435 「返答(2)」
「おおっ、ちゃんと返事きたんだ。良かった良かった」
その後すぐ近くのファストフードでトモエさんと合流し、そのまま駄弁りこむ。
トモエさんはオレの「活躍」を弄るつもりだったけど、機先を制して返事の件を切り出した。
「トモエさんにも全面協力してもらいましたしね」
「プライベート情報とかねー。それで返事の相談って、シズさんも交えてする?」
「シズ、今日は遅いって連絡あったから、私達で決めちゃおう。返事があんまり遅いとダメだし。それで、二人の今後の空きスケジュールは?」
「もう一人の天沢さんは、シズさんの家庭教師以外はノープロブレム。あ、でも、明日はダメだね」
「オレは来週埋まりまくりです。土曜の夕方までくらいですね」
「えーっと私は……」
と、トモエさんは、スケジュール帳を出して確認している。
女子はスケジュール帳を持っている事が多いけど、トモエさんの場合はガチで仕事予定とか書いているんだろう。
「……土曜の午前中なら大丈夫。10時から昼にかけてで如何でしょうか、くらいにしとく?」
「はい。じゃあ、文面考えましょうか」
そう言いつつメモ帳を取り出す。
そして3人で文章を考えて、下書きの内容を確認してもらってから返信する。
「これで返事待ちだね。土曜ならシズも休みだから、多少離れた場所でも車出してくれるって言ってたから」
「最近仕事忙しいんですね」
「仕事は普通。今忙しいのは、家の神社の方もあるから。祭りは平日だから言って無かったけど」
「ボク、というか、もう一人の天沢さんは周知だけどね」
「えーっ。なんでみんな教えてくれないんですか?」
意外だった。
けど、秋祭りと年末年始は忙しい的な事を言っていたので、今がその時期なんだろう。
確かに今は秋祭りシーズンだ。
そしてオレのブーイングに、主にトモエさんがなだめに入る。
これが玲奈ならともかく、ボクっ娘では効果がないと踏んだんだろう。
正しい判断だ。
「伝統は動かせないって事で祭りは平日だし、地元だけのものだからね。それと屋台とか少ししか出ないし、マジで地味」
「それでもお神輿とか獅子舞とかあるんじゃあ?」
「お神輿だけだね。神社の脇に倉庫があったでしょ。あの中にあるよ。あと私らは、氏子のジジババを黙らせる為に、お神楽の練習。今日はシズの番で、私も午前中参戦してた。
舞はもう覚えてるから、ジジババに練習してますよって見せるだけだけどね。これが煩いんだ」
そうトモエさんは、後ろ手を組んで呑気に言う。
「えっと、運動会に来てて良かったんですか?」
「学校の用事って言ってある。あ、それと玲奈の事務所の件だけど、話して良いのかな?」
「うん。向こうでもう一人の天沢さんが聞いてるし、ここには記憶が残ってるから全然平気」
そう言って頭を指差す。
「なんかそういう言い方すると、スッゲー便利に聞こえるな。あ、ゴメン」
思わず感心しそうになる。
しかし感心して良い事じゃないので、ちょっとバツが悪い。
しかしボクっ娘は、小さく苦笑くらいしかしない。
「まあ、ボクとしては、互いを覗き見できない状態でのリバーシブルなら歓迎なんだけどね。たまにこっちに来たいし」
「向こうで体もう一つはともかく、こっちで二つってわけにもいかないもんね」
「向こうで二人だと、ショウがその内干からびちゃいそうだけどね」
「だよね。ショウ君は私の愛人でもあるし」
そう言って軽くウィンクしてくる。
それに対して、ボクっ娘が珍しくジト目状態になっている。
「トモエさん、それマジに思ってる?」
「マジだよ。ショウ君には、シズを助けてもらった感謝しかないし。勿論、レナやハルカにもね。あと、アクセルさんだっけ? あの人にも一度お礼に行かないと」
「オレは、みんなまとめて宴会でも開いて奢ってくれるくらいで十分ですよ」
「そう? まあ、レナやハルカに返せるものが当面なくて困ってるし、不公平も良くないかもね」
「ハルカさんは、今回の件でチャラって言うと思いますよ」
「おっ、流石分かり合ってるねぇ。レナ、負けちゃうぞ」
「良いよ負けで。ボクも、ハルカさんには恩があるし。それにボクが狙ってるのは二号さんだから」
「恩だったら、今返そうとしてるから、叶えばチャラなんじゃあ?」
「あー、それはそうなるのか。けど、ボクはそれで十分だよ」
「レナにしては弱気だね」
いつの間にか、オレの件で恋バナっぽくなってて、しかも二人ともかなり真面目に話してる。
思わず席をはずしたいと思うけど、二人の視線に止められてしまい、気まずくコーヒーを飲むくらいしか出来ない。
「あのねトモエさん、ボクの場合、さらにもう一人の天沢さんも居るんだよ。その上、現状だとポッと消えちゃうかもだし。今はそれ以上望めないんだよ」
「そっかー、ゴメンね。ショウ君も大変だね」
「そうでもないですよ。少なくとも消える心配ないって思ってますし」
「おっ、強気の発言。その根拠は?」
トモエさんが何か面白いものを見つけたように、興味深げに見つめてくる。
「オレ、『夢』の関わることは、楽観主義になるって決めてるんです。でないと、奇跡なんて信じてられませんから」
「確かにそうだよね。でも、男だね。マジ惚れるかも」
「でしょ。偶にこういう所見せるんだよね、ショウは。その上、向こうだとあの強さだし」
机に片膝をついて、そこに顔を乗せたレナが、「どうしてこうなのかなー」みたいな感じで見てくる。
「強さは関係ないだろ? それにオレが出来る事って、前に向かって進むか、剣を振り回す以外にないだけだって」
「その結果、今やオクシデント有数の剣士様だよ。ノヴァの頃に苦戦してた上級悪魔も、もはや敵じゃないって感じだったし」
「私より凄いよね。驚いた」
「トモエさんは、魔法のヴァリエーションの豊富さとか、オレにないもの一杯あるでしょ。贅沢ですよ」
「そうだよねー。でも、そういう事言っちゃダメだよショウ。トモエさんだって努力した結果なんだし」
「あー、魔法は私マジで努力してないんだ。細かいことは現地着いたら話せるけど、今はゴメンね」
ボクっ娘の言葉に、トモエさんの苦笑交じりの言葉が続く。
「何か秘密があるんですね」
「それは着いてからのお楽しみ。これからの旅に秘密の一つや二つないと、面白くないでしょ」
さも楽しそうにトモエさんが笑う。
確かに、面白い事、楽しい事の一つや二つないと、やってられないかもしれない。





