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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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403 「現実での作戦会議(2)」

 そして土曜日。

 現実も、波乱の幕開けだ。


「ショウ君、ご指名だよー」


 ホールのバイトの女子大生からのお言葉だ。

 とはいえ、キッチンの制服で外に出るわけにはいかないので、そのまま引っ張られてレジの袖から覗かせられる。


「ねえ、アレってシズトモのどっち?」


「えっ? あ、トモエさんだ」


「マジ知り合いなんだ。で、ショウ君に伝言。バイト上がったら直ちに出頭せよ、だって。ねえ、どういう知り合い?」


「えーっと、オレの彼女知ってますよね」


「うん。あの小さくて可愛いボブショートの娘よね」


「はい。彼女のご近所さんです」


「それとこの状況はどう繋がってるの?」


「一応オレも顔見知りですけど、さすがに予想外過ぎます」


 そう言った次の瞬間、目ざとくオレを見つけたトモエさんが、手をヒラヒラと振ってきた。


「これも予想外?」


「はい。彼女からバイト先でも聞いて、面白がってきたんだと思います。面白い人だそうですから」


「へーっ、そうなんだ。けど、動画とおんなじで親しみやすそうだねトモって」


 トモエさんは、女子大生が普通に知ってるくらいには有名人だったらしい。

 ファッションの事もSNS界隈の事も無頓着なオレとしては、どう対処していいのか分からなさ過ぎる。



「だから、こういう事は出来たら止めてくださいね」


「まあ、二人で店に入らなかっただけマシでしょ。駐車場でシズが待ってるから、レッツゴー!」


「いや、オレ自転車なんですけど」


「大丈夫。お兄ちゃんの車で来てるから、楽勝積み込めるって」


「ああ、あのゴツい車ですね」



 と言うわけで、素早く自転車を積み込むと、バイト先をさっさと出て、一路玲奈の家に。

 

「えっ? 玲奈もですか?」


「ああ。今は互いの状況が分かる様になっているなら、この方が説明が省けていいだろ」


「そうかもですけど、玲奈にはいい迷惑ですね」


「こっちの玲奈は、そうは思ってないらしいぞ」


「なら構いませんが。で、どの順番で?」


「まずはショウの家。自転車降ろして悠里ちゃんを拾い、次に玲奈、で私達の家だ」




「って、マンションの方じゃないですか!」


「向こう事を話すから、誰にも聞かれない方が良いだろ」


「神社は敵も多いからね」


「かもしれませんけど、お二人って実は結構有名なんですよね。一応オレ、男なんですけど?」


「今更どうかしたか?」


「連休の時の写真とか動画が、うちの高校で結構注目集めてたので。その、パパラッチとか大丈夫なんですか?」


「そこまで有名じゃないから平気。それより玲奈、SNSは迷惑だったか?」


「ぜ、全然。ちょっとビックリしましたけど、むしろ嬉しいです」


「なら良かった。さあ、それより早く出てくれ。このガタイだと、車庫入れがまだ大変なんだ」


 なんだかなし崩しに、再びシズさんとトモエさんの住むマンションへとやって来てしまった。

 中に上がると、わずか半月で既に落ち着いていた。

 整理整頓から掃除洗濯まで完璧。こういう所がズボラな悠里にも、多少は見習ってほしいくらいだ。



「そういえば、毎週会ってるよね」


「向こうだと、今は24時間ずっとですけどね」


「アハハ、確かに。しかも二人っきりの逃避行って、ワクワクするよね」


「どっちかと言うと、ハラハラでしょう。そろそろヤバそうだし」


「その話は、落ち着いてから話し合おう。お茶を入れるよ」


「とっておきのお菓子用意もあるよ」


 そうして二人がキッチンへと向かう。

 リビングには、オレ、玲奈、悠里の3人だ。


「先週と先々週はタクミも居たんだよな」


「けど、もうドロップアウトしてるんだし、呼んだら迷惑じゃん」


「話は聞きたがってたよ。けど今頃バイトだな」


「そうだよね。あ、あの、私はどうすれば?」


「向こうのレナから、玲奈の言いたい事言ってくれたら良いって言伝です」


「でも、あんまり分かってないし、なるべく聞くのに専念するね」


「まあ、居眠りしなきゃ大丈夫じゃないか?」


「オマエじゃないってんだよ!」


 言葉と共に、妹様から蹴りが飛んで来る。

 座りながら足だけキックなので避けるのは簡単だけど、避けたら避けたで面倒そうなので、ちょっとだけ喰らっておく。

 兄をするのも大変だ。


「はいはい、お茶持って来たから、しばらく暴れたりしなでくれよ」


「お菓子もね」


「あ、それ今お土産で流行りのやつですよね!」


「よく知ってるね、凄い。昨日の仕事で、お得意さんからもらったんだ」


「お疲れ様です」


「まあ、ショウ君のバイトみたいなもんだよ」


 そうして会話している間にも、シズさんがテキパキとカップにコーヒーを注ぐ。

 かなり本格的らしく、良い香りがする。

 そしてお茶とコーヒーで一服ついてから、作戦会議だ。


「こっちはライムとヴァイスはともかく、他は順調に脱出できそうだ。ゴード将軍もマーレス殿下と接触に成功して、あと少しで逃げ回らなくても済むだろうとの事だな」


「そこはメッセージで聞きましたが、具体的には?」


「皇帝暗殺未遂事件自体が、言うなれば第三皇子陣営、もしくは邪神大陸進出派の茶番だな。既にボロが出始めている。

 まあ事件を起こした連中は、とにかく私達を殺すか捕まえるかして、キューブを奪えれば良かったらしい。そして奪ったら、即座に飛行船などで神々の塔へ向かうつもりだった様だ。後の問題は、功績でチャラにする積もりらしい」


「杜撰だよね」


 澄ました顔でコーヒーを飲むトモエさんだけど、論評は完結かつ辛辣だ。表情も少し違っている。


「けど、飛行場は完全封鎖なんですよね。ライムも安全っぽいから安心だけど。あ、ヴァイスも平気だよ。向こうのレナが一回念話できる距離まで近づいて、挨拶だけして来てるから」


「良かった。けど、危ないことしちゃダメだって言っておいてね」


「分かった。けど、レナはお兄ちゃんよりずっと慎重だから大丈夫」


「オレ、今回は慎重だぞ」


「今回の事だけ言ってんじゃねーっての。いつも無茶な戦い方ばっかじゃん」


「そ、それは」


「悠里ちゃんもそれくらいにして、話を進めよう」


 そのシズさんの言葉で話し合いが本格化した。と言っても、主に行うのは場所の確認。

 場所についてはシズさんとトモエさんが詳しく、シズさんと違ってトモエさんは作図もかなり得意らしく見やすかった。


 そして万が一ばらけた場合に、他の3人に見せて出来れば共通認識を共有するのが半ば今回の目的と言える。

 そうでなければ、シズさんとトモエさんの二人が話せば済む話だからだ。

 そして今後の方針も終わり、ホッと一息ついた頃だった。


「あの、それぞれ部屋にいたのを、建物を警護している騎士とかが確認している状態の筈なのに、どうして皆んなに犯人の容疑がかかったんでしょうか?」


 第三者の玲奈が、なんとなくと言った感じで口にした。


「それらしい風体の者が、皇帝陛下のお夜食と酒に、厨房で毒を盛るのを見たそうだ。そしてそれを事前に口にした毒味役が死にかけた」


「それだけですか?」


「あと、警護役がどうやら第三皇子の派閥の者で、一部兵士は買収されているかもしれないというのが、ゴード将軍から伝えられた事になるな」


「あと、お兄ちゃん、めっちゃ恨まれてるらしいよ」


「ペットと子飼いの剣闘士を倒したからか?」


「ペットはともかく、剣闘士は降伏させられなかったのか?」


 シズさんの言葉が少し耳に痛い。

 けっこうその場の勢いで戦ったし、マーレス殿下も殺して良い的に言ってたし、血を流すのを殺すと解釈していたけど、というのは言い訳だ。

 あの戦いは殺さずに済むものじゃなかった。


「向こうなんて殺す気満々だったから、それに応えてやったまでです。それに、絶命する瞬間まで攻撃の手も緩めませんでしたし、手を抜いたらこっちがやばかったです」


「あの執念は、流石チャンプだったね」


「ええ、凄い執念みたいなものは感じました。それで、あの人を倒したのがまずかったと?」


「両方だな。大会での賭けの大負けで、破産どころじゃないらしい。派閥の連中からも非難轟々。しかも、今後勝てる手駒を一気に2つも失った。真偽の決闘までして負けたから、当然メンツ丸潰れ。

 しかもそれをしたのが、『帝国』の偉そうな連中から見れば、何処の馬の骨ともしれないガキときたもんだから、バッコス第三皇子の怒りたるや天を突かんばかり、らしいぞ」


「じゃあ逆に、マーレス殿下には有利になったんですね。なら良いですよ」


「今回の件が、何とか解決してくれたらね」


 トモエさんの言う通り、結局は、今晩寝てからの結果次第となりそうだ。


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