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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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452 「聖地侵入(1)」

「聖地を取り戻すべく妖人と共同戦線とは、我が友のやる事には度肝を抜かされるわ」


 またマーレス第二皇子が、オレの横で豪快に笑っている。

 場所は焼き払っている場所から50キロほど南。『帝国』が邪神大陸の橋頭堡としてる場所からは、竜騎兵や疾風の騎士が普通に飛べば、1時間程度で到達できる場所に当たる。


 けど半径5、60キロくらいは、魔物が多くて地上からだとまともに近寄ることすら難しい。

 けれども、地皇の聖地は『帝国』が目指す場所の一つで、だからこそ『帝国』の拠点もこの近くにあるのだ。


 なお聖地奪回は、『帝国』と神殿が共同で四半世紀に一回程度は挑んでいるけど、長期的に成功した試しがない。

 途中まで上手くいっても、内陸部から強力な魔物の大群が押し寄せてくるからだ。それでも一時的に奪回した事は何度かあるそうで、幾つかの魔導器や遺跡の一部を持ち帰ってもいる。

 

 けど今回は、少しだけ策がある。

 人の側が聖地に大軍で押しせると、魔物が大量に押し寄せる。逆に少数だと、短時間は魔物は聖地の周りだけでを相手にするだけでいい。

 魔物達に警報と連絡網が存在しているのだ。

 そして、魔物も大半は歩いて奥地から押しせるので、押し寄せるにはどうしても時間がかかる。だから、こちらが大軍でない時は魔物どもも大きく動く事はない。

 けど、この世界の人達は、精鋭だけで挑むという考えに乏しい。


 一時的でも聖地を奪回するには、軍の精鋭部隊が必要となる。

 そして精鋭を投入するのだから、大軍で攻め寄せて一気に恒久的な奪回と魔物の討伐をしたいのは人情だろう。

 それに少数精鋭で失敗して大損害を受けたら、戦力激減となってしまう。

 そして強い魔力持ちの戦闘職を多数育成するには長い年月がかかるから、簡単に博打が打てないのだ。


 その点『ダブル』の統治するノヴァトキオは、優秀な戦闘力をすぐに補充できてしまえるという特徴がある。

 こういう視点から見ると、本当にチート、ズル、この世界から見ればルール違反だ。

 そしてだからこそ、魔物相手に安易に攻勢にも出られる。

 魔の大樹海の北側の諸国と神殿騎士団が防衛一辺倒なのも、『帝国』と似たような事情だからだ。


 また今回、妖人が参加する点も強みだ。

 何より現地の知識豊富だし、魔物の動きもある程度は把握している。

 戦力的にも、今回直接戦闘に関わる者は10名だけだけど、みんなAランク程度の魔力を持っている。

 その他、偵察と連絡にも20名ほどが参加していて、現状で少数精鋭な欠点を補ってくれている。


 逆にSランク程度の人がいないのはやはり意外だけど、戦闘参加するAランク10人の戦力価値は高い。しかも全員が獅子鷲を操るグリフォンライダーだし、魔法を使える者も属性1つの者を含めると半数もいる。

 他にダンカルクさんと5名が儀式に参加する。

 この人達は魔法属性の多い魔道士タイプな人達だけど、自衛と緊急事態でない限り戦闘には関わらない。


 マーレス第二皇子率いる『帝国』軍は、飛行船の乗組員が合計300名。うち約半数が戦闘要員。全員が魔力持ちという、この世界基準だと破格の精鋭だ。

 しかしAランク程度の魔力持ちは10名以下。せいぜい7、8人。けど騎士団が50名程度なので、これでもAランクの比率はかなり高い。

 それにグリフォンライダーが4騎いるのも、それなりに心強いところだ。4騎いれば、普通の竜騎兵1騎くらいの撃退なら可能だ。


 そしてSランクだけど、恐らくマーレス殿下以外だと、その側にいる側近か護衛の騎士だけだ。

 三剣士など名のある人ではないという説明だったけど、動きから見る限り、あのへっぽこ三剣士よりずっと頼りになりそうだ。


 ただ『帝国』には、戦闘参加できる魔法使いが少ない。

 魔法戦士が騎士の中に20名ほどいるが、属性2つ以上の魔法使いは、治癒の魔法使いと調査のためのジジイの魔法使いが数名いるだけ。若い人はいない。

 神殿騎士団が今回来ていないのが痛い。


 そしてオレ達の戦闘要員だけど、ハナさんが専属回復要員でレイ博士とリョウさんは飛行船の操作と防御魔法担当。ドワーフ達とゴーレムは船の防衛なので、それ以外という事になる。

 数は10人だけど、半数がSランクな上に魔法職、飛行職と多彩だから戦力価値は一番高い。

 ただしキューブの魔導器達は、『帝国』の前では常時博士の側にいるスミレさん以外の実体化をしない。それ以前にキイロは戦闘力が低いので、トモエさんの懐の中のままだ。


 そして妖人達のお陰で、現地の様子がある程度分かっているので、それに沿って突入と一時的な占領作戦を立てた。




 作戦は森を燃やした翌日。

 燃やした地域は、今まで同様に順調に延焼を続けてて、豪雨が降っても自然鎮火するか分からないレベルにまで拡大したとの事だった。

 シズさん曰く、シーナ以上、魔の大樹海以下という燃え具合だそうだ。

 そしてその周辺には、周辺の魔物が集まりつつあり、地皇の聖地へ寄って来る魔物の数を減らす効果をかなり期待できた。

 しかも火災自体が、既に魔物が消せるレベルを既に超えてるので、火災現場の方は魔物を気にする必要もない。


 そして地皇の聖地だけど、前日の段階でヴァイスとライムが上空から強行突入して事前偵察を実施。

 ライムにはシズさん、ヴァイスにはリョウさんが乗っての偵察だ。

 そして現地の正確な状況地図を作り上げて作戦の最終調整をする。



「リョウさん、お疲れ様でした。大丈夫でしたか?」


「全然大丈夫だったよねー」


「志願したのは僕だったからね。でも、翼竜の群れは流石に怖かったよ」


 偵察終了時にはそんな会話もしたが、この偵察にはもうひとつ意味がある。

 聖地の直近の魔物には聖地外周に来てもらう事だ。

 何しろ地皇の聖地の神殿は、ちょっとした高台の上にある。

 向かって右手が海側になるけど、木々の生い茂る斜面が続いている。左側も斜面で簡単には登ってこれない地形だ。


 そして後方はかなり幅の広い川で、近くの開けた場所は神殿の前面にだけ広がっていた。

 この開けた場所は、かつての門前町だ。石畳とか石の建造物の遺跡のおかげで、樹木がそれほど茂っていない。

 だから周辺から魔物が集まると、自然と神殿の前面に群れるようになる。

 そこが狙い目だ。

 精鋭の数が少ないこちらは、戦場を限定する事ができる。


 さらに、一瞬だけの空からの偵察だと、少し遠くから魔物は集まらないという事が分かっている。

 そこで周辺の魔物を集めて叩けば、少し遠くの魔物が大挙押し寄せるまでの間、空白の時間ができるというわけだ。




 そして聖地へ向かう当日の朝、マーレス殿下の飛行船が先頭になって大神殿へと進撃する。

 後ろにはオレ達の飛行船も続いている。

 そして最初に少しゆっくり目に進む事で敢えて見せるようすれば、魔物は迎撃のために勝手に戦闘しやすい神殿前面の開けた場所に集まってくれる。


 飛行生物も上がってくるけど、やはりというべきかライダー付き。竜騎兵はいないけど、翼竜、獅子鷲は合わせて10騎ほど居る。

 それに対して、悠里の駆るライムを先頭に、『帝国』の獅子鷲4騎がくさび形の編隊を組んで、飛行船の上方前面に展開する。

 妖人達の獅子鷲は、後詰と防空のためオレ達の周りだ。

 けど当面は、制空権の心配はなさそうだ。

 そして誰がどう見ても、オレ達がやろうとしてるのは正面突破だ。


 しかし本命は、高度1万フィートから突如飛来する。


 上空から僅か数秒で急降下して来たボクっ娘のレナが駆るヴァイスが、オレ達の前を横切る形で「ソニックボム」を実施。

 神殿騎士団も邪神大陸ではたまにしている手らしいけど、制空権獲得前にする事は珍しいので、神殿前でオレ達の迎撃の為に密集陣形を組んでいた魔物達にとって不意打ちとなった。


 そして強烈すぎる不意打ちが、神殿前面のやや後方を一閃。僅か3秒ほどの超音速の衝撃波が、魔物の群れの後方を一瞬で蹂躙する。

 続いて、衝撃冷めやらぬところにマーレス殿下の飛行船が突入していくけど、その直前に何かと混ざった高濃度の魔力の塊が前方に投射される。


 飛行船の上部甲板の上には、あまり見慣れたくはない大きな魔法陣が5つも形成されている。

 飛行船の甲板の上にいれば、『行け、熱核陣』という涼やかな言葉が聞けただろう。

 勿論シズさんの魔法攻撃で、アイの全面支援を受けた事による射程距離を伸ばした投射だけど、次の事もあるので威力は少し低めだ。

 けれども爆発はいつものごとくで、爆発の激しい熱による水蒸気で短時間だけどキノコ雲が形成される。


 そしてそのキノコ雲に突っ込むように、マーレス殿下の飛行船が突入、そして地表に強行着陸を実施する。

 敢えて爆発の影響範囲から外していた魔物達の前衛も、飛行船の下部を構成する浮遊石でペシャンコだ。

 質量攻撃は、いつだって正義だ。


 そして着陸するや、船体の各所から『帝国』兵が慣れた動きで素早く展開し、二度の派手な攻撃でボロボロになった魔物の群れの残余への攻撃を開始。

 爆発直前に退避していたライムと『帝国』の獅子鷲も、宙返りするようにして空中を飛翔して、魔物に空中戦を挑む。

 さらにほぼ同じタイミングで、妖人が駆る獅子鷲達も空中戦へと突入していった。

 ボクっ娘が操るヴァイスも、旋回して急速に速度を増しつつある。

 こうなると、空は挟み撃ち状態だ。


 そこをオレ達の飛行船は、マーレス殿下の飛行船を超える形でギリギリのところを通過。

 より神殿に近い場所に強行着陸を実施する。

 そしてそこは、神殿の巨大な石造りの建造物の入り口が目の前だ。


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