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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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412 「生きてるかも?(1)」

 『帝国』内に多数潜入していた邪神大陸の魔物を引っ張り出した、皇帝暗殺未遂という茶番劇が終わった。

 オレ達は、濡れ衣を晴らしたその日は、さすがに休息を取る事になった。

 みんな魔力も随分使ったし、オレはそれなりに怪我もしてる。

 それに、次の魔物の親玉発見の報告を待たなければならない。

 そして次に備える為もあるので、近くにある『帝国』所有の小さな屋敷がオレ達の今日の宿泊場所となった。



「散々な目にあったな」


「謝罪と賠償が欲しいところだよねー」


「派閥割れしていて助かったと言ったところだがな。キューブを『帝国』全体で私達から奪う事も出来ただろうからな」


「神殿と対立までするかしら?」


「面倒が解決するなら、私はもうなんでもいいです」


「私も嵌めらたようなもんだし、『帝国』とは縁切ろうかなあ」


 最後にトモエさんが、他人事のようにカラカラと笑う。このタフネスさは見習いたいところだ。


 なお今日のお宿は、この辺りの地方領主の別宅。

 この時期は無人なので、他の『帝国』の騎士などと一緒に宿泊する事になった。

 風呂はないけどサウナがあるし、食事も十分なものが出てきたし、何と言っても柔らかい寝床がある。

 こっちでは、ほぼ3日ぶりにゆっくり出来そうだった。


 一方で『帝国』は、ゴード将軍の言葉以外に未だにオレ達への謝罪はない。神殿との間に話がついていない為らしいけど、現代社会なら訴訟ものだ。

 ただマーレス殿下は奔走してるそうで、あの人が奔走する様を思い浮かべながら待つより他なさそうだ。

 それよりも、今は重要な話をしないといけなかった。


 話が再開されたのは、食事とサウナが終わりオレ達の寝室の中でも広めの部屋に全員集まってからだった。




「それじゃあトモエ、昼間の話の続きを聞かせてもらえるか?」


「私が山科ハルカさんを知ってるって話で間違いない?」


 シズさんが進行役を買って出てくれたけど、トモエさんに特に気負うところはない。

 どうもハルカさんの完全異世界転生状態、つまり現実で死んでいないと見ている感じだ。


 それに対してハルカさんは少し暗い。

 それに、隣に腰掛けたオレの服の袖を握ってるので、不安なのが丸わかりだ。

 何を話すのか、と言ったところだろう。


(プライベートはあまり聞いてないけど、みんなに聞かれたくない事でもあるのかな?)


 けど既に、トモエさんの紹介でリアルの方の素性とかも一通り話してて、ハルカさんの反応からも同じ高校に通っていたのは確定だ。



 ちなみにトモエさんは、シズさん曰く『やれば出来ない事はない』という万能の天才肌だそうだ。

 ただし、必要に駆られるか興味を持たない限りしない。一方で、興味を持った事、必要と思った事には、とんでもない結果をアッという間に達成してしまえる。


 勉強は必要以外興味はないけど、博士顔負けな研究論文(しかも英語で書いた論文)を中学生の頃に書き、世界的に権威のある雑誌に掲載された事もあるのだそうだ。

 つまり博士並みのオツムを、中学生の時点で持ってる事になる。


 一方、ファッションモデルの方は、シズさんの紹介で小学生5年生の頃からしている。

 賑やかなのが良いとかでSNSが好きで、しかも人気があるので、相乗効果でちょっとしたティーンのカリスマモデルだ。

 そして姉のシズさん共々「シズトモ」として有名だったけど、シズさんが一時活動を停滞させていた事もあって今ではシズさんより人気があるそうだ。

 人気については、最近オレも思い知らされたばかりだ。


 しかも人気はオレが思っている以上だった。

 シズさんが体調不良による一時的活動休止からの復活と、こないだの遊園地でいっきに「バズり」、凄い勢いでさらに人気が上がっているらしい。

 玲奈や悠里まで注目されてしまうわけだ。


 とにかく、規格外のスーパーJKの体現者が、トモエさんだという事になる。

 もっとも、「そうかな?」とは食事中のシズさんの紹介を隣で聞いてたトモエさんの弁だ。

 凄い人だけど、他人と自分を比べる事をしない大らかで嫌味がないところは、オレとしてはポイント高い。

 そう言えば、「凄い」という口癖も性格の現れなんだろう。


 そんな彼女の爆弾発言から、ようやく本題へと入った。



「そうだ。確かなんだな?」


「シズは私の記憶力信じてよ。けど、1年以上前に写真で一回見ただけだったから、流石に忘れてたけどね」


「1年以上前か。ハルカは2年生は4月だけだったな?」


「ええ、そうよ。それでトモエさんは、誰から写真を見せられたの?」


 ハルカさん的に、そこは気になるところだろう。

 しかしハルカさんの強い視線を受けるトモエさんは、相変わらずと言うかケロッとしている。


「えーっと、今は3年の藤原先輩です。私、1年の春にクラスの誰もなりたがらないから、興味本位でクラス委員になったんです。それで連休明けに最初の生徒総会があって、そこでこれがお休み中の副会長だって写真を見せられました」


「ああ、会計の藤原さんか。ちょっと懐かしいかも。あの子、今は?」


「何と生徒会長。まあ私の方は、2年になってからは忙しくてクラス委員してないから、接点もないんですけどね」


「あの子なら安心ね。それで、私が向こうで死んでないって、トモエさんは思ってるのよね?」


「ハイ。けど、ハルカさんが嘘つくように見えないし、どういう事でしょう?」


「一応、一通り聞かせてくれる?」


「分かりました」


 そう言ってトモエさんが話し始めた。


 トモエさんがハルカさんの写真を見たのは、去年の5月。ハルカさんは、2年前の1年生の秋から副会長をしていた。

 だからトモエさんは、入学式の時に脇にいる彼女の姿を風景の一部として見ている事になる。

 それはともかく、トモエさんが初対面の時の藤原先輩から、副会長が休学中だと教えられた。

 その時点では、すぐに戻ってくるだろう的なニュアンスが強かったたそうだ。


「つまり私が死んだ時点では、自主退学や学籍抹消じゃない、と」


「その筈です。同じ生徒会の役職ついてるから、先生か学校から入院中とかの話はある筈ですからね」


「そうよね。手続き上の問題でもあったのかしら?」


「それですけど、さっき思い出したんですけど、話の続きがあります。待てど暮らせど副会長は学校に戻らず。その間に生徒会は代替わりしたけど、昨年の11月頃に自主退学の手続きがあったらしいです。それは年明けの総会で藤原先輩から聞きました」


「やっぱり、手続きとかの問題だったんでしょうね。私自身も凄く残念には思ってるけど、私は去年5月に交通事故で死んでるの。こっちでピンピンしてるから、変な言い方になるけどね」


「そうだったんだぁ。あ、ごめんなさい」


「良いわよ、タメで。もう先輩後輩でもないんだし」


「りょーかーい。けど、不思議な巡り合わせだね」


「ホントそうね。もう少しシズとショウに私のリアルを話しとけば、もっとスムーズに話が済んだかもね」


 そう言ってハルカさんが軽く肩を竦める。

 多少問題はあったけど、壮大なすれ違い、いや普通ならありえないすれ違いだったのだ。

 けれど、シズさんが考え込んでいる。


「どうかしましたか?」


「いや、5月に事故で11月に自主退学という事は、ご家族としては出席日数不足で留年確定になったから自主退学にしたんじゃないかも、と思ってな」


「つまりシズは、私の体がその間意識不明とか植物人間で存在してたと思うの?」


「ああ、そうだ。私がハルカから聞いた話では、交通事故で死んで、こっちの知り合いに確認をしてもらったという事だが、間違いないな?」


「ええ、そうだけど?」


「その確認した人は、現実で山科遥とどれだけ親しかった? 家族とは? 事故の詳細を知る立場にいたか?」


「いいえ、こっちだけの関係。けど、私の家のある地域の警察署まで行って、警察官の人から死亡事故があった事は確認してくれたわ。事故も自宅の近くだったし」


「だとしても警察は、関係ない第三者に被害者の名前など簡単には教えない筈だぞ。個人情報など煩いしな。その人は記者やジャーナリストか? それとも公的に知りうるだけの権限がある人か?」


「い、いいえ。学生の筈で、それはないと思う」


「じゃあ次、その事故で死者と負傷者の数は?」


「ち、ちょっと待って。つまりシズは、死んだのは同じ車に乗ってた別の人で、私は意識不明だったて言いたいのね」


「そうだ。そして可能性の一つではあるが、今でもハルカは眠り姫なんじゃないか?」


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