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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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441 「ノヴァの大神殿(2)」

 なお、その日の夕方近く、一人の訪問者があった。

 鈴木副部長だ。

 現実の方で事前にノヴァに立ち寄る事を伝えてあったので来てくれたのだ。


「ヨッ! えーっとこっちではショウだったか?」


「あ、こんにちわ。なんとお呼びすれば?」


「まんまジローだ。でも、マジ飛行船持ってたんだな」


「領地のものですけどね。それより、おめでとうございます」


「おうっ。だがここは、別の一言が欲しいところだな」


 上機嫌に言ってくる。

 そしてこういう時、先達の『ダブル』が言うセリフは決まっている。


「そうでしたね。ようこそ、『アナザー・スカイ』へ!」


「おうっ! 何度聞いても、その言葉はいいな!」


 そう言ってグーを出してきたので、こっちもグーを出してタッチをする。

 するとそこに声を聞きつけたリョウさんもやって来て、しばし歓談となった。

 けど、そこで一つ軽いハプニングがあった。


「ん? んんっ? あ、あの、ショウ、あれって、もしかして、いや、もしかしなくても?」


 何かを凝視している鈴木副部長もといジローさんは、言葉だけじゃなくて態度もかなり混乱してる。

 そしてようやく、レナの事を一言も言ってなかった事に思い至った。


「あーっ、そう言えばずっとオフレコしてました。すいません、ご想像の通りです。けど」


「あ、ああ、分かってる。誰にも話さん。だが、そうなんだな」


「ハイ。レナーっ! ちょっと来てくれ!」


「ナニーっ?!」


「レナにお客さん!」


「誰ーっ……って、副部長!」


 飛行甲板でヴァイスがらみで作業していたレナが、飛行船の脇で話していたオレ達に顔を出し、そして一瞬固まる。

 そして諦めがついたのか、一瞬の葛藤の後にボクっ娘が飛行甲板からヒラリとジャンプして、オレ達の前に身軽に着地した。


「お、おう。久しぶり、でもないか」


 副部長がややぎこちなく手をあげる。

 初見でこの運動能力を見せられると、ビギナーなら少しビックリするだろう。


「は、はい。えーっと、ショウ?」


「まだ何も具体的には話してない」


 「そっか」ボクっ娘は小さくそう呟くと、数歩歩いて鈴木副部長の前へと位置する。

 そして真っ正面から見つめる。


「ショウやリョウさんには黙ってもらってたけど、私も『ダブル』です。でも、この事は絶対に誰にも話さないで下さい。お願いします」


 最後にかなり深めのお辞儀。

 なんとなくと言うか、かなりもう一人の天沢さんな感じだ。


「それは全然構わない。だが流石に予想外だった。しかもあの白い巨鷲、天沢、じゃなくてレナさんが、ショウがよく話してたシュツルム・リッターだったとはな。驚きで顎が外れそうになったぞ」


「アハハ、ごめんなさい副部長。ところで名前は?」


「ジロー。まんまだ。それと全然タメでいいぞ。ショウの話が確かなら、すげーベテランなんだろ」


「まあ三年半くらいだけどね。ジローさんも、船に乗るの?」


「この飛行船か? 載せてくれるのか?」


「部屋は空いてるから大丈夫です。けど、最初に一応忠告させてもらいますけど、多分すげー大変ですよ」


「だがリョウさんは一緒なんですね」


「色々凄い景色が見られそうだからね。浮遊大陸と邪神大陸を見られるって言うんだから、『ダブル』としての人生くらいかけても悔いはないと思っているよ」


「凄い決意ですね。俺も、乗り込みたい気持ちは今すげー盛り上がったけど、やっぱ止めときます。

 仲間とパーティー組んだばかりだし、リョウさんと違ってビギナーだから足手まといだろ。ショウ、いや月待、向こうで土産話だけ聞かせてくれ」


 意外にさっぱりした表情で、返事が返ってきた。

 

「はい。と言っても、いつも通りでしょうけどね」


「だな。まあ、オレもこれからは多少は話すようにするし、ほどほどでいいぞ」


「それは助かります」


「それで、今日の予定は……」



「おーっ、そこにいるのは、辺境伯にレナ少佐じゃないか!」


「アラアラ、少年、ご無沙汰ね。で、あの堅物はどこかしら?」


 鈴木副部長が何かを話そうとしたところで、空軍元帥と火龍公女さんが、それぞれお供を連れつつ別方向からほぼ同時に近づいて来た。

 そう、ここは飛行場。しかも夕方近くなので、出撃していた空軍の疾風の騎士や竜騎兵が、次々に戻って来つつあったのだ。


 そこで軽くお辞儀をして、右手を船にかざす。


「うちの飛行船が、レイ博士のおかげで予想より随分早く完成したから大巡礼に使おうと思って、オレとレナだけ旅先から戻って持ち出したんですよ」


「ほほぅ。これがエルブルス辺境伯の船か。大したもんだな。次の戦の折は期待させてもらうぞ」


「これから大巡礼なのに、そんな先の事を言わなくてもよろしいでしょう。それより少年、君ら面白い事してるわね。ネット見たわよ」


 火竜公女さんが、言葉と共に肘で脇を小突いてくる。

 貴族然とした振る舞いからのギャップがすごいが、こういう仕草も似合う人だ。


「そうなのか?」


「そういえば、元帥はリアルで情報見ない派だったわね」


「こっちでの事が薄れてしまいそうだからな。それで大巡礼が面白いのか?」


「邪神大陸にある聖地の一つを目指す予定です」


「おおっ! 私も一度行ってみたいところだ。だが、ここでの戦いにケリが着いてからだろうな」


「次の戦いって、だいぶ先なんですか?」


「うむ。今は魔導師連中を総動員して、樹海を燃やし続けているからな」


「そのうち、環境破壊とか言い出すお馬鹿さんが出そうなほどよ。だから、今は適当に偵察して、こぼれ出てきた魔物を摘むくらいしかする事がないの。だから私も、近いうちに領地に戻るつもり」


「そうなんですね。オレ達は、これから『帝国』経由で邪神大陸です」


「相変わらず剛毅だな。ん? 分かっている。それではな辺境伯、また会おうぞ」


 後ろの人が何かを耳打ちした。

 急いでいるのに、わざわざ声をかけてくれたのだ。

 火竜公女さんも、後ろのイケメン竜騎士に促されて綺麗なお辞儀をする。


「こちらもこれで失礼させて頂くわね。ではまたお会いしましょう」


「お二人もお元気で」



 嵐のように二人の傑物が現れ、そして去って行った。

 それを鈴木副部長とリョウさんが、半ば呆然と見ている。


「月待、いやショウ、マジであの有名人と知り合いなんだな」


「僕もあの二人を間近で見たの初めてだよ。仲も良さそうなんだね」


「かなり我が強い人達ですけどね」


「だよねー。ボクは二人とも苦手」


 それまで黙って後ろにいたボクっ娘が、首を大きめに竦める。

 それに二人が苦笑したけど、副部長が気を取りなしたような表情になる。


「それで、すぐ出発するのか?」


「明日早朝に出発予定です。今日もノヴァ滞在ですね」


「なら、ちょっとくらい飲まんか? 俺の仲間とかも紹介したいしな」


「喜んで。レナはどうする?」


「そうだなぁ。ねえ、副部長の連れに女子はいる?」


「ハッハッハッ、いないな」


「それじゃあ、男同士で行って来て。ボクはハルカさんのお友達と親睦深めとくから」


「だそうですジローさん。時間作ってくるんで、少し待っててもらえますか」


「おう。忙しいのに悪いな」


「わざわざ飛行場に来てもらったのはこっちですよ」



 そんな事を話しつつ、その日の夕食は鈴木副部長達と賑やかに過ごした。

 なおノヴァトキオ近辺では、一度に50人以上の緊急召喚者が新たに加わったらしく、副部長もパーティーを組むメンツには困らなかったそうだ。

 そして減ってもすぐに補充されてしまうところも、『ダブル』とノヴァトキオの強みなのだそうだ。


 確かに、この世界の一定以上の力を持つ魔力持ちは、一朝一夕には育成できないのだから、大きな視点で見ればこれもまた『チート』の一つなのだろう。


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