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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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450 「エルフの里(1)」

「それにしても、魔法にこんな使い方があったとはな! 魔導師協会のジジイどもを根こそぎ連れてくれば、この忌々しい大陸も少しはマシになると言うものだ。なあ、我が友よ!」


 オレの隣では、後ろに複数の部下を従えた『帝国』の第二皇子マーレス殿下が、上機嫌で目の前の情景を眺めていた。


 場所は邪神大陸北東岸。オレ達の世界だと、近くがボストンに当たる場所らしい。

 この場所を選んだのは、『帝国』が進出してる拠点の近くで、加えて地皇の聖地が近いからだ。

 そして少しでも、トモエさんが案内予定の場所も近いところを選んだ結果でもあった。

 また、『帝国』の事前調査で、この辺りの周辺には強力な魔物が少ない。


 なんでも邪神大陸は、その名の通り邪神が居ると言われ、総じて魔物が強いのだそうだ。全体として下級悪魔の数が他の場所に比べて飛び抜けて多く、その名の由来になってるらしい。

 それでも沿岸部はマシだけど、奥地には進むことは自殺行為とされる。


 内陸には人が築いた拠点もないので、『ダブル』の殆ども奥地に入った事はないらしい。

 上級悪魔以上の悪魔と複数エンカウントして全滅したという話もネット上にはあったけど、眉唾、話半分とされている。


 それはともかく、半ば偶然だけどオレ達にとっても『帝国』にとってもWinWinな場所だ。


 そしてその魔界のような魔物だらけの澱んだ魔力に満ちた歪んだ森の一部が、眼前で燃え盛りつつある。

 首謀者、もとい中心になっているのは、『火狐の魔女』と一部ネット上で言われ始めているらしいシズさんだ。


 そしてシズさんの魔法を、まずはオレ達が全力で支援して、巨大な『煉獄』の空間を形成。

 そこにあらゆる熱、火、炎、そして油を注ぎ込む。

 こういう時、飛行船は便利だ。

 大量に積んできたものを、空からばら撒くだけでいい。


 そしてエルブルス領の北の森、ノヴァトキオ北方に広がる魔の大樹海の北東部一帯に続いて、邪神大陸を多い尽くす澱んだ魔力の溢れた森に人工的いや魔法的な炎がつけられた。


「アイは本当にシズ君と相性が良いな」


「アイの魔力の収集と調整能力を、元主人様もご所望ですか?」


「あれば便利だろうが、人それぞれだ。スミレはそのままで良いぞ。物品作成能力は、我輩と非常に相性が良いからな」


「……そうですか」


 上機嫌で言うのは、ロリッコ猫耳メイド姿のスミレさんを連れたレイ博士だ。


 スレンダー美人の姿になったアイを褒めるレイ博士も、魔法の腕は『帝国』随一とか言う、今回の魔法を実地検分に連れてこられていた大魔導士さんが褒めちぎるほどだった。

 各種拡張、同調、連動、そうした補助・支援の魔法は芸術的だとか言ってた。

 魔法の使えないオレにはさっぱりだ。

 だからぼんやりみんなの作業を眺めてると、悠里が近づいてきた。


「いつまで見物してんだよ。そろそろ「偵察」に行くっての。みんなもう準備終わってるんだぞ」


「と言うわけです、マーレス殿下。付近に有力な魔物がいないか、偵察に出てきます」


「うむ、何かなら何まで済まんな、我が友ショウよ。我らの竜騎兵は後続だから、遠距離偵察は其方らが頼りだ。任せたぞ」


「はい。では行ってきます」




「あっさり出られたねー」


「マーレス殿下のお陰だな」


「ショウと仲いいもんねー」


「オレ、あそこまで親しくされる覚えはないんだけどな」


「と言うことは、マーレス殿下に色んな意味で気に入られたのかも」


 ムフフッとボクっ娘が不謹慎に笑う。

 ヴァイスの背には眠り姫なハルカさん以外、操り手のボクっ娘とハルカさんを支えるオレだけだ。

 飛び立つ時は、トモエさんが軽い幻術でハルカさんを見えなくしていたし、『帝国』の人は目の前の燃え盛る森に目を奪われていたので、何も気づかれてはいない筈だ。


 そして今は、案内のトモエさんを乗せた蒼い雷龍のライムを先導として、目的地へと向かっている。

 と言っても、どこに行くのかを知っているのはトモエさんだけだ。

 そのトモエさんも、場所や誰なのか話す事を契約魔法で制約されていて、オレ達に伝える事が出来ない。


 けど、途中小さな休憩を挟んで4時間ほど飛行したら、ヴァイスの斜め前を飛ぶライムの進路が変化し、さらに高度を下げ始めた。

 下界の景色は、海のように広い二つの湖を結ぶ大きな川沿い。

 どこもかしこも森で覆われているが、森に澱んだ魔力の影響は少ない。

 見た感じは普通で、魔獣化してない動物も普通に見かける事ができる。

 いかにも大陸の内陸部だけど、山間部という程ではないけど、日本人的感覚ではなだらかな山の中だ。

 あとで聞いたが、二つの湖というのはオレ達の世界で言う所の五大湖のうち二つだった。


 そしてさらに高度を下げていくと、何かの魔力による『膜』のようなものを通過する。

 飛び立つ前に、トモエさんから高度を下げ始めたら必ず真後ろを飛ぶように言われていたので、ヴァイスを操るボクっ娘はピッタリとライムのすぐ後ろに位置する。


 そして『幕』の手前で、ライムの後席に座るホランさんが大きく手を振っている。

 親指を出しがグーを下向きに振っているので、下に降りるという指示だ。


 そして「何か」の『幕』を通り過ぎると景色が一変した。

 そこは、現実世界の人ならほとんどの人が一度は映像で見たことのある場所。

 ナイアガラの滝だ。

 若干形は違っているけど、これを見間違えるわけがない。

 そしてその大瀑布の下流の一角に、世界で最も有名なファンタジー作品の一つで見たのと似た、幻想的としか表現のしようのない景色が広がっていた。


「これ以上ないファンタジーだねー」


 そう言って、半ばこの世界の住人と言えるボクっ娘ですら感動しているほどだ。

 前を飛ぶライムの方でも、「すっごーい!」「めっちゃすごい!」「こりゃ驚きだぜ!」とそれぞれ感動の言葉が聞こえてくる。

 オレも何か叫ぶなりしていたと思うけど、それすら覚えていないくらいの感動だ。


 けれども、驚いてばかりもいられない。

 ここが目的地なのは間違いない。その証拠に、ライムは幻想的な建造物群が建つ一角へとどんどん進んでいって、少し開けた場所にゆっくりと降り立つ。

 オレの乗るヴァイスも、普段よりも何倍も慎重に鳥らしく鮮やかな着地を決める。


「ありがとうヴァイス。ちょっと緊張してた?」


 ボクっ娘も相棒を労う見事さだ。

 一方、先に降りたライムからは、飛び降りるようにトモエさんが着地して、既にこちらに向かいつつある人影の方に歩いて行く。

 ライムの相棒の悠里はそのままだけど、ホランさんとルリさんはこちらに近づき、ヴァイスが降り立つとオレと共にハルカさんを載せた担架のような担架を降ろす手伝いをしてくれる。



「めっちゃ、驚きやな。しかも、あれってエルフやろ。ここって『イムラドリス』なんやろか?」


「料理のねーちゃんは、ここ知っているのか?!」


「いいや。うちらの世界に似た感じの場所の事が伝わってて、そこの名前や」


「カーッ、異界にもこんなすげー場所があるんだな。坊主と一緒だと、このままじゃあ一生分じゃあ足りないくらい驚かされそうだぜ」


 ホランさんは、終始口をあんぐり開けっぱなしだ。

 そしてそう思わせるだけの絶景が、周囲に広がっている。

 上空から見たよりも、地表から、しかも今降り立った低い場所からの眺めは、感動を何倍にも倍増してくれる。

 それだけの優美で壮大な建造物群が、気の遠くなるような年月をかけて滝に削り取られた岩肌に沿って並んでいた。


「話ついたよー。ライムとヴァイスは、この人に従って厩舎に入れてあげて〜。終わったら、みんな付いて来てねー」


 みんなして呆然と周りの情景を眺めてたけど、数人のエルフ、いや妖人と話していたトモエさんの言葉で再び動く事が出来た。

 そうでなかったら、オレ達は口を開けてしばらく景色に見入っていただろう。


 その後、近くの厩舎に二体を入れ、宮殿のような街中へと入っていく。

 ここでの騎乗用の飛行生物は、飛馬が主体だけど巨鷹もいた。


 ハルカさんの担架は、どうしてもとクロとそしてハルカさんを主人としたミカンが担いでいる。

 『帝国』軍と一緒の間は念のためキューブのままだった2体だけど、ここなら問題もないと魔力を遮断する袋から出てきていたからだ。

 そして正確無比な動きのキューブ達の方が運ぶ際に安定性が高い事もあり任せた。


 そうして住人らしい妖人3人ほどの案内で、トモエさんを先頭にして一つの大きな建物に入る。そして案内されるがまま、ハルカさんを広めの客室らしき場所に寝かせた。

 そこでようやく、3人のうちで一番偉そうな人が軽くお辞儀をする。


「私はダンカルク。この里の長をしております」


 3人とも男性のエルフで、凄く凝った服と装飾品を身につけている。長以外もこの里の代表なのだろうが、他の人をまだ見ていないので、この時点では判断が出来なかった。

 というか、せっかくエルフに会ったというのに、出会ったのはみんな男、オッさんばかりだ。

 けどオレのオタク的願望で話を脱線させるわけにもいかない。

 そこから一通り挨拶をして、ようやく本題へと入った。

 そして一通り説明を終えた時だった。


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