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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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438 「レナの覚醒?(1)」

 シーナの街で眠って起きるとオレの部屋。

 今はどっちも一人で寝てるので、違和感は一番少ない感じだ。

 朝はまだ早く、10月も半ばなのでまだ外は暗いけど、いつものように『夢』の記録を始める。

 飛行船の構造などはリョウさんが絵にしてメールで送ってきてくれているので、書く際の参考にできて助かった。


 そして『夢』記録が終わって時間もあるので、今日は朝のトレーニングに出ることにする。

 今日はオレの学校が代休なだけで平日の月曜。

 けど、もう両親は起きててマイダディは朝食中だった。

 そんな二人には軽く挨拶して外に出て、まずは家の前で軽くストレッチ。そこから軽くランニングし、さらに今日は代休で時間があるので、近くの公園で軽く筋トレもしておく。


 中学の頃は、この手の事はそれなりにしていたけど、剣道そのものは稽古の時以外した記憶が殆ど無い。

 だから伸びなかったのかもしれない。

 周りからたまに言われるけど、今の方が「見えて」いるし体も動く気がする。

 体が入れ替わるけど、多少は技術的なものが持ち帰られているのだろう。

 筋力とかはどうにもならないけど、こうして多少はトレーニングしておけば恥をかく事もないだろう。


 それはともかく今日の予定だけど、昼前から夜までバイトの予定。

 来週から中間試験なので、週末から勉強に本腰入れるべく次の週末は殆どバイトに入らないので今日入れてあった。

 だから今日は玲奈についてやれない。


 玲奈は、昼からシズさん達が属しているモデル・芸能事務所の人と会う予定だ。

 そちらにはシズさんが立ち会うし玲奈の親御さんも一緒なので、特に問題はない筈だ。


 そう、問題はない筈だ。

 何しろ今朝、玲奈からのグループ用のメッセージが届いていた。

 ボクっ娘ではなく玲奈の、だ。


 入れ替わった時点で、意識すれば戻れたのだろう。

 精神的には随分強くなったと思うので、オレとしては特に心配はしていない。

 これからの事も自分で決めるだろうから、オレが側にいたりしたら逆に邪魔になるくらいじゃないだろうか。


 だから『戻ったよ。今日はお話をちゃんと聞いて判断するね』と言うメッセージに、『シズさんにアドバイスくらいもらっとけよ』とだけ返した。

 応援はともかく、頑張れとかの言葉はいらない筈だ。


 そしてその日のバイトの休憩中にスマホを確認すると、『お話を受ける事にしました。まずは基礎のレッスンからだって。でも私だと、背が低すぎるから制限多そう。それに凄く緊張した』とメッセージが上がってた。

 それに『やったな! 応援するよ』と返すと、『精一杯やってみる。でも、応援は今活躍してるシズさんやトモエさんにしてあげてね』とさらに戻ってきた。

 その間、シズさんも少し書き込みがあったが、今度会った時に経緯とかは話すとの事だった。

 

 その後も似たようなやり取りをした後、オレとしては次に気になる事をメッセージした。


『入れ替わりの方はどんな感じ?』


『違和感はないよ。むしろ自然すぎるくらい。それと頭がちょっとスッキリしてる感じがする』


『向こうの事とか意識できる?』


『それは出来なくなってる。それに、もう一人の私の知識や技術も、昨日と違って感じ取れなくなってる』


『じゃあ、分離というか二人に別れるのが進んだのかな?』


『かもしれない。今晩、もう一人の私に聞いておいて』


『了解』


『あと、もう一人の私、面白すぎ。私ももっと色々残しておけばよかった』


『それも伝えとくよ』


『お願いね』


 そんなやり取りをしているうちに、バイトの休憩時間も過ぎていった。

 そして帰る前にもう一度メッセージを見ると、グループに属しているトモエさんと悠里の書き込みで一杯になってた。

 だからその後は、メールで一通入れた後に電話して、メッセージと似たような事を話し合った。




 そして就寝して『夢』の向こう側。

 出発の日の早朝、ボクっ娘に戻っていたこっちのレナが問いかけてきた。


「昨日、いや今日か。もう一人の天沢さんはどうだったー?」


「えっ? お前も見えなくなってるのか?」


「うん、全然。それに、また遠くなった感じ」


「そっか。向こうの玲奈が、もう一人の私の知識や技術が感じ取れなくなってるって言ってたから、分離が進んだのかもな」


「ボクもそう。あとね、多分だけど魔力が一気に増えた気がする、見て」


 そう言って魔力の放射を抑える指輪を外すと、確かに前より格段に増えた感じが伝わってくる。


「確かに。どういう事だ?」


「さあ、博士にでも聞いてみようかと思ってる。向こうでも、シズさんに聞いといて。でもボクの予想だと、もう一人の天沢さんの分として、どこかにプールされてたんじゃないかなって気がする」


「この世界にオレ達を呼んでる連中が、今まで二人と認識してて、いつでも来れるように確保か保留し続けたとか?」


「そんな感じじゃないかな? 分かんないけど。でも、ボクだけ魔力があんまり増えなかったのは、二重人格が関係してたのはこれで確実だと思う」


「なるほどね。あ、そうだ、クロ」


「ハイ、我が主人」


「レナの魂の繋がりと、魔力の様子って分かるか?」


「少々お待ちを……」


 シーナに来てから猫獣人な執事の状態でオレに付きっ切りになっていたクロが、機械のごとく作業というか計測を開始する。

 こういう時、特に便利な奴だ。


「魔力総量の大幅な増加は確認しました。この魔力総量でしたら、わたくしの同種の存在の主人となる事も出来ましょう」


「それでもショウの方が多い?」


「はい。しかし、レイ様よりは多く御座います」


「おーっ、じゃあヴァイス抜きでもSランクかー。で、今まで低かった原因とか分かる?」


「不明です。これは推測になりますが、常時魔力が体から別の場所に漏れて流れ出していた可能性が高いと考えられます。ですので、本来の魔力総量に戻っただけかと。

 また、報告を続けさせて頂きますが、二重人格的な繋がりは、さらに薄くなっております」


「えっと、じゃあもう一人の天沢さんを、別の人として認識できたりする?」


「別の人ではありません。今も認識可能です。仮に別の人になった場合、もう一つの人格に依り代をご用意する事になりますでしょう」


「まあ、それは目標点の一つだね」


「つまり目の前のレナと一つの魂のままか」


「左様です。この点に変化は御座いません」


 そこで一度、クロが慇懃にお辞儀をする。

 報告終了という事だ。


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