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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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400 「逃避行中の身の上話(1)」

 小柄な水龍に掴まって地下深くの水路を抜けていく。

 途中、何かの魔力の反応を感じたけど、何かの道具だ。多分、魔力を利用した警報装置の類だろう。

 そして本来なら、水中からの隠れての出入りも無理なのだろうけど、水龍は迷う事なく水中に出来ていた裂け目へと入って行った。

 これが帝宮へこっそり出入りできた理由というわけだ。

 お約束の王族だけが知っている秘密の脱出路のようなものを期待していたオレとしては、少しばかり肩透かしを食らった心境だ。

 しかし、お陰で安全に外に出る事が出来た。



「さあ、ここからは陸路だよ。君もありがとね。ハイ、これお駄賃。食べたら、早く主人の元にお帰り」


 そう言って、トモエさんが水龍を送り出す。

 オレ達が出てきた場所は、黒々とした森か林の中にある少し大きめの泉か池のようなところだ。

 と言っても、かなり大きな裂け目が池になったような形の池なので、帝宮にあった裂け目と同じような経緯で出来たものなのだろう。

 けど、陸路を進む前に一旦鎧と服を脱いで水くらい絞らないと、まともに行動もできないだろう。


「はい、じっとしてて。魔法で全身ドライヤーするから」


 そう言うや、シズさんも使った事のある『温陣』と呼ばれる、一定の空間を軽く熱する魔法を、密着してきたトモエさん自身とオレ中心に行使する。

 さらに風も吹きかかってくる。

 身のこなしから魔法戦士職だと思えるけど、魔法のヴァリエーションはシズさんかそれ以上に多芸だ。


「色々魔法が使えるんですね」


「私、チートキャラだから、なんてね」


「マジ凄いと思います。オレなんて全然だから」


「魔力激減の状態で三剣士相手にあれだけ戦えて全然とか、世の中の戦士職をディスってるのかなー?」


 密着しつつ、下からオレの顔を悪戯っぽく覗き込んでくる。

 こういうスキンシップ好きは、シズさんと似ている。いや、シズさん以上だ。


「魔法の話ですよ。てか、オレの魔力量分かるんですか?」


「まあねー、と言いたいところだけど、昼間あれだけ暴れまわっていたら激減してるでしょ、普通。気づいてないの?」


「闘技場にも居たんですね。まあ、かなり使ったかなって気はしてました。けど、オレって急速に魔力を稼いできたから、自分の総量や現状を自分でも今ひとつ掴めてないんですよね」


「フーン。私に似てるね」


「そうなんですか? 確かに魔力は凄く多そうですね」


 密着しているせいで、トモエさんの魔力を直に感じ取る事が出来るけど、恐らくと言うか間違いなくSランク級の魔力総量だ。

 魔法を何度か使っているけど、それ程減っている感じもしない。


「こっちに来た頃は頑張ったからね。あ、そうだ、改めてご挨拶を」


 そう言うやパッとオレから離れると、一度直立不動の姿勢を取ってから両手を胸の前で合わせて拝む姿勢をとり、頭を深々と下げる。


「ドーモハジメマシテ。拙者、サムラーイノトモエト申シマース。以後オ見知リ置キヲ」


 こっちの言葉じゃなくて日本語、しかも怪しい外人が使う日本語だ。

 B級、C級のビデオや映画に出て来る日本人の姿を模しているんだろう。

 ただ今の体にフィットした軽装スタイルだと、サムライというよりニンジャ、女性だからくノ一だ。


「女性なら、クノイチかゲーシャじゃないんですか?」


「そうなんだけど、私、元は魔法戦士職だから。それにゲーシャは、魔法使いの一つらしいよ、あっちの人達的には。それに私の名前巴でしょ。やっぱり、お約束は外しちゃダメでしょ」


「なるほど。それより、日本人以外の『ダブル』にも会った事あるんですか?」


「うん。この大陸にある冒険者ギルドにもそれなりに居るし、もう一つの浮遊大陸の蓬莱にも一回行ってるから。あ、それよりも装備装備」


 そう言うと近くの木の下に向かい、その後ろから何かの大荷物を引っ張り出し、そしておもむろに着替え始めた。

 こっちとしては、取り敢えず後ろを向くしかない。

 大らかな人らしい。


「ああ、私、裸は見られ慣れてるから平気だよ。ファッションショーで、素っ裸で着替えることもあるしー」


「そういう問題でもないでしょう」


「アハハ、シズから聞いたよりも紳士なんだ。でも、鎧つけるのはちょっと手伝ってもらえる? 一人でも出来るけど面倒なんだよね」


「了解です。取り敢えず、手が必要になったら言って下さい」


 そんなこんなで、トモエさんが着替え終わると、確かに侍スタイルになる。いや、それっぽいデザインの鎧というより甲冑なので、武士スタイルと言うべきだろう。

 しかも、すんごい豪華装備っぽい。


「いいでしょ。蓬莱で手に入れたんだ。鉢金とこの刀なんて、ヒヒイロカネなんだよ」


「確かオリハルコンより凄いんですよね。チタンの魔法金属でしたっけ? この剣にも少し使ってますよ」


「へーっ、凄い切れ味な筈だ。私のは日本刀だから、あんな豪快な斬り方は出来なんだよねー。まあ、その辺は適材適所ってことで。じゃあ、紹介も終わったし行こうか」


 そうしておもむろに歩き始める。

 どうにもトモエさんは、時々説明不足になる。

 きっと、自分の中では理解できてるからだろう。


「あのー、最低限の説明頼めますか?」


「ん? そう? じゃあ歩きながら話すね。今はここを嗅ぎ付かれたらヤバいから、離れるの優先しよう」


「了解です」


 そんなこんなで、コソコソと移動開始。

 トモエさんは準備も良く、オレ用にフード付きのマントが用意されてたので、面が割れていても多少は誤魔化せそうだ。




「なんとなくは、判りました。オレが今回の引き金の一部になったのも」


「あの地龍倒したのは、見てて冗談みたいだったからね。ピョンピョン、ザックリでハイおしまいってさ。第三皇子とその取り巻きが、口をあんぐり開けててケッサクものだったし」


「地龍相手なら、頭を一突きがオレ的には鉄板ですよ。多分トモエさんでも、あの手を使えば楽勝倒せますよ」

 

「じゃあ、今度チャレンジしてみるね。でも、地龍と戦うことなんて、滅多にないだろーな」


「かもしれません。そう言えば、トモエさんは魔法どれくらい使えるんですか? 連携プレイとかの目安にしたいんですが」


「第二列までなら基本は一通り。一応水皇の属性になるから、水が得意だね。やっぱりサムラーイは、魔法も使える戦士じゃなきゃねだし」


 大昔のゲームの影響で、ニンジャはクリティカルヒットで敵を一撃、サムライは魔法戦士という「お約束」がネット上の噂であるからの言葉だ。


「そんな理由で魔法勉強したんですか? それとも最初から?」


「私の魔法は後付けでほとんど貰い物だから、そのどっちでもないかなあ」


「勉強せずに魔法ゲットできるんですか?」


「一名様限定でね」


「龍石の知識とかでしょうか?」


「うん、そんな感じ。落ち着いたら話すね。あっ、今夜の宿はあそこね。あの小屋は、あらかじめ魔力の放射を抑える仕掛けがしてあるんだ」


 そう言ってトモエさんが少し先を指差す。

 そこには一見何もないように見えたが、近づくと草木に隠れて古い小屋がある。

 今は使ってないけど、木こりや狩人の一時滞在場所だ。


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