408 「空中戦と掃討戦」
「確かに竜騎兵だ」
こっちは『帝国』の竜騎兵が2騎。それに相棒のライムを駆る悠里。加えて、空の戦力で言えば、疾風の騎士のボクっ娘が加わる。
飛馬、翼竜は戦力にはならない。
それに対して、接近中の竜騎兵は8騎。
それを遠望するゴード将軍の視線は厳しい。
「友軍がこの場に来る予定はありません。私の預かり知らないところで命令が出たのでないのだとすると、」
「魔物ですか」
後を継いだオレの言葉に、ゴード将軍が頷く。
そこに、少し開けた場所にヴァイスが強引に着陸して、シズさんとアイを降ろす。
敵と見て空中戦をする気なのだ。
そして包囲下の魔物でないなら、こっちも自由に動けるだろう。
ハルカさんも同じ考えのようだった。
「私達は、あの新たな魔物の群れを鎮定します。あれの相手なら、私達が勝手に動いても構わないでしょう。
将軍の配下の竜騎兵は、ここの制空権維持を頼みます」
「疾風の騎士がいるとは言え、相手は8騎。それは危険です」
「少し前、魔物が駆る竜騎兵6騎を壊滅させた事があります。撃退だけでしたら、十分可能でしょう」
「……そのお言葉、信じましょう。お頼み申し上げます」
そう言ってゴード将軍が軽く頭を下げる。
それにハルカさんが頷き返す。
「決まりだね、ショウこっちに乗って!」
「おうっ!」
「私達のところに追い込んで!」
走りながらハルカさんが、既に空に羽ばたき始めたオレ達に声をかける。
「任せてください!」
「オーキードーキ!」
飛行組が二人同時に返事して、まずは魔物が駆る竜騎兵の群へと進む。
駆っているのは下級悪魔か頭の良い強めの魔物なので、飛龍共々油断はできない。単体でも最低でもCランク、魔力の気配からしてBランク級が多そうだ。
「悠里、牽制でブレスお願い! その隙に、一匹つまむから!」
「オーケー!」
「というわけで、初っ端から空に飛び出さないでね!」
「りょーかい。オレの出番は、背中取られた時と、ハルカさん達のところに追い込んでからだな」
「その辺は任せるよ。じゃあ、行くよ!」
言うやヴァイスを加速させ、まずは自身も牽制で群の中へと飛び込んでいく。
加速度が前よりも増しており、この速度は次のお客も予想外だった。
そして編隊を崩すのが目的なので、すれ違いざまに相手を落とすという事もない。
けど目論見通り、4騎ずつ2つの編隊のうちの一つがヴァイスの突撃を警戒して散開。しかも突撃は予想外だったので、かなり乱れて散り散りになる。
それを見つつ、今度は高度を高くとる。
ちょうど別の編隊が、正面から突撃する悠里のライムと相対するところだ。当然敵さんは、4対1の優位を嵩に着て2騎ずつに別れライムに襲いかかろうとする。
けど寸前に雷撃咆哮が放射され、2騎がもろに浴び、最初の1騎に至っては騎手が落ちていった。そしてこういう時に、主従関係が如実に現れる。
忠誠心なり仲の良い間なのか、騎手が落ちた飛龍は自らも雷撃でよろけながらも、主人目指して方向転換。
そして編隊がガタガタになった隙に、斜め上空の横あいから、ヴァイスが通過。
1体の飛龍の片翼をいただく。
あまり高度は高くないけど、騎手共々錐揉みで墜落していった。下の木々は少ない場所らしく、これはどっちも助からないだろう。
下級悪魔が再生するにしても、時間が稼げる筈だ。
そして魔物側が2騎を失ったところで仕切り直しだけど、今度はこっちは逃げに入る。
向こうから見れば、出会い頭の奇襲に成功したが、数の不利があるので後退したと映るだろう。
けど、こっちが通過した先にキルゾーンがある。
地上での戦場からほど近い場所を通過したところで、木々の合間から幾つもの魔法陣が展開しているのが見えた。
そしてそれを確認すると、少し進んだところで宙返りで急速反転。しかもヴァイスとライムが合流する。
これで向こうの竜騎兵は、仕切り直しと考えて飛行速度を緩めるけど、それが罠だ。
何も事前に打ち合わせはなかったけど、今まで色々練習していた成果で、それぞれの能力を十分に把握していて信頼しているお陰だ。
地表からは光る槍の束と2本の炎の槍、さらにもう一つ雷撃の光のようなものが、上空の竜騎兵達に襲いかかる。
これで2体の竜騎兵が炎の槍、電光を受けて墜落。
光の槍は広範囲攻撃の「光槍陣」の方で、15もの魔法の槍が6体の飛龍と乗り手へとそれぞれ高速で殺到していく。こっちを警戒して密集していたのがアダとなった。
これでさらに乗り手2体が地表に落下。2本食らった奴は、魔力量から見て下級悪魔だろう。
流石に光の槍1本で飛龍は屈しないけど、残り4体のうち3体をオレ達が攻撃する。
2体じゃないのは、ボクっ娘が進入路を計算してくれたので、途中でオレが飛び降りて竜騎兵の乗り手へ空中から突撃したからだ。
残りの2体は、ヴァイスが相変わらずのキレで相手の翼を一瞬でもぎ取り、ライムは雷撃のブレスに続いての格闘戦で地表に叩きつける。
我が妹様ながら豪快なことだ。
たまらず残り1体が逃走しようとしたけど、慌てて逃げるところに無数に殺到したマジックミサイル(魔法の矢)を浴びて、飛龍、乗り手共々蜂の巣にされ墜落していった。
飛龍の方は半数残されたが、一瞬で8騎の魔物が操る竜騎兵は全滅だ。
なお、オレが飛びかかった相手は魔力量と反応の良さから上級悪魔らしかったけど、運良く一太刀で仕留められた。
相当驚いた顔をしていたので、奇襲が完璧に決まったらしい。
いつもみんなから非難されるけど、奇襲効果は認めて欲しいと思う。
ただし今回も、操れない飛龍の上にポツンと残された。
するとそこに、ヴァイスが並行飛行してきてくれた。
「生き残った飛龍は、『帝国』の調教師とかが何とかするだろうから、こっちに飛び移って」
「サンキュー。よっと、はいお土産」
「うわっ、大きな魔石。ボスキャラ倒してきたの?」
「どうだろ。多分上級悪魔だったとは思うけど」
「それを一太刀とか、もうチートというより壊れキャラだね」
「相変わらず、沢山のドラグーン相手に無双してる奴に言われたくないよ」
「なるほど、お互い様か」
「で、他の状況は?」
軽口を叩き合いつつ、飛び移ったヴァイスの上から、まずは空の上、続いて地表へと視線を向ける。
ボクっ娘の方も、周囲へ油断ない視線を送る。
「真っ正面から来たから、二番手や伏兵でもいるかと思ったけど、違ったみたいだね」
「竜騎兵の群が魔物の切り札みたいだな。勝てる自信があったんじゃないのか? てか、ここって『帝都』から精々50キロくらいの内陸だろ。よく魔物は沢山の強い魔物とか竜騎兵を送り込めたよな」
「この浮遊大陸自体が、魔力が地表より多いせいで魔物も多いらしいよ。だから、侵入されても気付きにくいんだってさ」
「なるほどねぇ。と、それはともかく、どっかの助っ人に入るか?」
「ボクとしては、最初に落ちた竜騎兵が気になるかな。この辺りの地表なら、3人に任せても大丈夫でしょ。少し強そうなのが、戦場の真ん中にあるだけだし」
「じゃあ落ちた奴を追おう」
「次どーするか決めたー?」
ちょうどいい塩梅で悠里が並行飛行に入る。
「最初に落とした連中の確認からしようかー」
「りょーかーい」





