449 「再集合(2)」
「そこは分かりました。それで、その間に何を?」
「決まってるだろ、ハルカさん助けるのに。ハルカさんを中心に別働隊を組んで、目的地に向かうから」
「何しろ目的地が、『帝国』には教えられない場所だから。でも、相互連絡とかもあるから、燃やす場所と目的地は1日で往復できる程度の場所の予定ね」
悠里の言葉足らずをトモエさんが補う。
「それじゃあ、着いたら分離行動ですね」
「途中からはそうなるな。森を焼く方は、私とレイ博士、それに飛行船があればいい。ヴァイスとライム、それに乗れるだけの人数で、燃やしている間に偵察の名目でトモエの方に向かってくれ」
「ハルカさんを担架に括り付けて運ぶけど、ハルカさんは背中の平らなヴァイスにお願い。あとヴァイスにはその固定役に1人、ライムに最高3人ね」
シズさんの横で、悠里が両手で人数を提示する。
ボクっ娘も深く頷いてる。
さて、残りの席は誰が乗るだろう。
「そのトモエさんの目的地は危険ですか? あと、行く人間の制約というか、行っちゃダメな人とかいますか?」
「そうだなあ。向こうの人と合流できたらむしろ安全だね。縛りは、『帝国』の人以外なら大丈夫じゃないかな。あ、でも、私の親しい人の方が良いと思う。ケッコー面倒臭い人達だから」
場所など契約魔法の縛りがあるけど、聞いている限り大丈夫そうだ。
「それなら、魔物に襲われる可能性の高い飛行船の方に多めに残りましょう」
「と言いつつ、ショウはハルカさんの方に行くんでしょ」
「それは当然だと言わせてくれよ」
ボクっ娘の軽いツッコミへの返しで、みんなに半ばおつきあいの笑いが起きる。
そこにオレは真面目気味にみんなに問う。
「それで、オレ以外、誰が行きますか?」
「で、出来れば我輩行きたいぞ。今ある全ての治癒魔法以外の秘術なりを知ってる連中の場所に行くのであろう。魔法使いとしては、すごく興味がある。不謹慎な動機であるので申し訳ないのだが」
意外にも博士が一番に手を挙げた。しかもめっちゃ早口だ。
けどそれは、シズさんの目線と言葉に押さえつけられてしまう。
「レイ博士は、森を燃やす方だ。私も見に行きたいのは山々なんだぞ。だが、物見遊山じゃないんだ」
「あ、はい。分かっていました」
そう言ってレイ博士がシュンとなった。その隣ではリョウさんも少しガックリきている。絵描きとしては、見物希望だったんだろう。
そして不純な動機を退けてしまうと、ハルカさんのお友達の二人が一番相応しい。
けどそこに、一人挙手する者がいた。
「席が空いてるなら、俺が付き添って構わねえか? これでも坊主と嬢ちゃんの事、託されて来てるんだ」
少しらしくないが、ホランさんが珍しく真面目というか真摯な態度だ。
オレとしては頷くしかない。
「分かりました。護衛をお願いします。それであと一人ですが……」
「それなら、友達代表でうちな。ハナは治癒要員で船に残らなあかんやろ」
「そうだけど、自分で言わせて欲しかったなあ」
ルリさんにハナさんが、プーッと可愛く頬を膨らませる。相談もしていないけど、二人の間では最初から決まっていたみたいだ。
そして早朝。
「では、共にあまねく人に仇なす魔物どもを滅しに参ろうぞ、我が友よ!」
また野郎にガバッと抱きつかれていた。
そして同時に、また耳元で囁かれた。
「ワシが臣下を言いくるめておくので、ショウはその間に本懐を遂げよ」
言い終えると抱くのを止めて、右手で左肩をパンっと元気よく叩き、そして男らしい笑みを浮かべて去っていった。
それにオレは、ありがとうございますと頭を下げることしか出来なかった。
なお、随伴する『帝国』の飛行船は、豪華な大型の飛行船だった。
当然戦闘艦で、かなりの重武装だ。
この世界の軍用飛行船は、主に空中戦では相手飛行船への接舷切り込み戦を、対地上戦では上から槍、矢、魔法、そして岩を空中から落とすのが主な役割だ。
竜騎兵を載せる方が少数派になる。
ましてや疾風の騎士を載せているのは、オレ達の船以外だと神殿が僅かに保有するだけだという。
それはともかく、マーレス殿下の御座船と思われる大型艦は、オレ達の船の片方の船体を縦横高さ共にざっくり二倍くらいにしたくらい大きい。
見た目に頑丈そうで、乗り込んでいる船員、軍人、そして騎士の数もかなり多そうだ。
そしてその巨体を、8体もの雲龍が曳いている。
それでもオレ達の船より速度が遅いので、こちらが合わせる形での移動となった。
行程は、浮遊大陸を抜けるのに1日、大西洋の西側を横断して邪神大陸の北東部沿岸までおおよそ3日。
その後、1日かけて森を燃やす実験をして、その間にオレ達はトモエさんの目的地へと向かい、ハルカさんを目覚めさせる方法を聞き出す予定だ。
10月末には、目的を達している筈だ。
なお、飛行船に全員集合した時点で、船内で少しだけ議論が起きた。
何のことはないけど、要するに部屋割りだ。
シーナの出発時はボクっ娘以外全員男子だったけど、ノヴァで女子が2人増えて、さらに『帝都』で3人増えている。
しかし最初から、船体の向かって右側が女性用、左側が男性用、下部が家臣用と言う想定で整備してあるので、極端に大きな問題にはならない筈だった。
オレは家臣の人達もいるので、満場一致で船長室。
けど、同じ棟の同じ階は全員女子達の個室で、動力室にも続くその下の階に、レイ博士とリョウさん。
左側の下階はホランさんとフェンデルさん。飛行甲板の下の2部屋に、家臣の人達6名という部屋割りだ。
左側の食堂などがある3階の2部屋が余っている事になるけど、ここは半ば食料庫として利用されていた。
どの部屋も今の二倍以上の据え付け型の二段ベッドがそのままだけど、各船室共この世界の船の中としてはかなり広い。
けれど病室は飛行甲板の下、食堂に隣接する厨房は左船体なので、ハナさんとリンさんが、持ち場に近い場所が良いとゴネた。
さらにハルカさんは、病室ではなく一番安全な船長室が良いという意見が多数出た。
しかも悠里は、オレを追い出す条件で、だ。
そして結局ハルカさんが目覚めても、オレとハルカさんは船長室になるのだからと、眠り姫なハルカさんは船長室のふかふかベッドで眠らせる事になった。
けど、追加で簡易ベッドなどを入れる余裕はないので、オレは彼女が目覚めるまでは、食料で半ば埋まっている予備の部屋の一つを少し片付けて臨時の寝場所とした。
もっとも、船長は出来る限り艦橋に居るものだそうで、強制睡眠しないように最低限寝るだけだった。
一方で、ハナさんをはじめハルカさんの看病を女子達が交代でするので、船長室は半ばハルカさんの病室となっていた。
そして道中だけど、マーレス殿下が自分たちの船に載せている獅子鷲を自ら駆って何度か乗り込んできた。わがままに付き合わされる御付きの人も大変だ。
そしてレイ博士が止めるのを完全無視して、艦橋や機関室を中心に見学して回って、是非とも我が国にも導入したいと言い出して、さらに御付きの人とオレ達を困らせた。
けど、気遣いの出来ない人じゃないので、シズさんが推測するには、部下にオレ達とこの船を見せるのが目的らしかった。交流と相互理解の一環と言うやつだ。
それに来船一番に、眠り続けるハルカさんに静かに見舞いをしてくれてもいる。
「あの殿下、一見大雑把で考えなしに見えるが、気も回るし大した人たらしだ」
とは、シズさんの論評だ。
そしてマーレス殿下の「活躍」もあって、それなりの関係を構築したオレ達を、邪神大陸の澱んだ緑の海が埋め尽くす大地が待っていた。





