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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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453 「聖地侵入(2)」

「行くぞ!」


 オレの掛け声で飛行船から降り立つのは、トモエさん、ルリさん、ホランさんと獣人3人。それに直前に人型にしたキューブのクロ、ミカンが、ハルカさんの担架を抱えて続く。

 さらに続くのは、儀式をする妖人のダンカルクと5人の妖人。

 彼らは、道中ハルカさんを守るのも請け負ってくれている。

 そして入る直前には、アイに抱えられたシズさんが合流する。

 悠里とボクっ娘は、当面上空警戒だ。


 そして神殿の入り口には、門番か指揮官らしい悪魔2体と、魔物が10体ほど。

 神殿の階段上部にいたので、魔法か飛行船で押し潰せなかった連中だ。


「我らが聖地には一歩も入れんぞ!」


「みんなの聖地だろ!」


 言いながら悪魔に斬りかかる。

 時間がないので全力で、魔力相殺もマシマシで載せておく。

 そして相手は魔力量から下級悪魔らしく、既にオレから見て鈍い動きしかできないので、一刀で心臓近くの魔石の結晶ごとザックリと切り裂く。

 勢いが付きすぎたので、胸のあたりから真っ二つだ。


 その横では、トモエさんが雷の魔法を乗せた鋭いオリハルコンの刀の一刀で、急所を見事に突く。

 しかもオレなどと違い、悪魔のどす黒い体液や返り血も浴びていない。


「お見事!」


「そっちこそ、悪魔が半分こなんて初めて見た、凄いね!」


 ニコリと戦いに気負うそぶりすらない。

 さらにその周辺では、ホランさんが大暴れで雑魚を一掃しつつあるので、直ぐにオレ達も加わる。


「坊主も凄いが、トモエの嬢ちゃんはそれ以上の冴えだな!」


「ありがと! でも、ホランの豪快な剣技も凄いね。私には無理!」


「ま、ガタイが違うからな。さて、これで仕舞いだ!」


 そう言ってホランさんがオーガを一刀両断し終えて、ごつい口にいい笑顔を浮かべる。

 それをリンさんが呆れ気味に見ていた。


「ホンマ、みんな勇者様みたいやな。あ、お疲れさん」


「ああ。掃除には間に合わなかったみたいだな。待たせた、ショウ」


「ナイスタイミングですよ。じゃあ、中に入りましょう」


 そこにシズさんとダンカルクさん達が合流してきた。

 シズさんは涼しい顔だけど、ダンカルクさん達妖人は唖然としている。

 そんな顔を見ると、空気読めない言葉の一つも言いたくなりそうだ。



 それはともかく、巨大な神殿の中は広く構造は他の聖地のウィンダムやショブと似てる。

 オレ達の世界のギリシャ・ローマ風なのはお約束な感じだけど、ここは他と違って人の気配がない。

 手入れもされていないので、丈夫な場所以外はボロボロだ。

 かといって魔物もいない。

 魔力の流れも清らかというわけじゃないけど、澱んだ感じは一切しない。


(神殿内に魔物がいないって本当だったんだな)


 周囲を警戒しつつも、妖人から事前に聞いていた事を思い浮かべる。

 やはりこういう場所は、構造自体が魔力の清浄化を行うので、弱い魔物は入れないのだそうだ。

 入れるとしたら、魔力総量の多い悪魔でも上位クラス。

 ドラゴンは魔物じゃないので入れるだろうけど、入ったら図体がでかくて動きが著しく制限されるので、好んで入ってくるバカはいないだろう。


 だから警戒するべきは、高位の人型の魔物だけだ。

 けど、神殿の中心部に当たる大聖堂まで到達しても、何もいなかった。


「悪鬼がいねえな。やっぱ、外での最初の一撃で吹き飛んだか?」


 ホランさんが物騒な獲物を抱えながら、周囲を警戒しつつ言葉を漏らす。

 それにシズさんが、探知魔法の2つの魔方陣を浮かべつつ反応した。

 不測の事態に備え、自力で構成した甲冑スタイルのアイが抱えっぱなしなので、どこか騎士物語っぽい絵面だ。


「いや、外にそれほどの魔力を感じる魔物はいなかった。いても下級悪魔だろう。それに下級程度なら、私かレナの一撃で最低でも自己再生しないと動けないまでに叩けている筈だ。今頃は滅されているだろう」


「て事は、上級悪魔はおらへんっちゅー事やな。ほな、ダンカルクはん、ハルカの事頼めますか?」


 オレが言いたい事をルリさんに取られてしまった。

 それでもオレも「よろしくお願いします」と頭を下げる。


「心得ました。ここの魔法陣を使い儀式を行います。ご説明した通り、儀式は最低でも3刻(6時間)は必要です。その間、外からの邪魔を決して入れぬようお願いします。

 一度始まった儀式は中断できません。それに邪魔をされれば、彼女の容態などを考えると機会は二度とないかもしれません」


「分かりました。それじゃあ、お願いします。シズさんも頼みます。クロ達もな」


「ああ、みんなは外を頼む」


 儀式にはシズさんも途中まで参加予定だ。

 アイは魔力の調整と供給を行う。

 構築の補助などは無理だという事が分かったので、そこまで済めば外から来る魔物に備えて合流予定だ。


 クロとミカンは、『帝国』に安易に姿を見せるわけにいかないのもあるから、念のための護衛として残す。

 それとクロの場合、ここで覚醒させる事もできるので、余裕があればシズさんにしてもらっておく予定だ。


 なお、ハルカさんの治癒方法を妖人が知っているのは、似たような病に妖人もかかるからだった。

 妖人にも、体内の大量の魔力の乱れから、長い眠りにつく病があるのだそうだ。そして長年研究と研鑽をした結果、自分たちだけが必要な魔法が開発されたのだという。

 ただし、「客人」にはハルカさんのようなケースにダンカルクさん達は出くわした事はないので、彼らだけの門外不出の魔法らしい。


 そしてこの儀式魔法を行う場所は、魔力の流れの強い場所、集まる場所でなければならない。

 必ずしも聖地である必要はないけど、近辺で相応しい場所、魔力の流れが強い場所は、この辺りでは地皇の神殿しかなかった。


 もしかしたら、魔物退治をしてもらうためにわざと聖地を選んだのかもしれないけど、ハルカさんを治してくれるというなら魔物を潰す事くらいお安い御用だ。


 そして別れ際に、改めてハルカさんへと近づく。

 彼女はすでに、大聖堂の中心の巨大な魔法陣、本来なら治癒の儀式魔法を行う場所の中央に寝かされている。

 そして彼女の上には、聖別された魔法のシーツが被せられている。

 儀式魔法の間は、できる限り何も身につけない方が良いので、シーツの下は一糸まとわぬ姿だ。

 そして目覚めているなら恥ずかしがっただろうけど、今の彼女は穏やかな表情で眠り続けている。


「じゃあ、ちょっと邪魔者が来ないか、見張りに行って来るよ」


「何、辛気臭い事ゆーとんねん。儀式終わったら目覚めとるんやろ!」


 ルリさんがバンッと景気良くオレの背中を叩く。


「だよね。するんだったら、言葉じゃなくて験担ぎくらいの気持ちで、キスの一つもするのがお約束じゃない?」


 トモエさんもニコニコと元気付けてくれる。

 ここはその言葉に応えるべきだろうと思い、言葉を返そうとしたところで、ダンカルクの言葉が挟まった。


「申し上げにくいが、儀式魔法の前に余計な事は極力しないで頂きたい」


「さよか」


「相変わらず、ジョーダン通じない人だなあ」


 二人して、お手上げの仕草をする。


「坊主も色々大変だな。じゃあ、外に行くか」


 最後にホランさんにも背中をバンッと叩かれ、その場を後にする事になった。

 だから最後に残るものに声をかける。


「そうですね。ミカン、クロ、何かあればハルカさんを守ってくれ」


「お任せ下さいませ」


「勿論」



 それでも後ろ髪引かれる感じなので、大聖堂を出る前にもう一度振り返るが、見えたのは同じ情景だった。


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