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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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466 「再度の神殿攻防戦(2)」

「ショウ! どうする?!」


「神殿に入られたところで、取られるものもない。それに中心は、結界が効力が一番高いんだろ。

 となると、連中の目標は挟み撃ちだろ。多分すぐにも前からも攻めて来ると思う。だからここで待ちかまえよう。マーレス殿下とも連携しやすいし」


「それで良いだろう。それにここの方が、魔法陣などで歓迎の準備もしてあるからな」


「分かった。ホラン達は、そのまま飛行船の防衛お願い! こっちは私たちが抑えるから!」


「おうっ! 気をつけな!」


 そうして神殿前に陣取ったのは、赤鬼、青鬼を相手どれるオレ、ハルカさん、シズさん、トモエさんだ。キューブも、シズさんの護衛にアイも同行している。

 クロとミカン、キイロ、それにレイ博士の側にいるスミレさんは、依然として周囲の警戒だ。何しろキューブ達の方が状況を把握する能力が高い。


 そうして悪魔が来るのを待っていると、隣に飛び降りて来る人影があった。


「ワシを仲間はずれとは、つれないではないか我が友よ」


「殿下は後ろで指揮してて下さいよ。部下の人が泣いてますよ」


 そう返すと豪快に笑う。

 戦闘中でこの胆力は是非見習いたい。


「では、この場を仕切らせていただこう。ワシと我が友で、赤いのと青いのを抑える。トモエ殿は他の雑魚を。ルカ殿とシズ殿は適時魔法で援護。これでよかろう」


「殿下を頭数に入れてない事以外、オレの案とあまり変わらないんですけど」


 そう言ったらまた豪快に笑う。


「まあ、この面子では他の策などないわな。しかし今は、最初から神殿の結界がある。恐らく連中は囮だ。降りてからここに来るのが遅いのが何よりの証拠」


「分かってたら……」


「みなまで言うな。部下に指揮は託してあるし、彼奴らの方がワシより指揮は上手い。ワシは、こうして前で戦う以外出来ん間抜け者の皇子だからな。さ、客人の再来だぞ」


 そう言って自らの愛刀をシャーっと引き抜く。

 こっちはすでに抜き身なので、そのまま正眼で構える。


「わざわざ不利な場所に降りて来るなんて、ご苦労な事だな」


 神殿の頑丈な岩を積み上げて出来た天井から飛び降りてきたのは、赤鬼と青鬼、それに上級悪魔が2体。

 うち1体は、乗っていた獅子鷲か翼竜が降りる前に落とされたのだろう、未だに体の一部を絶賛再生中だ。

 このせいで来るのが遅れたのかもしれない。

 ついでに言えば、昨日腕と一緒に剣を奪っていたので、今日は別のものを持っている。見た限り昨日より型落ちしている。


「戯言の好きなやつだ」


「我らは、聖なる場所からクズどもを排除に来たまで。貴様らはそのついでだ」


「その聖なる場所で苦しんでるように見えるのは気のせいか?」


 赤鬼の言葉を受けて、先だっても後から相手をしていたシズさんが煽る。

 そして言葉のすぐ後に、既に4つ構築されていた魔法陣から、炎の大槍の魔法が飛び出す。

 そしてそれは、赤鬼、青鬼以外の1体に半ば不意打ちで突き刺さった。


 ほぼ同時にハルカさんの光の槍も束で飛び出す。

 数が15本から18本に増えていたけど、もう今更だ。それにこの段階でなら、なお頼もしいとしか思わない。

 そしてその槍は、赤鬼と青鬼には3本ずつ避けられたけど、他は3本ずつが4体の悪魔に突き刺さる。

 やはり動きが鈍い。


 そして魔法攻撃と同時に、オレとマーレス殿下が弾き飛ぶように前へと出て、オレが青、殿下が赤と切り結ぶ。

 向こうは以前と違って、こっちの攻撃を止めるのがやっとだ。

 なんだか、やられる為に出てきてくれたようにすら思えてしまう弱さしかない。

 前回と違って他を見る余裕があるほどで、マーレス殿下も戦いを有利に運んでいる。


 トモエさんなど、既にボロボロな一体の上級悪魔に、呆気なくとどめを刺すところだ。しかもオリハルコンの刀が一閃すると、核になっている魔石が一緒に真っ二つに斬り裂かれた。

 魔法の先制打で弱っているとはいえ、上級悪魔にしては脆すぎだ。

 これも結界の影響なのだろう。


 けど、なぜ脆いのが分かっていて攻めて来たのか、何を意図しているのかは、すぐに判明した。


「『帝国』軍飛行船の方面より、炎を抜けた魔物の集団を確認。数は46。大きな反応はなし。急速に接近中。『帝国』軍では止められません。さらに後続も多数続いています」


「エルブルス号の方面より、炎を抜けた魔物の集団を確認。数は300体以上。なお増加中。最前列が自己を犠牲にして血路を切り開いた模様。急速接近中」


 『帝国』軍の伝令の叫びと、クロの冷静な声がほぼ同時に聞こえてきた。

 そして2隻の飛行船からは、多数の矢と魔法が飛んでいくけど、大群を前に焼け石に水だ。

 突進を止めるなら、昨日のハルカさんの大魔法くらいが必要だろう。


「さて、もうしばらく、我らに付き合ってもらうぞ」


 そう言うと、悪魔達がそれぞれ何か石のような物を飲み込む。恐らく魔石、しかもかなりの大きさだ。

 そして次の瞬間に、悪魔達の魔力が一時的に膨れ上がった。

 けど、こっちはそれどころじゃない。


「ハルカ、そこの魔法陣を使って『神槍』のスタンバイを! 私は前から溢れてきた魔物をけん制してくる。ショウ達は、そいつらを抑えてくれ!」


「ええっ!」


 ハルカさんは答える余裕があったけど、前の3人には先ほどのような余裕はない。

 昨日の序盤よりはマシだけど、互角に渡り合うのが精一杯だ。

 トモエさんは赤鬼青鬼より劣る上級悪魔相手に優位に戦っているけど、圧倒するほどじゃなくなっていた。


 青鬼達は、何か悪魔にしか取れない方法で、一時的に能力を大幅に引き上げているのだ。これがゲームだったら、バフもしくはブーストといったところだろう。

 他では見た事ない技だけど、この邪神大陸の魔物にだけ伝わっている技なのかもしれない。

 けれ、そんな事を考えている余裕も、問いただす余裕もない。


「ガッ!!」


 青鬼の一撃で大きく吹き飛ばされ、横に跳ね飛ばされる。

 その先には赤鬼とマーレス殿下が戦っているけど、赤鬼がマーレス殿下を大振りの一撃で大きく後ろに仰け反らせ、オレが飛んで来るのを待ち構える。

 その間僅かコンマ数秒って感じだけど、大ピンチだ。


 無理やり剣を地面に突き刺し、赤鬼まで飛ぶのを防ぎ、そして急制動した勢いのままグルッと半回転してその場に強引に着地する。

 グラブの掌の側が傷むだろうけど、気にしている場合じゃない。

 そして休む間もなく、赤青両方が一気にオレに迫る。


 とっさに前に突撃して、赤鬼へタックルを仕掛ける。

 後ろでは、態勢を立て直したマーレス殿下が青鬼を抑える。

 そしてこれで対戦相手が入れ替わったけど、赤青の格闘戦能力はほぼ同じ。赤いのは魔法が使えるらしいけど、こちらの能力も高いのでそんな暇はない。

 お互いひたすら武器で殴り合う。

 もう生傷、切り傷てんこ盛りだ。


 一方で、結界があるので矮鬼のような雑魚は、遠くから簡単な投石道具で石を投げてくる。

 けれども、飛行船は頑丈にできているし防御魔法も施しているので、普通の投石程度ではなんともない。

 粗末な弓矢は、元から数が多いのか弓なりでかなり飛んで来ている。けど、飛行船など障害物が多いので、戦いの場に影響しているのはまだ僅かだ。

 しかも大群が放つ弓として見た場合散発的というか統制が取れていないので、脅威はあまり高くない。


 無理を承知で結界を越えて来るのは、食人鬼や上級の矮鬼などだ。

 下級悪魔も何体か混ざっているらしい。

 そしてこちらは、コックまで動員しても二百数十人。

 エルブルス号の方は、レイ博士の強力な防御魔法は有効だし、戦闘力の高いホランさん達とゴーレム隊がいるので、今の所はなんとか抑えられている。


 けれ、悲報は続いた。


「一部消えた火災の隙間から、続々と魔物が殺到中。大型ばかりです!」


「大陸方面の遠方より、飛行物体多数を確認。数50以上」


「飛馬の集団、後方の河川方面へと移動中。迎撃できる戦力なし」


 魔物側はオレ達を抑えた上での徹底したゴリ押しだけど、数の優位を生かした効果的な攻撃だ。

 こちらの防衛網は、神殿の結界という圧倒的な優位があるのに崩壊しつつある。

 一番強い奴が囮とか普通ありえないが、こっちが乗ってしまった格好だ。

 せめてハルカさんとシズさんを、最初から広域魔法、多対象魔法専門に割り振っておけば、もう少し状況はマシだったかもしれない。

 のこのこ乗り込んできた敵将を一気に潰そうとした、オレ達の考えが甘かったのだ。

 

 そしてさらに別の報告が舞い込んできた。


「海側より、急速に接近する飛行集団。魔力の反応はありますが、視認できません!」


 どうやら敵の本命到着と言ったところらしい。


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