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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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389 「『帝国』内での勢力争い(2)」

「これは魔導師協会が『帝国』に売った黄色いキューブから出てきた情報なんだけど」


 そう前置きして話始めた。

 それはキューブ全体の秘密の一部だった。

 キューブの基本的な役割は、世界が異界から召喚した客人の魂に依代と装備を与え、魔物を駆逐する為の様々な支援を行う事にある。

 それはオレ達がクロから聞いた事と同じだ。


 そして300年前に活動していたのがキューブ型で、現在は球体オーブ型の存在が活動している。

 ネット上の『アナザー』情報にも、妙に魔力の高い浮遊する小さい球体を見たという話がいくつか上がっていた。


 けど球体型は、依代と初期アイテムを用意する以外のタイプはなく、以前のキューブ型より機能が限られている。その分、1つの存在で2つの役割をこなしているらしい。

 一方、旧式のキューブ型は神々の象徴色と同じく9種類あり、同じ色は幾つもありそれぞれ役割が違っている。依代を創れるのは黒色だけだ。


「それとね、もう一つ重要な役割があるの。だからこそあなた達は、『帝国』の招待を受けたのよ。多分だけど」


 今までと違い含んだ言い方だ。

 話したくないのか、話すべきか悩んでいる感じだ。


「ここまで話したのだから、全部話してもらえるかしら?」


 真剣な眼差しを向けるハルカさんに、ゼノビアさんが小さく溜息をつく。


「『帝国』のゴタゴタに首を突っ込む事になるかもしれないけど、それでもいい?」


「もう、十分巻き込まれてるわ。『帝国』か『帝国』内の誰かさんは、私達の持ってるキューブが欲しいんでしょ。もう、二度も襲われたわ」


「古い浮遊石の結晶を譲った時の態度すら、私達を油断させる芝居だったんじゃあって思えてくるな」


 そう言えば、浮遊石の事など殆ど忘れてたが、シズさんは色々考えていたらしい。

 しかしゼノビアさんは首を横に振る。


「150年くらい前から、『帝国』の中央では二つの勢力がせめぎ合いをしているの。そしてそれは、浮遊大陸が徐々に崩壊速度を早めている事と密接に関係しているわ」


 来る時も縁が崩壊する場面に出くわしたが、珍しい事じゃないと分かると、確かに危機感は半端ないだろう。


「なるほどな。『帝国』の連中が、私達に関わるなと言うわけだ」


「ゼノビアさんは、私達に話して構わないの?」


「私はヴィリディの為にこうしているだけよ」


 主人が魔導器の為とか、ちょっと本末転倒な気もする。

 けど、その魔導器が何百年も活動する知性体だと思うと、違う感情や考えにもなるんだろうか。


「それで、浮遊石とキューブはどういう関係が?」


「それぞれの勢力が欲しい物、もしくは情報なのよ」


「片方じゃないんだ。めんどくさー」


「なあレナ、何の話? 全然見えないんだけど」


「えーっと、後で話すよー。あ、先続けてくださーい」


 妹様は相変わらず天然だけど、ボクっ娘は絶対わざとだ。こういう空気が嫌いだからだ。オレもそうだけど。


「フフっ、じゃあ続けるわね。古代の浮遊石の結晶は、浮遊大陸を何とかする為の技術的な鍵になると見られているわ。でなければ、浮遊大陸は1万年の単位で存在してないって言われているの。

 キューブは、神々の塔へ至る鍵の役割なんじゃないかって言われているわね」


「神々の塔?」


 全員がハモった。

 また妙なキーワードがここで出てきた。


「ええ。『帝国』は何度か調査隊を神々の塔に派遣したけど、守護者の前に門前払い。入る為には、ヴィリディ達「客人」を呼ぶ為の特殊な魔導器が必要らしいの。ただし神々の塔の守護者は、答えはくれず。

 でも、ヴィリディだけじゃダメなのは確認済み。そこで複数必要なんじゃないかってのが今の説。私は、大巡礼と一緒で最低6つ必要なんじゃないかって踏んでいるけどね」


「へーっ。でも、神々の塔に行って何するの? 神々に願い事? というか、神々って本当にあの中にいるの?」


 ボクっ娘が矢継ぎ早に質問を叩きつける。

 もっとも、シズさん、ハルカさんは半信半疑だ。


「少なくとも、塔の守護者がいるのだけは確定ね。で、別の一派は神々の塔に行って、助力を願おうと考えているのよ」


「なんの?」


「邪神大陸の魔物殲滅の。普通の手段じゃ、あそこの魔物を退けるのは無理で、せいぜい小さな橋頭堡を維持するのが精一杯。だから、もう神頼みって話になってるのよ。

 百年ほど前、自分たちで邪神大陸へ本格的に進出をしようとしたけど、少し規模のある拠点を作ったら、奥地から強大な魔物の大集団が押し寄せて、返り討ちにあってるのよね」


 今度は色々と物騒な話が出てきた。


「つまり、浮遊大陸の崩壊を防ぐか、崩壊する前に新天地を確保しようって事ですね。けど、別に対立してるわけじゃないし、『帝国』を救うって点では目的は一緒なのに、何で対立を?」


 本当に解せない。てか、バカだろ『帝国』人。

 そしてオレの内心に、恐らくみんな同じ考えだ。


「昔は協力していたらしいわよ。でも長い年月の間に、どこかで躓いて、いがみ合って、その原因も分からなくなって、今更どっちも引けなくなって、それぞれが主導権を握ろうと暗闘、暗躍を繰り返してるって状態ね。

 外から見てると、本当バカバカしいわ。他にする事があるでしょうに」


 あらら、ゼノビアさんも同意見だった。

 それよりも、オレ達は綱引きの対象にされているという事だ。

 その事に最初に思い至っていたのは、やはりシズさんだった。


「で、その話とキューブの覚醒はどう繋がるんだ?」


「違う色だから、ヴィリディやフラボ(黄色)とは違う情報を持っている可能性がある。少なくとも、あなた方のいざという時の戦力を増やせる。

 恐らく『帝国』は、少しでも長くあなた方に滞在させて、協力させようとするでしょう。場合によっては、隙をつくって奪おうとするかもしれない。

 だから本当は、すぐにでも旅立って欲しいけど、そうもいかないでしょうね」


「飛んでいけば?」


 悠里が手を飛龍に見立てて、ピューッと飛ぶように動かす。


「ここは『帝国』のど真ん中よ。それに、この移動だって多分どこからか監視しているわ」


「だろうな。しばらくは、大人しくそして警戒しておくしかないだろう。となると、こっちの手駒を増やすのは、確かに一つの手だ。それにキューブが一人でに動けるようになれば、奪い合いになってもこっちが有利だ」


「けど、このキューブは私を選んでくれるかしら?」


「肌身離さず持ち歩いていれば、ルカ様経由の魔力を大量に吸収している筈です。しかも既にルカ様が規定値に達しているので、間違いなくその存在に選ばれるでしょう」


 ヴィリディさんのお墨付きが出た。


 て言うか、ハルカさんが聖女の基準に達してる事もバレてないだろうか?

 しかし、となるとスミレさんがオレを選ぼうとしたのは、レイ博士の魔力が低いからか別の理由があるのだろうか?


 色々と雑多な考えが浮かぶけど、今はそれどころじゃない。


「分かったわ。それじゃあ聖地に行きましょうか、と言いたいところだけど……」


 ハルカさんの言葉の後半が剣呑な口調になる。

 しかしそれは全員が共有できる感覚だ。

 話している間に、どうやら囲まれたらしい。

 しかも相手は多数の魔力持ちの人。魔力がかなり多そうな人もいる。

 3度目となると何だかうんざりしそうだ。


 仲間のみんなもそう思っているらしく、ボクっ娘は悠里と一瞬目を合わせると一気にそれぞれの相棒の元に飛ぶように走り出す。

 同時に、シズさんとハルカさんが魔法の準備に入る。

 となると、オレがする事は決まっている。


「クロ、出番だ。周りにギャラリーもない。存分にやってよし!」


「はっ、畏まりました!」


 袋から出したクロがそのまま人型を取り、オレと共に走り出す。

 そちらには、魔力総量の多い人を中心に一番人数が固まっている。

 ゼノビアさんは、ヴィリディさんを守る姿勢を取っているので、オレ達より少し出遅れた感じだ。

 一歩出遅れて、ゼノビアさん達を乗せてきた疾風の騎士も、聖女様なヴィリディさんを守る動きに入る。


 そして出遅れたと言うか、機先を制されたのはオレ達を遠巻きに囲んでいた連中だ。

 数は合わせて30人と言ったところ。

 どうやって追いかけてきたんだろうか。それとも、休憩場所を予測して予めこの辺りで待ち伏せしていたのかもしれない。


 もっとも、ボクっ娘と悠里を相棒の元に行かせた時点で、勝負はついたも同然だった。

 しかも逃げればいいのに、「か、かかれっ!」と言う間抜けな号令だ。しかも命令慣れてない感じの声だった。


 その後の戦闘は、記録するまでもないほどだった。

 ちゃんと組織だてて戦えば相当強いだろうに、機先を制されて空から襲いかかられた時点で、実力の半分も発揮できなくなっていた。

 しかも基本的に個々の力で、オレ達が圧倒していた。

 数は全然違うけど、半数程度を倒した時点で簡単に潰乱して戦闘は終了だ。


 そしてオレ達の足元には、オレが昏倒させたリーダーらしき奴が倒れていた。

 妙に弱っちかったので、簡単に昏倒させる事ができた。

 他の倒した賊も、殆どは生きている。



「ゼノビアさん、こいつ知ってますか?」


「名前までは。でも、急進派の貴族の顔ね。見たことあるわ」


「じゃあ、諸々添えてマーレス殿下かゴード将軍に差し出しましょうか? 私達の味方なら、彼らとこの賊がそれぞれどっちの陣営でも、それなりに対処してくれるでしょう」


 ハルカさんの言葉が、その戦闘の締めとなった。


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