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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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465 「再度の神殿攻防戦(1)」

 森が燃えていた。

 視界の半分以上が燃えていた。

 燃えていないのは、オレ達が背にしている神殿とその後ろの川の方角だけだ。

 似たような光景は何度も見てきたけど、火に魅入られそうになる。

 

 シズさんがみんなの協力で発動させた『煉獄』の魔法は、非常に広範囲と言うか、神殿を薄く取り囲むようにU字型に影響範囲が構築されていた。

 通常は、影響範囲は四角い範囲になるけど、準備すればこうした事も可能となる。

 そして悠里の操る雷竜のライムの高熱放電、トモエさん、さらには『帝国』の魔導師の魔法、火矢、可燃物の投入などで、一気に澱んだ魔力で歪んで育った森に火がつく。


 そして予想外なのが、森の燃え広がりの早さだった。

 ここ最近この辺りで雨が降ってなかったのが原因の一つ目。

 ノヴァ南方の魔の大樹海のように、澱んだ魔力が多かったのだ原因の二つ目。

 ここが聖地であり、清浄か澱んでいるかに関わらず、周辺よりも魔力濃度がさらに高い事が原因の三つ目。

 そして、昨日も大量の魔物が倒れて、不活性の魔力が多くあったのが、原因の四つ目。

 それがシズさんやハルカさん、それにレイ博士が出した回答だ。


 そして原因はともかく、30分と経たずに地皇の聖地の周辺は轟々と燃える森林火災に見舞われた。

 しかも最初の段階で、風向きが神殿裏側の川の方から吹く形な上に、かなり風も強かったので、こちらは物見遊山状態で眺める事ができた。


 そして当然と言うべきか、押し寄せつつあった魔物は出鼻を大きく挫かれてしまう。

 シズさんの魔法が発動した時は小馬鹿にしたような雰囲気すら感じられた。けど、ものの3分ほどで魔物達が騒然とし始めたけど、もう遅かった。

 強風に煽られて一気に燃え広がり、前進を始めていた魔物の大群の一部を飲み込んだほどだ。


 そしてただの火災でなく魔力が火種となっている上に、普段なら火を消すはずの澱んだ魔力がむしろ燃える側に回るので、どうにもならない。

 消すには、豪雨でも降らせるか大量の水とその水を操れる魔法使いが必要だけど、魔物に第二列以上の魔法が使えるものはいない筈だ。

 いたらチート野郎だけど、少なくともこの場に現れる事はなかった。

 それに水だって神殿の裏側を流れる川だけで、これだけの森林火災を消化できる水量はない。


 そして燃え広がった炎で、魔物の大群の陣容もまだ夜明け前なのに丸見えだ。

 慌てて陣形を変えたり、退避するのも丸見えだった。

 それでも強引にこちらへの攻撃をしようとしたけど、その動きも見えていた。


 魔物どもは、最初は魔力の山火事による炎の壁の薄い場所から通り抜けようと試みたけど、それはこちらからも見えていた。

 しかも魔物どもは、なまじハルカさんの『神槍』の魔法の洗礼を受けたばかりなので、密集して攻撃することも出来ない。

 だから弓矢や攻撃魔法を集中攻撃する事で、簡単に目論見ごと阻止する事ができた。

 そうした戦いは、火災を城壁とした攻城戦じみていた。


 そうして夜明けが来たけど、風は依然として川から神殿へと吹いているので、火災は外へ外へと広がるばかり。

 しかもかなりの勢いを維持していて、魔物は炎の壁に押されて下がるより他ない。

 第二列までの魔法に炎の耐性を向上させる魔法は幾つかあるけど、分厚い幅を持つ大火災の中を突っ切るにはどれも力不足だ。


 こちらとして厄介なのは、神殿から森林火災の距離が開いてからだ。

 魔物どもが炎の薄い場所を通り抜けようとすると、こちらも移動する距離が増えて、複数箇所だと対処できなくなりつつなっていった。

 しかもこの状況は、火災の広がりとともに悪化していく。

 正直燃えすぎだけど、燃えすぎたからこそ魔物はこちらに手が出せないので、痛し痒しだ。


 けど、焦っているのは魔物どもの方だった。

 夜明け前、空中での機動、空中戦ができるくらいの明るさになる直前、空からの攻撃を仕掛けてきた。

 戦力は昨日と変わらず、20騎ほどの竜騎兵、翼竜、獅子鷲がいる。

 一方こちらは、昨日の8割の戦力を維持していた。

 そして火災による気流の乱れが強いので、神殿上空はかなりの高さまで飛ばないと超えられない為、川の方向からの進入路を確保しない限り数の多い飛馬は役立たず。


 飛馬以外の空中戦のできる連中が、神殿裏手の川方向から低空で侵入しようとしたけど、魔物が来る方向が分かっているので迎撃は簡単だった。

 しかも多くの魔物が、背中に複数の魔物を載せていたので、ヴァイスやライムにとってはただの鴨ねぎだ。

 竜騎兵は例外だけど、4騎は飛行船の対空装備や弓、魔法の前に容易に近寄る事が出来ない。


 結局、半数近くを失って後退していった。

 しかもヴァイスとライムは、共に飛龍1体を倒しているので、向こうの戦力は激減した事になる。

 ワンサイドゲームではなかったけど、こちらの戦力はまだ獅子鷲が10騎健在だ。



「お疲れさん」


「半分逃げられたけどねー」


「それより、山火事の外の方ちょっと見てきたけど、どんどん集まって来てるぞ」


「そんなにか?」


「うん。ノヴァの空から潰した時に似てる感じ」


 という事は、追加で1万体くらいの魔物の団体様が接近中という事になる。

 さすがにみんな顔が険しくなる。

 そこにトモエさんが明るい口調で言った。


「どっちにしろ、この山火事なら今日明日は雑魚を気にしなくて良いでしょ」


「そうだな。問題は神殿に入ってこれる悪魔級の強い魔物だな。あいつらなら自己再生と耐性魔法もあるだろうから、炎を抜けるのも可能だろう」


「けど、抜けてこないって事は、そうしない事情もしくは、そう出来ない事情があるのよ。出来るのなら、夜明け前の時点で来てたわよ」


「青いやつ、オレ達に二回負けてるからスッゲー恨んでそうだしな」


 オレが締めで肩を竦めてコメントすると、みんな無理にでも笑みを浮かべる。

 険しい顔ばかりしていたら神経が持たない。

 しかし楽観ばかりもしてられない。


「それでシズさん、魔物はどういう条件で攻めて来ると思いますか?」


「投石機で飛行船を破壊して、私達をぺしゃんこにするか神殿に追い込んで、下級悪魔以上で攻めよせる、というのが連中の基本プランだったんだろう。飛行船を潰せば、兵糧攻めもできるからな」


「でもさ、シズの魔法で全然ダメになったよね」


「しかし、火事は徐々に外に広がっている。神殿の周りも、ただの焼け野原になる。神殿の周りに焼け野原が広がり、炎が通り抜けやすくなれば包囲し直して来るだろう」


「これだけの火事だから、大群が通り抜けるのって無理でしょ。魔物は人為的に通れるルート作り出したり出来るわけもないし」


「かもしれない。だが、最悪は常に想定しておくべきだ。それが戦争だからな」


 トモエさんの楽観的言葉も、シズさんの再びの言葉で覆される。

 そしてシズさんの言葉通りに事は動いた。

 それは、ルリさんが作ってくれたオニギリと手でつまめるおかずだけの食事を終えるくらいの事だった。


「神殿後方より、飛龍2、翼竜4、獅子鷲5が低空より急速接近中。各飛龍には大きな魔力の反応を確認」


 

 キューブからの報告が入る。後方という事はミカンだ。

 そして報告通りなら、飛龍をボクっ娘と悠里に相手させるわけにはいかない。


「レナ! 悠里! 今度は飛龍に手を出すな! あとは、地上戦を邪魔させないようにしてくれたら良い!」


「オーキードーキー!」


「わ、分かった!」


 すでに飛び始めていた2体が、小さく旋回して迎撃に向かう。同じ迎撃には、妖人が駆る獅子鷲も向かう。

 そしてすぐにも空中戦が始まるけど、魔物の方も飛龍を神殿に送り込むのが目的のようで、翼竜と獅子鷲がこっちの阻止に入るのが見えた。

 そしてこっちの意図が翼竜と獅子鷲だったので、半ば不意をついた形で迎撃できていた。


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