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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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380 「仇討ち?(1)」

 皇宮の皇族の住む区画から離れ、一晩の宿のため皇宮内の客人用の宿泊区画へと移動することになった。

 やたらと広いので馬車での移動かと思ったけど、皇宮内の一定以上のセキュリティの区画では、誰もが歩くのだそうだ。

 けど、無駄に人目につく。

 そして人目についた事で、厄介ごとが目の前に出現してしまった。


「その剣はっ! 父上を殺したのは貴様かっ!!」


 若い騎士らしい奴が、オレに指を突き付け絶叫している。

 『帝国』の騎士と言えば、ウルズで死んだ騎士の誰かなんだろう。


「我が従者に、その言葉は無礼ではありませんか」


「控えよ! こちらの方々は『帝国』の客人ぞ!」


 オレが何かを言う前にハルカさんがいさめ、さらに案内をしていた『帝国』の騎士様の叱責が加わる。

 何しろこっちは、『帝国』が招待した客だ。

 それに案内の騎士は皇族直轄の近衛騎士で、多分だけど目の前の若い騎士より格上だったらしく、次の瞬間には若い騎士の姿勢が改まる。


「ご、ご無礼を。ですが、その者が下げている大剣は、確かに我が父が『帝国』より下賜いただいた剣。ご無礼を承知で、経緯を聞きとう御座います」


 瞬間的に激高しただけで、意外にちゃんとしているので安心する。

 けれど、安堵したオレが話そうとするのを、ハルカさんが一瞥いちべつの視線でおさえる。


「私を中心に神殿が鎮定中の強大な亡者との戦いの最中、素性を伏せた『帝国』騎士の介入があり戦闘になりました。

 そしてその場の『帝国』兵は全滅し、亡者の鎮定と鎮魂の後に私どもがその場に残された魔導器を引き継ぎました。更に一度、『帝国』とは返還についての話し合いもしております。これで説明になりますか?」


 「多少」違いはあるけど、要約としてはそんなもんだろう。

 いきなり怒鳴りつけてきた若い騎士も、非難なりをする事も出来ず「ぐっ」と言葉に詰まっている。

 けど、感情的には収まりがつかない感じだ。

 この大剣の前の持ち主が父親だと言うなら、それもそうだろう。


 確かこの大剣の持ち主は、最後にアクセルさんがインターセプトして、組み合ったスキにまだ幽霊状態のシズさんがエゲツない炎の魔法で倒した騎士だ。

 それまでの戦いでも相当の深手を負っていたけど、あの頃のオレでは足止めも出来なかったと今では分かる。

 そして多分だけど、あの時の『帝国』兵の隊長だったと思う。目の前の若い騎士の反応からも、そんな感じを受ける。


「ち、父上が、そのような……。何かの間違いでは? 父は卑怯とは縁遠い立派な武人です。神殿の行いに介入するなど信じられません」


「あの時の『帝国』兵は、あの場にあった、もしくは強大な亡者が有していた何かを求めていたような印象を受けました。ですが神殿の総意として、亡者の鎮魂を邪魔立てする者を容赦するわけには参りませんでした。ですので、これ以上この場で話す事ではないかと。ご理解を」


「……わ、分かりました。では、貴殿が父を討ったのか?」


(どう返答しよう。ある程度正直に話した方がいいよなあ)


 真剣でいて、少しばかり恨みを込めた視線を前に考えつつも、つい隠キャで弱気な考えが頭を占める。

 と、そこに、聞き覚えのある場違いな陽気な声色が響いた。



「これはこれは、聖地の大浴場にいた御仁らではないか」


 マースと名乗った、太眉ギョロ目の騎士さんだ。

 何やら皇族のような衣装を身につけている。いや、さっき話をした皇族の格好とほぼ同じだ。

 ちょっと着崩しているけど、この人だとかえって似合っている。

 そして周りは、マースさんに膝をついて畏まっている。


「ま、マースさん。えっ? どうして?」


「マーレス殿下、お知り合いなのですか?」


「うむ。共に風呂に入り、その後共に賊を退けた仲だ」


 言葉に間違いはないけど、馴れ馴れしいというか親しげな声と仕草で、まるでオレが昔からの友人だとでも言いたげな雰囲気だ。


「それで若き騎士よ。お客人らに何用だ?」


「は、ははっ。その男が持つ剣は、生前我が父が有しておりました『帝国』の宝剣の一つであり、なぜ有しているのか問うた所でございます」


「なるほど、なるほど。その宝剣の次の保持者が、大巡礼を行うべく、これより邪神大陸へと向かわんとする上級神殿巡察官殿の、第一の従者殿だったと言う訳であるな」


(なんだよ、全部知ってんじゃん!)


 思わず内心ツッコミ入れたけど、マースさんは皇族で『帝国』が入手しているオレ達の情報を全部把握していると言う事なのだろう。

 つまり浴場に現れたのも、この場に現れたのも偶然じゃないという事だ。

 見た目の印象から感じる性格から見て、自分の目でどんな連中か確かめたかったと言ったところだろう。


「さてさてお客人方、左様な事であるので、この場を収めるため少しばかりワシの余興に付き合ってもらえないだろうか? 何、時間は取らせぬ」


(これって、拒否権なしだよなぁ)


 とオレが思ったように、ハルカさんの一瞬の視線も諦観の視線だった。

 避けて通れない道らしい、と。


「殿下の差配にお任せいたします」


「ウムウム、では参いられよ。そこな、ラウムの息子ウルムも。それに、ラウム達に親しい者達も、時間の許す限り第四練兵場に集まるように」


「(ねえ、これってあの殿下が最初から仕組んでたんじゃない)」


 オレに寄り添ってきたボクっ娘が耳元で囁く。


「(だよなあ。リーンの浴場に偶然を装って来た事といい、今回の騒動の裏を知ってる一人っぽいよな)」


「(ウンウン、だよね。冒険ぽくなって来た。やっぱり、ショウといると退屈しなくていいよ!)」


「(……いい気なもんだな)」


 ボクっ娘の嬉しそうな顔に思わず苦笑するが、会話を聞いていた悠里以外の二人も苦笑している。

 悠里は、今ひとつ状況が飲み込めていない感じだけど、後で詳しく説明すればいいだろう。


 そうして案内されたのは、練兵場と言ったように皇宮の一角にある近衛隊の訓練場だった。

 頑丈そうな石造りの壁に囲まれた場所で、その上にはちょっとした観覧席があり、テラス付きの建物も隣接しているので、近衛隊が偉い人に訓練やその成果を見せる場でもあるのだろう。


 そしてその練兵場の中心に、オレとくだんの若い騎士が相対している。

 しかも二人の間には、マースさん改めマーレス殿下が機嫌良さげに立っている。



「さてさて、上級神殿巡察官ルカ殿の守護騎士ショウ殿が、我が『帝国』の宝剣の一つを所持している事に、納得が行かぬ者がいると聞き及んだ。

 そこでこの度、ルカ殿の好意により、ショウ殿の腕が宝剣を継ぐに十分である事を皆に存分に分かってもらうべく、この場を設けた」


(えーっ、全然聞いてないよー。てか、一言もそんな話聞いてないんだけど)


 などと諦め交じりに思いつつ、マーレスさんにジト目を注ぎ込むと、一瞬だけいい笑顔を返された。


「なお、守護騎士ショウ殿は、たった一太刀で地龍や下級悪魔を倒すほどの剛の方だ。まずはラウムの息子ウルムに、大剣を持つに相応しいか実感してもらうが、我こそはと思うものは申し出よ。ショウ殿が、喜んで胸を貸してくださるとの事だ。では両者、早速始めようぞ!」


 どんどん勝手に話を進めて、しかも集まった騎士を半ば煽っているのは間違いないだろう。

 なんだか騎士達の、オレを見る目が違ってきてる。

 何となく助けを求めるような視線を仲間の方に注ぐと、ようやく完全武装を整えたみんなが練兵場の観覧席に入ってくるところだった。

 どうして女子は、そう着替えが遅いのかと、この時ばかりは問いただしたくなりそうだ。


 て言うか、マーレス殿下は準備よすぎだ。

 練兵場に来たら、既にオレ達の装備一式が届いていた。

 間違いなく最初から仕組んでいたのだ。

 そしてオレだけで満足しない場合、女性陣にも「害」が及ぶので手が抜けない。

 女性陣にも装備をつけさせたのは、手を抜くなって意味もある筈だ。


(けどこれって、今後お互い変なわだかまり持たないようにっていう配慮だよな)


 そう思い直して、若い騎士ウルム君へと集中する。

 年齢は同じくらいだけど、実戦慣れはしてなさそうだ。

 見た目は、向こうも完全武装を整えているので、騎士らしいかなりの重装備。特に防具は充実している。

 ただ、普通の騎士の装備なので、魔導器ではなさそうだった。

 当人は魔力持ちだけど精々Cランク。動きも洗練されているようには見えない。

 魔力や動きを隠しているのでないなら、はっきり言って今のオレなら本気を出せば一太刀で真っ二つだ。


 しかもマーレス殿下は何を思ったのか、模擬戦は実戦形式。なのでオレの手には、問題になった大剣が握られている。

 だからハーケンでの模擬戦のように、剣を盾に叩きつけても相手を真っ二つな結果は同じだ。

 何があろうと寸止めしないといけない。


 そんな事を考えていたら、オレ的にはいきなり試合が開始される。

 当然先制を許したのだけど、一瞬遅れでも巻き返せる程度の動きしかしていない。何も隠しはしていなかったらしい。

 年はオレと同じくらいだろうけど、魔力量以外の技量の面でもオレより数段劣っている。

 オレは、自身が三ヶ月程度の短期間で凄い技量を身につけたとは考えてないので、こう言うところにも『ダブル』のチートを実感する。


 そうして実感ばかりもしていられないので、相手に剣を振るわせてから、カウンターの形で剣の柄を鳩尾みぞおちに叩き込んで呆気なくおしまい。

 「それまで!」と言う言葉すら、オレとしてはちょっと虚しい。

 鎧の胸の部分が豪快に凹んでいるけど、これですら手加減が必要だった。


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