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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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440 「ノヴァの大神殿(1)」

「ここがノヴァトキオの大神殿か。マジ病院だな」


 ノヴァトキオに寄ったオレ達は、予定の夕方より少し早く到着したので、飛行場組、買い物組、そして神殿に行く組みに別れて行動した。

 神殿に来たのは、オレと中身がボクっ娘に戻ったレナ、それにレイ博士だ。

 レイ博士は古参の『大賢者』なので、当人の言う所の「一応」だけど聖魔タカシとは顔見知りなので、連れ添ってもらっていた。


 そして到着した先は、丈夫な鉄筋コンクリートで出来た素っ気ない造りの病院だった。

 看板のようなところに一応神殿の紋章が掲げられているけど、神殿を示すものと言えば、ほぼそれだけだ。

 聖堂のような場所もあるにはあるけど、外見は聖堂というより体育館だ。

 しかも聖魔タカシは、普段は聖堂ではなく「病院」の方で、精力的に現代医療と治癒魔法を施しているらしい。


 けど、オレたちの目的は別に聖魔タカシ、この神殿の聖人に会う事ではない。

 ノヴァトキオのここしか有していないという、現代医療の産物の入手が目的だ。

 そして今日は、その手の話をする為のアポイントメントだけでも取っておこうと、病院もとい神殿に入って待合や受付のような場所に向かったところで、幸運に巡り合った。


「アラアラ、ハルカちゃんの彼氏さんじゃない」


「あっ、ほんまや。元気しとったかー?」


 ハルカさんの友人のハナさんとルリさんだ。

 片方は少し看護師っぽいゆったりとした神官の法衣。ふわふわした雰囲気と髪型に良く似合っている。

 もう片方は、元気な関西弁がよく似合う、活発な現代風の出で立ちのスレンダーな女性。


「ご無沙汰してます」


「どうかしたの? 怪我や病気? それとも何かの相談かしら?」


「それに二人だけかいな? ハルカはどないしたん?」


「わ、我輩もおるのだが?」


「えろうスンマセン。て、誰? 新しいお仲間さん?」


「ま、まあ、そんなところだ」


「リンちゃん、この方はレイ博士よ。聞いた事ない?」


「れい、レイ、霊、……ああ、石人形作る人やな。って、有名人やん!」


 一人が関西弁なせいか、即興のコントを聞いているように錯覚してしまう。

 もっともレイ博士は、お仲間という言葉にかなり気を良くしている。


「オレ達の事は話すと結構面倒なんですが。あ、そうだ、今お時間取れますか?」


「私は今日のお仕事が終わったから、リンちゃんの愚痴聞き」


「せやねん。あんたらも聞いてくれるか? もう、めっちゃムカつくから、彼氏と別れて来てん。で、元彼の店飛び出して来たから、今晩宿なしなんや。もう、かなわんわ」


 おっとりの後、早口でまくし立ててくる。レイ博士は、半ばオレ達の後ろに隠れてしまうほどだ。

 オレとボクっ娘も、一瞬目を白黒してしまう。

 そこにハナさん、両手をゆるくパンと打つ。


「ここは神殿よ、静かにね。お話は別室でしましょう」




 そうして仕切り直して、入れてもらったお茶をすすっている。


「そう、そうだったのね。私、ハルカちゃんの為に出来る限りの事をしたいわ」


「うん、ウチもや。取り敢えず船に乗せてんか。料理やったら任しとき!」


 なんだか、すでに一人自己完結してる。

 それに二人とも、友達だからと言う以上の言葉だ。

 けど、彼女達の友人である彼女はこの場にいない。


「あ、あの、出来る限りのことはともかく、一旦船に乗ったら少なくとも2、3ヶ月は戻れませんよ。ていうか、いつ戻れるか」


「かまへんかまへん。今のうちは、宿無し彼氏無しの無敵状態や。まあ、あんたらと比べたら、ご飯作る以外、大したことはでけへんけどな」


「リン、行くのね。それじゃあ、私もご一緒するわ。3ヶ月くらいなら、旦那さんもタカシさんも良いって言ってくれるだろし」


「いやいや、旦那さんがいるのに、それはダメでしょ」


 意外に常識家なボクっ娘が、慌てて止めに入る。

 けどハナさんは首をゆっくり横に振る。


「いいのよ、ちゃんと話せば全然大丈夫だから。それにハルカちゃんが目覚めるまで、飛行船に船医さんや治癒師が必要でしょう。あと、誰が眠り姫なハルカちゃんに点滴をするの? 言っておくけど、点滴方法は一晩で覚えるようなものじゃないわよ。間違えると大変だし」


 きっと現実では医者か看護師なんだろうハナさんの言葉は重い。

 結局断りきれず、むしろこちらから頭を下げて頼む事になった。


 「うむ。情けは人の為ならずだな」とレイ博士はいい感じに話を締めくくったけど、確かにハルカさんの人徳や行いのお陰なのだろう。

 しかもハナさんの口添えで、明日聖魔タカシと会う事になった。

 もちろん話す目的は点滴の道具一式を持ち出す件だ。


 そしてその日の夜は、早速ルリさんがオレ達の飛行船に乗り込んで来て、一室と厨房を占領した。

 衣服などと一緒に調理道具や調味料も一部持ち込んでおり、なんだか一瞬で先に乗り込んだオレ達よりも自分の居場所を確保していた。

 しかも厨房を覗いて、あれがないこれもないと一人嘆き、ノヴァを出る前に調達すると息巻いている。

 さながら占領軍司令官だ。



 そして翌日。現実では特に何もないので、テンションを維持したままノヴァトキオ大神殿の主人との面会となった。

 と言っても、アポが取れた面会時間は極僅か。

 ハナさん曰く、この大神殿の聖人様は、仕事は最大効率、そして余暇は家族と過ごすのを何よりも大切にするのだそうだ。

 ただ雑事だと言って、治癒と治療以外を他に任せているため、周りが汚職をしたり増長しかねないのが、大神殿全体の欠点になっているのだそうだ。


 それはともかく、現状でのオレ達の面会時間が、聖魔タカシの昼食時間の一部を割いた僅かな時間しかないと言う事だった。



「それで、君がルカ君の彼氏?」


 愛妻弁当をかき込みつつだったので、お箸を突きつけてくる。

 少し古い日本人なイメージの人だ。

 見るからに頭良さそうな顔立ちで、小太り、白衣と、聖人ではなくまさにお医者さん。

 口調もざっくばらんで話しやすい。

 と言うか、問診を受けてる気分だ。


「はい。ショウと言います。それでお話ですが」


「うん。ハナ君から概要は聞いてる。ショウ君はエルブルス辺境伯だし、何よりルカ君の彼氏なら信頼しよう。好きなだけ持っていってくれ。ただし、管理はしっかりする事、絶対に他者に譲らない事、万が一の際は完全破棄する事。これだけ約束してくれ」


「必ずお約束します。それで、何か契約魔法とか必要ですか?」


「ハァ? 同じ日本人相手に、そんなものいらないいらない。それとも何? 僕がそういう人だと思う?」


「いえ全然。信頼してくれるのは嬉しいです」


「うん。それならオーケー。WinWinだ。けどハナ君を連れてくのかー。ちょっと痛いな」


 合理的な感じの人だけど、当事者の前でも思ったことをズカズカ言うタイプっぽい。


「あの、困るんでしたら」


「大丈夫。その辺もハナ君から聞いてる。当然の措置だし、彼女しかいないだろ。まあ、エルブルス辺境伯としての誠意は見せて欲しいところだがね」


 聖魔タカシさんの後ろの言葉は、ハナさんから言われていた事だ。

 賄賂は取らないが、半ば慈善的な事もしているので、病院もとい神殿経営は楽ではないそうだ。


「勿論、神殿には十分な喜捨をさせて頂きます。前金じゃありませんが、寄付金もお持ちしました」


「わ、我輩もな」


 付いてきていたレイ博士も、ようやく出番だとばかりに言葉を揃える。

 そうすると一度頷き、伝声管で誰かを呼ぶ。

 すぐにやって来たのは、事務っぽい人だ。と言うか、矮人ドワーフだ。


「金のことは、事務と庶務に言ってくれ。他に用立てして欲しいものもな。用件はこれで終わりかな?」


「えーっと、ハイ」


「うん。それじゃあ。ああ、一応、神々のご加護があらんことを。ま、ルカ君なら大丈夫だろ」


「はい。色々有難うごいました」


「うん。お大事に」


 そう言うと、もう別の事に関心を向けている。

 ボクっ娘を連れて行くなとハナさんに言われたけど、これが若い女性同伴か、オレか博士が若い女性なら反応は違っていたのだろうか。


 その後は係の人と寄付のやり取りをして、必要な品の発注などを行う。

 そしてすぐにも用意された品を荷馬車に積み込んで、飛行場のエルブルス号へと戻った。


 そして昼前だったけど、エルブルス号は慌ただしかった。

 と言うのも、ルリさんが威勢良く状況を仕切っていたからだ。

 オレ達が積み込んでいた食料が気に入らないらしく、大量に追加で買いに行かせたり、一部は積み替えたほどだ。

 他にも調理器具、生活用具、寝具、衣服など、ノヴァで生産された沢山の製品を業者やお店の人が次々に持って来ていた。

 一部は乗船しているうちの獣人や矮人が買いに行かされてもいた。

 ホランさんまでアゴで使われているのは、おかしみを感じてしまう。


 そして居酒屋をしていると言うだけあって、現代日本での普通の料理なら大抵は作れるらしく、運び込まれる食材は実に多彩だ。

 据付の冷蔵庫では足りないので、ノヴァ最新の魔石型冷蔵庫までもが船に運び込まれていた。

 レイ博士が、魔石の魔力が足りるかと心配するほどだ。


 そしてお店で買い込んだ昼食後も作業は続き、夕方近くになると病院じゃなくて神殿からは、追加の治癒薬などが届き、ハナさんも長旅に必要な荷物を持って来た。

 けど出発は明日の早朝なので、旦那さんの居るハナさんには、早朝合流で帰ってもらった。


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