484 「神々の塔の外で(2)」
そうしてオレ達の飛行船を先頭、『帝国』の艦隊を真ん中、念のため悪魔も警戒する後ろをノヴァの飛行船が位置する。
疾風の騎士、竜騎兵は、それぞれの飛行船の飛行甲板で、即時発艦可能な状態で待機。
その状態でゆっくり目に進む。
そして後半刻で到着という辺りでの事だった。
「塔の基部より、何かが飛び立ちました」との報告。
続いて「複数を確認」「こちらに接近中」「飛龍の一種と思われる」「どれも大型」「乗り手はなし」と接近するたびに報告が続く。
報告しているのはキューブ達なので正確無比だ。
そしてオレ達の前へと、その飛龍が現れる。
「白い大型の飛龍だ」
「まだらの翼くらいかな?」
「ボクも見るのは初めてのタイプ」
「まだらの翼くらいだ」
悠里の言う通り、大きさはエルブルスの大型龍の『まだらの翼』くらい。色は純白。瞳は金色。ツノと爪は白銀色に光ってるのでプラチナっぽい。
飛龍にしては滑らかな胴体。白い鱗が、陽光を浴びてキラキラして綺麗だ。
どこか神々しさを感じる姿だった。
「白色だけに、神々の使いと言ったところだろうな」
シズさんの呟くような感想がしっくりくる。
数はこちらの飛行船の数に合わせたのか5体。
どれがリーダーか分からないくらい似通っている。
飛龍でもよく見れば個性があるものだけど、目の前の大型龍は5体とも全く同じに見える。
まるで何かで型抜きしたような錯覚を覚えそうなほどだ。
そしてその中の誰が話しかけてきたのか分からないけど、魔力の波によってオレ達全員に言葉が伝えられる。
後で聞いたけど、最後尾のノヴァの飛行船の全員にも声は届いていたそうだ。
『これより先に進むこと罷り成らぬ。早々に立ち去るがよい』
一瞬 躊躇するけど、艦橋にいた全員が一斉に目配せして、オレに頷く。
だから、小さく深呼吸して口を開いた。
「神々の塔に入るには、魔導器が必要と聞いています。オレ達はそれを5つ持っていますが足りませんか?!」
オレの言葉に対して、白い大型龍達の返答が少し間が空く。
多分だけど何らかの方法で探っているのだろう。
『確認した。だが足りぬ。立ち去れ。進むのならば、死を以って報いることになるであろう』
「足りぬと言いましたが、幾つ必要ですか?!」
『其方らの持つ方形の魔導器ならば、最低6つ。それ以上なら幾つでも問題はない』
どうやら質問には答えてくれるようだ。
そして予想通りの答えが返ってきたので、艦橋に少し安堵の空気が漂う。
「他の質問に答えてもらえますか?!」
『我らが答えられるのは、塔に至るまでの事に限る』
「では、他に入る方法はありますか?!」
『入るに相応しいだけの神々との繋がりを提示する事だ。また、超常の力が弱すぎる者を入れるわけにはいかない。後者は、入ろうとする者の安全の為である』
「何人まで入れる? 武装したまま入っても構わないのか?!」
今度はシズさんが質問した。
多分だけど、誰の質問にでも答えるのか試したのだと思う。
『塔内部には、一度に有する魔導器と同じ人数だけ入る事を許す。
また、証を持つ者の同伴者については、塔の側までなら制限はない。武装も自由だ。ただし、塔の周囲及び中での許可を得ない魔法の構築は禁ずる。反した場合は、我々が直ちに死を齎すと知れ』
「どうやって塔の中に入るの?!」
飛行甲板の先からボクっ娘が叫ぶが、何も聞こえてこない。
少ししてボクっ娘がゼスチャー交えて、艦橋に向けてバツの字と「ボク個人にも返答なーし!」と伝えてきた。
「お前達へ質問できるのは、魔導器から主人と認められた者だけなのか?!」
『左様。我らに他の者の声は聞こえぬし、この場では中にも届かぬ』
つまり、オレ、シズさん、ハルカさん、トモエさん、それにレイ博士だけが、目の前の大型龍と話せる事になる。
それが分かったので、艦橋でそれぞれが視線を交わす。
他に聞く事はあるか、と。
「入れるのは一回限りかってのは聞きたいです。それに、主人と認められるだけの魔力を持つ場合もあり、とか」
「そんなところだな。龍よ!」
シズさんが途中から大型龍に問いかける。
『その日のうちには、3度まで交代を認める。ただし、相応しくない者は入れない事を忘れるでない』
「時間制限はあるか?!」
『一度に魔導器の数と同じ日数。また、一度用いた魔導器は、100年の間塔へ至る鍵とはならない。心せよ』
「実質一回限りか。聞こうとしていた事も答えられたな。案外、親切だ。聞きたい事ってこれくらいか?」
「そうね。入れる人数と、キューブが後1つ必要って分かっただけでも、まずは十分な収穫でしょう」
「それで、これからあの島に行くの?」
取り敢えずここは用済みとばかりに、ハルカさんがガラパゴス諸島の方に視線を向ける。
「空中戦オンリーより地上戦の方が、悪魔どもをお出迎えしやすいだろ」
「まあ、そうだけど」
「空中戦は悠里達に任せるよ」
「それは分かってるっての!」
「まあ、そんなところだな。白き龍よ、では魔導器を揃えたら、またまかり越す」
『承った。では立ち去るが良い』
その後船を反転させて、ガラバゴス諸島へと向かう事にした。
そして最初に他の船に説明に行こうかと思ったけど、他の船も順次こちらに進路を合わせる。
それでもボクっ娘と悠里に言伝を頼むと、大型龍の声は届いていたとの返答。
ガラバゴス諸島へと向かう事も、事前に話してあったので察してくれていた。
白い大型龍も、オレ達が離れると塔へと帰っていった。
次は、オレ達を追いかけているであろう、青鬼な悪魔をお出迎えするだけだ。





