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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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382 「不穏なメッセージ」

 マーレス第二皇子の居館で歓待を受け、そのお礼というか酒の肴に色々な話をしていると深夜にまで及んでしまった。

 なお第二皇子は、今年21歳。既に結婚している上に、お妾さんも数人居た。

 そしてみんな呼んで、オレ達の話を聞いていたのだ。


 お子さんも、もう片手で足りない数がいるそうだけど、まだ幼い子が大半なので宴席には出席していなかった。けど、4、5歳の子がいるので、第二皇子に子ども達にも話を聞かせてやってほしいと約束させられてしまっていた。


 けれども、当主から居館の雰囲気まで万事堅苦しさが無いので、リラックスして過ごす事が出来たのはとても助かった。

 あんな凄い場所でポツンと個室に押し込められていたら、緊張でちゃんと眠れなかったかもしれない。


 そしてリラックスして眠り目覚めると、いつもの天井。

 取り敢えずスマホで時間を確かめると、まだアラームが鳴る前なのでかなり早かった。

 けど昨日の深夜に、タクミからメッセージが入っていた。


《オレ達のサイト、粘着がいるっぽい。悪い噂を拡散してるヤツも。炎上するかも》


 すごく不穏なメッセージだ。

 すぐにサイトを見るけど、そこには交流する手段はない。問題は、リンク先のSNSだった。


「昔、社会問題になった現象をわざわざ取り上げている」

「文芸部どころか学校内の活動から逸脱している」

「部外者を学内に無断で入れた可能性が高い」

「公私混同だ」


 大きくはその辺の線から非難している。

 非難者は少数だけど、どんどん広がりつつある。しかも、学内のグループやネットワーク中心に動いている。


(クラブ活動から切り離せばいいんじゃないのか)


 取り敢えず見て、オレが思ったことはその程度だった。

 そもそも、クラブ活動の時間を使っている事が間違っているとはオレも思ってた。

 なんだかオレは被害者に近い立場なので、ついついネガティブな反応になってしまうのだろう。


 だから、次の部活で話そうと思った。

 そう、もう週末に入っているので部活は週明け。

 ただし今日は、月に二回の土曜日の授業がある日だ。授業はまだ増やす計画もあるらしく、そのうち土曜の全部が授業になるのだろう。

 

 そして朝一緒に登校した時の玲奈が、教室に入るなりリーダー格の伊藤にかなり深刻な表情で呼ばれ、そして幾つかやり取りして自分でスマホを確認すると、すぐにも重い表情に変化した。

 チラ見しかしてなかったけど、これは自然と足が向いてしまう。


「おっ、やっと来た。これ見てみ。自分のスマホでもいいけど」


 言われるがまま、まずは目の前に掲げられたスマホの画面を覗き込む。

 うちの高校のSNSだ。そして伊藤は、そのまま違うSNSも提示。こっちは学生同士が作ったグループ。さらに1年のもの、そして最後にうちのクラス。

 このうちオレが一応登録しているのは、学校公式、一年のやつ、うちのクラスのやつ。


 そしてどれも、オレと玲奈が付き合っている事が書かれている。

 学校公式の方は、要するに先生への密告のようなもの。上品に表現すると、高校生のお付き合いとして限度を超えているというものだった。

 他は、主に玲奈への非難中傷の類。

 しかもどこで撮ったのか、ほぼ鮮明な玲奈の横顔が投稿されている。


「で? 恨まれる覚えは?」


「オレ、文芸部以外は殆どボッチだから、恨まれる以前の問題」


「わ、私もそうだよ。でも、どうして……」


 もう玲奈は途方がくれそうな表情だ。

 オレも途方にくれそうだ。

 今までほぼ関心のないSNSだったが、今日はそのことが悔やまれた。


「でもさ、これって明らかに嫌がらせでしょ。しかも何も知らん連中にとっては、空気読んで攻撃する対象でしょ」


「そ、そんな!」


「大丈夫。玲奈はできる限りだけど、ウチらが守る。まあ物理で何かあった時はツッキーが何とかしな」


「勿論。けど、誰だ、こんな事するクソ野郎は?」




「そんなの決まってるだろ」


 その日の放課後、連絡した上で文芸部の部室に行くと、タクミの開口一番の言葉がそれだ。

 その言葉に、一緒に来ていた玲奈が同意の表情を浮かべる。

 で、そこまで来ると、オレでも見当がつく。


「オレ達の『アナザー』サイトを攻撃してるやつと同一人物だな」


「えっ、そうなの?」


 玲奈の見当とは違ったらしい。

 しかしタクミは、ゆっくりかぶりを振る。


「いや、天沢さんの思ってるのと同じ、だと思うよ。直接じゃないかもしれないし、色んな人を巻き込んでいるか協力させているかも、だけどね」


 そこまで言われると、該当人物は自ずと浮かんでくる。


「大沢先輩か」


「うん。天沢さんとショウ、それに文芸部の『アナザー』サイトとなると、答えは最初から出てるようなもんだろ。しかも、噂や非難中傷が出始めたのが、あの日の昼休み辺りからっぽいから」


「もうそこまで突き止めてるのか」


「そりゃあ、ボク達の『アナザー』サイトが攻撃されてるんだからな。ショウこそ、気づくの遅すぎ。まあ、らしいけど」


「わ、私も全然気づかなかった」


「二人とも、他との交流が少ないからって、見られる情報を見ないのは良くないと思うよ」


「「うん」」


 タクミの忠告には、二人して同意するより他ない。

 そのハモリに、タクミも苦笑する事仕切りだ。

 しかし玲奈の表情は晴れない。


「で、でも、私のせいで部活やみんなに迷惑かけるのは……」


「迷惑じゃないよ。やったのが大沢先輩なら、ただの逆恨みな上に悪いの全部あいつだろ。しかも『アナザー』サイトに対しては、もうボクへの宣戦布告ってやつだね」


「お前らだけじゃないぞ。俺、いや俺達全員への攻撃だ」


 途中から近づいて来ていた鈴木副部長が、やる気満々だ。

 ちょっと表情が怖い。


「大沢は1年の時同じクラスだったが、あの頃から俺は嫌いだった。チャラいし雑だし、モテるためにサッカーしてるようなヤリチンだからな」


 もう散々な評価だ。

 ただ、玲奈もいるから、言葉は選んで欲しかった。


「マジなんですか?」


「彼女がいるのに、別の女子とやったとか、そんな話を自慢げに話してるの聞いた事がある。天沢、絶対にあいつの言葉を聞いたらダメだぞ。それと、反撃するなら俺も混ぜろ。というか、やらせろ」


 鈴木副部長は闘志満々だ。

 前兆夢の事を話したがったりもしないのだから、これは相当頭にきていると見ていいだろう。


「先輩、いきなり相手のSNSに書き込んだりしないでくださいよ。とりあえずですが、情報収集の時間を下さい。あと、絶対に謝らない。これ鉄則ですから、皆んなにも徹底して下さい」


「おう。情報集めは俺も協力する。協力してくれる奴は他にもいるはずだ。あいつ、自分が思っているほど人気ないどころか、不人気だから」


「まあ、二股とか最低ですよね」


(うん。それ間接的にオレをディスってるように聞こえるぞ)


 タクミにそんな気はないとは思うが、ちょっと心が痛い。

 そしてオレが内心地味に凹んでいると、タクミと鈴木副部長が揃ってオレと玲奈へ顔を向ける。


「そういうわけだから、しばらく我慢してくれ」


「その間、月待は天沢を全力で守れ」


「あ、あの、私の事だから、協力というか、その参加したいんだけど、ダメかな?」


「勿論、ここぞって時にはお願いするよ。ショウもな」


「うん。情報収集は頼む。オレはしばらく玲奈に付きっ切りになるようにするよ」


「月待は向こうだと、もうめっちゃ強いんだろ。何かあっても、大沢なんて大した事ないだろ」


「いやいや、向こうとこっちを混同しないで下さいよ」


「けどショウって、春と比べると肝の座り方が全然違って見えるぞ」


「まあ、多少度胸はついたかもだけど、暴力はごめんだよ」


 と言ったところで、視界の外に何かを感じたので咄嗟に手で払う。

 バシッて音がしたが、遅れて視線を向けると、鈴木副部長がいきなり正拳突きをしてきていた。

 鈴木副部長は、一瞬の驚き顔から真顔になる。


「やっぱ強いだろ、月待は。俺、今も近所の空手道場通ってて、これでも黒帯の三段だ。今のは全然不十分な突きだったが、それでも見もしないで払うとか、剣道初段では出来んぞ」


「でも今のは、本気じゃなかったですよね」


「いや、本気突きだ。寸止めするつもりではあったけどな」


 体育会系な人だとは思っていたけど、ガチの武闘派だったらしい。


「月待は、一学期の終わりくらいから動きが良くなったなあと思ってたんだが、これは絶対に向こうで戦ってばっかりな影響だって!」


 力説されてしまった。

 しかも、気がついたら部内の『アナザー』信者数名が近くに来ていて、鈴木副部長に同調してウンウンと頷いている。

 そして、全員してニコリと微笑み、鈴木副部長が口を開く。


「それより、せっかく来たんだ。向こうの話を聞かせてくれよ。今『帝国』に居るんだろ。どんなとこだ?」


「あの、今、一応正体不明の奴に攻撃されてるのに、自粛とかないんですか?」


「むしろ、今後は学校で出来なくなるかも知れないだろ。それに、こうなったら今更だ」


(うわっ、開き直ってるよ、この人。前兆夢が始まって、気が大きくなってるんじゃないのか?)


 そんな事を思いつつも、口から出たのは別の言葉だった。


「夕方からバイトなんで、それまでですよ」



 そして夕方は大忙しだ。

 まずは玲奈の最寄り駅まで同道し、一駅戻って家に帰るも荷物を玄関に置いて、自転車を出してバイト先のファミレスへと向かう。

 学校出る時点でギリギリのタイミングだったが、結局数分遅刻となってしまった。


「くそーっ、初遅刻だ」


「御愁傷様」


 そう言って、同じく控え室に入って来たタクミが、オレの肩を軽く叩く。


「いや、タクミも同じシフトなんだから、講演を止めるなりしてくれよ」


「あの雰囲気でそれは無理だろ。それに、こっちはフォローしたじゃないか」


「そうだけど。それにしても遅刻は惜しい」


「まあ、ここは無遅刻のボーナスとかないし、5分単位だからその分延長してバイトすればいいだけだろ」


「心の問題だよ。一回でも遅刻したら、気が緩むかも知れないだろ」


「そうか? ていうか、ショウってだんだん真面目というか、ストイックになって来てるよな。……やっぱり、あの人達、というかハルカさんの影響?」


「ん? まあ、それはあるかな。みんな凄い人だから、出来る事レベルだけど努力しないととは思ってる」


「そっか。それは羨ましいな」


 かなりマジな気持ちがこもった言葉だ。


「じゃあ、ドロップアウトなんかするなよ。せっかく復活できたのに」


「……あの時、本当に出来たのか?」


「クロが頷いていたから間違いない。あいつらは有無ははっきりしてるし、嘘は言わないからな」


「機械みたいだな。マジックアイテムなのに」


「まあ、その辺はオレもそう思う。けど、それなりに人間臭いし、それぞれ個性もあるぞ」


「じゃあ知性体ってところなのか?」


「うん、そんな感じだと思う」


 と、そこまで話したところで、タクミの態度と雰囲気が変わる。

 この話はここまでって事だ。


「それよりも、天沢さんをしっかり守れよ」


「全力で頑張るよ」


「うん。情報収集は任せろ。もう、アテもあるんだ」


「頼む。てか、タクミはコミュ強だな」


「ショウじゃないけど、それこそ日々の努力の賜物だよ」


「なるほど。とにかく、オレの不得意なところは任せるよ」


「ああ、たまにま任されろ」


 あっちに居た時と違って、本当にタクミは頼りになる。

 そして友人としてとても有難くもあると思えた。


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