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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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417 「事故の詳細(2)」

「ショウとは正反対の、体育会系陽キャだな。しかも私と同じ偉そうな大学だから、陰キャの天敵みたいなやつだ」


 ああ、あれだ。ネットで有名になった広告に登場する、笑顔が眩しいビジネススーツのゴツいお兄さんな感じに違いない。


「あー、私そういう人苦手かも。それで大学生?」


「いいや、私より5つ上で、もう働いている」


「彼女もいた筈だよね」


「いや、別れたんじゃないか。今海外だし」


「海外? 転勤?」


「転勤というより本社配属だな。外資だから」


「それで車が空いてるんですね」


「うん。2、3年海外で稼いでくるからやるって、こないだ連絡があった。安くないのにな」


「気前いいお兄さんね。それともシスコンとか?」


 ハルカさんがそのまま深く聞くのは、先日自分の家のことを話したので、ちょっとした復讐なのだろう。


「シスコン? どう思う?」


「多少はあるんじゃない? お金も育ててくれてるし」


「育てる?」


「勤め先が外資系ファンドなんだ。だから私達も、兄の顧客になって支援したつもりが、せっせと金を増やしてくれているよ」


 そう言って笑うけど、十分投資出来るだけの資産を二人とも持っているという事だ。

 オレなんて、通帳に6桁記されただけで大喜びなのに、世界の違いを痛感しそうだ。

 けど、普通に働いていたら神社はどうなるんだろう、という疑問が当然起きる。


「じゃあ、神社の跡継ぎは、お二人のどっちかですか?」


「違うよ。うちは代々、神社継ぐまで放任主義。だからマイブラザーの義経君も、40くらいまで外で好き勝手してから継ぐって約束」


 お兄さんの名前まで源氏由来だった。

 これは名付けた人は、よほど好きかこだわりありそうだ。

 だけど家族仲は良さそうで、ハルカさんも少し羨ましげに目を細めている。


 そんな感じで、その日はハルカさんへ応える形で互いの身の上話で過ぎて行ったけど、その後も数日間は待機が続いた。

 荷物の大半を置いてきたままなので、魔法の勉強も出来ず、出来る事といえば剣の稽古くらい。

 けど剣を合わせてみると、トモエさんはこの4月からとは思えない程の使い手だった。しかも、剣は教えてくれる人がいたと言うけど、今までリアルで武道は何もしていないらしい。

 その上、様々な魔法を変幻自在に使えるのだから、オレの立つ瀬がない。




「そういえばその魔法って、何かの魔石から知識を得たんでしたっけ?」


「そうなのかトモエ?」


「魔法戦士なのに、そのヴァリエーションの豊富さは凄いわよね。上位龍の知識とか?」


「龍の石って、そんな知識入ってるんですか?」


「ボクはそういう話聞いた事ないなー。何か秘密ある?」


 みんなからの質問に、トモエさんが頰をカリカリとさせる。

 そして周囲を一応見渡す。

 少し遠くに『帝国』騎士が、オレ達と同じように鍛錬しているくらいしか人はいない。


「あー、このネタは、その場所に行ったら話すで良いかな? 一応口止めされてるんだ」


「その場所?」


 オレは特に気にしないが、シズさんの追求は続く。

 ただ、こういうはっきりしないトモエさんの態度も珍しい。


「邪神大陸。これ以上は今は秘密ね」


「トモエが色々知っている事と関わってそうだな。ま、いいだろ」


 シズさんも周囲を見つつ今は矛を収める。

 オレでは、『帝国』に聞かれたくない事なのだろうくらいしか考えが及ばないが、何かあるのだろう。


 そしてそんな一件日常を過ごしていると、翼竜が滞在場所にしている館にやってきた。

 ゴード将軍は追跡隊を指揮するため遠くにいて、その使いの人だった。




「ハルカさん、内容は?」


「邪神大陸から渡ってきた魔物の本隊をようやく発見したって」


「他に何か? 詳細は?」


 シズさんは相変わらず情報を欲しがる。

 しかし駆けつける前に情報が欲しいのは、みんなも同じだ。


「すでに戦闘中。けど私達は、他もいる可能性があるから、西にある『帝国』軍の駐屯地に場所に移動して待機をお願いしたい、ですって。

 ゴード将軍は、まだ他にいるって考えているみたいね」


「それは分かった。現状の魔物どもは?」


「数は多いけど上級悪魔が見当たらない上に、見つかる少し前から西方、つまり邪神大陸方面に移動中」


「先日の奴らが本命で残りカスが逃走中。もしくは敵の大将の元におびき寄せている、と言ったところか?」


「将軍も同じように予測してるわ。他にも『帝国』軍や神殿騎士団の援軍を求めてるって書いてもある」


「将軍は敵戦力を随分多く予測しているんだな」


 シズさんが腕を組んで考え込んでしまった。

 そう言われてオレのイメージは、ノヴァトキオでの魔物の時と似ていた。

 しかしそうなると、敵の飛行戦力を叩けたのは大きい筈だ。


「こないだ竜騎兵を沢山落としたし、あいつらが上級悪魔の回収しにきたって考えたら、だいぶ戦力を削いでいるようにも思うんですが?」


「それは間違い無いだろう。上級悪魔2体が、捨て駒なわけがない。8騎もの竜騎兵も、まさか呆気なく全滅するとも予測してなかっただろう」


「そういう言い方だと、ボク達がまた敵の不確定要素みたいだね」


「戦士職と魔法職、飛行職の複合編成、しかも手練ればかりの編成というもの自体が、ノヴァ近隣の魔の大樹海の悪魔ども以外にとっては珍しいんじゃないか?」


「いや、冒険者ギルドのガチ勢がいるぞ。ただ、邪神大陸に出向いていて『帝国』内にはいないし、知っている可能性は高くはないだろう」


「それに『帝国』軍でも、魔法使いは少ない上に若い人いませんでしたね」


 そう、戦っていた魔法職は、魔法戦士型の騎士が精々だった。魔法使いはゼロじゃないけど、体力的に後ろで支援しかできないおっさんか爺さんだ。


「でもさ、あいつらハルカ達の強さは、ある程度把握してたと思うよ。『帝国』の連中が襲うのを監視してるだろうし」


「だろうな。だが、野外での戦いは初めてだったから、見誤ったんだろう。私自身も、竜騎兵8騎をあんな短時間で倒せるとは思ってなかった」


「ウルズの時は、『帝国』の手練れ相手とは言え、ボクも苦労させられたしね。それで、不確定なボクらは乱入はしないの?」


 ボクっ娘の言葉に、悠里もウンウンとやる気満々な態度だ。

 しかしシズさんが、二人の頭をポンと軽く叩く。


「私もそうしたいが、これは『帝国』との共同戦線な上に、あっちに主導権がある。それに組織として動かないと、私達はともかく『帝国』軍は実力を発揮できない。軍隊とはそう言うものだからな」


「だから、指示通り動きましょう」


「はーい」


 なんともテンション低い語尾の下がる「はーい」だ。


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