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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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468 「救援(2)」

「ルボル!」


 そう叫ぶと、対戦していたマーレス殿下を置いてけぼりにしてキューブへとジャンプ。

 その離れる一瞬にマーレス殿下が青鬼に深手を負わせたけど、全く無視してそのキューブを手に取る。

 そしてこちらを異常なほど憎々しげに睨みつける。


(悪魔でも、こういう感情は変わらないんだな)


 そんな感想を抱きつつも青鬼への追い討ちをかける。

 いや、かけようとした。

 みんなも同じだ。

 ハルカさんも、すぐに次の魔法構築に入っている。


 けれどそこに、思わぬ邪魔が入ってきた。

 敵の竜騎兵だ。

 そして竜騎兵が来たのは昨日と同じだけど、2体飛来したうちの1体が、そのままとっさに飛び退いて間合いを開けたオレ達と青鬼の間に入る。


「ルボルの仇、決して忘れぬぞ!」


 青鬼はそう叫びつつ、別の1騎の竜騎兵へと飛び乗り、そのまま飛び去って行った。

 少し離れた上空からは「ゴメン! 他に邪魔された!」と叫びつつ、ヴァイスに乗ったボクっ娘が低空をフライパスして追撃していく。


「また逃げられた!」


「なんの、実に見事。流石、我が友だ。それに、呼んでもいない援軍の本隊も到着したようだ。こやつに引導を渡して、訳を聞きに参ろうぞ」


 マーレス殿下が言ってる間にも、トモエさんが地上に降りて一瞬立ち塞がった竜騎兵に挑み掛かる。

 何故なら、すぐにも飛び立とうとしていたからだ。

 トモエさんの、全く動揺も油断もしない集中力は凄すぎる。

 しかも飛龍の手をギリギリでかわすと、そのまま飛んで片方の翼を切り落としてしまう。


 その一撃で飛び立とうとしていた飛龍は失った翼の方へと落ち、姿勢も崩して倒れていく。

 トモエさんはそれも飛んで避けると、そのまま地に落ちた飛龍の上へと達し、さらに次の太刀で乗り手の魔物を刺し貫く。

 相手は下級悪魔らしいけど、今回も狙い違わず悪魔の最大の急所である中核となる魔石を貫き、下級悪魔は何もできないまま崩れた。


(なにこの人、クリティカルしかしないのか?)


「お見事! 目の覚めるような動きだ」


「ありがとう、殿下。魔物とデカイ魔獣は、けっこう相手にしてきたからね」


 オレの内心の驚きをよそに、マーレス殿下は結局動かずトモエさんへの素直な賞賛をしている。

 片翼を失った飛龍は、オレがトモエさんに続いて動いて、頭に一撃くれて倒したからだ。

 この辺りの役どころは、マーレス殿下が身分の高い人なので、ある意味自然だろう。

 オレと一緒に強い悪魔と戦っている方がおかしいのだ。


 それに援軍が来たと言うなら、マーレス殿下はそちらの指揮や把握などに集中しないといけない筈だ。

 視線を騒がしい方に向けると、幻術で隠れていたのだろう飛行船が次々に姿を現して地表へランディングしつつある。

 その数は1隻、2隻ではない。10隻はいるだろう。


「マーレス殿下、援軍について何か分かりますか?」


「さて、この距離ではな。だが、ゴードの黒龍がいたから、大方彼奴が動かしたのだろう。だが、何故こんなに早く来た? 我が友よ、それに他の方々も何かご存知ないか?」


「私どもは、どこにも連絡は取っておりません」


 近づきつつあるハルカさんの言葉に、オレもトモエさんも頷く。


「そうか。まあ、後で当人達に聞けばよかろう。まずは、魔物の掃除をしてしまおう」


 そう言った瞬間、前線で大きな爆発。

 シズさんの『轟爆陣』だ。

 竜騎兵も暴れまわっているし、まわり込もうとしていた魔物が操る飛行兵力は、散々に蹴散らされている。

 そしてそこに、飛行船の大群、いや大艦隊が各所に強行着陸を敢行して、次々に兵士が降りてくる。


 殆どは『帝国』軍だけど、統一の取れない装備の連中もいる。どう見ても『ダブル』の一団だ。

 まるで「俺達も仲間に入れてくれ」と、はしゃぐような様子が遠くからでも伺える。


 そして飛行船の多くは、魔物の外に次々に降りて行っているので、山火事による炎の壁に魔物の集団が挟まれている格好だ。

 遠くからは、「入れ食いだーっ!」と叫ぶ間違いなく『ダブル』の歓声が風に乗って聞こえてくる。

 

 その声に思わず苦笑したところで、後ろからガバッと首に手を回す形で抱きつかれた。


「なに笑ってんの? もうおしまい? あんなに凄かったのに」


 何だか誤解されそうな事まで言ってくるのはトモエさんだ。

 けど残念ながら、お互い防具ガチガチなので、お肌とお肌のフィット感ゼロだ。


「トモエさんこそ凄かったですよ。オレ、あんなに正確に急所狙えませんよ」


「そう? ここって思えば勝手に体が動かない?」


「全然無理です」


「じゃあ、手取り足取り教えてあげるよ」


「その前に魔物の掃討、でしょ」


 今度はオレの前にハルカさんがやって来た。

 そして両手を腰に当てている。


(うん、そりゃそうだよな)


 彼女の意を汲んで首を少し後ろに向けて、視線で促してみる。

 けど、ますます巻きつかれてしまった。抱きつくと言うより、巻きつくだ。

 鎧同士がカチャカチャとか音がしてなかったら、かなり嬉しい状態だ。


「ハルカも、あんな魔法使ったらガス欠でしょ? あとはみんなに任せたら良いんじゃない?」


「そういう事だ。休む事も兵士の勤め。いやいや、ルカ殿達は兵士ではないな。しかし、援軍が大勢現れて敵は総崩れだ。油断はいかんが、少し休まれよ」


 マーレス殿下はそれだけ言うと背を向け、手をヒラヒラと振りながら去っていった。

 オレへのじゃれ合いやスキンシップなどがないところを見ると、相当お疲れか超真面目モードだ。


 まあ、助かったとは言え、今日の戦いは昨日の夜に危険を冒してでも逃げ出すべきだっただろう。

 『帝国』の犠牲も少なくないだろうし、反省する事も多いはずだ。

 そしてそれはオレも同様だ。

 こんな結果オーライばかりでは、と考えされされてしまう。


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