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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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425 「運動会(2)」

「そうです。ネット、いやゲーム上で親しくなって、オフも会おうって話にまでなっていたんです」


 嘘くさい言葉や態度になっていなければと言葉を続ける。


「その話は、常磐さんからも聞いてます。ご家族に直接会って伝える事があるって言うのは?」


「亡くなられたんじゃないかって、巴さんから聞きました。だから、ご遺言の一つになるんじゃないかって思ったんですが、生きてる、じゃなくてご存命なんですか?」


「い、いえ、詳しい事は知りません。でも、そういう話でしたら、直接ご家族とご連絡した方が良いですね。分かりました、連絡先をお教えします。

 ただ、私も2年近く前に遥と教えあった緊急の連絡先の一つなので、今も通じるかは分かりません」


 そして言葉の最後にスマホを取り出して、事前に番号なりアドレスを交換してあったのであろうトモエさんにメールが送られる。


「はい、分かりました。あ、受信完了。このアドレスが、ご家族の連絡先ですね」


「そうです。母だって言っていました。二つあるのは、パソコンとスマホのアドレスです。それと、出来れば誰から聞いたかはご家族には内緒で。遥も、連絡先はあまり教えたがらなかってたから。だから教えた連絡先には、一度も連絡は取っていません」


 言葉の最後が、年相応な感じになった。

 ハルカさんとはかなり親しかったんだろう。


「オレ達が、ネット上のゲームで遊んでいる時に教えてもらったって事にします」


「そうしてもらえると助かります。けど、あのハルカがオンライゲームしてたとか、ちょっと意外です」


 そう言って少し寂しげに笑う。


「そうなんですね。オレ達は、ゲーム上でしか知らないんですよ。それにこれはお互い様なんですが、学生って以外で年齢性別すら知りませんでした」


「ネット上だとありがちですね。SNSで交流はしてなかったんですか?」


「ハルカさんの方は受動的な交流だったんで、連絡手段が今まで無かったんです。今回は本当に運が良かったです」


「そうね。でもこんな偶然があるんですね。あ、それとですけど、常磐さん、何か分かったりしたら連絡もらえますか?」


「もちろん。意識不明でも生きてたら良いですよね」


「本当に。死んでないなら、可能性はあるもんね。それじゃあ、宜しくお願いします」


 そう言って丁寧にお辞儀をすると、そのまま去って行った。

 そしてこっちも一通り別れの挨拶をすると、すぐにどこからかメールが届いた。

 と言うか、トモエさんだ。

 すぐ横でスマホを操作している。


「ハイこれで全員にメール送ったよ。連絡は誰が取る? 私がした方がいい?」


「オレがするべきでしょう」


「そうだな。だが文面はみんなで考えよう」


「お兄ちゃんだけだと、ボロ出そうだもんなー」


「私はどうしましょう? ハルカさんの事だから直に関わりたいと思って付いてきましたけど、何もしてないし、多分できないですし」


「それで十分だと思うよ。それに、向こうのレナに色々話す手間も省けるしな」


「そう言う面もあるな。それじゃあ、ショウがボロを出さないためにも、夕食でも食べながらみんなで考えよう。トモエ、すぐに帰れるか?」


「私は今日はいなくてもいい人だから問題なし。一応、友達にバイバイ言ってくるね」


「ああ。駐車場で待っている」



 そしてその後、スーパーで買い出ししてここから近い、トモエさんとシズさんのマンションで夕食を取った。

 そこでまとめあげた文章を、そのままハルカさんの母親、山科薫さんに送信。

 これでこの手は結果待ちだ。

 そしてこれがダメでも、トモエさんの先生へのアプローチが残っているので、直接よりもむしろそっちを期待していた。




「うまく連絡がつくといいね」


「そこからがまた大変そうだけどな」


 そして常磐姉妹のマンションからの帰り道、玲奈と悠里と一緒に電車で家まで帰る。けど妹様が少し気を利かせて、オレを玲奈の家まで送るように電車から送り出してくれた。


「ショウ君は、ハルカさんが意識不明で生きてると思ってるの?」


「向こうでの寝たきりになった状態とクロの説明を信じるなら、十分有りえそうだと思ってる。けど、意識不明じゃなくて植物人間だったら、現代医療だとどうしようもないんだよな」


「確か回復した人もいたはずだよ。本当に生きてたら良いね」


「そうだな、そうしたら玲奈もまたハルカさんと会えるな」


「そ、それなんだけど……」


 玲奈の家も近いので、いい感じに話をまとめようとしたけど、そこで玲奈が立ち止まる。


「どうした?」


「その前みたいに、また私入れ替わって、向こうでショウ君達と会えるかも」


「互いの事を『夢』で見てるからか?」


「うん。どんどん鮮明になってる感じがするの」


「なんでだろうな」


「多分だけど、私の精神状態が不安定なせいだからだと思うの。私ともう一人の私がいるって、解離性障害でしょ」


「そうなんだろうけど、なんか前みたいな感じがあるのか?」


「そこまでは。でも、このままだと不安定なのが続くし、万が一入れ替わったら、これからショウ君達がしようとしてる事に迷惑がかかりそうでしょう。それも不安で」


 不安と言うなら、ちょっとスキンシップと思い握っている手の方の腕の力を少し強めて、軽くハグしてみる。


「な、何を!?」


「いや、肌を触れ合えば落ちつたりしないかなって? ダメかな?」


「む、むしろビックリしたよ。……ハルカさんとも、その、よくハグとかしてるの?」


「最近は離れてたり忙しかったりで全然。けどオレが寝てる間に、向こうからハグしてた事もあったらしい。だから玲奈も、その、まあオレでよければもっと甘えてくれても全然オーケーだぞ」


 そう言うと、今度は玲奈の方からオレに寄りかかってくる。


「こ、こう、かな? って、こんな場所でダメだよ!」


 家のすぐそばの道という事を思い出したのか、慌ててオレから距離を取る。

 もっとも、この辺りは人通りも少ないし、昔の家が多いせいか街灯もあまり多くはない。

 それどころか、この辺りまで来たら歩く人の姿も殆どなかった。だからこそ、オレも少し大胆になれたのだ。

 けど、ダメと言われたら引き下がるしかない。


「ごめん、馴れ馴れしかったな。けどさ、不安とかはどんどん言ってくれな。注目を集めるのとかじゃあ何が出来るかわからないけど、愚痴とか不安を聞くくらいは出来るから」


「う、うん、ありがとう。あ、もう、ここで良いよ。それじゃあまた明日」


「うん、また明日」


 玲奈は言うだけ言うと、小走りで自宅の門扉の方へと走って行った。

 これが向こうでのオレとハルカさんなら、ハグからキスの流れだけど、まだ玲奈には無理だったようだ。

 それにこれくらいで良かったかもしれない。


(そういや、向こうのレナがデバガメしてるんだよなー。気をつけよう)


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