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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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390 「魔導器の覚醒(1)」

 「正体不明」の賊の集団を撃退し、近くの街の警備を急いで呼んで引き渡し、簀巻きにした賊のリーダーと幾つか証拠を持って急ぎ聖地へと向かう。


 分かれて賊を『帝都』で突き出すことも考えたけど、聖女様は聖地に行く予定が伝わってるので行かないわけにもいかないし、聖女様がいないとオレ達だけでは不審がられるので、他に選択肢は無かった。


 そして聖地リーンの飛行場に降り立つやその場の役人と軍人に、然るべき役職の軍人に取り継ぐように伝えると、30分ほどしたらオレ達を『帝国』まで案内してくれたゴード将軍がやってきた。

 流石に少し驚いたけど、ゴード将軍は所用で聖地に滞在していたのだけど、現地で一番階級の高い軍人だったかららしい。

 従っていたのは街の警備担当の軍人だけど、見るからに階級とかそう言ったものが違っていた。

 聖女様が道中襲われたと言う話を聞けば、トップが動かざるを得ないんだろう。



「聖女様が賊に襲われたとは誠ですか?」


「誠です。騎龍将軍ゴード様」


「この者がその場の主犯で、半数程度はルカ様とその従者の皆様が倒されました。現場は近くの警備の兵に託しましたが、犯人はかなりの政治的力を持っているかもしれません。既に証拠の隠滅が行われているかもしれませんので、心して調査に当たってください」


 ヴィリディさんの言葉をゼノビアさんが継ぐ。


「『帝国』の威信にかけて、必ずや賊を全て捕らえましょうぞ。聖女を襲うなど、あってはならない事です」


 ゴード将軍はそう断言するが、ゴード将軍と付き従ってきた騎士や役人の顔色が二人の言葉で愕然となった。聖女が襲われるなど、前代未聞と言ったところなんだろう。

 そしてさらに、リーダーの顔を見た一人の顔が一瞬だけ違う意味で動いた。

 なんとも分かりやすいけど、何かしら知っていると言うことだ。

 けど、正直『帝国』内での争いなど、オレ達が襲われなくなるならばどうでもいい。


「襲撃された経緯はお話ししますが、私どもは本来ルカ様の治癒の為ここ聖地を訪れました。ですから、事件の調査などは『帝国』の方にお任せしたいのですが」


「勿論です。聖女二グラス様におかれては、お客人の件を優先して下さいませ。ルカ様並びに従者の皆様方、此度の襲撃事件は必ずや解決いたします。また『帝国』を代表し、深く謝罪申し上げます」


「ゴード将軍が謝罪される事ではありません。聖女様が『帝国』内で襲われるわけがないと、安易に動いた私どもに責任がございます。ですが、事件の解決の件はお願いします」


「誓って必ず。では、まずはこれにて。後ほど、経過の報告とまたお話を伺いに神殿に参らせて頂きます」


「よろしくお願い申し上げます」


 将軍達が去って聖女が下げた頭を上げると、ようやくひと段落だ。

 そして聖女様は、何事もなかったかのようにオレ達に微笑む。


「さて、ではその存在の覚醒を急ぎましょう」


 こういう所は、クロと同じく知性を持つ魔導器らしい。

 そして先ぶれも出ていたので、その後はスムーズに進んだ。

 儀式を行うと言う部屋が用意されていて、さらに聖女の秘術を施すという事で厳重に人払いまでが行われていた。


「さあ、準備が整いました。ルカ様、その橙色のキューブを部屋の中央に」


「ええ。お願いします、ヴィリディさん」


 そう言ってハルカさんが、オレンジ色のキューブを持って部屋のセンターへと歩く。

 そしてよく見れば、部屋の床には大きな魔法陣、最も複雑な九芒星が描かれている。しかも文字や記号もビッシリ。まるで、電子回路の拡大図のようだ。


「聖地にはこんな場所があったんだな」


「他にもあるのかな?」


「見た所、ここはかなり古い区画だ。関係者でも一部の者しか入れなかったようだし、他の聖地にもあると見るべきだろうな」


「だよねー。でもさあ」


「ああ、もっと早く知っていたら、ウィンダムでアイの覚醒が出来たのにな」


「申し訳ありません」


「アイが謝る事じゃない。誰も知らなかったんだからな。だが、次の機会にはちゃんと覚醒させよう」


「はい。お願い申し上げます。わたくしも、もっとシズ様、そして皆様の為に十全に能力を発揮しとうございます」


「うん、その時は頼む。そろそろか」


 シズさんの言葉通り、ハルカさんが魔法陣の外に出ると、魔法陣の一角に立っていた聖女様、ヴィリディさんが人の姿を解いてキューブに戻る。

 そして淡く輝いたキューブから大量の魔力が放出され、魔法陣が活性化する。

 魔力の方はオレ達も全員協力してるし、持ち出してきた手持ちの魔石、竜石も大量に投入してある。

 さらに今回は、ゼノビアさんまでもが魔力供給に参加している。


 そうして数分、多分5分くらい経過したら儀式魔法のような一連の作業が終了する。

 そして魔法陣の中央では、橙色のキューブが淡く輝き、そして他のキューブ同様にフワフワと浮き上がる。

 他もそうだけど、キューブの中には浮遊石の結晶が入っているので、こうして浮けるのだとレイ博士が言っていた。

 そんな事よりも、フワフワと浮かび、そして微量の魔力の放出で移動して、ピタリとハルカさんの目の前に位置する。


「名前、付けて」


 他と違って、全然丁寧な口調でも慇懃でもない。


「無口キャラ?」


 ボクっ娘が思わず呟く。

 しかし激しく同意だ。

 何しろ、最初の一言以後何も発しないのだ。

 クロの最初よりも無口だ。


「えっと、主人は私で良いのかしら?」


「良い。早く」


 名付けろと言う事らしい。


「もしかしたら、名前をつけないとあんまり喋れないんじゃないか? クロもそんな感じだっただろ」


「確かにそうね。……何がいいかしら。やっぱり色にちなんだ名前よね。ねえ、人型の時の性別は女性でいいのかしら?」


「そう。女、雌型。けど、他もなれる」


 確かに声は女性だけど、相変わらず言葉が少ない。

 そして姿を変えられるのは、他と同じらしい。


「女の子ねえ。男だったら橙色のダイにしようかと思ってたんだけど、近い色って事でミカンでどうかしら?」


「ミカン。決定?」


「ええ、気に入ってくれた?」


「主人からの名前、気に入った」


「じゃああなたは、これからミカンよ。よろしくね」


「分かった。ハルカ様」


「よろしくねミカン。それで、あなたは何ができるの? 何を知っているの? 全部話して」


 そう。これが一番の目的だ。

 全員の注目も集まる。

 特にゼノビアさんの視線が強いように思える。

 まあ、これだけ便宜を図ってくれるのだ。言葉通り、キューブの願いを聞届けるためという事もないだろう。


「私の能力、遠距離への連絡」


「無口キャラっぽいのに、通信機能か。ていうか、名付けてもクロの時みたいに弁舌良くならないな」


「それより、どういう風に遠距離の連絡を取るんだ?」


「?」


「ミカン、この場の全員の言葉にも答えて」


 オレの場を和ませようと言う言葉は、年長組に阻止された。

 とは言え、空気読まなさ過ぎたかもしれない。


「分かった。連絡、相手いる。知っている相手、知ってる存在。私が存在を認識していれば、連絡出来る。あと、相手に魔力必要」


「つまり、私とミカンが離れ離れでも連絡ができるのね。距離は?」


「魔力さえあれば、制限ない」


「どういう風に意思疎通ができる。魔法の念話のようなものか?」


「その認識で、良い。ただし、私から連絡を取らないと、ダメ」


「まあ、そうだよなー。スマホって言うより、なんだっけ、無線機? いや送信機か」


 悠里が状況を正確に理解してた。

 オレはもっと便利かと思っていたけど、どうやら肯定のようだ。シズさんの言葉が続く。


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