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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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427 「再び竜の里へ向けて(2)」

「うん。まあ、毛布は別々にするから、我慢して」


「いや、むしろ背徳感を感じるご褒美な気がするんだが」


「それを言わないで。ボクは二人に後ろめたさしかないから」


 ボクっ娘の言う二人とは、ハルカさんともう一人の天沢さんだ。しかもハルカさんは今現在眠り姫で、もう一人の天沢さんはこの状況をリアルタイムで見ているとなると、尚更そう思うだろう。

 けど、オレにはもう一つ懸念がある。


「その辺はオレも飲み込むよ。けどさ、もう一つ聞いていい?」


「何? 着替えと湯あみの時は、流石に外に出てよ」


「それは勿論。それより、今二人のレナは互いに五感とか共有した感じなんだよな」


「だから困ってるんでしょ。本当なら悪戯の一つもするところけど、もう一人の天沢さんが見てるから……あー、っもう、どうしてこんな時に!」


 ボクっ娘にしては珍しいけど、他にぶつけようのない感情を持て余している。

 けれど、オレの問題はそこではない。


「だから五感を共有してるなら、これってもう一人の天沢さんとオレが一緒に寝るのも同じなじゃないか?」


「そうだけど、見ている側の感覚も少しボンヤリしてるから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うよ」


「けどさ、もう一人の天沢さんには刺激が強すぎないか? 昨日、軽くハグしただけでも、スッゲー心臓バクバクしてたぞ」


「あー、そうだったね。で、言いたい事ってのは、つまりショックで入れ替わるかも、とか?」


「うん、ありそうだろ。最近ただでさえ不安定だし、互いの状況が見えてる時点で前に戻ってるわけだし」


「「……」」


 しばし、二人の間に沈黙が降りる。

 

「どうしよう?」


「な。せめてオレが、床で寝る方がいいだろ」


「そうかもだけど……いや、ちょっと実験してみよう! 今思いついた」


 訳が分からないので、大げさに首を傾げる。

 すると、ニヤリと笑ういつものボクっ娘の顔があった。


「故意のショックで入れ替わりが制御できるんだったらさ、ちょっと便利じゃない?」


「……言いたい事は分かったけど、自分を実験台扱いか? 一番危険そうなのは、こっちのレナだろ。それと、お前の向こうのもう一人の天沢さんは、きっと今心の悲鳴を上げてるぞ」


「それはそれでショック療法でいいじゃない。もう一人の天沢さんは、ショウとハルカさんみたいに、もっとイチャイチャしたらいいんだよ。そうしたら、ボクだってイチャイチャしやすいし」


「今、かなり本音が漏れてきてるぞ?」


「いいんだよ。どうせ今は三人だし。もう一人の天沢さんだって、ボクの気持ちくらい知ってるよ。だいたい、ボクのショウへの感情のかなりは、もう一人の天沢さんに引っ張られてる感じがヒシヒシするし」


 なんだか、いつもと違い別の意味で攻撃的な言葉がどんどん出てきている。

 こっちとしては、もう大きなため息しか出てこない。


「えーっ、その溜息は酷くない? ボク、スタイルはあれだけど、可愛いでしょ?」


「そういう問題じゃないだろ。けどまあ、全部飲み込むよ。オレも、もう一人の天沢さんとイチャイチャしたいしな」


「ブーッ! その言い方は嫌いだ。じゃあ止める!」


「それじゃあ、目の前のレナとイチャイチャするのは?」


 ちょっと拗ねた感じが可愛かったので冗談交じりに煽ってみると、目を大きく開けてキョトンとした表情を見せる。

 しかしすぐに、少し慌てた表情に変化する。

 これだけ表情を変化させるボクっ娘も珍しい。


「い、いや、それはまだダメ。言ったでしょ、二人に後ろめたいって。添い寝じゃなくて、一緒に寝る以外は絶対ダメ!」


「添い寝って、本音が漏れてる漏れてる。まあ、気が向いたら、オレを抱き枕にでもしてくれ。それじゃあ、湯を頼んでくるよ」


「モーッ、ショウの馬鹿!」


 なんだかラブコメを堪能して、神殿の人に声をかけてオレの部屋に湯を運んでもらうように頼み、さらに寝酒とツマミを二人分確保。ついでに体も綺麗にしておく。

 そして小一時間ほどしてから部屋へと戻った。



「どうぞー」


 3回ほどノックすると、いつものボクっ娘の声。

 なんだかハルカさんと以前こんなやり取りがあったなーと思っていると、内鍵が解除されて扉が開く。

 流石に一張羅じゃないけど、いつもと違ってこの世界のパジャマ姿だった。

 少しぶかぶかだけど、かえって可愛さが引き立っている。


「はい、お土産」


「お土産って、酒とツマミじゃない。すぐ寝るつもりなのに」


「じゃあ、朝返すよ」


「それより体綺麗にしてきた?」


「うん。外の井戸で一通り」


「男はいいよね。そういうの気楽で」


「疾風の騎士してても、やっぱ女子は大変か?」


「神殿は女の人も多いから、多分だけどオクシデントの大きな組織の中じゃあ、一番マシだとは思うけどね」


 言葉を交わしながらオレは部屋に入り、ボクっ娘が部屋の鍵をしっかりと閉める。

 すでに木製の窓も固く閉じられているので、完全な密室だ。さらにボクっ娘は、魔法陣を一つ展開して何かを施す。

 ハルカさんやシズさんも使っていた防犯用の魔法だ。


「じゃあ寝るけど、ショウは奥ね。お先にどうぞ」


「りょーかい」


 そう言って服を脱ぐ。


「いや、そこでなんで脱ぐの? 怒るよ」


「オレも寝巻きに着替えたいって」


「あー、忘れてた。もうっ、後ろ向いてるから早くして」


「はいはい」


 ボクっ娘はオレの半裸くらい平気だと思ってたけど、存外そうでもなかったのはちょっと意外だった。

 そういう気持ちが、どうやら伝わってしまったらしい。


「ショウ、一応言っとくけど、ボクも女子だから、二人きりの時は相応に気を使って。それに今は、もう一人の天沢さんも見てるから」


「あー、なんか、ごめん。ハルカさんは普通に平然としてたから、つい」


「そうなんだ。まあ、ハルカさん治癒魔法使いだもんね。患者とかで裸は馴れっ子か」


「うん。そんな事も言ってたな。そのセリフのまま、半裸にされた事もある」


「仲良いね。じゃあ寝よっか」


「おう」


 そう言って横になったはいいが、よく考えなくてもボクっ娘と二人っきり、しかもこの距離で寝るのは初めてだ。

 しかし今日のボクっ娘は完全に真面目モードらしく、こちらに背を向けて何かをしようともしてこない。

 オレも逆方向に体を傾けて目を閉じて、なるべく無心になろうとする。

 そして今のオレは昔のオレじゃない。

 ハルカさんとだって、似たように寝た事もある。エロい心を抑えた経験もある。

 ダメなら素数を数えよう。


 そんな事を思っていると、自然と睡魔に襲われていた。


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