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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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464 「迎撃準備(2)」

 起きて着替えて、食事以外の諸々を済ませて部屋を出る。

 ボクっ娘は着替えは自分の部屋なので、すぐに戻って着替えるので、ハルカさんと二人で着替えだ。

 「今日は急ぐから別々に出なくていいわよ」と、彼女のお許しも出たので一緒に着替える。


 いつもならクロに手伝ってもらうところも、ハルカさんに手伝ってもらったり、もはや新婚プレイだ。

 彼女も自身の半裸が見られても恥ずかしがったりもしない。

 それはそれで嬉しい変化な反面、初々しさとかが慣れに変化している事になるので、次のステップなりに進みたいかもと欲が出そうになる。

 けど今は、浮かれている場合じゃない。


 着替えて廊下に出ると、各部屋からは音が聞こえたり起きている気配が伝わってくる。

 廊下を出て厩舎(格納庫)では、早くも悠里がライムの世話を初めている。


「早いな」


「あ、もう3人とも起きたんだ」


「おはよう。早いわね」


「おはよー、ボクはあっち行くから!」


 ボクっ娘は小声ながら元気に厩舎の大きな扉をグーッと一部開き、真ん中の飛行甲板へと出て行く。

 言葉通り、反対側の船体で眠るヴァイスの元に行くのだ。


「ライムも出迎えの準備なの?」


「はい。シズさんの火事を起こす魔法の手伝いです」


「そっか。火や熱が扱える魔法とかって、今少ないものね」


「トモエさんが結構使えるそうです。拡大とかはレイ博士とリョウさんが。アイは、昨日からずっと魔力を集めてる筈です」


「だから、ショウは赤鬼と青鬼に備えてくれ。私の魔力タンクをしなくていいぞ」


 後ろからアイを伴ったシズさんの声。

 振り向くと、既に完全武装な魔導師スタイルだ。


「おはようございます」


「起きれたみたいね」


「トモエは私の起こし方を良く知っているからな」


「なるほど。それでトモエは?」


「今着替えている。目覚めて一番起こし来たからな」


「もーちょっと待ってー」


 シズさんの言葉を遠くで聞いたのだろう、廊下のどこかの部屋からトモエさんのいつも通りの元気な声が響いてきた。

 

 そしてオレ達は、まだ魔物が来ていないのを確認してから、シズさんの魔法の準備に入る。

 けど『帝国』の偵察では、魔物の大群が大陸奥地から確実に近づいていて、今夜中に押し寄せるのは間違いないそうだ。

 その数は、数千から最大で1万。

 1万ともなると、ノヴァの地上戦で戦った数と同じくらいだ。


 オレはとりあえず護衛か周囲の監視の仕事しかないけど、レイ博士などは予想外にせっせと動き回っている。

 レイ博士の場合、何か作業などをしている姿が似合うし、向いているんだろう。なんだか少し楽しそうに見える。


 そうしてほぼ作業が終わったところで、シズさんに聞いてみた。


「それで、どうするんですか?」


「この神殿はちょっとした高台の上で、戦える場所は神殿の前しかない。しかも後ろは川で右手、つまり東側はすぐに海。魔物の大群は西側、大陸の奥地から押し寄せて神殿の前に来ないといけない。

 昨日は飛行生物なので前からやって来たが、今回はそうはいかない」


「昨日逃げた連中が西側で潜んでるんですよね。つまり、敵の進路上に何か仕掛けるんですか?」


「そういう事だ。と言っても、芸はないが『煉獄』を仕掛ける。細工は流々とはいかないが、多少戦いやすくなる筈だ」


「期待させてもらいます」



 そして約1時間半後、魔物が押し寄せて来たのは、まだ夜明け前の2刻、午前4時頃。

 夜襲には一番の時間は3時で動き出したのもそれに合わせた感じだったのだけど、魔物の方は数が多すぎて全体の動きが鈍くなり襲撃時間が遅れたようだ。

 けどその分、数は多そうだ。


 魔物の群れは神殿を大きく半ば囲むように広がる。まるで、オレ達の地上からの退路を塞いでいくようだ。

 しかし違うと分かったのは、展開途中だった。


「連中、投石機カタパルトを組み立て始めたぞ」


「神殿に入れないから、遠距離から私達と飛行船を潰そうって事ね」


「けど、どうして現地で組み立てるんだ?」


「飛行船でもないと、地上で城攻めの兵器を丸ごと運ぶのは難しいだろ。何しろ重いからな。だから車輪とか加工の難しい部品だけ持ち運んで、あとはその辺の木を切り倒して組み立てるんだ。

 小型の投石機の場合は、バラして運ぶだけの場合もあるな。

 けど、それが出来るくらいに、ここの魔物どもは知恵が回るという事だな」


「けど、部品を用意するのにも準備がいるのに、どうしてここに持ち込めたのかしら?」


 ハルカさんの疑問はもっともだ。

 そこに少し遠くから男性の声が答えた。


「大方、我が国の拠点を攻撃する準備を、急遽こっちに回したんだろう。連中にとって、ここは一番人間風情に占領されたくない場所のようだからな」


「マーレス殿下」


「うむ。役目大義。で、話は伝令より聞いたが、どの程度効果があると見ている?」


 シズさんの作戦は既に連絡はしてあったが、確かに効果については伝えてない。

 と言うか、相手の出方次第だ。

 シズさんも少し眉を寄せる。


「マーレス殿下、それは魔物どもの出方次第に御座います。私どもの策は、一時的に地上の敵を寄せ付けないようにするだけのもの。

 故に、魔物どもが犠牲を厭わない策に出てきたら、あまり意味はなさないでしょう」


「それは聞いた。そしてだが、こちらの兵は少ない。今度は船員も動員するが、戦力は昨日の三分の二程度だ。

 だが敵は目の前。まだ夜な上に飛行戦力も未知数だから、ここに籠る以外の手がない。

 だからこそ、兵達に希望が欲しい。何か良い話はないか? 多少の法螺でも良い。何か真実がないと、ワシの大嘘に兵達も乗ってくれんのだ」


 思った以上に切実な言葉だった。

 豪放磊落なタイプの人なので、尚更そう思えた。

 そしてシズさんが少し考えた末に口を開く。


「では、相手を躊躇ちゅうちょさせる作戦から変更し、出来るだけ派手に燃やしましょう。燃え広がれば、魔物も容易には攻め寄せられなくなります。

 ただしこれは諸刃の剣です」


「と言うと?」


「森が派手に燃える中心に、この神殿と我々が位置しています。そして派手に燃えると、生きる物に最も必要な空気中の成分が消費されてしまいます」


「どの程度、人は耐えられる?」


「分かりません。した事がありませんので。それに風向きも重要です。川の方向からの風が吹き続ける限りは問題ないでしょう。

 火災も神殿に迫る事もありませんので、神々に祈ってください」


「是非そうしよう。では頼む。それとルカ殿、半ば巻き込んでしまう形になり、誠に申し訳なく思う。では」


 一度頭を下げると、こちらの返事も聞かずに踵を返していった。

 いつものオレへのじゃれ合いもないので、相当追い詰められているんだろう。

 みんなも重い空気を感じ取っていたが、それを振り払うようにシズさんの声が響いた。


「さて、予定は多少変更になったが、お客さんも待っている。そろそろ始めようか」


 そして約1時間後、期待していた以上の情景が広がる事となる。


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