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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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456 「目覚め(1)」

 地皇の聖地の神殿は、神殿を中心に大きな円を描く形で地面が輝いていた。

 大きな神殿の敷地全てを囲む規模で、ボクっ娘と悠里が後で教えてくれたが、空から見ると直径500メートル(推定)もの大きな九芒星だったそうだ。

 加えて、中心となる神殿の大聖堂が内から強く光っていた。

 そして地面の輝きと共に状況が一変する。


 崩壊を始めていた『帝国』軍を襲っていた魔物達が、俄かに苦しみ始めた。

 澱んだ魔力が清浄化され、それが魔物自体にも強く影響しているのだ。

 目の前の青鬼、トモエさんの前の赤鬼、それ以外の悪魔達ですら、膝をついたり戦っている相手から大きく距離を置いて防御姿勢を取るなどしている。

 明らかに動きが鈍っていた。


 そしてこの好機を逃すオレ達じゃない。

 マーレス殿下とは視線すら交わさず、青鬼に一気にラッシュをかける。

 少し後ろでも、3人が押し返している。


 そしてさらに後ろの神殿の中から、何か輝く物が飛び出してくる。

 白馬に跨った戦女神。

 いや、ハルカさんだ。

 白銀に輝く鎧を身にまとっているが、その手には凝縮された魔力が込められた強く輝く大きな槍が握られている。

 ハルカさんの周囲に5つの大振りの魔法陣が展開されているので、魔法で作られた巨大な光輝く槍だ。


 神殿を飛び出しつつ、大きく振りかぶって輝く槍を投射すると、その槍は一度は天高く登っていき、そして弾けた。

 弾けた輝きの1つ1つが『光槍陣』の槍のように、苦しむ魔物を地面に縫い付けるように射抜いていく。

 そして『光槍陣』同様にある程度自動追尾ホーミングらしく、逃げようと動いた魔物も貫く。


 魔物化していた飛馬も同様だ。

 空中戦に参加せず前線で暴れていた魔物が操る飛龍にも、複数本が突き刺さる。

 オレ達の前の青鬼にも、トモエさん達の前の赤鬼にも、複数本が殺到。

 さすがに1本、2本は避けるか魔法の武器で弾いていたが、それでもそれぞれ2、3本が突き刺さる。


 後で聞いたが『神槍』という陽帝系の魔法の第五列、最上位に属する攻撃魔法。『光槍』と同じように、単体攻撃系の『神槍撃』、多数攻撃用の『神槍陣』の選択式だ。

 そして威力は、見ての通り『神槍陣』の1本1本が『光槍撃』の威力に匹敵する。

 もちろん魔力消費量はバカみたいに多い。


 今までハルカさんが使わなかったのは、実験用に覚えたけど魔力が全然足りなかったからだ。

 神殿など補助魔法陣が充実している場所、魔石が大量にある場所、そして圧倒的な魔力総量を持つ場合、など使用が極端に限定され、その名のごとく神にしか扱えないと言われている魔法らしい。

 本来は儀式で行う魔法で、一人で構築する魔法ではない。

 それを一人で構築しているのだから、これだけで伝説級の事になるらしい。


 そして究極の魔法の一つが披露された戦場は、形勢逆転どころではなかった。


「ひ、光の神々の顕現けんげんか! も、者共撤退だ!」


 青鬼が焦りながらそう叫び、赤鬼がホランさんに牽制の一撃を浴びせた隙に大きく後退して、撤退の指揮を取ろうとする。

 けど、こちらに逃す気は無い。


 体内の魔力を全開にして青鬼に突っ込む。

 マーレス殿下も同様で、一撃を終えていたオレより一瞬早くマーレス殿下の一撃が炸裂。

 それを青鬼はかろうじて受けるが、そこに隙ができた。

 一気に振り切ったオレの愛刀は、願い違わず青鬼の右腕を頂戴する。

 そして青鬼が手にしていた剣が、地面に転がって甲高い金属音を立てる。

 腕は再生するだろうけど、剣はそうはいかない。


「おのれっ!」


 芸のないお約束なセリフを吐く青鬼だけど、顔はより青い気がするほど。

 そしてこれで形勢は決定だ。

 赤鬼の方も、シズさんの魔法で大きく傷つき、トモエさんが追い打ちをかけている。

 後一息だ。


 けどそこに黒い影が交差する。

 空から魔物が操る竜騎兵が上空すれすれを通過し、赤鬼も青鬼もそれぞれ別の飛龍に飛び乗ったてしまったのだ。

 そこで空を見るけど、空中戦をしていた連中の半数程度が地表ギリギリに降下して、まだ動ける魔物がそこに飛び乗っているところだった。

 空を攻撃できる武器や魔法で追い討ちをかけているが、多くは逃している。

 オレ達も、空に逃げた赤鬼、青鬼を攻撃する手段はない。

 シズさんが急いで次の魔法を準備している間に、飛び去られてしまっていた。

 


「……逃したか」


 マーレス殿下のあまり悔しそうでない呟きが、戦いの終幕を端的に語っていた。

 それもそうだ。

 神殿の活性化が後数分遅ければ、こちらが総崩れだったのだから薄氷の勝利でしかない。

 逆に魔物の襲来が30分遅ければ、魔物は殆ど何もできなかっただろう。


(何にせよ勝利は勝利、結果オーライだ)


 そして安全になったと分かったので、オレは魔物への関心を取り敢えず心の中から投げ捨てる。

 そうして向けた視線の先には、神殿から出てきた時と同じ姿のハルカさんがいた。

 彼女の視線も、ほぼ同時にオレへと向く。



「おはよう。思ったより元気そうだな」


 すぐに側に行って、いまだ馬上の彼女を見上げる。

 熱い再開のハグとはいかないらしい。表情もどこか淡々としている。

 けどオレの一言で半目になった。


「それが起き抜けに大魔法放った人に向かって言うセリフ? それより今日って何日?」


「いやいや、いきなり彼氏に聞くことが日時ってどうなんだ?」


「殆ど何も聞かずに魔物の大群って聞いて飛び出したから、仕方ないでしょ。それにまだ頭がボーッとしてるし。魔物が逃げてくれて助かったわ」


 そこまで言われたので日付を思い出す。

 そういえば明日は、現実でも街中にお化けやゾンビが溢れる日だった。


「寝て起きたら、ハロウィンだよ」


 その言葉に一瞬意外そうな表情を浮かべた後、少し顔をしかめる。


「アレ? 分からなかった?」


「ううん。ハロウィンが、ちょっとしたトラウマなだけ」


「そうなんだ、意外」


「うん。去年のこの日に、居たたまれなくなってノヴァを出たから」


 その言葉で合点がいった。

 現実で死んだと思っていたから、現実世界に合わせた街中の賑わいの様子が精神的に堪えたんだろう。

 しかし因縁の前日に目覚めたのは、逆に幸先が良いように思えた。


「オレもハロウィンは家でじっとしてるよ」


「隠キャと同じにしないでよ」


 少し気分が上向いたのは、言葉と違い表情は冗談だと表現している。

 だから話題を変えることにした。

 これ以上話すと、オレが弄られてしまう。


「それより、その鎧と何よりこの白馬、神殿にあったのか?」


「え、ああ、これはミカンとクロよ」


「左様にございます、我が主人」


「そう。私は鎧」


 馬の口からはクロの慇懃な声、鎧の胸の辺りからはミカンの語彙少なめの声。


「え? 人の姿以外になれるんだ」


「ここって地皇の聖地でしょ。だから、クロもついでに覚醒して、機能が増えたみたい。ミカンの方は、見た目だけで防御力は大したことないらしいわ」


 と言うことは、と思わず想像する。

 そしてオレの表情を捉えたハルカさんが、ジト目ほどじゃないが半目になる。


「ご期待通り、ミカンの下は一糸纏わぬ姿よ。布切れ一枚じゃ外に出られないでしょ」


「なら早く着替えないとな」


 二人だけの世界を作っていたら、みんなが、と言っても当面する事が済んだ者だけが近づいてくる。

 声をかけてきたのはシズさんで、トモエさんも一緒だ。

 ホランさんは部下の方を見に行っている。

 マーレス殿下もだ。『帝国』軍は損害も大きいので、大変だろう。

 飛行組は追撃中だ。

 目覚めの再開を楽しむのは、後回しにした方が良いだろう。


「シズさん、ハルカさん頼みます。クロとミカンもな」


「ああ。ショウはどうする?」


「周囲に魔物が残ってないか調べてきます」


「じゃあ、私もー」


「領主の仕事じゃないと思うがな。まあ、トモエも頼む」


「かしこまりー!」


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