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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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409 「悪魔の掃討」

 二人が話す間に、オレは地表に大振りの身振り手振りを示しておく。

 間抜けに見えなくもなかったが、地表のハルカさん達も理解してくれたようで、サムズアップの後に別方向へ移動し始める。


 そして初撃を浴びせた竜騎兵だけど、片方の翼を落とした奴は、主人を失った飛龍が悲壮な感じで地表にいただけだった。

 見れば、そばにすでに不活性となった魔力の靄が上がっている人型の魔物が倒れている。

 自己再生してないから、悪魔ではなかったらしい。


「主人が魔物でも、飛龍には関係ないんだな」


「そうみたいだね。ボク達はこの子をなだめてからテイムしておくから、ショウは周囲を警戒しといて」


「りょーかーい」


 そうは答えたけど、魔物どもの回収班でも来てない限り念のために過ぎない。

 ただ、今の戦闘で周囲の魔力が乱れた感じになっているので、魔力を感じることが難しいからこうしているわけだ。

 つまりオレの視力が頼りなのだけど、かなり木々が深いので遠くは見渡せない。

 だから出会いは、お互いにとって唐突だった。


 互いに咄嗟に武器を突きつける。

 そして切り払われた灌木が地面へと落ちると、ダークエルフっぽい奴とご対面だ。

 向こうも大層驚いているけど、こっちも驚きだ。

 装備から見て竜騎兵ではない。

 しかも一体ではなくて、取り巻きが2体付いてる。

 上級の矮鬼で魔法使いタイプという、嫌な取り合わせだ。


 けれどボスらしいのは、上級悪魔なのは確定の魔力量。完全武装の甲冑に槍の先に斧が付いたハルバードという重装備。

 しかも、どれも魔導器だ。

 そしてその装備の主は、見た目は筋骨隆々なダークエルフ。マッチョ系イケメンな感じなのが、オレの心に地味に劣等感を感じさてくれる。


 けど、しかし感傷は心のごく僅かな場所を占めているに過ぎない。

 すぐさま本格的な戦闘態勢へと移り、間合いさらに詰める。

 向こうは大威力の長もので、こっちは大剣とは言っても所詮は剣だからだ。

 ついでに言っておくと、目の前の上級悪魔がなぜこの場にいるのか、どこから湧いて来たのかとかの疑問は、聞いても無駄なので聞く気は無い。

 けど、悪魔という連中は戦闘中のお喋り好きなのは、こいつも変わらなかった。


「魔人かっ! 待ち伏せていたか!」


「そっちが勝手に来ただけだろ!」


「戯言を! ん? 貴様が神器の保持者か!」


「そんなもん知らないねっ! 降伏したら教えてやるかもよっ!」


「ならば倒してから確かめてくれる!」


「っ!!」


 思った以上に強い。

 こいつも、魔力総量より技量が勝るタイプだ。動きはともかく、槍さばきが上手い。

 なんだか、対戦相手に凹まされてばかりだ。

 三剣士みたいに、パワー重視の方がオレの心には有難いと言うのに。

 それでも1対1なら十分勝てる相手なのだけど、魔物には魔法の援護があるのでままならない。


 2体合計6本のマジックミサイルは、かなりシャレにならない。一撃目は魔力相殺で半分落とせたけど、それでも受けたダメージは小さくない。

 上級悪魔はこっちが持ちこたえている事に舌打ちしているけれど、悪魔は舌打ちも大好きらしい。


 そうして2、3分防戦一方で戦っていたけど、不意に手が出せなかった後ろの上級矮鬼の胸に、魔法の籠った矢による大きな風穴が開く。

 続いて何かが斜め後ろからすごい勢いで突進してくると、もう一体の魔法使いっぽい上級矮鬼を見た目で痛そうな剣で串刺しにする。

 そして突進して来る気配を察した瞬間、オレも一気に勝負に出る。


 そして防戦一方に敵の上級悪魔を追いやっている間に、取り巻き2体がボクっ娘と悠里に倒され、そしてオレの方は上級悪魔を追い詰める。

 長もののハルバードは少し厄介だし、上級悪魔の技量は大したものだった。この森の中で十分使いこなせているだけでもかなりの上級者だ。

 けど、それでも森の中での長ものは不利らしかった。

 これが開けた場所ならオレはもっと苦戦しただろうし、二人の助太刀がなかったら追い詰められていたかもしれない。


 けどここは森の中だ。

 そしてすでに孤立した上級悪魔に、もはや勝ち目はない。

 魔力に任せて移動を繰り返して右に左にと叩き込み、相手の武器の刃を欠けさせ、鎧の一部を砕き、そしてその肉体へと愛刀の大剣を叩き込んでいく。


 半ば定番で、悪魔の胸に深々と突き刺して戦いも終幕となった。

 最後にグリッと大剣を捻って、そのまま短剣でさらに胸を抉って魔石を取り出せば、いかに上級悪魔と言えども自己再生すらできず、不活性の魔力のもやを放出しつつ崩壊していく。


「お疲れー。苦戦だったね」


「取り巻きがうざかった。いや、ちょっとやばかった。助かったよ、二人とも」


「いつもいつも一人で突っかかって行くからだろ。少し待てよ!」


「今回は出会い頭だから仕方ないだろ。けど、逃げてもよかったかもな」


「まあ、無事で何より。とりあえず、これで傷を少し塞いどいて。見た目が痛そう」


 そう言って、ボクっ娘が腰から治癒薬の小瓶をくれる。

 これは飲むタイプの方で、効きの良い高級なやつだ。

 ボクっ娘は、意外にこういうところの用意が良い。


「助かる」


「てか、自分用に持ってないのかよ?」


「持たされるけど、この流れはもらうもんだろ」


「レナも、こいつを甘やかしすぎ」


「まあ、MVPのご褒美って事で。それで、どうしよう? テイムも無事終了したよ」


「魔石とか龍石も回収したけど」


「じゃあ、合流しよう。ハルカさん達が本格的に加わってたら、戦いはもう終わってそうだけどな」


「だねー」



 そう言ってライムとヴァイス、それに主人を失った飛龍の元に戻って、そこから低空をひとっ飛びで主戦場へと戻る。

 1キロも離れてなかったのですぐに到着したが、戦闘は終盤と言ったところだ。


「うわっ、巴さん凄い!」


 こちらで奮闘していたらしい上級悪魔が、ちょうどトモエさんの鋭い斬撃で倒されたところに出くわした。

 低空とは言え上空からでも、その剣の冴えはよく伝わってくる。

 一撃で単に倒すだけでなく、その一太刀で核になってる魔石まで砕いてる。

 一太刀一太刀がクリティカルヒットと思えるほどの正確さ。

 ホント、なんでも出来る人だ。


(と言うか、あの権高な三剣士様は何してんだ?)


「レナはトモエさんに会った事ないんだっけか?」


「こっちではさっき初見だね。挨拶もできてないけど。ショウは浮気しっぱなし?」


「そっちと違って追い回されてたから、それどころじゃなかったって」


「ボクらも、途中まではマジで逃げたり潜んだりしてたんだよー」


「その話は聞いてる。そう言えば、今は向こうでの事が見えてる、でいいんだよな」


「いいよー。もう一人の天沢さんとエロい事したら、ボクにエロい事するのも同じだから気をつけてねー」


「えっ、そうなの?」


「そりゃ、五感も全部共有のヴァーチャルだよ。能動的に何も出来ないだけだからね」


「ああ、そうなるのか。それはマジ気をつける。って、まずはこっちの事だな」


「だね。悠里の隣に降りるよ」


「任せる」


 ようやくこれで、数日続いた逃避行と戦いもひと段落のようだ。


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