら、丁度良い薪がわりにしよう。良いかな殿下?」


 シズさんの何でもないまま続けた言葉に、マーレス殿下は一瞬鳩が豆鉄砲を食ったよ顔を浮かべた後、破顔して豪快に笑う。


「大した女傑だ。よかろう、精々派手に火葬してやろうではないか。者共、あやつをあそこから動かさせるな。掛かれ!」


 マーレス殿下が命令するや、攻撃魔法の準備をする者、油や火矢を準備する者など早速動き始める。

 近くまで来ていたジョージさん達も、同じように準備に加わる。

 マリアさんの炎の魔剣、レンさんの火矢は燃やすのに最適だ。サキさんは、抑えつけるため早速大火力の魔法の構築に入っている。

 そしてそれを見て、近づいて来た他の『ダブル』も順次似たような動きを始める。


 そこに真面目な勇者様達が合流してきた。

 遠目で見た限り、何体もの悪魔を優れたチームプレーで倒していたけど、まだ十分余力が残っているようだ。


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