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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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446 「空賊襲来(1)」

 神殿の総本山イースを出発して5日後、再び浮遊大陸へ到達した。


 初見のリョウさんが大興奮だった。

 同じく家臣のホランさんやフェンデルさんも、壮大な光景に圧倒されていた。

 浮遊大陸は、この世界の人にとっても珍しいという表現すら越える現象や情景なのだ。

 しかしその空に浮かぶ大陸一面に『帝国」が広がっていて、さらに1日かけて大陸中央の『帝都』へと至る。


 オレ達の飛行船エルブルス号が『帝国』そして『帝都』に至る事は、現実での悠里やシズさん、トモエさんへの連絡で伝えていた。

 そしてシズさん達から『帝国』にも伝達済みなので、『帝国』からお咎めを受ける心配もない。


 しかしその空の航海の途中、珍しいものと遭遇した。

 空賊だ。


 場所は、オレ達の世界で言う所のスペインの大西洋岸のあたり。

 ちょうどその辺りが、大西洋を渡る大陸最後の飛行場や港町になっていて、オレ達も立ち寄った。

 けど入る直前と直後は、街から離れたところで襲ってくる連中がいる。


 そして空での移動の場合は、空賊が襲ってくる。

 けどこの空賊は、飛行船を持っている事は少ない。

 空を飛ぶ魔物を操るだけで、自分たちの拠点は地上に持っている。

 飛行船は高価なので空賊はこう言う場合が殆どで、持っていても戦利品の飛行船だそうだ。


 そして夕方の街が遠望できた時が一番危ない。何しろ飛行船が飛行場に降りる為に低空に降りてる。

 襲われたのもそんな状況だった。

 しかしうちの船の見張りは、機械のように正確無比なゴーレムなので、24時間体制な上に油断のしようがない。しかも並みの人より遠くを察知できる。

 何かあれば、淡々と報告が伝声管を通してもたらされるだけだ。


 けど空賊は、襲撃方法、それに場所とタイミングは手馴れていた。

 まず最初に、前に天馬数体が曳く小型の飛行船が同じ進路上に現れる。

 この場合、小型船が進路を譲るのがセオリーだし、それ以前に飛行生物同士の場合に翼を上下に振るように、大きな旗で手旗信号を交わすのが取り決めだ。

 これをした後で襲った場合、ただの縛り首に加えて厳しい拷問が無条件で加わる。


 また飛行船は、自らの所属を示す印を船体に描くか旗を掲げないといけない。勿論だけど、偽ってもいけない。

 これも破ると、いきなり縛り首はなくても重罪と重い罰金が待っている。

 そして海賊船は無国籍なので何も掲げない。

 ついでに言えば、黒地に白いドクロを染め抜いた旗はこの世界には存在しない。もし、『ダブル』にとって馴染みのある海賊旗を見かけたら、それは『ダブル』のものか『ダブル』を真似たものなのだそうだ。




「それで、あの小さい飛行船が海賊船、じゃなくて空賊の飛行船?」


「だと思うよー。ボクは厩舎からヴァイス出しとくから、あとよろしく」


「えっ、もうかなり暗いのに飛ぶのか?」


「飛ばないよ。あれが強行着陸してこないように、飛行甲板を塞いどくの。もしかしたら作戦に使うかも、でしょ。

 飛行船は左右の船体の上に降りてくるかもだけど」


「とにかく警戒配置。レイ博士、船倉のゴーレムの戦闘準備と、その後は船の防御魔法の作動頼みます」


「う、うむ。しかし襲ってくるかな?」


 レイ博士がかなりビビってる。

 舵輪を握るリョウさんも緊張してる。

 そこにホランさんが、リョウさんの左肩を「パンッ」と叩く。


「絵描きは、とにかく真っ直ぐ飛ばしといてくれ。乗り込んでくる連中は、オレ達でなんとでもなる。何と言っても、悪魔殺し、竜殺しの領主様がいるんだ。襲ってくる連中が哀れに思えるぜ」


 そう言ってガハハと豪快に笑う。


「し、ショウ君頼むね」


「船に降りてきたら、何とでもしますよ」


 そう言っている間に、その飛行船から飛び出した翼を持つペガスみたいな馬、飛馬が2体、上空を抑えに動いた。


「獅子鷲1、飛馬6、急速上昇中」


 そして今度は、地上の森から何体かの飛行生物が急速に上昇してきたとのゴーレムからの報告。

 これで空賊確定だ。


「だそうです、博士。命令してください」


「う、うむ。各塔のゴーレムは、射程に入り次第攻撃開始。では、我輩は船倉のゴーレムの準備をしてくる」


 そう言って、ごつい武器を持ったスミレさんに付き添われて艦橋を後にする。

 オレもこの狭い場所に居ても仕方ないので動くことにした。


「オレは右船体の上に陣取ります。ホランさん達は、左船体の上を」


「おうっ。甲板はレナ嬢ちゃんとヴァイスだけで十分だろうからな」


「頼みます。あとは、クロはオレに付いてきて、アイは艦橋を守ってくれ」


「畏まりました」


「うちらは?」


 そこにリンさんとハナさんがブリッジに顔を出す。


「リンさんって、戦闘で何ができましたか?」


「一応魔法戦士やで」


 そう言って、持っていた金属製の棍のようなものを見せる。


「じゃあ、アイと一緒にブリッジの防衛を、ハナさんもここにいてください」


「ブリッジ全体に防御魔法をかけた後は、治癒魔法の為に待機しておくわね」


「それでお願いします」


 指示を出すだけ出すと、オレは艦橋脇のハシゴを登って右船体の上、と言うか屋上に出る。

 吹きさらしの場所なので、普通なら油断をすると風に体を持っていかれかねないが、こっちの世界の体だと何の心配もない。

 だから気にせず空賊の動きに神経を集中する。


 空賊は、前方の小型飛行船共々、一斉に襲いかかる算段のようだ。

 しかしその機先を制して、船体中央の飛行甲板の前にヴァイスと一緒に陣取っていたボクっ娘が、魔力マシマシな弓矢を射かける。


 強力な魔法の弓で、魔力で速度、威力、そして射程距離が大きく増した矢は、狙い違わず前前方の飛馬の乗り手を直撃。

 というか、胸の辺りから千切れるように吹き飛び、遠目からでも赤いものが飛び散るのが見えた。

 確かに、以前より魔力が大きく増えた一撃なのが分かる。

 ボクっ娘も、一瞬自身の矢の威力に驚いていた。


 どうやら乗り手は、魔力なしかあっても少ないやつだ。

 そして重要な牽制役がその程度ということは、相手の全体の魔力量は知れてると見ていい。

 最初に『帝国』に来る時に出くわした襲撃者より、少なくとも魔力量では下回る連中だ。


 けどボクっ娘の攻撃が切っ掛けになり、一斉に襲いかかってきた。

 小型の飛行船も猛然と突進を開始し、こちらの船の船体上に乗り込んで来ようとする。

 それに対して、リョウさんの操船は冴えていた。

 オレでは真っ直ぐ飛ばすのが関の山だけど、暇を見つけては訓練していただけの事はある。



 リョウさんは、できる限り鈍重の振りをしてたのを、空賊の飛行船が正面から接舷して来る直前に加速&上昇をかける。

 予想外の動きだったので、空賊の小さな飛行船は対応できず。

 そしてそれだけなら空賊の飛行船を上に避けるだけだけど、交差する直前に今度は船体を少し右に振りつつ急降下。

 巨体を活かして、こちらの大きな浮遊石の船体を叩きつけた。


 その前後に人と動物の悲鳴と共に、「バキッ!」とか「メキッ!」とか砕ける音が響いてきたので、何が起きたのかは想像するまでもない。

 ちょっと下を見ると、バラバラになった小型の飛行船の残骸が、拘束を外せなかった天馬共々落下していくところだった。

 もっとも、後で調べると、こっちの船の船体の下に、空賊の飛行船の浮遊石の大半がへばりついていた。

 ちょっとした儲けもんだ。


 そしてリョウさんが大胆に船を動かせたように、前方上空に位置していたもう一騎の飛馬も、頑張って避けながら接近していたが、ボクっ娘のシャワーのような魔力のみの矢に捉えられて落ちていった。


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