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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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385 「反撃開始」

 その後、ハルカさんが聖女二グラス様から特殊な病の治療を受けたのでそのまま付き添いますと、『帝国』のお付きの人に伝え、荷物も持ってきてもらう事にした。

 そしてマーレス第二皇子の元でやっかいになっていたお陰で、その辺はスムーズに進んだ。

 これが第三皇子とかだと、最低でも一悶着あったかもしれない。


 持つべき者は理解ある人だ。

 いや、オレはもうマーレス殿下の友達だから、持つべき者は友と言直すべきだろう。


 そしてその後3日間、『アナザー・スカイ』では平穏な日々続いた。

 この世界で最大の都市にいるので観光の一つもしたいところだけど、二度の襲撃の事を考慮して、何かあったら大変なのでみんなして大人しくしていた。


 その間は、ボクっ娘と悠里が飛行場まで相棒の様子を見に行ったくらいだ。

 それでもゼノビアさんと聖女二グラスことキューブゴーレムのヴィリディさんが、暇な時に話し相手にもなってくれたので、退屈もしなかったし『帝国」や『帝都』の話、そして邪神大陸の話を聞くことができた。


 そしてその間、現実世界の方が大変だった。




「ショウ、ジャブを放った積りだったけど、もう事が動いてしまってるんだ」


「昨日の今日だろ。仕事早いな」


 日曜、バイト先の控え室で着替えつつ、タクミとの密談をしている。

 その日は連休中の日曜で、朝から一日バイト漬けなので、タクミとは休憩中に十分話す時間も取れる。

 オレ達の昼の休憩時間には、玲奈も合流予定だ。


「ホントは、連休明けの部活の時に反撃開始予定だったんだけどな。でも、反撃はこれからだぞ」


「その辺は、どうすれば良いのか分からないから、任せて良いか?」


「オフコース。けど、天沢さんの分のお題は高くつくぞ」


「体で払うよ」


「体はノーサンキューなんで、今日の飯代で手を打とう」


「りょーかい。ここのメニューなら何でも食ってくれ。あ、そうそう、お題で思い出したけど、シズさんから伝言」


 シズさんの言葉にタクミがほんの一瞬だけビクッと反応するも、次の瞬間には平静に戻っていた。


「何かボクに?」


「予定に変更なし。仕事の都合ついたからゴーサイン出たぞ」


「そっか、ちょうど休みが合って良かったな」


「まあな」


 こんな話をしているが、引越しを手伝った日の夜、シズさんから電話があったのでタクミに連絡して決めたことだった。



 ・ ・ ・


「今度の連休の間に休みが取れそうだから、出来るだけ早くこっちでお礼がしたいってさ。で、選択肢。一つ目、二人っきりで気軽なランチ。もちろんシズさんの奢り。けどそれ以外はなし。二つ目、値段制限ありのプレゼント。三つ目、合同デート、というか一緒に遊びに行く、だそうだ。けどさあ」


「分かってる。ボクがシズさんに気を遣わせてるんだろ。中途半端だったからな、今日のボクは」


 相変わらず、コミュ強でよく分かってるやつだ。

 オレだったら、すぐに考えが及ばないだろう。


「憧れだったとか言ってたけど、ちゃんと撤回なりお断りとか言った方が良かったんじゃないか?」


「ショウはそう言うの、思い切り良すぎ。でも、この選択肢の提示で踏ん切りついたよ。3つ目の合同デートで、ちゃんと話す」


「それが良いと思う。てか、何にするかオレを介さなくても、直接メッセージなり電話でもしとけよ」


 なるべく冗談めかしておいたが、タクミにはちゃんとオレの思うところは伝わったらしかった。

 

「なんか気がひけるんだけど、そうするわ。で、合同のメンバーは? やっぱりショウ?」


「うん。オレ、安パイ扱いだからな。あとは、巴さんと悠里、それに玲奈ね」


「今日のメンバーね。にしても、女子ばっかだな」


「まあオレは玲奈と悠里のお見送りと、みんなの荷物持ちみたいなもんだから、実質タクミの為の接待イベントだよ」


「いやいや、天沢さん来るなら違うだろ。で、どこ行くんだ?」


「日本一、いや世界一有名なアミューズメントパーク」


「うわっ。ハードル高!」


「何でも、チケットが安く半ダースも手に入ったんだってさ」


「そっか。ボク、子供の頃に家族で行って以来だ」


「オレも似たようなもんだな」


 オチが寂しいのがタクミと同じなのが、この時の会話で一番印象的だった。


 ・ ・ ・


「あと伝言の続き。車で迎えに行くから、朝6時に合宿の時の学校の駅前ロータリー集合な。で、反撃の方は?」


「話したいところだが、休憩の時な」


 タクミの言う通り、もうすぐバイトにかかる時間だ。

 そしてその後、ランチタイムも終わりようやく遅い食事時間を兼ねた休憩時間となる。

 食事は店に入り直して食べても良いし、外で食べるのも全然オーケー。家が近い人は、食べに戻る人もいる。

 オレは面倒くさいので、私服に着替えて店に入り直すパターンが殆どで、今日はタクミも同じようにする。

 そしてオレ達が店に入り直すよりも早く、玲奈が到着していた。



「お待たせー」


「ぜ、全然。それよりお疲れ様」


「ありがとう。でも今日は、昼を挟んでまだバイトがあるんだ。だから話しきれなかったら、メッセージ送るか、次の部活の時な」


 タクミが、まずは時間面の予防線を張る。

 けどそのセリフは、オレに言わせて欲しかった。


「まあ、そう言うこと。で、大沢先輩から何かあったりしたか?」


「そ、それは全然。あの時は、本当に話しかけられたばかりの時、ショウ君が話しかけてくれたから。携帯の番号もIDも教えてないし、うちも知らないと思う」


「それは何より。けど、何かありそうだよな?」


 そう、今日の玲奈は、ちょっと前のどもる感じの口調になっているし、態度も少し怯えると言うか自信なさげな感じだ。

 まるで少し前に戻ったようだ。

 それと表現が難しいが、何か言いたげな感じがした。


「う、うん。関係ない話なんだけど、あ、あのね、向こうの様子を『夢』でもう一人の私越しに見るようになったの。昨日の夜から」


「えっ? マジ?」


 これは意外だった。

 今回の騒動で玲奈が情緒不安定になっているから、二重人格としてのもう一人のレナとの繋がりが、また深まったのかもしれない。


「うん、本当。だから、昨日ショウ君達が何をしたのか、全部知ってるよ」


「昨日のショウ達は何してたんだ?」


「聖女様に会ってた」


「おっ、マジか。聖女なんて居るんだな。どんな人?」


 ドロップアウトしたばかりなのに、すっかり観客ポジションに戻ってる。

 こう言うところはタクミらしいと言えるんだろうけど、絶対オレより気分転換はちゃんとしてると思えてしまう。


「緑の髪の獣人。すげー年齢の人けど、若い姿のまんま、くらいかな?」


「また可愛い子か?」


「可愛いと言うより美人かな。けど、何から何まで現実感がなくて、観客の気分だったよ」


「あ、それ分かる。最初の謁見の場面は、映画のワンシーンみたいだったよね」


「やっぱそう思うよな。あそこまで出来過ぎだと、かえって興醒めだよな」


「良いなー、天沢さん。ボクもそれくらいなら、向こうを見たり体験したいかも」


「体験って言っても、自分では何も出来ないけどね」


 タクミの言葉に玲奈は思わず苦笑している。

 けれど、苦笑で済む問題なんだろうか。


「向こうのレナもそう言ってたな。ン? と言うことは、この情景を向こうのレナが今見てるって事か?」


「かもしれない」


「そっか。じゃあ、このメニュー頼んでやってくれない? 前回入れ替わった時に、これ以上食べられないとか言って断念してたから」


「その入れ替わり、味覚も体感できるんだ」


「向こうのレナ曰く、自分で何も出来ない以外は、全部体感出来るらしいぞ」


「う、うん、そうだよ。私は昨日以外は、夏休みの三日だけだったけど」


「なるほどね。まあ、その件は、後で二人で話してもらえるか。それよりも、だ」


 タクミが気を取り直して、話を軌道修正しつつスマホを取り出す。

 さらにバッグからパッドまで取り出す。


「これを見てくれ」


 それぞれ違う画面だけど、文芸部の『アナザー』サイトと、生徒間のSNSのオレと玲奈に関するサイトだ。

 けど、行われてる議論は別だ。


 そしてタクミがスクロールした先に、先日の大沢先輩が玲奈に告る場面の写真が少しぼかし気味で貼ってある。

 もう片方の『アナザー』サイト用のSNSには、生徒間サイトへのリンクが貼られている。

 そして色々と書き込みがある。


「見事餌に食いついてきたよ。それで、『アナザー』サイトなんてどうでもいい連中が大半だったから、大沢先輩は大勢の前で他人の彼女に手を出して、彼氏に恥をかかせようとしたクズ野郎って話で持ちきり」


「で、食いついたってのは?」


「大沢先輩の擁護をしてる連中のアカを、片っ端から調べたまとめがこちら」


「うわっ、全部大沢先輩に繋がってる事になってる」


 玲奈が片手で口を押さえて少し驚き気味だ。

 オレも短時間でここまでしたタクミに驚きだ。

 それとよく見ると、一連の動きに鈴木副部長も参加しているのが分かった。他にも何人か、文芸部とオレの講演会の常駐者のアイコンや名前が見えている。

 そしてその他大勢は、タクミの言う通り色恋沙汰の方がよほど面白いらしい。


「とにかくこれで、大沢先輩への反撃なり報復はいいとして、本当に『アナザー』サイトを攻撃してきたのも大沢先輩なのか?」


「二つの画面、よく見てみろ。複垢使って『アナザー』サイトを攻撃してるのが、大沢先輩を援護してる連中だ」


「意外に人望あるんだな、大沢先輩」


「さあな。似た者同士がつるんでるんじゃないのか。それと鈴木先輩曰く、大沢先輩は似たような連中のグループリーダーらしい」


「なるほどねえ。けどさあ、ちょっと思ったんだけど、『アナザー』サイトを文芸部で運営するの止めないか?」


 オレの言葉にタクミが少し顔をしかめ、玲奈は顔を少し曇らせる。

 だから慌てて訂正に入る。

 おかげで思わず手振りまで出てしまった。


「学外活動というか、個人同士でのサークル活動的なものにしないかって話だぞ。オレも、今更逃げられるとは思ってないから」


「フム、なるほどね。けどその辺は、次の部会でみんなと相談だな」


「な、なんだ、ちょっとビックリした」


「悪い悪い、まあこれでひと段落かな。じゃあ、取り敢えず後の話は飯の後にしよう」


「だな」


 その後、飯の後も少し話したけど、結局後は文芸部のみんなと相談という事になった。

 オレと玲奈の事については、援護してもらう以外は自分達で解決するより他ないが、ここまで話が進んだらそれほど心配する事もないだろう。


 そして翌日、『夢』の方はレナも現実の方の玲奈を体感出来るようになったという以外大きな事件はなく、みんなして神殿に引き篭もっていた。

 それ以外は、シズさんにみんなして魔法を教わった程度だ。


 一方、連休明けの学校では、予想外の展開になっていた。


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