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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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421 「眠り姫?(2)」

「それは分かった。次だけど、こうなった原因は分かるか?」


「ハルカ様の魔力総量が急速に増えすぎたので、本来なら「客人」に働く安全弁とでも申すべき、一気に取り込みすぎた魔力が体内に使えない状態で飽和している可能性があります」


「なるほど。体内の魔力の事自体は、私には分かりかねます」


「アイが正常なら何とか出来るのか?」


 聖女二グラスとシズさんが、続けざまにコメントを添える。

 そして側の女性型甲冑なアイの言葉を待つが、首を横に振った。


「誠に申し訳ありませんが、私自身の本来の能力が把握できておりません」


「覚醒というものをしなければ、それすら分からないと言う事か。済まないな、余計な事を聞いた」


「とんでもありません。お力になれず、心苦しい限りです」


「じゃあさあ、アイをウィンダムまで連れて覚醒させる?」


「出来るのか?」


 ボクっ娘の言葉にシズさんが聖女二グラスへと視線を向ける。そしてそれに、聖女は首肯した。


「クロに情報を伝えます。そうすれば、クロが私がミカンに処置した覚醒は可能です」


「じゃあ、やる事は一つ決まりだ。すぐに行こうよ!」


 今まで黙ってた悠里が少し元気になった。

 ボクっ娘もウンウンと強く頷いている。

 するとそこに、同じく沈黙していたトモエさんが挙手する。

 しかもかなり大ぶりな感じで、挙手した右腕がまっすぐに天を指している。


「あ、あの! この場では契約魔法で話せないけど、可能性が一つあるんだ」


「何の可能性だ。それすら口にできないのか?」


 シズさんが、少し咎める感じで問いかける。

 何だか姉妹喧嘩の一場面、悪さをした妹を姉がなだめるという雰囲気だ。

 トモエさんが魔法を沢山使える事と関わりがあるんだろうか。トモエさんの隠し事といえば、それくらいしか思い浮かばない。


「解決策があるならって今まで黙ってたけど、魔力の流れを良くしただけで治る保障もないよね。だから、私が案内する場所に行ったら、もっと詳しい事が分かるかもしれないし、もしかしたらの可能性もあるんだ」


「それ以上は言えないか?」


「あと一つ」


「何だ?」


「行き先は、邪神大陸」


 少しバツ悪そうなトモエさんが、最後にちょっとだけ悪戯っぽい表情になる。

 黙ってたと言うより、もしかしてタイミングを見計らっていたんじゃないだろうか。

 何しろ危険極まりないと言う邪神大陸に乗り込むとなると、相当な覚悟と準備をする必要がある。

 しかしオレに否はない。


「アイが魔力の流れを良くするよりも、ハルカさんが治る可能性が高いんですね」


「言い切れないけど、多分。少なくとも、聖女様よりも『帝国』よりも古い知識を持ってるから」


「トモエ、それは半分答えを言ってるようなもんだぞ」


「えっ? そう?」


 オレには分からないけど、念のため聞くべき事を一つ思いついた。


「一応聞きますけど、神々の塔へ行くとかじゃないですよね」


「それはないない。私も行った事ないし、別口。あー、これ以上喋れないなあ」


 トモエさんが少しだけ口をパクパクさせる、トモエさんの凄い頭脳とやらでも、契約魔法のロックは有効らしい。

 けどこれで方針は決まった。

 けど、さらにトモエさんが続ける。


「あと、邪神大陸は人の拠点が殆どないから、飛行船がないと辛いね。まともな生き物が少ないから、食べ物の現地調達も難しいし」


「だよねー。ボク達も持てるだけの保存食とか持って行った事あるよー」


 解決の糸口が見えたのか、ボクっ娘の声がほぼいつもの調子に戻ってる。


「『帝国』は出してくれるかな?」


「あれだけ魔物は倒したんだし、濡れ衣の件もある。こっちの貸しは山ほどある事になる。それに『帝国』も、邪神大陸の魔物どもには借りがある。頼む価値はあるだろうな」


「でもさ、『帝国』が邪神大陸行く時、艦隊組んで大軍で行くだろうから、準備期間がいるよ。しかも行くとしたら、復讐戦か掃討戦って事になるから、大艦隊を準備するかも」


「そんなに危険なんですね。じゃあ、冒険者というか『ダブル』は頼れませんか? 雇う形とかで。確か、この大陸の西の方にギルドがあって、邪神大陸で魔力稼ぎしてるガチ勢が居るんでしょう?」


「そっちルートだと、浮遊大陸の近くの島の港から船のルート一択。だから少し時間かかるね。

 でも空からだと、普通は魔物が襲ってくる事が多いから、無理ゲーなんだ」


「トモエさんも船で?」


「最初はね」


「という事は裏技あり?」


「一応。けど、飛行船が1隻かせいぜい2、3隻までの戦力で行かないとダメだし、目的地に辿り着けるかは半分賭けになるね。このメンバーなら、襲われても大丈夫だとは思うけど。

 それでだけど、『帝国』が少数で邪神大陸行く事に、首を縦には降らないと思うなあ」


「そうだな、国が博打のような事をするわけにはいかないからな」


 シズさんが昔の事を思い出すように嘆息する。


「じゃ、じゃあさ、いっそ神々の塔に行くって事で、『帝国』に協力してもらえないかな?」


「悪くない案だけど、本当に行かないといけなくなるし、勢力の削がれた急進派のやりたい事だから、難しいだろうね。それに私達は、『帝国』では穏健派に属しているから」


「そっか。色々難しいんですね」


 妹様がシズさんの諭す言葉に消沈する。

 しかしそこにオレは、光明を見た。


「飛行船なら領地にあるでしょ。今、レイ博士達が整備中だし、あっちでリョウさんに動かせないか聞いてみます」


「しかしリミットは1ヶ月だ。すぐ動けないとマズイぞ」


「はい。あくまで策の一つって事で。うまくいけば、自前で一月以内に行けるでしょう。だよな、レナ?」


「えーっと、エルブルスから軍用の飛行船だと2、3週間で邪神大陸まで行けるから、すぐに出発出来れば時間は十分だね。それにあれは、ヴァイスとライムも載せられるから一番向いた船だよね」


「なんだ、飛行船あるんだ。凄い」


「誰かの落し物をもらったんですけどね。しかも今、整備中です。だから、まだ使えるかも分からないんですけどね」


「そっか。でもその船に『ダブル』が関わってるんだ。どんな人?」


「向こうで連絡取れるのは、絵描きさんですね」


「私も会える?」


「どこに住んでるかは知らないんで、なんとも。けど、トモエさんは知名度もあるし、あんまり迂闊に他の人と会わない方がいいじゃないですか?」


「大丈夫だと思うけど。まあ、来れるなら今度の運動会に連れて来てよ」


「男の人ですよ?」


「ショウ君も男だし、平気平気」


「けど、ハルカさん復活がらみだから、流石にやめときます。その人は機会があればって事で」


「つまんなーい。とはいえ、仕方ないか。で、今日は後どうする?」


 トモエさんが周囲を見渡す。

 ムードメーカー的なところもあるが、仕切るのも上手い。

 何でも出来る陽キャそのものだ。

 そして考えるのはシズさんだ。いつもならハルカさんも加わるところだけど、眠り姫状態では聞く事すらできない。


「ハイそこ、沈んでる場合じゃないよ。やる事、色々出て来たんだから、行動あるのみ!」


 ボクっ娘も完全に元気を取り戻したようだが、オレがネガティブじゃいけないのは確かだ。


「だな。と言っても、今出来るのって『帝国』へのお願いくらいか?」


「そうだな。そちらは私中心でしよう。取り敢えず、最低一人はここでハルカの側についてあげよう」


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