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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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404 「窮地(1)」

 今日も誰かに揺すり起こされた。

 けど今はトモエさんと二人きりで、クロは魔力を遮断する袋に隠したままなので、起こし主はトモエさんしかいない。


「よかった、起きてくれて。向こうで一日過ごせてる?」


「はい、強制睡眠の危険はありません。それで?」


「もう囲まれてる。抜かった。第三皇子の配下に、予想以上に仕事が出来る奴がいたみたいだね」


 その言葉を受けて、周囲の魔力などを感覚的に感じ取ってみる。距離はまだあるけど、囲むようにかなりの数が近づきつつある。

 それに多分だけど、かなり近くに恐らく監視役がいる。

 しかも、近づく奴に見知った強めの魔力の気配がある。三剣士の一人ラムサス・カーンだ。

 時間は夜明け前といったところで、まだ少し薄暗い。


「多分ですけど、三剣士のカーンが居ますよ」


「やっぱりそう? 他にもかなり強そうなのが居るね」


「オレ対策でしょうか?」


「だね。殺す気満々、いや捕まえる為の大盤振る舞いなのかな?」


「まあ、こっちにこれだけ来てるなら、シズさん達の脱出も少しは楽になったと思っときましょう」


「おっ、余裕だね。で、どうしようか。強行突破?」


 シズさん同様に攻撃的だ。

 それともアクティブな性格なせいだろう。

 けど、嫌いじゃない。


「籠城は趣味じゃないんで、行きましょう」


「いいねえ、勇気凛々なのは大好きだよ。で、策ってほどじゃないんだけど」


「何かあるんですか?」


「えっ? 考えなしだったの。す、凄いね」


 明らかに呆れられてしまった。

 力任せに強行突破するだけだと思ったが、違ったらしい。

 誤魔化し笑いでしのぐしかなさそうだ。


「えっと、みんなの方向に逃げて合流を急ぐんでしょ」


「何だ、分かってたんだ。けど、その方向に包囲の口が開いているように思うんだよねー」


「……確かに」


 そう、感じた範囲での魔力持ちの布陣は、確かに一箇所手薄だ。

 しかし、だ。


「けど、連中の包囲はまだ完成してませんよ。完成してない包囲は、単なる戦力分散だって、何かの本に書いてました」


「イイネイイネ、そう言うの。じゃあ、敢えて開いてる口の逆を突こうか」


「前衛は任せてください。あと、クロにも手伝わせますよ」


「戦力は多い方がいいし、向こうの意表も付けるかもね。けど、向こうにキューブを捕まえたり無力化する魔導器とかないかな?」


「あるんですか?」


「シズは流石にないだろうって言ってたけど、やっぱり出さないでおこう。これ、女の勘ね」


「信じますよ。じゃあ、オレがフォワードで」


「うん。私は、最初に魔法で牽制して、後は適時魔法か剣で支援するね。じゃあ、いってみようか。まずは魔法いくから。それと同時で、よろしく!」


「相手が見えてなくてもいいんですか?」


「気配のある方に一直線!」


 そう言うや、トモエさんの魔力が一気に高まって魔法が瞬く間に構築されていく。魔法陣の数は二つだけど、注ぎ込まれている魔力量がかなり多い。

 それに応じて囲んでいる奴らに動きが出たが、動きに焦りがある。


「岩斬刃!」


 トモエさんが、素早い構築の後に放った魔法は、アニメなどでよく見かける、地面から突然尖った岩が隆起して、それが一線上に続いていくやつだ。

 けど、どうやら地面の砂などを魔力で一瞬固めたものらしく、一度突き上がるもすぐに崩れ去っていく。

 けど効果は、その手のフィクションとほぼ同じだ。

 最初の目標は、オレ達が使ってたボロい山小屋の木の壁。

 それを難なく粉砕するのを確認すると、一気に駆け出す。

 魔法が終了してたシズさんも即座に続く。


 そして魔法を追いかけるように一気に駆け出すけど、魔法の持続距離が長い。

 魔力を注ぎ込む事で、到達距離を伸ばしたんだろう。

 恐らく100メートル近く、地面をささくれ立たせるような魔法が続き、そして線上に位置していた大半のものを粉砕していく。

 その中の大半はとばっちりを受けた山の木々だけど、途中で何度か赤い花を散らせている。

 間違いなく血であり、何人かが魔法を食らったらしい。

 けど詳しく確認する事もなく一気に駆け抜け、そして逃げ去る。

 その時一人の騎士が立ち塞がったけれど、剣の平たい側で弾き飛ばしておく。


「おっ、優しいね!」


「今後の為にも、なるべく殺さない方が良いでしょ」


「そりゃそうだ」


 そう言いながらオレとの並走に入ったトモエさんは、オレが予測した以上に脚も早い。

 魔法戦士だと属性1つ分が魔法属性に向くので、魔力総量が同じでも脳筋ビルドなオレより身体能力は劣る筈なのに、ほぼ互角といった感じだ。

 さっきの魔法といい、魔法が色々使える事も合わせて何かのユニーク持ちなのかもしれない。


 逃走開始当初は、その程度の事を考える余裕もあったけど、流石は『帝国』軍だった。

 包囲の輪は二重で、しかも動きが良い。

 後ろから追いかけてくる奴らもいるし、森の中で助かっているけど、翼竜などが上空を舞っている。


 その上、逃げ始めると上空を飛ぶ数が一気に増える。天馬、飛馬あたりをかなり動員しているのが、木々の間から一瞬見て取れた。

 これでは逃げようがない。

 しかも、オレ達が本来目指すべき方向が分厚い陣容になっている。

 どうあっても合流させたくないらしい。


「さて、どうする?」


「空の方は、一体や二体ならジャンプして叩き落とすところですが、この数は無理ですね。せめて、絶壁の岩場を背にするとかしたいところです」


「うわっ、背水の陣どころじゃないね。嫌いじゃないけど、とにかく時間稼ぐ為に走れるだけ走ろう。私らにこれだけ動員したのは、連中が焦ってる証拠。時間は味方だから」


「了解です!」


 トモエさんは、オレなんかよりずっと冷静だ。

 オレだけだったら、またも百人斬りに挑戦してたところだ。

 しかし陸と空からの追跡に、徐々に逃げ場を失っていく。しかも、どこかに誘導される感じで、追い立てられている。

 時折長射程の魔法すら飛んできたりする。

 みんなとの合流阻止の為なんだろう。

 けど、そうじゃなかった。




「うわっ、断崖絶壁だ」


 追い詰められた先は、下が楽勝で100メートル以上の落差のある断崖絶壁な岩の崖。周囲に飛び移れそうな場所もなし。滝壺とかでもないので、飛び降りるのも厳禁。

 浮遊石の結晶を使えば降りる事もできるけど、その間に翼竜などからの攻撃され放題だ。

 しかも木々が少ないかなり開けた場所で、隠れる場所もない。

 ついでに言えば、大勢で接近戦ができるだけの空間的なゆとりまである。


「絶体絶命ですね」


「じゃあ、諦めて一緒に飛び降りる?」


「体を信じて飛び降りてみるのは、一つの手ですね。魔法で何か補助できそうなのありますか?」


「あるけど、構築してる間に攻撃してくるだろうなあ。いっそ降伏しようか? その方が時間稼げるかも」


「相手次第ですけど、三剣士のカーンが来たらヤメた方がいいですよ。オレ、嫌われてるし」


「ハッキリ言うね。じゃあ、判断は任せるよ」


 ケラケラと笑った後に、トモエさんはそう言ってくれる。

 けどそれって責任重大だ。

 しかも、カーンの気配はどんどん近づいてくる。

 多分空からだ。

 そして翼の生えた白い飛馬に乗って、三剣士カーンが颯爽とやってきた。

 絵になるのが妙に癪に触る。


「さて、私の慈悲もこれで最後だ。降りたまえ」


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